ウソツキヨワムシアマノジャク
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朝起きて携帯を見たら驚いた。何件も着信が入っていてその全てが跡部からのものだった。昨夜は早く寝てしまったから気が付かなかったのだ。もう使うことも無いだろうと思っていても消していなかった連絡先。消す勇気がなかった。けれどかけ直す勇気もなかった。だから何もせず、そのままいつも通りに登校した。彼からの連絡を無視するような形になってしまったが構わない。別に会う用事もないのだから。
そう思っていたら、タイミングの悪いことに今日の放課後は生徒会の定例会議の日だった。隔月にある定例会。跡部に別れを告げてからはこれが初めての全体の集まりになる。琴璃はもう早めに生徒会室に行くなんてことは勿論しなかった。準備とか、大丈夫かな。誰かやってくれてるかな。そうやっていちいち考えてしまうのは性分である。だから結局開始時刻よりも少し前にやって来たわけだが、その予感は的中した。琴璃が到着すると別の女子2人組がひと足先に部屋に入ってちょうど電気をつけるところだった。
「うわっ、さむ」
「ほんとだぁ。いつもは暖かいのにね」
「ていうかこれ今日の資料じゃない?どうすんの、コピーしとかないとやばくない?」
「えー、コピー機使ったこと無いんだけど」
やっぱり誰も準備なんてしていなかった。思わず琴璃は後ろから声をかける。
「じゃあ、私がやります」
結局動くのは自分だった。今日の分は量が少ないからものの数分くらいでできる。だから開始時間までには間に合うから問題ないだろうけど。こんなことでは来年度の会長は苦労するだろう。でも別の意味でも苦労しそうだな、と思った。跡部の次を担うのは色んな意味でとんでもないプレッシャーだろうから。
次第に人が集まり、メンバーが全員揃った頃に跡部が姿を現した。気持ち、和んでいた空気は一気に消え去る。琴璃は一番後ろの席についた。いつも大体後ろだから特に変わりはない。始まってからはずっと顔をあげなかった。ただ黙って皆の意見と跡部の説明を聞いていた。そうして滞りなく会議は終わった。今までに無いくらい気の詰まる時間だった。時間通りに終了し、荷物をまとめている時だった。
「琴璃」
名前を呼ばれて反射的に顔を上げる。目の前に跡部が居て琴璃のことを見下ろしていた。今日は睨んではいない。でも表情が読めない。
「お前は残れ。話がある」
周りも今の跡部の言葉を聞いていた。ヒソヒソ話す女子もいる。別れたんじゃないの、という言葉が聞こえた。でも、皆空気を読んでそそくさと部屋から出て行ってしまった。あっという間に室内は2人になる。
「琴璃」
「あのね」
2人が口を開いたのはほぼ同時だった。
「なに?」
「いや、お前の話から聞こう。あまりお前のほうから話してくることが無かったからな」
「……うん」
跡部はそばのテーブルにもたれて腕を組む。青い目はしっかり琴璃を捉えている。緊張する。ごくりと唾を飲み込み深呼吸を1つしてから、そっと口を開いた。
「私、嘘ついたの。こないだ、跡部くんと居ると辛いなんて言ったけど……嘘なの」
ぼそぼそと喋りだす琴璃。暖房の音に負けそうなくらいのボリュームだった。
「他にも、不幸だとか酷いこといっばい言って、傷つけたけど、本当は、違って……酷い嘘ついた」
最後のほうは涙声になっていた。あれから琴璃はずっと気にしていた。嘘だとしても、口に出して音にしてしまったらそこに確かに存在してしまう。言葉は形にならないけど、言われたほうの心にはずっと残るから。不幸だと言われた跡部はどんな気持ちになっただろうか。それを考えたら今以上に自分を責めたくなってしまった。
「じゃあ今から、嘘吐きも天邪鬼も無しだ」
「あまの、じゃく……?」
「とあるヤツから俺はそう言われた」
「跡部くんに向かってそんなこと言ったの?……ちょっと、信じられない」
そんなことが言えるなんて、相当気の知れた間柄なのだと思った。
「そしてソイツはお前のことも言っていた。弱い、と。そう言えば俺も言ったな。お前が俺から離れたことを責めた時に。お前に向かって弱虫だと」
「うん」
「けど、お前は弱くていい。その為に俺が居る」
琴璃は何も言えなかった。微かに視界が滲み出す。
「本当は、お前は俺のことをどう思っているんだ?」
不意に聞かれて、これ以上ないほど緊張した。まだ少し不安を感じている。言っていいのだろうか。躊躇ってしまう。でも、自分に向けられている彼の青い目がそうすることを望んでいる。泣きそうになった。その溢れる感情を抑えて琴璃は真っ直ぐに跡部を見る。
「まだ好き。今も、ずっと好きなの」
たった2文字を伝えることにこんなにも身構えるなんて。
初めて口にした気持ち。ずっと言えずに隠していたけど、彼にはとっくに見抜かれていた気持ちがようやく音になった。
「お前は俺を傷つけたと言ったが、俺もお前を傷つけた」
いつもの声の調子なのに、僅かながら寂しさを纏っているのが分かった。この人にも自信が陰る時なんてあるんだと知る。
「だが、お前が今も俺を好きだと言うのなら、俺はお前を脅 かす全てのことから守ろう」
跡部はもたれていたテーブルから離れて琴璃と真正面に向き合う。そして、
「ほら」
と言って大きく両手を広げ琴璃を促す。
「早くしろ。俺様にこんな間抜けな格好をいつまでさせるつもりだ?」
「……跡部くん、やっぱり天の邪鬼だ。そういう時に素直に言えないなんて」
「良いだろうが、もう。それも全て引っくるめて俺のこと愛せよ。もういい」
と言って琴璃の身体を抱き寄せる。なかなか胸に飛び込んで来ないから痺れを切らしたのだ。身動きできないように抱き竦めたその時に、自分の胸に添えられた彼女の手首を見た。うっすらと手形のアザが残っている。保健室で自分がつけた過ち。瞬間、色んな感情が跡部の中を駆け巡った。歯痒さとかやり切れなさとか、愛しさが。もう何があっても守ってやる。その気持ちを込めて琴璃をもっと強く抱きしめた。
「跡部くんは、」
腕の中でぽつりと琴璃が呟く。
「なんだ」
「私のことは、好きでも嫌いでもないのかと思ってた。どっちでも良いんだと」
「バァカ。だったら今こんなふうになってねぇよ」
「……じゃあ、どう思ってるの?」
「あぁん?お前、俺様に言わせたいのか?」
「だって、天の邪鬼はやめるって、さっき言ってたよ」
「そう言えばそうだったか」
親友に天邪鬼呼ばわりされたわけだが、不本意だが心当たるところがあった。言われてみればそうかもしれない。琴璃は自分のように相手の気持ちを推し量ることなんてできない。思慮深くない彼女だからこそ、ちゃんと“好き”と伝えなければ始まらない。
「じゃあ教えてやろう。俺がお前をどう思っているか」
琴璃はこくんと頷いた。教えてやる、と言ったから跡部が今から喋り出すのだと思ってじっと見つめていた。その端正な顔が近づいてきてもただじっと。至近距離で、もう直視するのも恥ずかしくなるような近さでも頑張って目を逸らさなかった。なのに。
「今度は噛むなよ」
その言葉の後、いきなり口を塞がれる。驚いた、けど怖さはなかった。最初の時よりもずっと優しくて艶しいキスだった。この間のような性急さは無くて自然な流れで深くなってゆく。されるがままに酔いしれてしまう。もう息が続かない。そう思ったところで唇が解放された。思わず俯いてしまう琴璃を跡部は逃さない。顎に手を添え上を向かせる。
「逃げるなよ」
「ま、待って」
「もう俺から逃げるな。離れるな」
もう二度と。離すものかと跡部は心の中で誓った。そして琴璃の耳にぴたりと唇を寄せると、ようやく嘘偽りのない愛の言葉を囁いた。
「お前が愛しくて堪らない」
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このお話のもう一つのタイトル候補が、“コトバノチカラ”でした。跡部くんに好きだと言えなかったり、嘘でも「貴方といると不幸だ」と言ってしまう主人公も、本当は好きなのに簡単には言おうとしない跡部くんも、どっちも言葉の重みを信じてなかったからすれ違ったんだよ、ってことを描きたかったんです。
言葉は、人を傷つけたり遠ざけることもできれば、反対に受け止めたり与えたりすることもできる。プラスにもマイナスにも働くからね。だからこそ大切にしたい
この後2人が、ジローにお騒がせしてすみませんでしたってお詫びにいく後日談をいつか書きたい
そう思っていたら、タイミングの悪いことに今日の放課後は生徒会の定例会議の日だった。隔月にある定例会。跡部に別れを告げてからはこれが初めての全体の集まりになる。琴璃はもう早めに生徒会室に行くなんてことは勿論しなかった。準備とか、大丈夫かな。誰かやってくれてるかな。そうやっていちいち考えてしまうのは性分である。だから結局開始時刻よりも少し前にやって来たわけだが、その予感は的中した。琴璃が到着すると別の女子2人組がひと足先に部屋に入ってちょうど電気をつけるところだった。
「うわっ、さむ」
「ほんとだぁ。いつもは暖かいのにね」
「ていうかこれ今日の資料じゃない?どうすんの、コピーしとかないとやばくない?」
「えー、コピー機使ったこと無いんだけど」
やっぱり誰も準備なんてしていなかった。思わず琴璃は後ろから声をかける。
「じゃあ、私がやります」
結局動くのは自分だった。今日の分は量が少ないからものの数分くらいでできる。だから開始時間までには間に合うから問題ないだろうけど。こんなことでは来年度の会長は苦労するだろう。でも別の意味でも苦労しそうだな、と思った。跡部の次を担うのは色んな意味でとんでもないプレッシャーだろうから。
次第に人が集まり、メンバーが全員揃った頃に跡部が姿を現した。気持ち、和んでいた空気は一気に消え去る。琴璃は一番後ろの席についた。いつも大体後ろだから特に変わりはない。始まってからはずっと顔をあげなかった。ただ黙って皆の意見と跡部の説明を聞いていた。そうして滞りなく会議は終わった。今までに無いくらい気の詰まる時間だった。時間通りに終了し、荷物をまとめている時だった。
「琴璃」
名前を呼ばれて反射的に顔を上げる。目の前に跡部が居て琴璃のことを見下ろしていた。今日は睨んではいない。でも表情が読めない。
「お前は残れ。話がある」
周りも今の跡部の言葉を聞いていた。ヒソヒソ話す女子もいる。別れたんじゃないの、という言葉が聞こえた。でも、皆空気を読んでそそくさと部屋から出て行ってしまった。あっという間に室内は2人になる。
「琴璃」
「あのね」
2人が口を開いたのはほぼ同時だった。
「なに?」
「いや、お前の話から聞こう。あまりお前のほうから話してくることが無かったからな」
「……うん」
跡部はそばのテーブルにもたれて腕を組む。青い目はしっかり琴璃を捉えている。緊張する。ごくりと唾を飲み込み深呼吸を1つしてから、そっと口を開いた。
「私、嘘ついたの。こないだ、跡部くんと居ると辛いなんて言ったけど……嘘なの」
ぼそぼそと喋りだす琴璃。暖房の音に負けそうなくらいのボリュームだった。
「他にも、不幸だとか酷いこといっばい言って、傷つけたけど、本当は、違って……酷い嘘ついた」
最後のほうは涙声になっていた。あれから琴璃はずっと気にしていた。嘘だとしても、口に出して音にしてしまったらそこに確かに存在してしまう。言葉は形にならないけど、言われたほうの心にはずっと残るから。不幸だと言われた跡部はどんな気持ちになっただろうか。それを考えたら今以上に自分を責めたくなってしまった。
「じゃあ今から、嘘吐きも天邪鬼も無しだ」
「あまの、じゃく……?」
「とあるヤツから俺はそう言われた」
「跡部くんに向かってそんなこと言ったの?……ちょっと、信じられない」
そんなことが言えるなんて、相当気の知れた間柄なのだと思った。
「そしてソイツはお前のことも言っていた。弱い、と。そう言えば俺も言ったな。お前が俺から離れたことを責めた時に。お前に向かって弱虫だと」
「うん」
「けど、お前は弱くていい。その為に俺が居る」
琴璃は何も言えなかった。微かに視界が滲み出す。
「本当は、お前は俺のことをどう思っているんだ?」
不意に聞かれて、これ以上ないほど緊張した。まだ少し不安を感じている。言っていいのだろうか。躊躇ってしまう。でも、自分に向けられている彼の青い目がそうすることを望んでいる。泣きそうになった。その溢れる感情を抑えて琴璃は真っ直ぐに跡部を見る。
「まだ好き。今も、ずっと好きなの」
たった2文字を伝えることにこんなにも身構えるなんて。
初めて口にした気持ち。ずっと言えずに隠していたけど、彼にはとっくに見抜かれていた気持ちがようやく音になった。
「お前は俺を傷つけたと言ったが、俺もお前を傷つけた」
いつもの声の調子なのに、僅かながら寂しさを纏っているのが分かった。この人にも自信が陰る時なんてあるんだと知る。
「だが、お前が今も俺を好きだと言うのなら、俺はお前を
跡部はもたれていたテーブルから離れて琴璃と真正面に向き合う。そして、
「ほら」
と言って大きく両手を広げ琴璃を促す。
「早くしろ。俺様にこんな間抜けな格好をいつまでさせるつもりだ?」
「……跡部くん、やっぱり天の邪鬼だ。そういう時に素直に言えないなんて」
「良いだろうが、もう。それも全て引っくるめて俺のこと愛せよ。もういい」
と言って琴璃の身体を抱き寄せる。なかなか胸に飛び込んで来ないから痺れを切らしたのだ。身動きできないように抱き竦めたその時に、自分の胸に添えられた彼女の手首を見た。うっすらと手形のアザが残っている。保健室で自分がつけた過ち。瞬間、色んな感情が跡部の中を駆け巡った。歯痒さとかやり切れなさとか、愛しさが。もう何があっても守ってやる。その気持ちを込めて琴璃をもっと強く抱きしめた。
「跡部くんは、」
腕の中でぽつりと琴璃が呟く。
「なんだ」
「私のことは、好きでも嫌いでもないのかと思ってた。どっちでも良いんだと」
「バァカ。だったら今こんなふうになってねぇよ」
「……じゃあ、どう思ってるの?」
「あぁん?お前、俺様に言わせたいのか?」
「だって、天の邪鬼はやめるって、さっき言ってたよ」
「そう言えばそうだったか」
親友に天邪鬼呼ばわりされたわけだが、不本意だが心当たるところがあった。言われてみればそうかもしれない。琴璃は自分のように相手の気持ちを推し量ることなんてできない。思慮深くない彼女だからこそ、ちゃんと“好き”と伝えなければ始まらない。
「じゃあ教えてやろう。俺がお前をどう思っているか」
琴璃はこくんと頷いた。教えてやる、と言ったから跡部が今から喋り出すのだと思ってじっと見つめていた。その端正な顔が近づいてきてもただじっと。至近距離で、もう直視するのも恥ずかしくなるような近さでも頑張って目を逸らさなかった。なのに。
「今度は噛むなよ」
その言葉の後、いきなり口を塞がれる。驚いた、けど怖さはなかった。最初の時よりもずっと優しくて艶しいキスだった。この間のような性急さは無くて自然な流れで深くなってゆく。されるがままに酔いしれてしまう。もう息が続かない。そう思ったところで唇が解放された。思わず俯いてしまう琴璃を跡部は逃さない。顎に手を添え上を向かせる。
「逃げるなよ」
「ま、待って」
「もう俺から逃げるな。離れるな」
もう二度と。離すものかと跡部は心の中で誓った。そして琴璃の耳にぴたりと唇を寄せると、ようやく嘘偽りのない愛の言葉を囁いた。
「お前が愛しくて堪らない」
===============================================================
このお話のもう一つのタイトル候補が、“コトバノチカラ”でした。跡部くんに好きだと言えなかったり、嘘でも「貴方といると不幸だ」と言ってしまう主人公も、本当は好きなのに簡単には言おうとしない跡部くんも、どっちも言葉の重みを信じてなかったからすれ違ったんだよ、ってことを描きたかったんです。
言葉は、人を傷つけたり遠ざけることもできれば、反対に受け止めたり与えたりすることもできる。プラスにもマイナスにも働くからね。だからこそ大切にしたい
この後2人が、ジローにお騒がせしてすみませんでしたってお詫びにいく後日談をいつか書きたい
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