ウソツキヨワムシアマノジャク
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一見すれば珍しいし空想的で良いのかもしれないが、テニス部の立場で考えると練習に支障が出る。コート整備だけじゃなく現実的に考えて手を煩わせる事柄が生まれる。だから雪は好きでも嫌いでもない。どちらでもない。
幸いにも、今回の雪は積もることもなく一夜明けたら何の形跡も残らなかった。お陰でテニスコートにも影響は出なかった。だから今日もいつもどおりの練習メニューをこなしていた。
跡部はベンチに座ってガットのテンションを確かめていた。その時、そばに誰かが来る気配がした。顔だけ斜め後ろへ向けるとジローが立っていた。
「跡部、昨日あの後琴璃ちゃんのとこ行ったろ」
昨日の体育の時間。琴璃は具合が悪いと言って保健室へ行った。ジローはすごく心配して追い掛けようとしたけど、琴璃は1人で平気だよ、と少し笑って体育館から消えた。青白い顔をしていたからとても平気そうには見えなかった。その数十分後に、跡部が体育館から出ていくのを目撃した。それはたまたまで、ジローと対戦してた男子の放ったシャトルが変な方向に飛んでいったせいだった。追い掛けて拾いに行く際に跡部を見た。教師が居ないとは言え、授業を抜け出すようなことをするはずない彼が校舎のほうへ歩いていった。だから違和感を感じた。
「琴璃ちゃんとこに行ったんだろ」
「だったら何だ」
やっぱり。呟いてジローは少し不機嫌な顔をした。どかっとやや乱暴に跡部の隣に腰掛ける。
「なんでそんなに琴璃ちゃんにつきまとうの?」
「お前には、俺がアイツに付きまとっているように見えるのか」
構う、とか気にかける、ではなく。付きまとうという表現はあまり良い印象じゃない。そういう言い方をされて、跡部は少なからず気分が悪くはなった。決して顔には出さないけれど。
「だってそーじゃん。琴璃ちゃんのこと振ったくせに。なのになんであーゆうことするの?」
「何か勘違いしているようだが、俺がアイツを振ったんじゃない。アイツが俺から離れたんだ」
「……え、マジ、そなの?じゃ、跡部が振られたってこと?」
「そういうことになるな」
跡部はまるで他人事のように言い放つだけだった。振られただなんて、認めたくない。琴璃のほうから勝手に離れて自滅したくせに。
「なのに俺から離れた途端にあのザマだ。未練たらしく俺を見ていたのをお前も昨日見ただろ。馬鹿馬鹿しいと思わねぇか?」
それはジローも見抜いていた。琴璃にはまだ跡部を想う気持ちがあるのだということを。少し暗かったのも保健室に行かざるをえなくなったのも跡部のせい。他の女の子と仲良くしてるのを見て少なからずショックを受けていた。そうなってしまうくらい、彼女はまだ跡部のことが好きなのだ。跡部だってそのことを知っている。なのにあんな態度をとる。まだ琴璃に想われているのに真逆の行動を起こしている。
「で、極めつけにはあの女、俺と居た時のほうが不幸だったとかぬかしやがった。あんなに酷いツラしてるくせに良く言えたもんだぜ。堂々と被害者ぶりやがって。自分から別れるのを選んでおいてざまぁねぇな」
からん、と音がした。跡部の言葉を最後まで聞くとジローはその場にラケットを放り投げた。彼は意味もなくそんなことをしない。そして、いきなり立ち上がると跡部の真正面に仁王立ちした。
「オレ、今から跡部に悪口言いまーす」
おかしな宣誓をした直後、急に彼の表情が変わる。キッと跡部を睨みつけた。
「ばっかじゃねぇの。やっぱ、琴璃ちゃんは跡部と別れて正解だ」
「……何だと」
もともと琴璃のせいで気分が悪いというのに。更にはジローに馬鹿呼ばわりまでされて。流石の跡部ももう不機嫌な態度を隠さない。睨んでくるジローを冷ややかに見返した。
「何をもってお前はそんなことをほざく?」
「跡部はアマノジャクだ」
「あん?」
「琴璃ちゃんは弱かったんだよ。跡部と付き合うのが自分の中のキャパ超えちゃったんだ。跡部は特別だから、きっといろんなプレッシャーとか感じちゃったんだよ。だから耐えられなくなって逃げたんだ。でもさ、それを分かってたんならなんで守ってあげないの?俺がいるから大丈夫だよ、ってなんで言ってあげないんだよ。相手が跡部のこと好きだってんなら、もう何もしなくてもその気持ちが永遠に続くと思ってんの?もしかして、琴璃ちゃんが自分に気持ちを向けてくれるのは当たり前だと思ってんじゃないの?自分は何もしないで向こうばっか責めて、好きの気持ちを受け取るばっかで。そんなに都合よく好きでいてくれるわけないだろ。そう思ってんのなら、ただのバカだよ、マジで」
物凄く珍しいジローの早口だった。跡部が返す隙も与えないほど一気に捲し立てた。最後はいっそう語気を荒らげて跡部に馬鹿だと言った。この短時間で2回も言った。跡部はジローに向かって何かを言いかけた。でも、ジローは聞く姿勢を見せず、ラケットを肩に担いでコートの方へ行ってしまった。後ろ姿だけでも怒りがしっかり滲み出ていた。
そんな彼を、ちょうどコートに入ってきた忍足が見つけて声を掛ける。
「なんやジロー。そないなおっかない顔してどうしたん」
「そりゃイライラもするっての。マジムカつく」
珍しいこともあるもんやな、と思いながらずんずん歩いてゆくジローの後ろに続く。寝不足であってもここまで不機嫌になったことは無いのに。今日は一体どういうことか。
「お互い好きなのに何やってんだよほんと。マジで意味分かんねー」
「なんやそれ」
「いーんだ、もう。忍足試合しよ」
そう言ってコートに入る。珍しくやる気らしい。今日のジローは珍しいことだらけやな、と思いながらも同じくコートに入った。
そして再び跡部は1人になる。まだベンチに座っていた。腕と脚を組んで一点を見つめていた。向こうでジロー達が勝手に試合を始めたが今はどうでも良かった。
久しぶりに他人に物申される経験をした。それも相手がまさかのジローで。あんなに喋る彼を見たのは初めてかもしれない。声を荒らげ肩を怒らせて、言い慣れない難しい言葉まで使って。でも、それでも跡部に伝えたかったのだろう。お陰で彼の熱情は跡部に届いた。見えない矢のように鋭く刺さった。琴璃の気持ちを知っていながらお前は胡座をかいているのだと。自惚れていたのだと、彼はそう言いたかったのだ。
琴璃が弱いだなんて。今の今まで考えたこともなかった。弱虫だとは思った。耐えられなくて逃げ出した弱虫。卑下する意味合いで、そんなふうに思っていた。だから自分から離れる選択を取った彼女を責めた。責めただけで、彼女が抱えていた不安なんて1ミリも考えちゃいなかった。本当は、別れる選択を取るほどまでに彼女は辛かったのに。ジローの言う通りだ。独りよがりの、自惚れている自分が間違いなくそこにいた。
その夜跡部は琴璃の携帯に電話をかけた。今になって初めて使う連絡先。でも彼女は出なかった。
保健室でのことがあったからもう無視することを決め込んだのか。今度こそ自分に愛想を尽かしたのか。それを知るには彼女と直接話さなければと思った。
全部、今更だった。
初めて女から振られて面白くないと思っていたことも。ジローに指摘された通り琴璃の気持ちに寄り添えなかったことも。そして、自分が琴璃のことを好きだったことも。
きっと、もっと前から琴璃が欲しいと思っていた。じゃなきゃここまで執心しない。目で追うようになったのはいつからだったか。もうはっきりは覚えていない。生徒会の中では地味で目立たない女だったけどいつも真面目に取り組んでいた。ひたむきで、でも時にはそそっかしい一面も見た。
かつて付き合ってきた女たちは、勝手に愛を振り撒いて来るくせに此方からの見返りを欲しがる。そんなヤツが多かった。寂しいだとかもっと愛してだとかをひたすら喚く。だが琴璃は自分の気持ちを押し付けてくるなんてことはなかった。それどころか彼女の口から1度も好きだと言われたことはない。なのに彼女の気持ちは明白だった。自分と話す時の態度で分かる。だから、俺の女にしてやる、と言っても彼女は断らないという確信があった。結果的にそうだったけれど、彼女の“好意”は見えても、“真意”は見えていなかったのだ。
琴璃は、今まで付き合った女とは違う。当初から何となく思っていた。琴璃よりも短い交際期間だった女もいた。1ヶ月続いていたら今までの女だったらとっくに抱いてる。他の女はあっさりと身体を許したというのに、琴璃をそんなふうに扱うのは憚られた。たった1度抱きしめただけでそれ以上はなかった。跡部くんはいつもいい匂いがするなぁ、なんて不意に言ってきたから全身で感じさせてやった。予想通り、琴璃はとんでもなく驚いて身を固くしてわけの分からないことを言っていた。真っ赤になって、どうしよう、とかそんなことを口走る彼女が可愛いと思った。愛しいと思った。
だから、初めて交わすキスをあんなふうにしたくなかった。彼女が傷つくのは容易に想像できたのに、それでもあの時は止められなかった。琴璃に拒否されて腹がたった。離れてゆくことが許せなかった。そばにいてほしかった。それを、全て言葉で伝えるべきだった。なのに琴璃の弱さを否定した。守ってやる、と、ただそれだけ口にしてやるだけで琴璃の心は救われたはずなのに。言葉は時として力になるのに。そんなことにも気付けなかったのか。そんな、誰でも知っている当たり前なことに。
今更すぎて本当に。
反吐が出る。
幸いにも、今回の雪は積もることもなく一夜明けたら何の形跡も残らなかった。お陰でテニスコートにも影響は出なかった。だから今日もいつもどおりの練習メニューをこなしていた。
跡部はベンチに座ってガットのテンションを確かめていた。その時、そばに誰かが来る気配がした。顔だけ斜め後ろへ向けるとジローが立っていた。
「跡部、昨日あの後琴璃ちゃんのとこ行ったろ」
昨日の体育の時間。琴璃は具合が悪いと言って保健室へ行った。ジローはすごく心配して追い掛けようとしたけど、琴璃は1人で平気だよ、と少し笑って体育館から消えた。青白い顔をしていたからとても平気そうには見えなかった。その数十分後に、跡部が体育館から出ていくのを目撃した。それはたまたまで、ジローと対戦してた男子の放ったシャトルが変な方向に飛んでいったせいだった。追い掛けて拾いに行く際に跡部を見た。教師が居ないとは言え、授業を抜け出すようなことをするはずない彼が校舎のほうへ歩いていった。だから違和感を感じた。
「琴璃ちゃんとこに行ったんだろ」
「だったら何だ」
やっぱり。呟いてジローは少し不機嫌な顔をした。どかっとやや乱暴に跡部の隣に腰掛ける。
「なんでそんなに琴璃ちゃんにつきまとうの?」
「お前には、俺がアイツに付きまとっているように見えるのか」
構う、とか気にかける、ではなく。付きまとうという表現はあまり良い印象じゃない。そういう言い方をされて、跡部は少なからず気分が悪くはなった。決して顔には出さないけれど。
「だってそーじゃん。琴璃ちゃんのこと振ったくせに。なのになんであーゆうことするの?」
「何か勘違いしているようだが、俺がアイツを振ったんじゃない。アイツが俺から離れたんだ」
「……え、マジ、そなの?じゃ、跡部が振られたってこと?」
「そういうことになるな」
跡部はまるで他人事のように言い放つだけだった。振られただなんて、認めたくない。琴璃のほうから勝手に離れて自滅したくせに。
「なのに俺から離れた途端にあのザマだ。未練たらしく俺を見ていたのをお前も昨日見ただろ。馬鹿馬鹿しいと思わねぇか?」
それはジローも見抜いていた。琴璃にはまだ跡部を想う気持ちがあるのだということを。少し暗かったのも保健室に行かざるをえなくなったのも跡部のせい。他の女の子と仲良くしてるのを見て少なからずショックを受けていた。そうなってしまうくらい、彼女はまだ跡部のことが好きなのだ。跡部だってそのことを知っている。なのにあんな態度をとる。まだ琴璃に想われているのに真逆の行動を起こしている。
「で、極めつけにはあの女、俺と居た時のほうが不幸だったとかぬかしやがった。あんなに酷いツラしてるくせに良く言えたもんだぜ。堂々と被害者ぶりやがって。自分から別れるのを選んでおいてざまぁねぇな」
からん、と音がした。跡部の言葉を最後まで聞くとジローはその場にラケットを放り投げた。彼は意味もなくそんなことをしない。そして、いきなり立ち上がると跡部の真正面に仁王立ちした。
「オレ、今から跡部に悪口言いまーす」
おかしな宣誓をした直後、急に彼の表情が変わる。キッと跡部を睨みつけた。
「ばっかじゃねぇの。やっぱ、琴璃ちゃんは跡部と別れて正解だ」
「……何だと」
もともと琴璃のせいで気分が悪いというのに。更にはジローに馬鹿呼ばわりまでされて。流石の跡部ももう不機嫌な態度を隠さない。睨んでくるジローを冷ややかに見返した。
「何をもってお前はそんなことをほざく?」
「跡部はアマノジャクだ」
「あん?」
「琴璃ちゃんは弱かったんだよ。跡部と付き合うのが自分の中のキャパ超えちゃったんだ。跡部は特別だから、きっといろんなプレッシャーとか感じちゃったんだよ。だから耐えられなくなって逃げたんだ。でもさ、それを分かってたんならなんで守ってあげないの?俺がいるから大丈夫だよ、ってなんで言ってあげないんだよ。相手が跡部のこと好きだってんなら、もう何もしなくてもその気持ちが永遠に続くと思ってんの?もしかして、琴璃ちゃんが自分に気持ちを向けてくれるのは当たり前だと思ってんじゃないの?自分は何もしないで向こうばっか責めて、好きの気持ちを受け取るばっかで。そんなに都合よく好きでいてくれるわけないだろ。そう思ってんのなら、ただのバカだよ、マジで」
物凄く珍しいジローの早口だった。跡部が返す隙も与えないほど一気に捲し立てた。最後はいっそう語気を荒らげて跡部に馬鹿だと言った。この短時間で2回も言った。跡部はジローに向かって何かを言いかけた。でも、ジローは聞く姿勢を見せず、ラケットを肩に担いでコートの方へ行ってしまった。後ろ姿だけでも怒りがしっかり滲み出ていた。
そんな彼を、ちょうどコートに入ってきた忍足が見つけて声を掛ける。
「なんやジロー。そないなおっかない顔してどうしたん」
「そりゃイライラもするっての。マジムカつく」
珍しいこともあるもんやな、と思いながらずんずん歩いてゆくジローの後ろに続く。寝不足であってもここまで不機嫌になったことは無いのに。今日は一体どういうことか。
「お互い好きなのに何やってんだよほんと。マジで意味分かんねー」
「なんやそれ」
「いーんだ、もう。忍足試合しよ」
そう言ってコートに入る。珍しくやる気らしい。今日のジローは珍しいことだらけやな、と思いながらも同じくコートに入った。
そして再び跡部は1人になる。まだベンチに座っていた。腕と脚を組んで一点を見つめていた。向こうでジロー達が勝手に試合を始めたが今はどうでも良かった。
久しぶりに他人に物申される経験をした。それも相手がまさかのジローで。あんなに喋る彼を見たのは初めてかもしれない。声を荒らげ肩を怒らせて、言い慣れない難しい言葉まで使って。でも、それでも跡部に伝えたかったのだろう。お陰で彼の熱情は跡部に届いた。見えない矢のように鋭く刺さった。琴璃の気持ちを知っていながらお前は胡座をかいているのだと。自惚れていたのだと、彼はそう言いたかったのだ。
琴璃が弱いだなんて。今の今まで考えたこともなかった。弱虫だとは思った。耐えられなくて逃げ出した弱虫。卑下する意味合いで、そんなふうに思っていた。だから自分から離れる選択を取った彼女を責めた。責めただけで、彼女が抱えていた不安なんて1ミリも考えちゃいなかった。本当は、別れる選択を取るほどまでに彼女は辛かったのに。ジローの言う通りだ。独りよがりの、自惚れている自分が間違いなくそこにいた。
その夜跡部は琴璃の携帯に電話をかけた。今になって初めて使う連絡先。でも彼女は出なかった。
保健室でのことがあったからもう無視することを決め込んだのか。今度こそ自分に愛想を尽かしたのか。それを知るには彼女と直接話さなければと思った。
全部、今更だった。
初めて女から振られて面白くないと思っていたことも。ジローに指摘された通り琴璃の気持ちに寄り添えなかったことも。そして、自分が琴璃のことを好きだったことも。
きっと、もっと前から琴璃が欲しいと思っていた。じゃなきゃここまで執心しない。目で追うようになったのはいつからだったか。もうはっきりは覚えていない。生徒会の中では地味で目立たない女だったけどいつも真面目に取り組んでいた。ひたむきで、でも時にはそそっかしい一面も見た。
かつて付き合ってきた女たちは、勝手に愛を振り撒いて来るくせに此方からの見返りを欲しがる。そんなヤツが多かった。寂しいだとかもっと愛してだとかをひたすら喚く。だが琴璃は自分の気持ちを押し付けてくるなんてことはなかった。それどころか彼女の口から1度も好きだと言われたことはない。なのに彼女の気持ちは明白だった。自分と話す時の態度で分かる。だから、俺の女にしてやる、と言っても彼女は断らないという確信があった。結果的にそうだったけれど、彼女の“好意”は見えても、“真意”は見えていなかったのだ。
琴璃は、今まで付き合った女とは違う。当初から何となく思っていた。琴璃よりも短い交際期間だった女もいた。1ヶ月続いていたら今までの女だったらとっくに抱いてる。他の女はあっさりと身体を許したというのに、琴璃をそんなふうに扱うのは憚られた。たった1度抱きしめただけでそれ以上はなかった。跡部くんはいつもいい匂いがするなぁ、なんて不意に言ってきたから全身で感じさせてやった。予想通り、琴璃はとんでもなく驚いて身を固くしてわけの分からないことを言っていた。真っ赤になって、どうしよう、とかそんなことを口走る彼女が可愛いと思った。愛しいと思った。
だから、初めて交わすキスをあんなふうにしたくなかった。彼女が傷つくのは容易に想像できたのに、それでもあの時は止められなかった。琴璃に拒否されて腹がたった。離れてゆくことが許せなかった。そばにいてほしかった。それを、全て言葉で伝えるべきだった。なのに琴璃の弱さを否定した。守ってやる、と、ただそれだけ口にしてやるだけで琴璃の心は救われたはずなのに。言葉は時として力になるのに。そんなことにも気付けなかったのか。そんな、誰でも知っている当たり前なことに。
今更すぎて本当に。
反吐が出る。