ウソツキヨワムシアマノジャク
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昼休みあけの午後最初の授業、琴璃のクラスは体育だったのだが、担当教師がインフルエンザに罹ったらしく自習扱いになってしまった。授業開始前に、どうするかクラスで多数決が催され、結果体育館でバドミントンをすることになった。
その時間は他のクラスも体育館を使用していた。氷帝の体育館は広いから別クラスと被っても何ら問題はない。でも、そのクラスが跡部のいるA組だったということが琴璃にとっては問題だった。あのテスト監督の代役をして彼と接触した日からまだ数日しか経っていない。また何か言われたらどうしよう。一瞬思ったけど、流石に沢山の生徒の前で非難してくるような人ではないだろう。それに何やらA組の体育は盛り上がっていた。同じく自習のようだが(珍しいことにA組の教師も病欠だった)、彼のクラスは男女混合でバスケの試合をするらしい。ちょうどチーム編成をしているようでやたら女子が騒いでいた。言わずもがな皆、跡部と同じチームになりたいのだ。
授業開始のチャイムが鳴っても琴璃のクラスの生徒たちはのんびり動いていた。何人かの女子たちは自習ということで堂々とサボりお喋りに花を咲かせている。よく見ると彼女達は反対側のほうに目配せしながら何やら騒いでいる。視線の先なんて確認しなくても分かる。証拠に黄色い声が響く。だから琴璃は見たりしない。別のクラス間でも彼はこんなに注目されるのかと思うと気が滅入る。
琴璃は、サボろうとまでは思わないけど最初からあまりやる気になれなかったので体育館の端のほうで持て余していた。いつも一緒にいる仲の良い友人も同じくインフルエンザでここ数日欠席している。最近、教師生徒関係なく学校内で蔓延しつつある。
どうしようかな。けれどこの時間ずっと突っ立っているわけにはいかない。それに真冬の体育館は凄く寒い。空調設備はあるけど、今は運転していないため足元から冷える寒さだった。ただ立っているだけで過ごすのはなかなか辛い。
「琴璃ちゃん」
呼ばれて振り向くと、ジローがシャトルで遊びながらこっちへやって来る。
「ジローくん」
「どーしたの?バドミントンやんないの?」
ジローとは中等部から今までずっとクラスが離れることなく一緒だった。なので他の男子よりもわりと話す間柄。ジローも琴璃に懐いていて、親しく“琴璃ちゃん”と呼んでくるクラスの男子は彼くらいだった。
「楽しーよ、バドミントン」
「うん。でもなんか、ちゃんとやってる人少ないし、私あんまりできなくて」
「じゃ、俺が教えてあげるよ」
考える間もなくジローに手を引かれ隅っこから移動する。互いに適当なスペースを開けて向き合う形になった。
「そしたらサーブね。羽のここを持ってー……こうっ」
綺麗なアーチを描いた。琴璃もジローのお手本を真似て打ってみた。同じように高く上がった。
「なんだ、うまいじゃん!じゃ、もうちょっと広いとこでやろーよ」
「うん」
もう少し中央の方に移動して、幾度かラリーをして動き回っていたら次第に息があがってきた。身体も温まってきた。少し夢中にもなってきた。なんか楽しいかも、と思いかけたその時、キャーキャーと派手な歓声が館内に響く。その声にハッとした。隣のバスケが盛り上がっている。ちょうど跡部がスリーポイントを決めた瞬間だった。足元にシャトルが落ちる。琴璃のせいで折角続いていたラリーが止まってしまった。ごめんね、とジローに言って落ちたシャトルを拾った。
「琴璃ちゃん、なんか最近元気ないね」
「え?そう、かな」
「跡部と別れたから?」
思わず琴璃の手が止まる。短い期間といえど、噂は光の速さで広まる。跡部と付き合っていたことも、すぐに別れたことも、ジローは知っている。
「琴璃ちゃんはさぁ」
ラケットを担いでジローが琴璃のそばまで来る。
「まだ好きなの?跡部のこと」
聞かれて言葉につまる。その答えをジローに教えても、彼は別に誰かに言いふらしたりなんかしないのに。言うのが怖かった。本当のことを言ってしまったら何かが壊れそうな気がした。教室の壁には言えたのに、生身の人間に言うのが怖い。たとえ跡部じゃない人物に言うのでも。
「まぁ、跡部も跡部だけどねー」
ジローがそっちを向くから琴璃も思わず目を向けてしまった。バスケをしているA組の生徒たちがいる。跡部は今は試合に参加しておらずコート外で壁にもたれて立っていた。でも、1人ではなく女子らに囲まれている。何かを話しかけられて適当に答えている。別に驚かない、見慣れた風景。彼の周りはいつでも女子生徒がいる。でも彼は目を決して合わせない。面倒くさそうに相手しているのが離れている琴璃でも分かった。面倒でも無視をしないところがやっぱり彼の人間性の表れだと思う。そういう彼だから好きになったのだとも。
中でも1人、特に距離が近い女子がいた。しきりに跡部にアピールをしている。目の前のバスケの試合を見ながらも跡部は一応話し相手をしてやっている。腕を組んで興味無さそうに。そんな扱いをされてもお構いなしに彼女は喋りかけている。一生懸命さが遠くからでも伝わってくる。好かれたいんだな、と思った。もしかしてあの子が次の新しい彼女なのかもしれない。
不意に、跡部が琴璃たちのほうに目を向けた。ぎくりとした。まさかこっちを見ると思わなかったからばっちり目が合ってしまった。琴璃は咄嗟に逸らそうとする、が、できなかった。それどころか思わず固まってしまう。目を疑った。彼は、その子の髪を掬い上げたかと思うと、その長いポニーテールに指を滑らせくるくる弄り出した。彼はあんな行動を人前でしない。ならばやはり恋人関係なのだろうか。それも違うと思った。だったらもう少し2人の距離は近いはずだから。
触られた彼女はというと突然すぎて固まってしまっている。けれど数秒後には顔を赤らめてとびきりの笑顔を見せていた。嬉しそうに、はにかんで。周りの女子もきゃあきゃあ興奮している。そんな光景を見せられている。否、跡部は琴璃にわざと見せつけている。証拠に今も目が合っている。目の前の彼女のことなんか全く見ていないで、琴璃を見つめている。辛いと思った。目眩がした。こんなの見たくなんかなかった。
「うーわ、何やってんの跡部」
決まっている。琴璃がそうなると分かってこんなことをしたのだ。
「えっ」
急に腕を引っ張られた。ジローが琴璃の腕を掴んで歩き出す。
「行こ」
「ジローくん?」
「琴璃ちゃん、あっち行こ。バドミントン、あっちでやろ」
「……うん、ありがとう」
ジローの気遣いに胸がいっぱいになる。同じ体育館内だけど、2人はバスケの試合をしているコートから極力離れた場所まできた。
「ここなら平気。おっし、いっくよー」
「あ……うんっ」
だから、元気に振る舞わないと。心配をかけたくないから。ジローの優しさを無駄にしたくないから。琴璃は笑った。本当は笑える気分なんかじゃないのに、笑顔を作った。
ラリーは結構続いた。さっきよりもうんと出来るようになっていた。この短期間でそんなわけないと思ったが、面白いくらい左右前後どこでも打ち返せた。バドミントンなんて幼い頃にやったぐらいで自信が無かったけど、ジローがなかなか上手く返してくれるお陰で無駄に動き回らずに済んでいる。テニスと通ずるものがあるのか、彼は器用に返してくる。
「わっ、ごめん」
「うわ、おしー!」
琴璃のショットがたまたま変な軌道を描いてジローの頭の向こうへ飛んでいった。
「見て見て琴璃ちゃん!」
シャトルを拾いに行ったジローが出入口付近で嬉しそうに琴璃を手招きしている。あとをついて行くと、ほら、と外を指さされた。空から白いものがちらちら落ちているのが見えた。
「雪だよ」
「……ほんとだ」
まだ降り始めという具合所々地面が濡れているだけだった。積もるかなー、と隣で暢気にジローが言う。だが、琴璃は暢気に見れなかった。体が強張っている。フラッシュバックにも似た感覚。思い出すのは跡部を傘にいれてあげたあの日。あの日も確か、雪が降るかもしれないと言われていた気候だった。琴璃は雪は好きかと跡部に聞いた。彼の答えは、“好きでも嫌いでもない”。素っ気なく、そんなものはどうでもいいように答えた。それは結構残酷にも取れる言葉だと思った。つまり無関心だということだから。文字通り好きでも嫌いでもない。なんの気持ちも起きない。そこに居ても居なくても、どうでもいいということ。もしかしてあの時の彼の答えは、自分のことを言っていたんじゃないか。きっと自分もそうだったんじゃないか。そう思えてならない。次々と儚く落ちてきて、地面に落ちると消えて無くなる雪が自分と重なった。琴璃は持っていたラケットをそっと壁に立て掛けた。
「琴璃ちゃん?」
「ジローくん、ごめんね。なんかちょっと頭痛くなっちゃった。私、保健室行くね」
ジローの顔を見ずに琴璃は1人体育館から抜け出した。我慢できるレベルだけど、頭痛なのは本当だ。もうこれ以上ここに居たくなかった。
校舎へと続く通路にさしかかる。空を見ると、さっきよりも大きくなった雪の粒が落ちてきていた。それでも地に落ちると姿形は消えてしまう。その様子を琴璃はぼーっと見ていた。折角体を動かして温まったのに手は既に冷え始めている。広げた掌の上に雪が落ち、そして消えた。跡形もなく、そこに存在しなかったように。全部幻だったように。考えれば考えるほど自分と重なってしまう雪が嫌いになりそうだった。
その時間は他のクラスも体育館を使用していた。氷帝の体育館は広いから別クラスと被っても何ら問題はない。でも、そのクラスが跡部のいるA組だったということが琴璃にとっては問題だった。あのテスト監督の代役をして彼と接触した日からまだ数日しか経っていない。また何か言われたらどうしよう。一瞬思ったけど、流石に沢山の生徒の前で非難してくるような人ではないだろう。それに何やらA組の体育は盛り上がっていた。同じく自習のようだが(珍しいことにA組の教師も病欠だった)、彼のクラスは男女混合でバスケの試合をするらしい。ちょうどチーム編成をしているようでやたら女子が騒いでいた。言わずもがな皆、跡部と同じチームになりたいのだ。
授業開始のチャイムが鳴っても琴璃のクラスの生徒たちはのんびり動いていた。何人かの女子たちは自習ということで堂々とサボりお喋りに花を咲かせている。よく見ると彼女達は反対側のほうに目配せしながら何やら騒いでいる。視線の先なんて確認しなくても分かる。証拠に黄色い声が響く。だから琴璃は見たりしない。別のクラス間でも彼はこんなに注目されるのかと思うと気が滅入る。
琴璃は、サボろうとまでは思わないけど最初からあまりやる気になれなかったので体育館の端のほうで持て余していた。いつも一緒にいる仲の良い友人も同じくインフルエンザでここ数日欠席している。最近、教師生徒関係なく学校内で蔓延しつつある。
どうしようかな。けれどこの時間ずっと突っ立っているわけにはいかない。それに真冬の体育館は凄く寒い。空調設備はあるけど、今は運転していないため足元から冷える寒さだった。ただ立っているだけで過ごすのはなかなか辛い。
「琴璃ちゃん」
呼ばれて振り向くと、ジローがシャトルで遊びながらこっちへやって来る。
「ジローくん」
「どーしたの?バドミントンやんないの?」
ジローとは中等部から今までずっとクラスが離れることなく一緒だった。なので他の男子よりもわりと話す間柄。ジローも琴璃に懐いていて、親しく“琴璃ちゃん”と呼んでくるクラスの男子は彼くらいだった。
「楽しーよ、バドミントン」
「うん。でもなんか、ちゃんとやってる人少ないし、私あんまりできなくて」
「じゃ、俺が教えてあげるよ」
考える間もなくジローに手を引かれ隅っこから移動する。互いに適当なスペースを開けて向き合う形になった。
「そしたらサーブね。羽のここを持ってー……こうっ」
綺麗なアーチを描いた。琴璃もジローのお手本を真似て打ってみた。同じように高く上がった。
「なんだ、うまいじゃん!じゃ、もうちょっと広いとこでやろーよ」
「うん」
もう少し中央の方に移動して、幾度かラリーをして動き回っていたら次第に息があがってきた。身体も温まってきた。少し夢中にもなってきた。なんか楽しいかも、と思いかけたその時、キャーキャーと派手な歓声が館内に響く。その声にハッとした。隣のバスケが盛り上がっている。ちょうど跡部がスリーポイントを決めた瞬間だった。足元にシャトルが落ちる。琴璃のせいで折角続いていたラリーが止まってしまった。ごめんね、とジローに言って落ちたシャトルを拾った。
「琴璃ちゃん、なんか最近元気ないね」
「え?そう、かな」
「跡部と別れたから?」
思わず琴璃の手が止まる。短い期間といえど、噂は光の速さで広まる。跡部と付き合っていたことも、すぐに別れたことも、ジローは知っている。
「琴璃ちゃんはさぁ」
ラケットを担いでジローが琴璃のそばまで来る。
「まだ好きなの?跡部のこと」
聞かれて言葉につまる。その答えをジローに教えても、彼は別に誰かに言いふらしたりなんかしないのに。言うのが怖かった。本当のことを言ってしまったら何かが壊れそうな気がした。教室の壁には言えたのに、生身の人間に言うのが怖い。たとえ跡部じゃない人物に言うのでも。
「まぁ、跡部も跡部だけどねー」
ジローがそっちを向くから琴璃も思わず目を向けてしまった。バスケをしているA組の生徒たちがいる。跡部は今は試合に参加しておらずコート外で壁にもたれて立っていた。でも、1人ではなく女子らに囲まれている。何かを話しかけられて適当に答えている。別に驚かない、見慣れた風景。彼の周りはいつでも女子生徒がいる。でも彼は目を決して合わせない。面倒くさそうに相手しているのが離れている琴璃でも分かった。面倒でも無視をしないところがやっぱり彼の人間性の表れだと思う。そういう彼だから好きになったのだとも。
中でも1人、特に距離が近い女子がいた。しきりに跡部にアピールをしている。目の前のバスケの試合を見ながらも跡部は一応話し相手をしてやっている。腕を組んで興味無さそうに。そんな扱いをされてもお構いなしに彼女は喋りかけている。一生懸命さが遠くからでも伝わってくる。好かれたいんだな、と思った。もしかしてあの子が次の新しい彼女なのかもしれない。
不意に、跡部が琴璃たちのほうに目を向けた。ぎくりとした。まさかこっちを見ると思わなかったからばっちり目が合ってしまった。琴璃は咄嗟に逸らそうとする、が、できなかった。それどころか思わず固まってしまう。目を疑った。彼は、その子の髪を掬い上げたかと思うと、その長いポニーテールに指を滑らせくるくる弄り出した。彼はあんな行動を人前でしない。ならばやはり恋人関係なのだろうか。それも違うと思った。だったらもう少し2人の距離は近いはずだから。
触られた彼女はというと突然すぎて固まってしまっている。けれど数秒後には顔を赤らめてとびきりの笑顔を見せていた。嬉しそうに、はにかんで。周りの女子もきゃあきゃあ興奮している。そんな光景を見せられている。否、跡部は琴璃にわざと見せつけている。証拠に今も目が合っている。目の前の彼女のことなんか全く見ていないで、琴璃を見つめている。辛いと思った。目眩がした。こんなの見たくなんかなかった。
「うーわ、何やってんの跡部」
決まっている。琴璃がそうなると分かってこんなことをしたのだ。
「えっ」
急に腕を引っ張られた。ジローが琴璃の腕を掴んで歩き出す。
「行こ」
「ジローくん?」
「琴璃ちゃん、あっち行こ。バドミントン、あっちでやろ」
「……うん、ありがとう」
ジローの気遣いに胸がいっぱいになる。同じ体育館内だけど、2人はバスケの試合をしているコートから極力離れた場所まできた。
「ここなら平気。おっし、いっくよー」
「あ……うんっ」
だから、元気に振る舞わないと。心配をかけたくないから。ジローの優しさを無駄にしたくないから。琴璃は笑った。本当は笑える気分なんかじゃないのに、笑顔を作った。
ラリーは結構続いた。さっきよりもうんと出来るようになっていた。この短期間でそんなわけないと思ったが、面白いくらい左右前後どこでも打ち返せた。バドミントンなんて幼い頃にやったぐらいで自信が無かったけど、ジローがなかなか上手く返してくれるお陰で無駄に動き回らずに済んでいる。テニスと通ずるものがあるのか、彼は器用に返してくる。
「わっ、ごめん」
「うわ、おしー!」
琴璃のショットがたまたま変な軌道を描いてジローの頭の向こうへ飛んでいった。
「見て見て琴璃ちゃん!」
シャトルを拾いに行ったジローが出入口付近で嬉しそうに琴璃を手招きしている。あとをついて行くと、ほら、と外を指さされた。空から白いものがちらちら落ちているのが見えた。
「雪だよ」
「……ほんとだ」
まだ降り始めという具合所々地面が濡れているだけだった。積もるかなー、と隣で暢気にジローが言う。だが、琴璃は暢気に見れなかった。体が強張っている。フラッシュバックにも似た感覚。思い出すのは跡部を傘にいれてあげたあの日。あの日も確か、雪が降るかもしれないと言われていた気候だった。琴璃は雪は好きかと跡部に聞いた。彼の答えは、“好きでも嫌いでもない”。素っ気なく、そんなものはどうでもいいように答えた。それは結構残酷にも取れる言葉だと思った。つまり無関心だということだから。文字通り好きでも嫌いでもない。なんの気持ちも起きない。そこに居ても居なくても、どうでもいいということ。もしかしてあの時の彼の答えは、自分のことを言っていたんじゃないか。きっと自分もそうだったんじゃないか。そう思えてならない。次々と儚く落ちてきて、地面に落ちると消えて無くなる雪が自分と重なった。琴璃は持っていたラケットをそっと壁に立て掛けた。
「琴璃ちゃん?」
「ジローくん、ごめんね。なんかちょっと頭痛くなっちゃった。私、保健室行くね」
ジローの顔を見ずに琴璃は1人体育館から抜け出した。我慢できるレベルだけど、頭痛なのは本当だ。もうこれ以上ここに居たくなかった。
校舎へと続く通路にさしかかる。空を見ると、さっきよりも大きくなった雪の粒が落ちてきていた。それでも地に落ちると姿形は消えてしまう。その様子を琴璃はぼーっと見ていた。折角体を動かして温まったのに手は既に冷え始めている。広げた掌の上に雪が落ち、そして消えた。跡形もなく、そこに存在しなかったように。全部幻だったように。考えれば考えるほど自分と重なってしまう雪が嫌いになりそうだった。