For just today, I am Cinderella.
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あれは夢だったのだろうか。
年が明けた大学の食堂で。琴璃は気難しい顔をしていた。正確には朝からずっと。もっと正確に言えば年末からこんな感じ。
「どしたの、琴璃」
「ううん、ちょっと」
「何よ意味深に」
友人は琴璃の異変に気付いたけど、特に詮索することなく食後のお茶を飲む。琴璃も、ずずず、と音を立てながら紙パックのレモンティーにストローをさして飲む。さっき食堂内で買ったもの。ぼーっと飲みながら友人が操作するiPad画面に目をやる。次の瞬間、そこに映っていたのを見て琴璃は目を見開く。
「あー!」
「うわっ、いきなり何、びっくりすんじゃん」
「ねぇ、この人知り合いなの?」
身を乗り出し、画面を指差す琴璃。男の人が映っていた。その人物を指差しこの人誰なの、と友人に問い詰める。
「はぁ?この人って、跡部景吾のこと?」
「そう、跡部景吾……さんって名前書いてた、跡部さんだった!ねぇ、知ってるの?」
「知ってるも何も。ていうか逆になんであんた知らないの?」
「へ。……私、この人の知り合いなの?」
「はぁ」
なんだか話が噛み合ってるようで噛み合わない。
「あんたもともとテレビとかネットあんま見ないんだっけ。まぁ、見なくたってここに在籍してるんなら知ってて当たり前だと思うけど」
友人はスライドさせて画面を切り替えた。何かの雑誌のインタビュー記事が現れる。そこにも彼、跡部景吾が居た。相変わらず頭の上にハテナがいっぱいの琴璃を見て友人からまた溜め息が漏れる。
「この人は氷帝 のOB、卒業生よ。そんでもってここにいろーんな設備とか寄贈してくれたすごい人。跡部財閥の御曹司。お金持ち。セレブ」
「う、うん」
それは琴璃も知っている。高そうな身なりとあんな高級輸入車に乗ってたんだから、特別な人なんだろうという予想はしていた。
「それだけじゃないんだから」
また画面が切り替わる。今度は良く分からない西洋系の人と彼が映っていた。テレビをあまり見ない琴璃でもその外人は見たことがある。イギリス王室の人間だ。高校時代の世界史だか政治経済だかの授業で学んだ記憶があった。そんな王家の人間と跡部が談笑している写真画像だった。
「なにこれ」
「跡部景吾は世界で影響力のある人物ベスト何たらにも入ってるわよ。有名人よ」
続けて友人の指が画面を左右にスワイプさせる。また別の記事。“世界の第一線に立つ若き日本の経営者”なんて見出しが目に飛び込んできた。
「やっぱり……偉い人だったんだ」
「ちなみに今日の午前中、この人ここに来てたよ」
「え!」
「卒業生として呼ばれてて、公開講義開かれてたらしーよ」
「知らなかった……」
琴璃は今日の午前中の講義がたまたま休講になった為、昼休みから来ていた。なんでこんな日に、と少しだけ思った。
「えー見たかったなぁ」
「無理よ、整理券無いと講義は聞けなかったの。すんごい申込み殺到して抽選になったんだから」
「そうなの?よく知ってるね」
「あたしも申し込んだけど落ちたの、抽選」
「あ、そうなんだ」
「ていうかなんでいきなり跡部景吾に反応したのよ、あんた」
「この人ね、バイト先のお店に来たの」
「えぇっ、マジ?なんで?たまたま?」
「うん、まぁ。出会ったのはたまたま」
たまたま琴璃が彼の腕にしがみついていなければ出会わなかった。今思えば不思議な縁だったと思う。
「どんな感じだった?何か話したりしたの?」
「うん。すっごくかっこよかった」
「そんなの分かってるってば。え、もしかしてクリスマスに薔薇40本頼んだ人いたって話してたじゃん。まさか、それ?」
「そうだよう。すんごく、かっこよかった」
さっきからかっこいいしか口にしていない。いつもは突っ込む友人も今日は興奮気味に琴璃の話に食いついている。
「うっそぉ。え、なに、じゃ、結婚すんの?跡部景吾」
「ううん、そうじゃなかった。プロポーズじゃなかったみたい」
「なんだ。じゃあふつーに彼女にプレゼントかあ」
そうでもなかった。けどそこまで彼のプライベートを話すのもどうかと思ったので琴璃は曖昧に笑っておく。彼が花束を贈った相手は母親だった。そしてその事実に何故かほっとしている。あのクリスマスの夜から、琴璃の頭の中は自分に向かって薔薇を1輪差し出してきた跡部がずっと離れない。画面の中の彼と目が合う。綺麗な青い瞳で仕立の良いスーツ姿の彼が、椅子に座って長い脚を組んでこっちを見つめている。でも、本物はもっとずっと格好良い。琴璃はそれを知っている。色素の薄い髪の色、低く落ち着いた声音、ふわりと香るウッディノート。それらは画面だけ見ただけじゃ伝わらない。あのクリスマスの日から数週間経過しているというのに、琴璃はまだ憶えている。多分、忘れられないのだと思う。あんなに、魅力とか色気とかオーラの凄い人にこれまで出会ったことがなかったから。
「会いたかったなぁ……」
未練は消えずにうっかり口に出てしまっている。やはり彼は有名人だった。しかもまさかの氷帝の卒業生。更には午前中ここに来ていただなんて。世界は意外と狭いのかもしれない。それならまた会えるかも。1ミリくらいは希望を残しながら食堂を後にした。友人とともに次の教室に移動する。階段を上がったところに誰かが居た。男性が2人。杖を持った品の良い初老の男性と、もう1人は琴璃たちに背を向けて話している。でも彼はこちらの気配に気づいて振り向いた。嘘だと思った。
「よぉ。ちゃんと学生やってるじゃねぇの」
「マジ!ホンモノ!?」
琴璃が何か言う前に友人が騒ぎ出す。ついさっきまで話題になっていた人が突然目の前に現れたのだから驚きも興奮も半端ない。跡部の隣に居る初老の男性も、どこかで見たことがある。でも誰だったか思い出せない。
「しかも理事長と一緒じゃん……」
すかさず友人が小さく呻く。それ以外はもう驚きすぎて言葉にならない、といった感じに。でも、琴璃はいまいち理事長のこともよく分かってなかった。英国王室の人間はすぐ反応出来たのに自分の通う大学のトップをうろ覚えだった。というかどうでも良かった。ただただ、ぽけーっと跡部のことを見つめていた。口が半開きになってることにも気付けていない。
「理事長、この後少し話ができるような場所をお借りできますか。第三者が入って来ないような所だと有り難いのですが」
「でしたら応接室を使うといいですよ。誰も居ませんし、中から鍵もかけられますから」
「有難うございます」
琴璃が見とれている中、何故か跡部はこっちへずんずん近付いてくる。今日もかっこいいなぁ。いつもだけど。出会ったのは今日で3回目なのに衝撃が走るほど格好良いと思ってしまう。どうかしてる。そんなふうに見とれていた琴璃の正面に立った彼がにっと笑った。それだけで心臓が跳ねてしまう。自分の意志では目を逸らせない。
「悪いな。コイツを借りるぜ」
「あ、はいっ、どーぞ」
「行くぞ」
「……ん?え?」
何故だか背を押されている。行くって、どこに。どんどん一緒にいた友人が遠くなってゆく。全く事態が呑み込めてないというのに、琴璃はただ従って歩くしかなかった。
年が明けた大学の食堂で。琴璃は気難しい顔をしていた。正確には朝からずっと。もっと正確に言えば年末からこんな感じ。
「どしたの、琴璃」
「ううん、ちょっと」
「何よ意味深に」
友人は琴璃の異変に気付いたけど、特に詮索することなく食後のお茶を飲む。琴璃も、ずずず、と音を立てながら紙パックのレモンティーにストローをさして飲む。さっき食堂内で買ったもの。ぼーっと飲みながら友人が操作するiPad画面に目をやる。次の瞬間、そこに映っていたのを見て琴璃は目を見開く。
「あー!」
「うわっ、いきなり何、びっくりすんじゃん」
「ねぇ、この人知り合いなの?」
身を乗り出し、画面を指差す琴璃。男の人が映っていた。その人物を指差しこの人誰なの、と友人に問い詰める。
「はぁ?この人って、跡部景吾のこと?」
「そう、跡部景吾……さんって名前書いてた、跡部さんだった!ねぇ、知ってるの?」
「知ってるも何も。ていうか逆になんであんた知らないの?」
「へ。……私、この人の知り合いなの?」
「はぁ」
なんだか話が噛み合ってるようで噛み合わない。
「あんたもともとテレビとかネットあんま見ないんだっけ。まぁ、見なくたってここに在籍してるんなら知ってて当たり前だと思うけど」
友人はスライドさせて画面を切り替えた。何かの雑誌のインタビュー記事が現れる。そこにも彼、跡部景吾が居た。相変わらず頭の上にハテナがいっぱいの琴璃を見て友人からまた溜め息が漏れる。
「この人は
「う、うん」
それは琴璃も知っている。高そうな身なりとあんな高級輸入車に乗ってたんだから、特別な人なんだろうという予想はしていた。
「それだけじゃないんだから」
また画面が切り替わる。今度は良く分からない西洋系の人と彼が映っていた。テレビをあまり見ない琴璃でもその外人は見たことがある。イギリス王室の人間だ。高校時代の世界史だか政治経済だかの授業で学んだ記憶があった。そんな王家の人間と跡部が談笑している写真画像だった。
「なにこれ」
「跡部景吾は世界で影響力のある人物ベスト何たらにも入ってるわよ。有名人よ」
続けて友人の指が画面を左右にスワイプさせる。また別の記事。“世界の第一線に立つ若き日本の経営者”なんて見出しが目に飛び込んできた。
「やっぱり……偉い人だったんだ」
「ちなみに今日の午前中、この人ここに来てたよ」
「え!」
「卒業生として呼ばれてて、公開講義開かれてたらしーよ」
「知らなかった……」
琴璃は今日の午前中の講義がたまたま休講になった為、昼休みから来ていた。なんでこんな日に、と少しだけ思った。
「えー見たかったなぁ」
「無理よ、整理券無いと講義は聞けなかったの。すんごい申込み殺到して抽選になったんだから」
「そうなの?よく知ってるね」
「あたしも申し込んだけど落ちたの、抽選」
「あ、そうなんだ」
「ていうかなんでいきなり跡部景吾に反応したのよ、あんた」
「この人ね、バイト先のお店に来たの」
「えぇっ、マジ?なんで?たまたま?」
「うん、まぁ。出会ったのはたまたま」
たまたま琴璃が彼の腕にしがみついていなければ出会わなかった。今思えば不思議な縁だったと思う。
「どんな感じだった?何か話したりしたの?」
「うん。すっごくかっこよかった」
「そんなの分かってるってば。え、もしかしてクリスマスに薔薇40本頼んだ人いたって話してたじゃん。まさか、それ?」
「そうだよう。すんごく、かっこよかった」
さっきからかっこいいしか口にしていない。いつもは突っ込む友人も今日は興奮気味に琴璃の話に食いついている。
「うっそぉ。え、なに、じゃ、結婚すんの?跡部景吾」
「ううん、そうじゃなかった。プロポーズじゃなかったみたい」
「なんだ。じゃあふつーに彼女にプレゼントかあ」
そうでもなかった。けどそこまで彼のプライベートを話すのもどうかと思ったので琴璃は曖昧に笑っておく。彼が花束を贈った相手は母親だった。そしてその事実に何故かほっとしている。あのクリスマスの夜から、琴璃の頭の中は自分に向かって薔薇を1輪差し出してきた跡部がずっと離れない。画面の中の彼と目が合う。綺麗な青い瞳で仕立の良いスーツ姿の彼が、椅子に座って長い脚を組んでこっちを見つめている。でも、本物はもっとずっと格好良い。琴璃はそれを知っている。色素の薄い髪の色、低く落ち着いた声音、ふわりと香るウッディノート。それらは画面だけ見ただけじゃ伝わらない。あのクリスマスの日から数週間経過しているというのに、琴璃はまだ憶えている。多分、忘れられないのだと思う。あんなに、魅力とか色気とかオーラの凄い人にこれまで出会ったことがなかったから。
「会いたかったなぁ……」
未練は消えずにうっかり口に出てしまっている。やはり彼は有名人だった。しかもまさかの氷帝の卒業生。更には午前中ここに来ていただなんて。世界は意外と狭いのかもしれない。それならまた会えるかも。1ミリくらいは希望を残しながら食堂を後にした。友人とともに次の教室に移動する。階段を上がったところに誰かが居た。男性が2人。杖を持った品の良い初老の男性と、もう1人は琴璃たちに背を向けて話している。でも彼はこちらの気配に気づいて振り向いた。嘘だと思った。
「よぉ。ちゃんと学生やってるじゃねぇの」
「マジ!ホンモノ!?」
琴璃が何か言う前に友人が騒ぎ出す。ついさっきまで話題になっていた人が突然目の前に現れたのだから驚きも興奮も半端ない。跡部の隣に居る初老の男性も、どこかで見たことがある。でも誰だったか思い出せない。
「しかも理事長と一緒じゃん……」
すかさず友人が小さく呻く。それ以外はもう驚きすぎて言葉にならない、といった感じに。でも、琴璃はいまいち理事長のこともよく分かってなかった。英国王室の人間はすぐ反応出来たのに自分の通う大学のトップをうろ覚えだった。というかどうでも良かった。ただただ、ぽけーっと跡部のことを見つめていた。口が半開きになってることにも気付けていない。
「理事長、この後少し話ができるような場所をお借りできますか。第三者が入って来ないような所だと有り難いのですが」
「でしたら応接室を使うといいですよ。誰も居ませんし、中から鍵もかけられますから」
「有難うございます」
琴璃が見とれている中、何故か跡部はこっちへずんずん近付いてくる。今日もかっこいいなぁ。いつもだけど。出会ったのは今日で3回目なのに衝撃が走るほど格好良いと思ってしまう。どうかしてる。そんなふうに見とれていた琴璃の正面に立った彼がにっと笑った。それだけで心臓が跳ねてしまう。自分の意志では目を逸らせない。
「悪いな。コイツを借りるぜ」
「あ、はいっ、どーぞ」
「行くぞ」
「……ん?え?」
何故だか背を押されている。行くって、どこに。どんどん一緒にいた友人が遠くなってゆく。全く事態が呑み込めてないというのに、琴璃はただ従って歩くしかなかった。