39 rose bouquets
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周りの人間とは違う人生になるのは幼い頃から自覚していた。生まれた家が特別だから、それはもう宿命のように感じていた。そのことに関して恨んだり悲観したことはない。むしろ自分は選ばれた人間なのだと、物心ついた時にはそう思うようになっていた。
もう周りは自分を子供として扱ってはくれない。その時期は、跡部にとっては普通の人よりもずっと早い段階でやって来た。幼少時代をイギリスで過ごし、成長して日本に来た時には様々な整えられた環境が自分を待ち受けていた。まだ学生の時分から経営学に経済学ひいては財閥の家が何たるか、あらゆる知識教養を叩き込まれてきた。あの頃からもう大人に紛れて生きていたのだ。
大学も在籍はしたけれどいわゆる学生らしい思い出なんてほぼ無かった。しょっちゅう日本から離れていたので同学年の人間と話す機会は無いに等しかった。相手をするのは自分よりも歳上だったり何らかの組織の代表を務めているような人間ばかり。歳を重ねても会う同年代の友人は中高時代の気心知れたテニス部の連中くらいで。それも本当にたまにしか顔を合わさない。向こうは会いたがってはくれるけれど、跡部のほうが時間を作れないことが殆どだった。
そして現在。社会で活躍する歳になり、もとよりレベルの違うステージに立っている自分は求められるものも勿論違う。常に高い段階に存在していなくてはならないから毎日膨大な知識のインプットとアウトプットをしている。それでも未だ、自分には手中にできていない分野もあるし把握しきれてない領域もある。与えられた場所でのみ活躍するだけでは進化は止まる。親族の言うことに歯向かおうとは思わないが、このまま敷かれたレールの上をただ進むのはどこか納得できなかった。家を捨てたいわけじゃない。最終的には家を継ぐ。祖父もそれを願っている。でもそれは今直ぐにではないと思っている。ただ、自分だけの足跡を作りたかった。家の後ろ盾の無い、跡部景吾だけの実力ではどこまで通用するのかを証明したかった。それは挑む気持ちと己を試す気持ちどちらもある。
だから、跡部財閥傘下の会社をいくつか束ねることを条件に外侮企業にも手を出すことにした。そこから経営を広げて成果が出れば、また祖父の目も変わるんじゃないかとも思ったのだ。古きを温ねて新しきを知ることをあの人が容易く受入れてくれるとは限らないが、悩むくらいなら始めるべきだと思った。
家の仕事に関わるようになって早数カ月。そんな、12月半ばに差し掛かった今日も、大して重要でもないパーティに出席している。因みにこれは家のほうの仕事。高級ホテルの最上階のラウンジホールを貸切って催されたそれは、かれこれもう4時間以上が経過していた。さっきから嗄れた声の男が壇上で喋っていたのがようやく締めの挨拶へと移りだす。主催した会社の関係者なんだろうが、顔を見てもすぐに名前が浮かんでこない。別になんの支障も無いから構わないのだけれど。知った所で、どうせこちらから懇意になるほどじゃない相手だということだけは分かっている。
そもそもこのパーティ自体が無駄足だった。今日といいこの間のといい、大層に有益な時間にしてくれたもんだ。皮肉のひとつも言いたくなるほど実に退屈だった。
だから、さっきからどこぞの令嬢と女社長が何やら言い合いをしていても別に気にも留めてなかった。周囲の人間もとっくに気付いていて、喋っている壇上の男よりもその2人をちらちら見ている。自分には全く関係ないから跡部も黙っていた。耳障りだとは思うが関わるくらいなら辛抱したほうがマシだ。
ようやく男が閉会の辞を唱える。ならばさっさと帰ろう。跡部は1人出入口へと向かう。だがその時後ろで女の喚く声が響き渡る。まだやってんのか、と思った。パーティが終わったのを良いことに、2人の女の言い合う声は大きく激しいものへなってゆく。みっともねえな。原因なんて知ったこっちゃないけれど、若い女のほうが怒りの理由を全部喋っている。今日身につけているドレスやアクセサリー何もかもがもう一方の女と被ったのが気に入らないらしい。声が大きいから聞きたくなくても周囲に知れ渡っている。周りの男共も黙って見てないでさっさと止めろよと思った。だが2人の勢いに気負けしているのだろう、彼らはオロオロしながらただ見守ることしかできていない。いい大人が何やってんだか。呆れながらラウンジを後にする。手土産も何も要らないからこの場からさっさと立ち去りたい。エレベーターに向かうべく角を曲がったところで誰かとぶつかった。
「あぁ、失礼」
「あ、すみません。……あ、お兄さん!」
その相手は、自分の顔を見た途端にぱっと笑顔になった。すぐには誰だか分からなかった。でも直近で、自分のことをお兄さんと呼んだ人物が1人だけいた。
もう周りは自分を子供として扱ってはくれない。その時期は、跡部にとっては普通の人よりもずっと早い段階でやって来た。幼少時代をイギリスで過ごし、成長して日本に来た時には様々な整えられた環境が自分を待ち受けていた。まだ学生の時分から経営学に経済学ひいては財閥の家が何たるか、あらゆる知識教養を叩き込まれてきた。あの頃からもう大人に紛れて生きていたのだ。
大学も在籍はしたけれどいわゆる学生らしい思い出なんてほぼ無かった。しょっちゅう日本から離れていたので同学年の人間と話す機会は無いに等しかった。相手をするのは自分よりも歳上だったり何らかの組織の代表を務めているような人間ばかり。歳を重ねても会う同年代の友人は中高時代の気心知れたテニス部の連中くらいで。それも本当にたまにしか顔を合わさない。向こうは会いたがってはくれるけれど、跡部のほうが時間を作れないことが殆どだった。
そして現在。社会で活躍する歳になり、もとよりレベルの違うステージに立っている自分は求められるものも勿論違う。常に高い段階に存在していなくてはならないから毎日膨大な知識のインプットとアウトプットをしている。それでも未だ、自分には手中にできていない分野もあるし把握しきれてない領域もある。与えられた場所でのみ活躍するだけでは進化は止まる。親族の言うことに歯向かおうとは思わないが、このまま敷かれたレールの上をただ進むのはどこか納得できなかった。家を捨てたいわけじゃない。最終的には家を継ぐ。祖父もそれを願っている。でもそれは今直ぐにではないと思っている。ただ、自分だけの足跡を作りたかった。家の後ろ盾の無い、跡部景吾だけの実力ではどこまで通用するのかを証明したかった。それは挑む気持ちと己を試す気持ちどちらもある。
だから、跡部財閥傘下の会社をいくつか束ねることを条件に外侮企業にも手を出すことにした。そこから経営を広げて成果が出れば、また祖父の目も変わるんじゃないかとも思ったのだ。古きを温ねて新しきを知ることをあの人が容易く受入れてくれるとは限らないが、悩むくらいなら始めるべきだと思った。
家の仕事に関わるようになって早数カ月。そんな、12月半ばに差し掛かった今日も、大して重要でもないパーティに出席している。因みにこれは家のほうの仕事。高級ホテルの最上階のラウンジホールを貸切って催されたそれは、かれこれもう4時間以上が経過していた。さっきから嗄れた声の男が壇上で喋っていたのがようやく締めの挨拶へと移りだす。主催した会社の関係者なんだろうが、顔を見てもすぐに名前が浮かんでこない。別になんの支障も無いから構わないのだけれど。知った所で、どうせこちらから懇意になるほどじゃない相手だということだけは分かっている。
そもそもこのパーティ自体が無駄足だった。今日といいこの間のといい、大層に有益な時間にしてくれたもんだ。皮肉のひとつも言いたくなるほど実に退屈だった。
だから、さっきからどこぞの令嬢と女社長が何やら言い合いをしていても別に気にも留めてなかった。周囲の人間もとっくに気付いていて、喋っている壇上の男よりもその2人をちらちら見ている。自分には全く関係ないから跡部も黙っていた。耳障りだとは思うが関わるくらいなら辛抱したほうがマシだ。
ようやく男が閉会の辞を唱える。ならばさっさと帰ろう。跡部は1人出入口へと向かう。だがその時後ろで女の喚く声が響き渡る。まだやってんのか、と思った。パーティが終わったのを良いことに、2人の女の言い合う声は大きく激しいものへなってゆく。みっともねえな。原因なんて知ったこっちゃないけれど、若い女のほうが怒りの理由を全部喋っている。今日身につけているドレスやアクセサリー何もかもがもう一方の女と被ったのが気に入らないらしい。声が大きいから聞きたくなくても周囲に知れ渡っている。周りの男共も黙って見てないでさっさと止めろよと思った。だが2人の勢いに気負けしているのだろう、彼らはオロオロしながらただ見守ることしかできていない。いい大人が何やってんだか。呆れながらラウンジを後にする。手土産も何も要らないからこの場からさっさと立ち去りたい。エレベーターに向かうべく角を曲がったところで誰かとぶつかった。
「あぁ、失礼」
「あ、すみません。……あ、お兄さん!」
その相手は、自分の顔を見た途端にぱっと笑顔になった。すぐには誰だか分からなかった。でも直近で、自分のことをお兄さんと呼んだ人物が1人だけいた。