No waltz without you.
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遠くのほうで音が聞こえる。機械音のようなそれが、ピーピーピーと、断続的に鳴っている。携帯のアラームはこんな音じゃないから、目覚ましじゃないことは分かった。
もぞもぞ動きながら琴璃は目をうっすら開ける。上を向くと白くて高い天井が見える。寝ていたのは広くて大きなベッドの上だった。シーツに包まっていて、裸の状態だった。鼻をうずめると好きな香りがする。カーテンの隙間から差し込む光がまぶしい。だんだんと意識もはっきりしてきた。琴璃は起き上がって、昨夜から起きた魔法みたいな時間を思い出しながらカーテンを開けた。
突然の帰国は、何も知らされてなかったからとても驚いた。玄関のドアの向こうに跡部を見た時は幻かと思ったくらいだ。感情が追い付かなくて、「なんで」「どうして」を繰り返す琴璃に彼は、「お前に会いたくてさっさと片付けてきた」とさらりと言った。多くの人が大変であろうことを、彼は大変だとは思わないのかもしれない。でも絶対に無理をしてくれた。それを思ったらもっと泣きたくなった。暖房の届かないアパートの狭い玄関で暫くの間抱き合っていた。けれど、寒さに負けて身震いしたところで、間抜けにも琴璃のお腹が鳴った。朝から絶望しきって食欲がわかず、昼食を食べなかったことを思い出す。その反動が、安心しきった今にやってきたのだ。とんでもなく恥ずかしかった。なんでこんな時に、と思ったけど跡部は楽しそうに笑った。「無事に生きてた証拠だな」と言って見せたその笑顔が。優しくて愛おしくて。嬉しいはずなのにまた泣きたくなった。言葉にする代わりに、腕にぎゅっと抱き着いた。
もしあと1年彼の出張が伸びていたら、私はどうなっていただろう。そんな在りもせぬ想像をすることは、きっと彼は許してくれないから琴璃は心の中だけで考えてみた。きっと間違いなく、毎日生きた心地がしなかったと思う。ただ孤独と隣り合わせな毎日だったかもしれない。自分はどこまでも強がる性格なのだと改めて思った。だから本当に、こんな形でサプライズに帰ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。
クリスマスまで1ヶ月をきった週末の街は、どこもかしこも賑わっていた。跡部は都内のホテルレストランに連れてってくれた。夜の大都会を一望できるような立地。上から見下ろす街にはイルミネーションが至る所で煌めいていた。1人だったら気づけなかった景色が、今まるで色を成したかのように輝いて見えた。久しぶりの2人きりの晩餐。コース料理なんて久しぶりに堪能した気がする。というか、まだギリギリ学生の自分は、彼とでなければこんな高級な店に来れやしない。彼はいつも夢のような時間を与えてくれる。
跡部は琴璃の話をずっと聞いてくれた。電話で話す機会はこれまでもたっぷりあったのに、忙しい彼に自分のことを語るのもなんだか気が引けて、今まであまり話してこなかった。だからずっとずっと我慢していた分、いろんなことを聞いてもらった。日々の出来事や、離れていた間にジローや忍足と会ったりしたことも。時間は全然足りなかった。ウェイターがラストオーダーを告げに来た時は、間もなく日付が変わろうとしていた。時間が止まればいいのに、だなんて初めて思った。ついこの間までは1年早送りしてくれないかと願ってやまなかったのに。今日が終わることを名残惜しく思ってしまう。でも、寂しそうになる琴璃に跡部は「続きはまた明日聞いてやる」と言った。そうか、と改めて思う。当分はずっと日本にいるんだ。それだけですごく勇気が湧いた。いつだって寂しさと隣り合わせだったけど、今日からは夜を超えるのが寂しくない。
帰った先は、自分のアパートではなかった。ちょっとだけ懐かしいと感じるこのマンション。跡部がイギリスに発ってからは一度もここへ踏み入れることはなかった。やっぱり広いなぁと思う。琴璃1人だったら孤独を感じてしまうけど、彼はきっとこの広さが当たり前なのだ。大きなベッドも、2人が寝てもまだまだ余裕がある。きっと体は疲れていた。でも、眠ってしまうのが勿体ないと思った。見つめ合って話をして、ベッドサイドの灯りしかない部屋で愛を囁かれた。
気づけば。生まれたままの姿になって抱き合っていた。跡部はキスを沢山してくれた。瞼はくすぐったくて、胸元は身体の芯を疼かせるようなキスをくれた。真冬なのに重なる素肌は熱かった。その長い指に触れられるたび、熱は上がってゆく気がした。久しぶりの感覚でどうしても緊張は否めない。胸が高鳴り、涙が溢れる。
ふわふわした気持ちで横たわりながら、琴璃は跡部を受け入れた。身体じゅう全てを密着しあって、ぎゅっと抱き合っていた。首筋に落とされたキスが火傷したように熱かった。心地良い重みと吸い付くような肌の感触が幸せだった。
痛みは最初だけ感じたけど、夢中で抱き合っているうちにいつの間にか消え去っていた。相変わらず身体の熱さと息遣いだけは収まらない。2つの身体がいくら揺れても、広いベッドが衝撃を吸収してくれる。琴璃は必死にその広い背中に手を回した。もう離れないように、どこかに行ってしまわないようにという願いを込めて、必死にしがみ付いた。
睡魔に負けそうになる。今が何時なのかももう分からなった。とうとう瞼を閉じてしまう瞬間、頭上から「おやすみ」と聞こえたような気がした。
もぞもぞ動きながら琴璃は目をうっすら開ける。上を向くと白くて高い天井が見える。寝ていたのは広くて大きなベッドの上だった。シーツに包まっていて、裸の状態だった。鼻をうずめると好きな香りがする。カーテンの隙間から差し込む光がまぶしい。だんだんと意識もはっきりしてきた。琴璃は起き上がって、昨夜から起きた魔法みたいな時間を思い出しながらカーテンを開けた。
突然の帰国は、何も知らされてなかったからとても驚いた。玄関のドアの向こうに跡部を見た時は幻かと思ったくらいだ。感情が追い付かなくて、「なんで」「どうして」を繰り返す琴璃に彼は、「お前に会いたくてさっさと片付けてきた」とさらりと言った。多くの人が大変であろうことを、彼は大変だとは思わないのかもしれない。でも絶対に無理をしてくれた。それを思ったらもっと泣きたくなった。暖房の届かないアパートの狭い玄関で暫くの間抱き合っていた。けれど、寒さに負けて身震いしたところで、間抜けにも琴璃のお腹が鳴った。朝から絶望しきって食欲がわかず、昼食を食べなかったことを思い出す。その反動が、安心しきった今にやってきたのだ。とんでもなく恥ずかしかった。なんでこんな時に、と思ったけど跡部は楽しそうに笑った。「無事に生きてた証拠だな」と言って見せたその笑顔が。優しくて愛おしくて。嬉しいはずなのにまた泣きたくなった。言葉にする代わりに、腕にぎゅっと抱き着いた。
もしあと1年彼の出張が伸びていたら、私はどうなっていただろう。そんな在りもせぬ想像をすることは、きっと彼は許してくれないから琴璃は心の中だけで考えてみた。きっと間違いなく、毎日生きた心地がしなかったと思う。ただ孤独と隣り合わせな毎日だったかもしれない。自分はどこまでも強がる性格なのだと改めて思った。だから本当に、こんな形でサプライズに帰ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。
クリスマスまで1ヶ月をきった週末の街は、どこもかしこも賑わっていた。跡部は都内のホテルレストランに連れてってくれた。夜の大都会を一望できるような立地。上から見下ろす街にはイルミネーションが至る所で煌めいていた。1人だったら気づけなかった景色が、今まるで色を成したかのように輝いて見えた。久しぶりの2人きりの晩餐。コース料理なんて久しぶりに堪能した気がする。というか、まだギリギリ学生の自分は、彼とでなければこんな高級な店に来れやしない。彼はいつも夢のような時間を与えてくれる。
跡部は琴璃の話をずっと聞いてくれた。電話で話す機会はこれまでもたっぷりあったのに、忙しい彼に自分のことを語るのもなんだか気が引けて、今まであまり話してこなかった。だからずっとずっと我慢していた分、いろんなことを聞いてもらった。日々の出来事や、離れていた間にジローや忍足と会ったりしたことも。時間は全然足りなかった。ウェイターがラストオーダーを告げに来た時は、間もなく日付が変わろうとしていた。時間が止まればいいのに、だなんて初めて思った。ついこの間までは1年早送りしてくれないかと願ってやまなかったのに。今日が終わることを名残惜しく思ってしまう。でも、寂しそうになる琴璃に跡部は「続きはまた明日聞いてやる」と言った。そうか、と改めて思う。当分はずっと日本にいるんだ。それだけですごく勇気が湧いた。いつだって寂しさと隣り合わせだったけど、今日からは夜を超えるのが寂しくない。
帰った先は、自分のアパートではなかった。ちょっとだけ懐かしいと感じるこのマンション。跡部がイギリスに発ってからは一度もここへ踏み入れることはなかった。やっぱり広いなぁと思う。琴璃1人だったら孤独を感じてしまうけど、彼はきっとこの広さが当たり前なのだ。大きなベッドも、2人が寝てもまだまだ余裕がある。きっと体は疲れていた。でも、眠ってしまうのが勿体ないと思った。見つめ合って話をして、ベッドサイドの灯りしかない部屋で愛を囁かれた。
気づけば。生まれたままの姿になって抱き合っていた。跡部はキスを沢山してくれた。瞼はくすぐったくて、胸元は身体の芯を疼かせるようなキスをくれた。真冬なのに重なる素肌は熱かった。その長い指に触れられるたび、熱は上がってゆく気がした。久しぶりの感覚でどうしても緊張は否めない。胸が高鳴り、涙が溢れる。
ふわふわした気持ちで横たわりながら、琴璃は跡部を受け入れた。身体じゅう全てを密着しあって、ぎゅっと抱き合っていた。首筋に落とされたキスが火傷したように熱かった。心地良い重みと吸い付くような肌の感触が幸せだった。
痛みは最初だけ感じたけど、夢中で抱き合っているうちにいつの間にか消え去っていた。相変わらず身体の熱さと息遣いだけは収まらない。2つの身体がいくら揺れても、広いベッドが衝撃を吸収してくれる。琴璃は必死にその広い背中に手を回した。もう離れないように、どこかに行ってしまわないようにという願いを込めて、必死にしがみ付いた。
睡魔に負けそうになる。今が何時なのかももう分からなった。とうとう瞼を閉じてしまう瞬間、頭上から「おやすみ」と聞こえたような気がした。