I can't stop falling in love.
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「はー、うまかった。久しぶりにこーゆうちゃんとした食事したわ」
研修医だからってそこまで薄給でもないのにそんなことを言う。料理が旨いと感じるのは金銭的な問題ではなく、単純に普段ちゃんとした時間が取れないからなのだろう。自分のように彼も昼夜関係なく仕事をしているのが分かっているから、そんな皮肉を言う気にはならなかった。
たまたま時間が空いて、午後の会議までどうしようかと考えていた。こんなことは滅多にない。滅多にないことは更に重なり、中高時代の友人から珍しく連絡が入った。この春から都内の大学病院に勤めることになったらしい。そこは跡部の会社からそう遠くない場所だった。その報せと、日本にいるならその内会えないかという誘いの内容だった。珍しいこともあるもんだと思いながら跡部は、送り主の忍足侑士にメッセージを返した。近況が知りたいのなら指定する所に来い、と。
呼び出したのは商業ビルの高層階にあるレストラン。相変わらずやんなあ、と薄ら笑いをしながら彼は現れた。古い友人だからこそ、こんな場所に呼びつける跡部のことをなんとも思わない。
「まさかこんなすぐ会えるとは思わんかったわ」
メニュー表を見た。が、金額が書いてなくて焦る。更には、「もう注文済みだ」と跡部に言われ半笑いを浮かべるしか無かった。
「なんや、憑き物が落ちたみたいな顔してんで」
ゆっくりとコース料理を味わう忍足よりも少し早く跡部は食事が済んでいた。忍足の言葉にも反応せず、腕組みをしてテーブルの一点を見つめていた。珍しい。こんな友人の姿はあまり見たことがない。
「え、どしたんほんまに」
「別に」
「あれか、オンナ関係か」
「どうだろうな」
「なんやそれ」
否定をしないからそうなのだと忍足は捉える。妙だな、とも思った。
「そんな、燻るほどええ子やったん?」
「誰が燻っているだと?」
「いやいや。めっちゃ未練ありますーって顔しとんで、自分。うわ、この顔ジローが見たら爆笑するんとちゃうか。写真撮って、送ったってもええかな?跡部さん」
「テメェいい加減にしろよ」
「なはは、冗談やって」
懐かしい友人の名前が出ても彼は別に話題をそっちにすり替えたりはしなかった。という事は、女のことを聞かれてもええんやな、と忍足は勝手に納得する。まさか彼に限って話したいのだろうか。意外だと感じつつ、相変わらずこの男は感情が読みづらいわ、とも思う。
「ま、跡部様にはいろーんな事情があるんやろうけど。あんまり女の子は泣かさんほうがええんとちゃう?」
忍足の言葉を聞いて、跡部はあの日のことを思い出していた。あの別れ際、やっぱり琴璃は泣いていたと思う。電話がかかってきたせいで最後の顔こそ良く見えなかったけど、そんな気がする。
「あいつには少なからずは悪かったと思ってる」
「どゆこと?」
やっぱり女なんかい。跡部のその一言で、忍足は自分の読みどおりだったのだと確信する。今日の彼はやはり少し様子が変だ。だから話の腰を折らずに続きを促した。
「俺が、あいつに期待を持たせるようなことをしたからな」
彼女が自分のことを好きだなんて。そんな事実は出会った頃からすぐ分かった。むしろバレバレだった。なのに、自分は思わせぶりなことをしたのだ。初めはからかいの延長線みたいなものだった。その反応がいちいち面白くて素直で。いつも一生懸命な琴璃のリアクションが楽しくて、つい必要以上に構ってしまったと自覚している。
「その女っちゅーのは、いくつくらいなん?」
「就活真っ只中の大学生だとよ」
「え、歳下!待って成人しとる……か、あぶなー。いやそれでもびっくりやわ。跡部様がそないな下の子相手するなんてなぁ」
跡部の女性遍歴を全て知ってるわけはないけれど、忍足の知る限り、大人になってから彼は歳上の女と付き合っていたことが多かった。たまたま自分が知っていたのがそうだっただけのかも分からないが、とにかく、歳下でしかも学生が相手なんてことは未だかつてなかった。
「ほんなら、なんでそんな気難しそーにしとるん。歳下は飽きたんとちゃうの?面倒くさくなったとか」
そう思うのが自然である。年齢的には成人してるとはいえ、大人の女とばかり付き合ってきた跡部には面倒くさいとでも感じたのか。そう思って忍足は言葉を投げかけたのに、跡部は何も言わなかった。嘘やろ、と思った。彼が黙っているのは肯定の意ではない。そういう時もあるが、今回は違う。微妙な話の間合いと表情。付き合いが長いから分かる。少なからず自分に非があるのを認めている証拠だ。さっきの煮え切らないような反応といい、要するに、彼にとってその相手はただの大学生ではなかったのだ。こんな跡部景吾を忍足は見たことがなかった。常に自信家で常人の数歩先を見据えているような生き方をしている彼が。まさかその大学生に翻弄されているとでもいうのか。
「なんやそれ」
絶句、のちに笑いが込み上げてきた。
「跡部様がちょっと優しい言葉でもかけたら世の中の女の子なんてみんな堕ちるの当たり前やのに、うまくいかへん場合もあるんやなァ。しかもそれが大学生って。そんな、大人の世界もようまだ知らん子を誑かしてもうたんかーい」
「おい。勝手に妄想を膨らましてるんじゃねぇよこの変態野郎」
「なはは、冗談やって。けど、このまま姿消してもうてええのん?」
「別に。これから就活が忙しくなるって言うんで向こうが決めたことだ。そんな大事な選択の時期に、これ以上気まぐれでからかったりしたら不憫だろ」
誰に言うでもない口ぶりで跡部は言った。言いながらグラスの中身の水をじっと見ている。そんな跡部の様子を忍足は物珍しげに観察している。
そう、選んだのは琴璃だ。今さらそれをどうこうするだなんて思わない。自分に害がないのなら、あのままバイトを続けさせていても良かったけれど。琴璃がそうしたいのなら敢えて引き留める必要なんかない。その気持ちを尊重するだけのこと。ただそれだけのことなのだ。
研修医だからってそこまで薄給でもないのにそんなことを言う。料理が旨いと感じるのは金銭的な問題ではなく、単純に普段ちゃんとした時間が取れないからなのだろう。自分のように彼も昼夜関係なく仕事をしているのが分かっているから、そんな皮肉を言う気にはならなかった。
たまたま時間が空いて、午後の会議までどうしようかと考えていた。こんなことは滅多にない。滅多にないことは更に重なり、中高時代の友人から珍しく連絡が入った。この春から都内の大学病院に勤めることになったらしい。そこは跡部の会社からそう遠くない場所だった。その報せと、日本にいるならその内会えないかという誘いの内容だった。珍しいこともあるもんだと思いながら跡部は、送り主の忍足侑士にメッセージを返した。近況が知りたいのなら指定する所に来い、と。
呼び出したのは商業ビルの高層階にあるレストラン。相変わらずやんなあ、と薄ら笑いをしながら彼は現れた。古い友人だからこそ、こんな場所に呼びつける跡部のことをなんとも思わない。
「まさかこんなすぐ会えるとは思わんかったわ」
メニュー表を見た。が、金額が書いてなくて焦る。更には、「もう注文済みだ」と跡部に言われ半笑いを浮かべるしか無かった。
「なんや、憑き物が落ちたみたいな顔してんで」
ゆっくりとコース料理を味わう忍足よりも少し早く跡部は食事が済んでいた。忍足の言葉にも反応せず、腕組みをしてテーブルの一点を見つめていた。珍しい。こんな友人の姿はあまり見たことがない。
「え、どしたんほんまに」
「別に」
「あれか、オンナ関係か」
「どうだろうな」
「なんやそれ」
否定をしないからそうなのだと忍足は捉える。妙だな、とも思った。
「そんな、燻るほどええ子やったん?」
「誰が燻っているだと?」
「いやいや。めっちゃ未練ありますーって顔しとんで、自分。うわ、この顔ジローが見たら爆笑するんとちゃうか。写真撮って、送ったってもええかな?跡部さん」
「テメェいい加減にしろよ」
「なはは、冗談やって」
懐かしい友人の名前が出ても彼は別に話題をそっちにすり替えたりはしなかった。という事は、女のことを聞かれてもええんやな、と忍足は勝手に納得する。まさか彼に限って話したいのだろうか。意外だと感じつつ、相変わらずこの男は感情が読みづらいわ、とも思う。
「ま、跡部様にはいろーんな事情があるんやろうけど。あんまり女の子は泣かさんほうがええんとちゃう?」
忍足の言葉を聞いて、跡部はあの日のことを思い出していた。あの別れ際、やっぱり琴璃は泣いていたと思う。電話がかかってきたせいで最後の顔こそ良く見えなかったけど、そんな気がする。
「あいつには少なからずは悪かったと思ってる」
「どゆこと?」
やっぱり女なんかい。跡部のその一言で、忍足は自分の読みどおりだったのだと確信する。今日の彼はやはり少し様子が変だ。だから話の腰を折らずに続きを促した。
「俺が、あいつに期待を持たせるようなことをしたからな」
彼女が自分のことを好きだなんて。そんな事実は出会った頃からすぐ分かった。むしろバレバレだった。なのに、自分は思わせぶりなことをしたのだ。初めはからかいの延長線みたいなものだった。その反応がいちいち面白くて素直で。いつも一生懸命な琴璃のリアクションが楽しくて、つい必要以上に構ってしまったと自覚している。
「その女っちゅーのは、いくつくらいなん?」
「就活真っ只中の大学生だとよ」
「え、歳下!待って成人しとる……か、あぶなー。いやそれでもびっくりやわ。跡部様がそないな下の子相手するなんてなぁ」
跡部の女性遍歴を全て知ってるわけはないけれど、忍足の知る限り、大人になってから彼は歳上の女と付き合っていたことが多かった。たまたま自分が知っていたのがそうだっただけのかも分からないが、とにかく、歳下でしかも学生が相手なんてことは未だかつてなかった。
「ほんなら、なんでそんな気難しそーにしとるん。歳下は飽きたんとちゃうの?面倒くさくなったとか」
そう思うのが自然である。年齢的には成人してるとはいえ、大人の女とばかり付き合ってきた跡部には面倒くさいとでも感じたのか。そう思って忍足は言葉を投げかけたのに、跡部は何も言わなかった。嘘やろ、と思った。彼が黙っているのは肯定の意ではない。そういう時もあるが、今回は違う。微妙な話の間合いと表情。付き合いが長いから分かる。少なからず自分に非があるのを認めている証拠だ。さっきの煮え切らないような反応といい、要するに、彼にとってその相手はただの大学生ではなかったのだ。こんな跡部景吾を忍足は見たことがなかった。常に自信家で常人の数歩先を見据えているような生き方をしている彼が。まさかその大学生に翻弄されているとでもいうのか。
「なんやそれ」
絶句、のちに笑いが込み上げてきた。
「跡部様がちょっと優しい言葉でもかけたら世の中の女の子なんてみんな堕ちるの当たり前やのに、うまくいかへん場合もあるんやなァ。しかもそれが大学生って。そんな、大人の世界もようまだ知らん子を誑かしてもうたんかーい」
「おい。勝手に妄想を膨らましてるんじゃねぇよこの変態野郎」
「なはは、冗談やって。けど、このまま姿消してもうてええのん?」
「別に。これから就活が忙しくなるって言うんで向こうが決めたことだ。そんな大事な選択の時期に、これ以上気まぐれでからかったりしたら不憫だろ」
誰に言うでもない口ぶりで跡部は言った。言いながらグラスの中身の水をじっと見ている。そんな跡部の様子を忍足は物珍しげに観察している。
そう、選んだのは琴璃だ。今さらそれをどうこうするだなんて思わない。自分に害がないのなら、あのままバイトを続けさせていても良かったけれど。琴璃がそうしたいのなら敢えて引き留める必要なんかない。その気持ちを尊重するだけのこと。ただそれだけのことなのだ。