That day was dreamy
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「……は?はうすきーぱー?」
友人がするリアクションはなんとなく予想がついていた。何故なら琴璃本人だって、言われた時には全く同じ反応をとったからだ。
「一応、こうなった流れを説明するとね……」
恐る恐る週末にあった事の経緯を話しだす。最初は琴璃の話を目を見開きながら聞いていた友人だが、聞いているうちに次第に平生を取り戻してきた。そして琴璃が話し終わった頃にはしっかり目が据わっていた。
「……それで?そんなこと提案されてふたつ返事で承諾したわけ?」
「うん」
「はあー」
昼休みの大学のサロン。彼女は少し頭を抱えて呆れたというような態度を見せる。琴璃は誤魔化すように目の前にあるお昼のサンドイッチを頬張った。
「そんな、ハウスキーパーなんてものなんで引き受けちゃうかなあ。絶対やなもの見るよ」
「やなもの……」
「だって、下手したら彼女と遭遇しちゃうかもしんないじゃん。そしたらあんた、どーすんの?」
琴璃は黙りこくってしまう。瞳に焦点は合っているけど、何か遠くのものを見つめているような目をしていた。
「……まさか、そんなことまで考えてなかった、って顔してる?」
図星だった。跡部に恋人の存在が居ないだなんて、誰もそんなこと言ってない。あの日、薔薇の贈り主は彼の母親だったわけだが、決して今の彼に恋人が居ないとは証明されたわけじゃないのだ。
「琴璃あんたさぁ」
もう本気になっちゃってるんでしょ。言いかけたその言葉を友人は呑み込んだ。多分この子はその自覚がないんだろうな。でも一応制御はしている。跡部に彼女がいるかもしれないということに、ショックを感じつつも受け止めようとはしている。
琴璃は暫く俯き一点を見つめていたが、やがて短く息を吐いて友人を見た。
「私ね、フットワークが軽いって褒められたんだ」
「は?何よ急に」
「これは仕事だから。私は雇われた身なんだって、ちゃんと言い聞かせてる。家事代行をする代わりにお金を貰うの。だったらちゃんと応えなきゃ。跡部さんだって、いろいろ面倒くさい心配が私に無いからこのことを提案してくれたんだし」
あんな完璧な人間に恋人が居るのは普通のことだ。そうは思っているけれど心と頭が一致しない。でも、跡部が家の掃除を自分にさせることを任せてくれたからには、しっかり期待に添うようにしなければ。
「そもそも私なんて全然相手にされないもん。散々ガキって言われまくってるんだから」
ひどいよねー、と笑っているが果たしてそう思っているのか。跡部がどういう考えで琴璃にこの話を持ち掛けたか友人は知らないが、都合よく解釈してる琴璃が心配だった。大事な友達だからこそ、心配でしょうがないのだ。でも琴璃はもう一度大丈夫だと言う。実に頼りのない大丈夫だった。そんなんじゃ大丈夫なわけがないでしょ、と友人は内心で思う。
「今のうちに離れたほうがいいと思うけど。その、色々傷つく前に」
「いいの、そんな長くはやらないし。長くても就活が落ち着くまでだから。時間ある時だけ掃除に来るんで良いって言われたし」
「そんな都合の良い話って、ある?」
「ある……んじゃないかな、えへへ」
「えへへじゃないわよ。まぁ跡部さんだから変なようにはしないだろうけど。……いや、私跡部さんのこと全然知らないからそんなこと分かんないけど」
「跡部さんは、優しいよ」
「……ふーん。でも私はやっぱ反対だな。だってあんたが傷つくの、目に見えてるじゃん」
「そんなことないよ」
「ある」
琴璃にかける言葉を選んではいるが友人はどこまでも頑なだった。もしかして彼女ではない他の友達だったら、“あの跡部景吾の家に通えるなんて羨ましい”、と迫ってくる子だっていたかもしれない。でも彼女は心から琴璃を心配してくれているから意見してくれる。琴璃もそれが分かってるから彼女の言葉をちゃんと聞く。だが、聞きはするけど受け入れることはできなかった。
「ちょっとだけ、夢見てもいいかな、なんて」
「でもその夢はいつか覚めるんだよ?」
「いいの。……好きにならなければいいんだから」
言った琴璃の表情を見て友人は何も言わなかった。言っても多分もう無理だから。そんなふうに口では言ってるけど、もう琴璃の目が恋してるそれなのだ。止められるものならとっくに止めている。だからこれ以上追及できようがなかった。
友人がするリアクションはなんとなく予想がついていた。何故なら琴璃本人だって、言われた時には全く同じ反応をとったからだ。
「一応、こうなった流れを説明するとね……」
恐る恐る週末にあった事の経緯を話しだす。最初は琴璃の話を目を見開きながら聞いていた友人だが、聞いているうちに次第に平生を取り戻してきた。そして琴璃が話し終わった頃にはしっかり目が据わっていた。
「……それで?そんなこと提案されてふたつ返事で承諾したわけ?」
「うん」
「はあー」
昼休みの大学のサロン。彼女は少し頭を抱えて呆れたというような態度を見せる。琴璃は誤魔化すように目の前にあるお昼のサンドイッチを頬張った。
「そんな、ハウスキーパーなんてものなんで引き受けちゃうかなあ。絶対やなもの見るよ」
「やなもの……」
「だって、下手したら彼女と遭遇しちゃうかもしんないじゃん。そしたらあんた、どーすんの?」
琴璃は黙りこくってしまう。瞳に焦点は合っているけど、何か遠くのものを見つめているような目をしていた。
「……まさか、そんなことまで考えてなかった、って顔してる?」
図星だった。跡部に恋人の存在が居ないだなんて、誰もそんなこと言ってない。あの日、薔薇の贈り主は彼の母親だったわけだが、決して今の彼に恋人が居ないとは証明されたわけじゃないのだ。
「琴璃あんたさぁ」
もう本気になっちゃってるんでしょ。言いかけたその言葉を友人は呑み込んだ。多分この子はその自覚がないんだろうな。でも一応制御はしている。跡部に彼女がいるかもしれないということに、ショックを感じつつも受け止めようとはしている。
琴璃は暫く俯き一点を見つめていたが、やがて短く息を吐いて友人を見た。
「私ね、フットワークが軽いって褒められたんだ」
「は?何よ急に」
「これは仕事だから。私は雇われた身なんだって、ちゃんと言い聞かせてる。家事代行をする代わりにお金を貰うの。だったらちゃんと応えなきゃ。跡部さんだって、いろいろ面倒くさい心配が私に無いからこのことを提案してくれたんだし」
あんな完璧な人間に恋人が居るのは普通のことだ。そうは思っているけれど心と頭が一致しない。でも、跡部が家の掃除を自分にさせることを任せてくれたからには、しっかり期待に添うようにしなければ。
「そもそも私なんて全然相手にされないもん。散々ガキって言われまくってるんだから」
ひどいよねー、と笑っているが果たしてそう思っているのか。跡部がどういう考えで琴璃にこの話を持ち掛けたか友人は知らないが、都合よく解釈してる琴璃が心配だった。大事な友達だからこそ、心配でしょうがないのだ。でも琴璃はもう一度大丈夫だと言う。実に頼りのない大丈夫だった。そんなんじゃ大丈夫なわけがないでしょ、と友人は内心で思う。
「今のうちに離れたほうがいいと思うけど。その、色々傷つく前に」
「いいの、そんな長くはやらないし。長くても就活が落ち着くまでだから。時間ある時だけ掃除に来るんで良いって言われたし」
「そんな都合の良い話って、ある?」
「ある……んじゃないかな、えへへ」
「えへへじゃないわよ。まぁ跡部さんだから変なようにはしないだろうけど。……いや、私跡部さんのこと全然知らないからそんなこと分かんないけど」
「跡部さんは、優しいよ」
「……ふーん。でも私はやっぱ反対だな。だってあんたが傷つくの、目に見えてるじゃん」
「そんなことないよ」
「ある」
琴璃にかける言葉を選んではいるが友人はどこまでも頑なだった。もしかして彼女ではない他の友達だったら、“あの跡部景吾の家に通えるなんて羨ましい”、と迫ってくる子だっていたかもしれない。でも彼女は心から琴璃を心配してくれているから意見してくれる。琴璃もそれが分かってるから彼女の言葉をちゃんと聞く。だが、聞きはするけど受け入れることはできなかった。
「ちょっとだけ、夢見てもいいかな、なんて」
「でもその夢はいつか覚めるんだよ?」
「いいの。……好きにならなければいいんだから」
言った琴璃の表情を見て友人は何も言わなかった。言っても多分もう無理だから。そんなふうに口では言ってるけど、もう琴璃の目が恋してるそれなのだ。止められるものならとっくに止めている。だからこれ以上追及できようがなかった。