For just today, I am Cinderella.
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パーティなんてものは、生まれて20年そこらだが経験がないわけではなかった。でも思い出せる限りの記憶を呼び起こしてみても、パーティと呼ばれるものをしたのはもう遥か昔のこと。子供の頃、誰かの誕生日に女の子たちで集まってお菓子を作ったりプレゼント交換をしたり。そういう和気藹々とした空間の中でのものだった。
だが今回のそれは、琴璃の想像するものとはとてつもなくかけ離れすぎていた。
「えぇ……」
絞り出すように呻く。ドレスコードもなんとか決まりまたも車に乗せられて、都内のよく分からない場所に連れてこられた。この時点でとっくに陽は沈んでいた。
跡部に「着いた」と言われ降りた場所は館のような建物だった。誰かの邸宅らしいのだが、あまり跡部は琴璃に教えなかった。余計な情報を詰め込んでも無理だと思ったし、聞いたところで不安を煽ると判断したからだ。
中に入るなりだだっ広いエントランスホールに人が集まっている。値打ちの想像がつかない絨毯がどこまでも広がり、上には豪華なシャンデリアが吊るされている。琴璃にはよく分からないオブジェや絵画もそこかしこに飾られていた。いちいち目に入るたびまた呻きそうになる。
屋敷内には沢山の人がいて、その誰もが跡部を見つけると近寄って話し掛けてきた。跡部はそれらに適当に挨拶を交わす。別に、今日は主賓でもないのだから挨拶周りもいい加減で構わない。ここに顔を出しただけで祖父も納得するだろう、そう思ったからあまり気を回すようなことはしなかった。どちらかと言うと、気を回すべきなのは隣で固まっている存在に対してか。ちらりと琴璃の顔を見る。エスコートされた自分の右腕をがっちりと掴んでいる、というかもうこれはしがみついているのと変わらない。
「ううぅ」
もう何度目かの唸りのような声が琴璃の口から漏れる。
あまりにも規模が違いすぎて。早速場の空気に呑まれかけている。同じ空間に雑誌か何かで見たことあるような顔の人達がいる。女性の姿もちらほら見かけて、どの客人もみなセレブさながらの装いだった。でも、間違いなく琴璃がこの場では最年少だろう。見た感じ、学生のような人間はいない。まぁ自分も今は学生という身分を隠しているわけなのだが。
それを思ったらいきなり不安感が押し寄せてきた。思わず隣に助けを乞う。
「あの、あの、跡部さん。私はどうすれば」
「お前はとりあえずその引きつった顔をどうにかして直せ」
「だ、だって、無理ですよこんなところに場違いな人間が来ちゃって」
「何言ってやがる、今お前は俺の関係者だろうが」
「……ニセモノですけど」
「そんなに自分を卑下するんじゃねぇよ。その見立ては俺が選んだんだ。俺のセンスを疑うってのか?」
センスは間違いない。だがそれで緊張を失くせるかというのはまた別の話だ。
「今お前はこの空間の中で1番注目を浴びている。証拠に皆、お前のことを見ている」
違う。琴璃ではなくて跡部に興味があるのだ。皆、跡部財閥の御曹司とお近づきになりたくて熱烈な視線を寄越してくる。そんな彼にくっついてる謎の人物であるから余計に目立つだけである。仮にもし注目を浴びていると言うのなら、それは悪い目立ち方ではないのか。再度跡部に弱音を吐こうとした時だった。
「跡部君」
どこからか恰幅のいい男が現れやって来た。いかにもな出で立ち。自分はどこぞの企業のトップだ、という権高なオーラが出ている。太い指には目障りなほど悪趣味な指輪がはめられていた。とりあえず、何も知らない琴璃が見ても第1印象はあまりよろしくなかった。
「相変わらず君は格好良いね。今年もよろしく」
「ご無沙汰してます」
誰だったっけか、と思いながら跡部は挨拶を返す。殆ど適当だった。
「そう言えばうちの娘が会いたがっていたよ。ずっと誘っているのになかなか君はのってくれないと悲しんでいた。だから今度、時間を作ってくれないかな」
「善処します」
「ハハハ、つれないなぁ。そんなに構えないでくれよ。ただの食事会に誘いたいだけだから。それなら少しくらい時間がとれるだろう?」
跡部の隣には琴璃がいるのにそんな話をしてくる。今、明らかに琴璃と目が合った。琴璃のことなど気にも掛けていない証拠だ。
「来週末なんてどうかな」
「お言葉ですが。私の隣に彼女が居るのが見えていないわけではないですよね」
「うん?あぁこれは失敬。可愛いお嬢さんだね」
ようやく気付いたというふうなわざとらしい口ぶりだった。ちっとも相手になんかされていない。私なんかじゃ駄目だ。虫除けにもならない。ちょっと、いや、かなり落ち込む。琴璃はこっそり唇を噛んだ。
「でもねぇ、君がこんな若い子なんて。もったいないよ」
もったいない、というのは跡部と琴璃のどちらに対してなのか。酒が入っているのか、饒舌に喋るその男を跡部は冷やかに睨む。
もともとそんなに琴璃を当てにはしていなかった。琴璃がどこまで役に立つか分からないというのもあるが、こういう話題を持ち込まれても適当に流しておこうと最初から決めていた。でも今の失言は黙って聞き流せなかった。
「それは俺にも彼女にも失礼だと思いませんか」
コイツがいったいどこの社長で跡部家とどう繋がりがあったかここまできても思い出せない。どうせその程度の関わりなんだろう。つまり、こんな失礼極まりない男とここで切れようが、どうってことはないわけだ。
「彼女が俺には若すぎると言うのなら、貴方の娘さんは俺からしたら高年層すぎますね」
「な、なんだって」
正確な年齢なんて知らないけれど、少なくとも琴璃よりは歳上だろう。だからそう言い放ってやった。何ともつまらない会話の相手をしてしまった。周囲は盛り上がっているというのに、ここだけ一気に空気が悪くなった。そうさせたのは無論自分なのだが跡部は悠然としている。琴璃だけが青い顔をしてあわあわとしている。何言ってるんですか跡部さん、と、腕を掴みながら無言の訴えをぶつけてきたので余裕の笑みを見せてやった。
「もういい。沢山だ」
捨て台詞にしてはあまりにも情けない言葉を吐いて男は2人の前から姿を消そうとする。その時。
「あ、あの、おっしゃるとおりだと思います」
だが今回のそれは、琴璃の想像するものとはとてつもなくかけ離れすぎていた。
「えぇ……」
絞り出すように呻く。ドレスコードもなんとか決まりまたも車に乗せられて、都内のよく分からない場所に連れてこられた。この時点でとっくに陽は沈んでいた。
跡部に「着いた」と言われ降りた場所は館のような建物だった。誰かの邸宅らしいのだが、あまり跡部は琴璃に教えなかった。余計な情報を詰め込んでも無理だと思ったし、聞いたところで不安を煽ると判断したからだ。
中に入るなりだだっ広いエントランスホールに人が集まっている。値打ちの想像がつかない絨毯がどこまでも広がり、上には豪華なシャンデリアが吊るされている。琴璃にはよく分からないオブジェや絵画もそこかしこに飾られていた。いちいち目に入るたびまた呻きそうになる。
屋敷内には沢山の人がいて、その誰もが跡部を見つけると近寄って話し掛けてきた。跡部はそれらに適当に挨拶を交わす。別に、今日は主賓でもないのだから挨拶周りもいい加減で構わない。ここに顔を出しただけで祖父も納得するだろう、そう思ったからあまり気を回すようなことはしなかった。どちらかと言うと、気を回すべきなのは隣で固まっている存在に対してか。ちらりと琴璃の顔を見る。エスコートされた自分の右腕をがっちりと掴んでいる、というかもうこれはしがみついているのと変わらない。
「ううぅ」
もう何度目かの唸りのような声が琴璃の口から漏れる。
あまりにも規模が違いすぎて。早速場の空気に呑まれかけている。同じ空間に雑誌か何かで見たことあるような顔の人達がいる。女性の姿もちらほら見かけて、どの客人もみなセレブさながらの装いだった。でも、間違いなく琴璃がこの場では最年少だろう。見た感じ、学生のような人間はいない。まぁ自分も今は学生という身分を隠しているわけなのだが。
それを思ったらいきなり不安感が押し寄せてきた。思わず隣に助けを乞う。
「あの、あの、跡部さん。私はどうすれば」
「お前はとりあえずその引きつった顔をどうにかして直せ」
「だ、だって、無理ですよこんなところに場違いな人間が来ちゃって」
「何言ってやがる、今お前は俺の関係者だろうが」
「……ニセモノですけど」
「そんなに自分を卑下するんじゃねぇよ。その見立ては俺が選んだんだ。俺のセンスを疑うってのか?」
センスは間違いない。だがそれで緊張を失くせるかというのはまた別の話だ。
「今お前はこの空間の中で1番注目を浴びている。証拠に皆、お前のことを見ている」
違う。琴璃ではなくて跡部に興味があるのだ。皆、跡部財閥の御曹司とお近づきになりたくて熱烈な視線を寄越してくる。そんな彼にくっついてる謎の人物であるから余計に目立つだけである。仮にもし注目を浴びていると言うのなら、それは悪い目立ち方ではないのか。再度跡部に弱音を吐こうとした時だった。
「跡部君」
どこからか恰幅のいい男が現れやって来た。いかにもな出で立ち。自分はどこぞの企業のトップだ、という権高なオーラが出ている。太い指には目障りなほど悪趣味な指輪がはめられていた。とりあえず、何も知らない琴璃が見ても第1印象はあまりよろしくなかった。
「相変わらず君は格好良いね。今年もよろしく」
「ご無沙汰してます」
誰だったっけか、と思いながら跡部は挨拶を返す。殆ど適当だった。
「そう言えばうちの娘が会いたがっていたよ。ずっと誘っているのになかなか君はのってくれないと悲しんでいた。だから今度、時間を作ってくれないかな」
「善処します」
「ハハハ、つれないなぁ。そんなに構えないでくれよ。ただの食事会に誘いたいだけだから。それなら少しくらい時間がとれるだろう?」
跡部の隣には琴璃がいるのにそんな話をしてくる。今、明らかに琴璃と目が合った。琴璃のことなど気にも掛けていない証拠だ。
「来週末なんてどうかな」
「お言葉ですが。私の隣に彼女が居るのが見えていないわけではないですよね」
「うん?あぁこれは失敬。可愛いお嬢さんだね」
ようやく気付いたというふうなわざとらしい口ぶりだった。ちっとも相手になんかされていない。私なんかじゃ駄目だ。虫除けにもならない。ちょっと、いや、かなり落ち込む。琴璃はこっそり唇を噛んだ。
「でもねぇ、君がこんな若い子なんて。もったいないよ」
もったいない、というのは跡部と琴璃のどちらに対してなのか。酒が入っているのか、饒舌に喋るその男を跡部は冷やかに睨む。
もともとそんなに琴璃を当てにはしていなかった。琴璃がどこまで役に立つか分からないというのもあるが、こういう話題を持ち込まれても適当に流しておこうと最初から決めていた。でも今の失言は黙って聞き流せなかった。
「それは俺にも彼女にも失礼だと思いませんか」
コイツがいったいどこの社長で跡部家とどう繋がりがあったかここまできても思い出せない。どうせその程度の関わりなんだろう。つまり、こんな失礼極まりない男とここで切れようが、どうってことはないわけだ。
「彼女が俺には若すぎると言うのなら、貴方の娘さんは俺からしたら高年層すぎますね」
「な、なんだって」
正確な年齢なんて知らないけれど、少なくとも琴璃よりは歳上だろう。だからそう言い放ってやった。何ともつまらない会話の相手をしてしまった。周囲は盛り上がっているというのに、ここだけ一気に空気が悪くなった。そうさせたのは無論自分なのだが跡部は悠然としている。琴璃だけが青い顔をしてあわあわとしている。何言ってるんですか跡部さん、と、腕を掴みながら無言の訴えをぶつけてきたので余裕の笑みを見せてやった。
「もういい。沢山だ」
捨て台詞にしてはあまりにも情けない言葉を吐いて男は2人の前から姿を消そうとする。その時。
「あ、あの、おっしゃるとおりだと思います」