For just today, I am Cinderella.
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連れてこられた大学内の応接室。跡部は琴璃を招き入れしっかりと鍵をかける。そして1番奥の、背もたれも肘掛けも豪華な椅子に腰掛けた。
「まぁ座れよ」
長い脚を組んで我が物顔で寛いでいる。色々と寄贈した本人ならば当然なのだろうか。琴璃は言われたとおり、跡部の真向いのソファに浅く腰掛けた。
「あ、あの」
「久しぶりだな琴璃。元気そうだな」
「あ、はい。お陰様で。えへへ」
じゃなくて。
「あのう、何か私に用でしょうか」
怪訝そうに見る琴璃に跡部は微笑を返す。
「お前確かこの間、俺に恩返ししたいって言ってたよな?」
「え?言っ……たかもです」
でもそれは車で送ったことでチャラにするとか言ってなかっただろうか。
「何か、あったんですか」
「察しが良いな」
ニヤリと笑う跡部。さっきの笑みより妖しさが加わった。相変わらず格好良いのは変わらないけど、少し嫌な予感がするのは何故だろうか。琴璃は大人しく跡部からの次の言葉を待った。
「新年の挨拶を兼ねて役員クラスの会社関係者が集まる懇親パーティみたいなものがある。単刀直入に言うとそれにお前にも出てほしい。俺と一緒に」
「な、なんでです?」
「単身で行くと煩ぇ奴らが居るんだよ。向こうの身の上話を聞かされるだけならまだいいが、しつこくこっちの将来にまで首を突っ込んできやがるのも居るからな」
最近はそんな席ばかりだった。事業や経営に関係するものというより完全に跡部のプライベートに干渉してくる奴等ばかり。下心が見え見えだった。
「いや、でもその、なんで私なんですか?」
「お前を選んだ理由は3つ」
跡部はずいと親指と人差し指と中指の3本を立てた。男性らしく骨ばっているのに長い指が琴璃の眼の前に並ぶ。
「まず。フットワークが軽い所。次に、過度に人見知りせず場の空気に溶け込める所」
「そんな、いやいや、そんなことないですって」
褒められて悪い気はしない。しかも褒めてくれる相手が完璧な人間なら余計に嬉しくなってしまう。一応謙遜はするものの頭の中はふわふわ状態だった。と、思えていたのもほんの僅かで。3つめの理由を聞いてまた現実に戻される。
「最後に。今、お前には特定の相手が居ない。だから誰にも迷惑がかからない」
「……それはまぁ、そうですけど。ていうかなんで、そんなこと知ってるんですか。その……私に彼氏がいないこと」
「当たってるだろう?」
そうだけど。そんな自信有り有りと言われても全然嬉しくない。今まで褒められて良い気分になってたのに、最後ので明らかにテンションが落ちた。そんなに寂しそうな女とでも見られていたのだろうか。詳しく聞きたかった。けれど本題はそこではない。
「でも、私そんなお洒落な場所に着ていくものなんてないですよ」
「身なりなんてのはどうにでもなる。俺がどうにかしてやる。大事なのはお前の返事だ」
そんな言い方をするがもはやNOなんて言わせてくれない雰囲気だった。人にものを頼むような目じゃない。青い双眸に真正面から射抜かれる。睨まれてはないけど、逃さないというような目をしている。拒否権なんて初めからあるわけ無いのだ。琴璃は心のなかで観念した。
「よ、よろしくお願いします」
「そうか。なら、早速行くぞ」
「えと、どこに」
「今から動かないと時間が怪しい。まずは衣装から見に行く」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで今から?その、パーティがある日に準備すればいいんですよね」
「そうだ。すなわち、今日だな」
「え!」
まさか今日だとは思ってもみなかったので、慌てて琴璃は跡部を引き留める。彼は既に部屋から出ようとするところだった。
「無理です無理です!私これから講義なんです。出席率重視のやつだし……さすがにちょっと」
「ならばそれは俺から理事長に話を通しておこう。お前は特別に出席扱いにしてもらう」
「……ひぇ」
「他に問題はあるか?」
「…………ない、です」
もう何も言えなかった。
ドレスと一言で言っても様々な種類があるのだと知った。形以外にも素材から色まで、同じものは2つとない。
友人にごめんと言って大学を出ると、早速琴璃はこないだの高級車に乗せられた。行き先なんて知らずにドライブをすること十数分、着いた先は高級セレクトショップが立ち並ぶ場所。道の反対側にも高級ブランドの店が軒を連ねる。こんな所には一生足を運ぶことなんてないと思っていたのに。
なぜ今、自分はここに居てこんな真紅のドレスを着させられているんだろう。夢でも見てるんじゃないかとさえ思ってしまう。でも、鏡に映っているのは紛れもなく自分の姿。
「違うな」
ぽーっと、慣れない自分のドレス姿を見つめている中、後ろから声がかかる。夢心地な気分は一気に冷めた。ばっさりと告げられて地味に凹む。折角着たのにこのドレスも合格を貰えなかった。これで何着目なんだろうか。暗い目で彼をちらりと見た。でも跡部はえらく真剣な表情だった。これから琴璃を謎のセレブ会に同伴させる為に一切の妥協は許さないらしい。なので衣装を選ぶのは琴璃でもここの店員でもなく、跡部本人が買って出ている。さっきから顎に手を当て琴璃をじっと見つめている。真剣な眼差しはこっちからしたらドキドキしてしょうがない。
「いきなり背伸びしようとしても無理があるな」
「私もあんまりこういうのは……着ていて落ち着かないです」
「でしたらお嬢様のお好きな色を1度試されてはどうでしょう」
ショップの女性店員が提案する。跡部は腕時計に目をやる。これ以上時間はかけられない。無闇矢鱈に着せるのではなく、それもいいだろうと思った。試しに琴璃に好きなものを選ばせると、恐る恐る指差したドレスを店員から受け取りまたカーテンの向こうへ引っ込んだ。
「はぁ……」
着替えながらも無意識にこぼれるため息。もう片手じゃ数えきれない着替えをしている。こんなので大丈夫なのかな。弱気になりながら身に着けた淡いグレイッシュピンクのドレスワンピース。大人すぎず子供すぎない色だと思って選んだけれど不安は尽きない。やっぱり服に着られてる感が否めない。浮かない顔して着るものじゃないのだが自信なんて皆無だった。そうっとカーテンを開ける。
「ほう」
「あら」
琴璃を見た2人の声が同時に出た。表情も先ほどよりずっと柔らかい。どうやらやっと及第点に届いたらしい。
「色は合ってるがシルエットが違うな。もう少し脚を見せてもいい」
「確かに。そうですわね」
「はぁ」
「襟ぐりはもっと露わにしてもいい。お前は細いし、鎖骨が綺麗だから」
なんでそんなこと知っているんだ。いつ、この人に自分の足や鎖骨を見せただろうか。全くもって覚えがない。
「では、このカラーで別のシルエットのものをお出ししましょう。デコルテの開きも広めがよろしいですか?」
「ああ。そうしてくれ」
そこからは琴璃の口出す隙なんて一切無かった。ドレス、アクセサリー、靴、とひと通り決まってヘアメイクに移る頃には跡部の姿はこの場所から無くなっていた。まだ本番にもなっていないというのにこの時点で既に琴璃はヘトヘトだった。時計はもう夕刻を示している。ヘアメイクを施してくれるお姉さんが、とびきり綺麗にしますからね、とにこやかに言ってきた。
正直疲れている、けれど楽しみなのも事実。こんなふうに、ここまで時間をかけてやったことがない。お洒落に興味がないわけじゃないけど、いつもメイクに手をかけるような性格でもなかった。友達からは、あんたはすっぴんでも変わんないからいいよねとは言われたことがある。でもそれは、メイクを施しても代わり映えしないという意味でもある。果たしてそうなのか。
「あら素敵」
渡された手鏡を覗き込む。そこに映った女の子が本当に自分だとは思えなかった。
「……かわいい」
緩く巻かれた髪も耳で揺れるイヤリングも。少し背伸びしすぎかと思えたリップの色も。お世辞でも奢りでもなくて、本当に今の自分は可愛い。だから自然と声に出たのだ。
衣装もヘアメイクもようやく終えたところで跡部が迎えに来た。彼もまた、先程と装いが変わっていた。インフォーマルなネイビーカラーのスリーピーススーツ。ネクタイも濃淡の違う同系色で纏められていた。何を着ても似合ってしまうのは言うまでもない。
「支度は済んだようだな」
「あ、はい」
「なら行くぞ」
と言って跡部は琴璃へ向かって手を差し出してくる。履き慣れないヒールで彼に近づきその手をおずおず掴むと車の助手席側まで手を引いてくれた。
「良く似合ってるぜ」
心臓がどくんと跳ねる。青い瞳がこっちに向けられている。琴璃の心臓はもうどうにかなりそうだった。お礼を言う余裕なんてこれっぽっちも無い。でも、他の誰からでもない、彼に褒められたことがこの上なく嬉しい。
彼のエスコートを受けながら乗り込んだ車からは、夜になった都会のきらびやかな街が見えた。見るもの纏うもの何もかもが新鮮で、まるでおとぎ話のお姫様になったかのような気分。きっと今の自分は最高に可愛い顔で笑っているに違いない。
「まぁ座れよ」
長い脚を組んで我が物顔で寛いでいる。色々と寄贈した本人ならば当然なのだろうか。琴璃は言われたとおり、跡部の真向いのソファに浅く腰掛けた。
「あ、あの」
「久しぶりだな琴璃。元気そうだな」
「あ、はい。お陰様で。えへへ」
じゃなくて。
「あのう、何か私に用でしょうか」
怪訝そうに見る琴璃に跡部は微笑を返す。
「お前確かこの間、俺に恩返ししたいって言ってたよな?」
「え?言っ……たかもです」
でもそれは車で送ったことでチャラにするとか言ってなかっただろうか。
「何か、あったんですか」
「察しが良いな」
ニヤリと笑う跡部。さっきの笑みより妖しさが加わった。相変わらず格好良いのは変わらないけど、少し嫌な予感がするのは何故だろうか。琴璃は大人しく跡部からの次の言葉を待った。
「新年の挨拶を兼ねて役員クラスの会社関係者が集まる懇親パーティみたいなものがある。単刀直入に言うとそれにお前にも出てほしい。俺と一緒に」
「な、なんでです?」
「単身で行くと煩ぇ奴らが居るんだよ。向こうの身の上話を聞かされるだけならまだいいが、しつこくこっちの将来にまで首を突っ込んできやがるのも居るからな」
最近はそんな席ばかりだった。事業や経営に関係するものというより完全に跡部のプライベートに干渉してくる奴等ばかり。下心が見え見えだった。
「いや、でもその、なんで私なんですか?」
「お前を選んだ理由は3つ」
跡部はずいと親指と人差し指と中指の3本を立てた。男性らしく骨ばっているのに長い指が琴璃の眼の前に並ぶ。
「まず。フットワークが軽い所。次に、過度に人見知りせず場の空気に溶け込める所」
「そんな、いやいや、そんなことないですって」
褒められて悪い気はしない。しかも褒めてくれる相手が完璧な人間なら余計に嬉しくなってしまう。一応謙遜はするものの頭の中はふわふわ状態だった。と、思えていたのもほんの僅かで。3つめの理由を聞いてまた現実に戻される。
「最後に。今、お前には特定の相手が居ない。だから誰にも迷惑がかからない」
「……それはまぁ、そうですけど。ていうかなんで、そんなこと知ってるんですか。その……私に彼氏がいないこと」
「当たってるだろう?」
そうだけど。そんな自信有り有りと言われても全然嬉しくない。今まで褒められて良い気分になってたのに、最後ので明らかにテンションが落ちた。そんなに寂しそうな女とでも見られていたのだろうか。詳しく聞きたかった。けれど本題はそこではない。
「でも、私そんなお洒落な場所に着ていくものなんてないですよ」
「身なりなんてのはどうにでもなる。俺がどうにかしてやる。大事なのはお前の返事だ」
そんな言い方をするがもはやNOなんて言わせてくれない雰囲気だった。人にものを頼むような目じゃない。青い双眸に真正面から射抜かれる。睨まれてはないけど、逃さないというような目をしている。拒否権なんて初めからあるわけ無いのだ。琴璃は心のなかで観念した。
「よ、よろしくお願いします」
「そうか。なら、早速行くぞ」
「えと、どこに」
「今から動かないと時間が怪しい。まずは衣装から見に行く」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで今から?その、パーティがある日に準備すればいいんですよね」
「そうだ。すなわち、今日だな」
「え!」
まさか今日だとは思ってもみなかったので、慌てて琴璃は跡部を引き留める。彼は既に部屋から出ようとするところだった。
「無理です無理です!私これから講義なんです。出席率重視のやつだし……さすがにちょっと」
「ならばそれは俺から理事長に話を通しておこう。お前は特別に出席扱いにしてもらう」
「……ひぇ」
「他に問題はあるか?」
「…………ない、です」
もう何も言えなかった。
ドレスと一言で言っても様々な種類があるのだと知った。形以外にも素材から色まで、同じものは2つとない。
友人にごめんと言って大学を出ると、早速琴璃はこないだの高級車に乗せられた。行き先なんて知らずにドライブをすること十数分、着いた先は高級セレクトショップが立ち並ぶ場所。道の反対側にも高級ブランドの店が軒を連ねる。こんな所には一生足を運ぶことなんてないと思っていたのに。
なぜ今、自分はここに居てこんな真紅のドレスを着させられているんだろう。夢でも見てるんじゃないかとさえ思ってしまう。でも、鏡に映っているのは紛れもなく自分の姿。
「違うな」
ぽーっと、慣れない自分のドレス姿を見つめている中、後ろから声がかかる。夢心地な気分は一気に冷めた。ばっさりと告げられて地味に凹む。折角着たのにこのドレスも合格を貰えなかった。これで何着目なんだろうか。暗い目で彼をちらりと見た。でも跡部はえらく真剣な表情だった。これから琴璃を謎のセレブ会に同伴させる為に一切の妥協は許さないらしい。なので衣装を選ぶのは琴璃でもここの店員でもなく、跡部本人が買って出ている。さっきから顎に手を当て琴璃をじっと見つめている。真剣な眼差しはこっちからしたらドキドキしてしょうがない。
「いきなり背伸びしようとしても無理があるな」
「私もあんまりこういうのは……着ていて落ち着かないです」
「でしたらお嬢様のお好きな色を1度試されてはどうでしょう」
ショップの女性店員が提案する。跡部は腕時計に目をやる。これ以上時間はかけられない。無闇矢鱈に着せるのではなく、それもいいだろうと思った。試しに琴璃に好きなものを選ばせると、恐る恐る指差したドレスを店員から受け取りまたカーテンの向こうへ引っ込んだ。
「はぁ……」
着替えながらも無意識にこぼれるため息。もう片手じゃ数えきれない着替えをしている。こんなので大丈夫なのかな。弱気になりながら身に着けた淡いグレイッシュピンクのドレスワンピース。大人すぎず子供すぎない色だと思って選んだけれど不安は尽きない。やっぱり服に着られてる感が否めない。浮かない顔して着るものじゃないのだが自信なんて皆無だった。そうっとカーテンを開ける。
「ほう」
「あら」
琴璃を見た2人の声が同時に出た。表情も先ほどよりずっと柔らかい。どうやらやっと及第点に届いたらしい。
「色は合ってるがシルエットが違うな。もう少し脚を見せてもいい」
「確かに。そうですわね」
「はぁ」
「襟ぐりはもっと露わにしてもいい。お前は細いし、鎖骨が綺麗だから」
なんでそんなこと知っているんだ。いつ、この人に自分の足や鎖骨を見せただろうか。全くもって覚えがない。
「では、このカラーで別のシルエットのものをお出ししましょう。デコルテの開きも広めがよろしいですか?」
「ああ。そうしてくれ」
そこからは琴璃の口出す隙なんて一切無かった。ドレス、アクセサリー、靴、とひと通り決まってヘアメイクに移る頃には跡部の姿はこの場所から無くなっていた。まだ本番にもなっていないというのにこの時点で既に琴璃はヘトヘトだった。時計はもう夕刻を示している。ヘアメイクを施してくれるお姉さんが、とびきり綺麗にしますからね、とにこやかに言ってきた。
正直疲れている、けれど楽しみなのも事実。こんなふうに、ここまで時間をかけてやったことがない。お洒落に興味がないわけじゃないけど、いつもメイクに手をかけるような性格でもなかった。友達からは、あんたはすっぴんでも変わんないからいいよねとは言われたことがある。でもそれは、メイクを施しても代わり映えしないという意味でもある。果たしてそうなのか。
「あら素敵」
渡された手鏡を覗き込む。そこに映った女の子が本当に自分だとは思えなかった。
「……かわいい」
緩く巻かれた髪も耳で揺れるイヤリングも。少し背伸びしすぎかと思えたリップの色も。お世辞でも奢りでもなくて、本当に今の自分は可愛い。だから自然と声に出たのだ。
衣装もヘアメイクもようやく終えたところで跡部が迎えに来た。彼もまた、先程と装いが変わっていた。インフォーマルなネイビーカラーのスリーピーススーツ。ネクタイも濃淡の違う同系色で纏められていた。何を着ても似合ってしまうのは言うまでもない。
「支度は済んだようだな」
「あ、はい」
「なら行くぞ」
と言って跡部は琴璃へ向かって手を差し出してくる。履き慣れないヒールで彼に近づきその手をおずおず掴むと車の助手席側まで手を引いてくれた。
「良く似合ってるぜ」
心臓がどくんと跳ねる。青い瞳がこっちに向けられている。琴璃の心臓はもうどうにかなりそうだった。お礼を言う余裕なんてこれっぽっちも無い。でも、他の誰からでもない、彼に褒められたことがこの上なく嬉しい。
彼のエスコートを受けながら乗り込んだ車からは、夜になった都会のきらびやかな街が見えた。見るもの纏うもの何もかもが新鮮で、まるでおとぎ話のお姫様になったかのような気分。きっと今の自分は最高に可愛い顔で笑っているに違いない。