春の匂いがした
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春になって新年度。新学年、新学期を迎える。何もかもが新しく始まる季節。その初日は、新入生でなくとも生徒は興奮したり落ち着かない者ばかり。始業式を終えると皆我慢していたおしゃべりを繰り広げる。校舎の前の、新しいクラス分けの張り出しを見て各々が騒いでいた。当然だけど離れる友達もいればまた同じクラスの子もいる。
「琴璃、何組?」
「えーと、C組」
「うそー?あたしBだ。離れちゃったじゃん」
琴璃はわりと仲の良かった子と別のクラスになってしまった。寂しいね、でも隣じゃん、そんな会話を交わしながら一緒に歩く。友達とは廊下で別れ1人自分の教室へ入る。初めて訪れる場所。そこにはもうクラスメイトとなる人達がまぁまぁ揃ってて、黒板に書かれた自分の名前を見つけて席に座っている。座っている子もいれば、友達と喋るために教室の隅に固まっている集団もいた。琴璃の席は窓側の1番後ろだった。羨ましがられるポジション。座って鞄を机の上に置いて、ぼんやり辺りを見渡してみた。この窓からはグラウンドやテニスコートが見える。新たな発見だった。自分の席の周りに知っている女子はあまり居なかった。ちょっとだけ心細くなる。
チャイムが鳴ってすぐに担任の教師が入ってきた。出歩いていた生徒が一斉に席に戻る。授業が始まるのは明日からで、今日の予定は簡単なオリエンテーションのみ。それを終えたら下校になる。担任は簡単な挨拶と説明、のちにプリントを配ってきた。
「よろしくね」
プリントをまわしてきた琴璃の前の席の人物。幸村くんだ。学校内で知らない者はいない。強豪で知られるテニス部の部長を担っている。公式の試合はこれまで負けなしで、もう既に多数のテニス関係者から話が来てるんだとか。将来はテニスプレイヤーになるのかな。とまぁ、琴璃が幸村に対して知っていることはそれぐらい。話したことなんて1度もなかったから、ほとんどが周りからの情報を参考にしている。クラスが離れてしまった友達が言っていたのだ。確か、「幸村くんは女子にすごいモテる。こないだのバレンタインとか凄い人気だったんだから」という情報も聞いたのを今ふと思い出した。彼女もなかなかのミーハーである。でも、本命は幸村ではないらしい。
「こちらこそ、よろしくね」
答えてプリントを受け取った琴璃に幸村は笑い返した。ほんとだ、確かにモテそうな雰囲気だと思った。
「同じクラスになるの、初めてだよね」
「うん。初めてしゃべるからそうだと思う」
「だよね。でも、俺――」
幸村は何かを言おうとしていたけど、担任が明日の予定を説明しだした。だから話すのをやめて前を向く。その時ふわりと、風に乗っていい匂いがした。柔軟剤でも香水でもない。人工的な香りとはちょっと違う。植物みたいな、でも別に青臭いとかじゃなくて、花みたいなものに近い。晴れた日に嗅いだことのあるような匂い。それの他に、何故か庭園のようなものを連想させられた。なんの匂いだろう。でもすごく気持ちが安らぐ。
担任の説明を耳に入れながら、今日もいい天気だな、と揺れるカーテンの隙間から青空を見た。今日からは3年なのだ。色々なことが変わる。だからもう、心機一転しよう。琴璃はひっそりそう思いながら再び前を向いた。
琴璃は部活に入っていない。だからオリエンテーションが終わったから今日はもうこれで帰るだけだった。学年が変わったから、教室だけでなく下駄箱の場所も違う。間違えずに3年の場所に来たはずなのに。何故かそこに彼がいた。
「どうも」
「あ……どうも」
ずん、と気持ちが沈んでいった。少し前にせっかく心機一転を誓ったばかりなのに。彼は1年、いや琴璃と同じように彼も進級したのだから今は2年か。何にしろ、ここに居るのはおかしいのに。3年の下駄箱の場所にいて、壁に寄りかかってスマホを弄っていた。琴璃を見つけてへらりと笑う。何故か上履きは履いておらず靴下でいた。嫌な予感がした。琴璃はさっさと帰ろうと彼の前を横切ろうとする。
「先輩って、今度何組なんですか」
「……え、えと、C組」
「ふぅん」
無視をする勇気もなくてつい馬鹿正直に答えてしまった。
「今日ってもうこれで帰りですよね?先輩部活入ってないから」
最初の頃は、自分のことが知られているのはなんでだろうと思ったくらいだったけど、もう今となっては怖いだけ。教えた覚えなんて無いのに琴璃のいろんなことを知っている。でも、嫌だと思っているのに今さっきあっさり自分のクラスを教えてしまった。馬鹿なことをしたと思う。もうこれ以上は喋らないと決心してローファーに履き替える。すると彼も同じように隣りでスニーカーを履いた。やだ。どうしよう。彼は当たり前のように琴璃と一緒に帰ろうとしている。誰でもいいから知っている人が居れば良かったのに、廊下には他に生徒は居なかった。このまま隙をついて振り切れるだろうか。一瞬思ったけどそれは無理だと思った。走ったところで追い掛けられたりしたら。もしそうなったのなら、追いつかれるのが容易に想像できる。やだなやだな、と思いながら下駄箱の扉を閉める。
「琴璃じゃないか」
「へっ」
うっかり間抜けな声が出た。急に名前を呼ばれて声の主を探す。何故だか、微笑んだ幸村がこっちにやって来るところだった。今自分の名を呼んだのは、まさかの彼だった。
「帰ろうとしてたんでしょ?俺もそうなんだ。一緒に帰ろうか」
幸村は横でさっさとテニスシューズに履き替えて自然な手つきで琴璃の背を押した。呆気に取られている男子生徒に見向きもしない。まるでそこに存在していないかのような振る舞いだった。わけが全く分からなかったけど琴璃はそれに従う。そして、その男子を置き去りにして2人で昇降口を出た。
「琴璃、何組?」
「えーと、C組」
「うそー?あたしBだ。離れちゃったじゃん」
琴璃はわりと仲の良かった子と別のクラスになってしまった。寂しいね、でも隣じゃん、そんな会話を交わしながら一緒に歩く。友達とは廊下で別れ1人自分の教室へ入る。初めて訪れる場所。そこにはもうクラスメイトとなる人達がまぁまぁ揃ってて、黒板に書かれた自分の名前を見つけて席に座っている。座っている子もいれば、友達と喋るために教室の隅に固まっている集団もいた。琴璃の席は窓側の1番後ろだった。羨ましがられるポジション。座って鞄を机の上に置いて、ぼんやり辺りを見渡してみた。この窓からはグラウンドやテニスコートが見える。新たな発見だった。自分の席の周りに知っている女子はあまり居なかった。ちょっとだけ心細くなる。
チャイムが鳴ってすぐに担任の教師が入ってきた。出歩いていた生徒が一斉に席に戻る。授業が始まるのは明日からで、今日の予定は簡単なオリエンテーションのみ。それを終えたら下校になる。担任は簡単な挨拶と説明、のちにプリントを配ってきた。
「よろしくね」
プリントをまわしてきた琴璃の前の席の人物。幸村くんだ。学校内で知らない者はいない。強豪で知られるテニス部の部長を担っている。公式の試合はこれまで負けなしで、もう既に多数のテニス関係者から話が来てるんだとか。将来はテニスプレイヤーになるのかな。とまぁ、琴璃が幸村に対して知っていることはそれぐらい。話したことなんて1度もなかったから、ほとんどが周りからの情報を参考にしている。クラスが離れてしまった友達が言っていたのだ。確か、「幸村くんは女子にすごいモテる。こないだのバレンタインとか凄い人気だったんだから」という情報も聞いたのを今ふと思い出した。彼女もなかなかのミーハーである。でも、本命は幸村ではないらしい。
「こちらこそ、よろしくね」
答えてプリントを受け取った琴璃に幸村は笑い返した。ほんとだ、確かにモテそうな雰囲気だと思った。
「同じクラスになるの、初めてだよね」
「うん。初めてしゃべるからそうだと思う」
「だよね。でも、俺――」
幸村は何かを言おうとしていたけど、担任が明日の予定を説明しだした。だから話すのをやめて前を向く。その時ふわりと、風に乗っていい匂いがした。柔軟剤でも香水でもない。人工的な香りとはちょっと違う。植物みたいな、でも別に青臭いとかじゃなくて、花みたいなものに近い。晴れた日に嗅いだことのあるような匂い。それの他に、何故か庭園のようなものを連想させられた。なんの匂いだろう。でもすごく気持ちが安らぐ。
担任の説明を耳に入れながら、今日もいい天気だな、と揺れるカーテンの隙間から青空を見た。今日からは3年なのだ。色々なことが変わる。だからもう、心機一転しよう。琴璃はひっそりそう思いながら再び前を向いた。
琴璃は部活に入っていない。だからオリエンテーションが終わったから今日はもうこれで帰るだけだった。学年が変わったから、教室だけでなく下駄箱の場所も違う。間違えずに3年の場所に来たはずなのに。何故かそこに彼がいた。
「どうも」
「あ……どうも」
ずん、と気持ちが沈んでいった。少し前にせっかく心機一転を誓ったばかりなのに。彼は1年、いや琴璃と同じように彼も進級したのだから今は2年か。何にしろ、ここに居るのはおかしいのに。3年の下駄箱の場所にいて、壁に寄りかかってスマホを弄っていた。琴璃を見つけてへらりと笑う。何故か上履きは履いておらず靴下でいた。嫌な予感がした。琴璃はさっさと帰ろうと彼の前を横切ろうとする。
「先輩って、今度何組なんですか」
「……え、えと、C組」
「ふぅん」
無視をする勇気もなくてつい馬鹿正直に答えてしまった。
「今日ってもうこれで帰りですよね?先輩部活入ってないから」
最初の頃は、自分のことが知られているのはなんでだろうと思ったくらいだったけど、もう今となっては怖いだけ。教えた覚えなんて無いのに琴璃のいろんなことを知っている。でも、嫌だと思っているのに今さっきあっさり自分のクラスを教えてしまった。馬鹿なことをしたと思う。もうこれ以上は喋らないと決心してローファーに履き替える。すると彼も同じように隣りでスニーカーを履いた。やだ。どうしよう。彼は当たり前のように琴璃と一緒に帰ろうとしている。誰でもいいから知っている人が居れば良かったのに、廊下には他に生徒は居なかった。このまま隙をついて振り切れるだろうか。一瞬思ったけどそれは無理だと思った。走ったところで追い掛けられたりしたら。もしそうなったのなら、追いつかれるのが容易に想像できる。やだなやだな、と思いながら下駄箱の扉を閉める。
「琴璃じゃないか」
「へっ」
うっかり間抜けな声が出た。急に名前を呼ばれて声の主を探す。何故だか、微笑んだ幸村がこっちにやって来るところだった。今自分の名を呼んだのは、まさかの彼だった。
「帰ろうとしてたんでしょ?俺もそうなんだ。一緒に帰ろうか」
幸村は横でさっさとテニスシューズに履き替えて自然な手つきで琴璃の背を押した。呆気に取られている男子生徒に見向きもしない。まるでそこに存在していないかのような振る舞いだった。わけが全く分からなかったけど琴璃はそれに従う。そして、その男子を置き去りにして2人で昇降口を出た。
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