独占欲
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「ねぇ跡部くん」
昼休み。自分の席で本を読んでいると控えめに声がかけられた。顔を上げれば同じクラスの女子が立っている。
「ほら、あの子」
そう言って彼女は教室のドアの方を指差す。琴璃がこちらを伺うようにドアで半身を隠して立っていた。どうやらもう無視を決め込むのは辞めたらしい。跡部は席から立ち琴璃のそばまで行った。
「あの、景ちゃん」
「どうした。お前のほうから来るなんて珍しいな」
「うん。……今って忙しい?」
「いや、そんなことはない」
「こないだ言ってたドイツ語の小テスト返ってきてね、まだ分かんないとこあって」
教えてほしい、と頼んだけど結局跡部と喧嘩してそのまま自力で挑んだドイツ語の小テスト。結果はまずまずだった。跡部に教えて欲しかった範囲の部分をばっちり間違えた。やっぱり教えてもらっておくべきだった、と琴璃はこっそり後悔したのだ。
でも今日こうして伺いを立てにきたのは、純粋に教えてもらいたいのもあるが所詮は仲直りする口実なのだろう。跡部はすぐ分かった。なんとも彼女らしい。
「いいぜ。教えてやるよ。あんまり騒がしくない場所のほうがいいだろう?」
「まぁ、できれば」
「なら生徒会室だな。行くぞ」
「いいの?使っても」
「俺様は生徒会長だからな」
「……職権濫用だ」
「何とでも言え」
言いながらもう跡部は歩き出していた。琴璃は黙ってその後をついて行く。もう学校内で跡部と一緒に居ても誰も怖い目で見てくる人は居なくなった。何があっても彼が守ってくれるから、お陰で琴璃は平和な高校生活を送れている。だからこの間のことだって、跡部の勘違いとは言え琴璃の身を案じて起こした行動なのだ。わざとじゃない。そんなのは分かっていた。だから早く仲直りすれば良かったのに、どうにも機会を逃してしまい今日で丸1週間経ってしまった。会いに行くのは多少緊張した。だって昨日の彼は全く目も合わせてくれなかったのだ。本当に、自分に会うためにバイト先まで来たのか疑ったほどだった。昨日の最後にジローから、「早く仲直りしてね。じゃないとそろそろヤバいよ、跡部」と言われたのもあって、今日自分のほうから会いに来た。何がどうヤバいのか分からないけど、琴璃が思うほど今のところ彼は“ヤバい”ふうには見えない。
生徒会室は教室がある棟とは異なる上に、今が昼休みということもあってか周囲に他の生徒の姿は全く無かった。跡部は鍵を開けて琴璃に入るように促す。そして、ドアを閉めると後ろ手に鍵をかけた。琴璃がノートやら筆記用具やら、持ってきたものをテーブルに置いている。それが終わったのを見計らって彼女の腕を引っ張った。
「わっ」
2人して後ろのソファに倒れ込む。広いソファで随分と余裕がある。生徒会室に何故このサイズが必要なんだろうとは誰もが思うだろうがまさか恋人と過ごす為だとは。跡部自身もそんなことになるとは思ってもみなかった。だから自ずと笑いが込み上げてくる。そんな彼の様子をどうしたのかと琴璃は疑うように見ていた。まだ、抱き締められた状態のままで離してもらえていない。
「景ちゃん、怒ってないの?」
「何故俺が怒る必要がある。怒っていたのはお前のほうじゃなかったのか?」
「……そうだけど、」
「お前の大事な友人を俺が侮辱したからな」
「でもわざとじゃないって分かったのに。その後私、景ちゃんからの連絡を無視した」
そのことに関しては怒らないのか。ずっと疑問に思っていた。素直になれなくて子供みたいな態度をとった自分をどう思っているんだろう。そもそも彼の怒りの沸点とはどの程度なんだろうか。大きくなって再会して、彼の変わっていない所もあれば新たに知った所もある。彼は想像以上に感情を表に出さない。
「景ちゃんはさ、私がどんなことをしたら怒るの?無視したくらいじゃムッとしたりしないんだね」
「何だ、それは。まさかお前は俺を試していたのか?」
「ち、違うよ、そんなことしない。しないけど……景ちゃん、絶対に怒ったりしないから」
「別に。お前が俺を怒らせるようなことをしないからな」
「じゃあ何したら怒るの?」
真剣な目でそんなことを言う琴璃に跡部は笑ってしまう。
「そんなにお前は俺様に叱ってほしいのか。変わった趣味だな」
「な、そんなんじゃないよ!別に、怒られたくなんかないもん。ただ……」
「ただ?」
いつもあまり感情を顔に出さない彼だから。笑ったりはするけど琴璃ほどはっきり見せない。そこまで大したことじゃないと思っているのだろうか。だからちょっと今回のことも自分だけ怒ってて虚しくなった。時間が経てば経つほどそう思えてしまった。早くごめんねを言えたら良かったのに、跡部を前にすると自分はなんて幼いんだろうと思ってしまう。いつも大事にしてくれるのにこんなことで振り回して。本当はもっと早く謝ろうとしていた。じゃないとそろそろ向こうから来そうな気がして。と、思っていた矢先に彼はバイト先に現れた。でもまさか友達と来るとは思わなかった。そのせいで何だか素直になりきれなくて。他人が居たせいで、琴璃は無駄に意地を張ってしまったのだ。そんなことしないでさっさと謝ればよかったのに。今抱きしめられてじんわり思い知る。
「ごめんね」
ようやく言えた。その言葉を聞いて跡部は琴璃の額にキスをした。腕の中で琴璃は俯く。たかが1週間ぶりなのにどうしてこんなに心から満たされるのだろう。
「お前に無視され続けられていた間、寂しかったぜ?俺は」
「……景ちゃんがそういうこと言うの、珍しい」
「愛を語るのはただ1人だけだと、昨日宣言してきたからな」
「それって、もしかして、わたし?」
「お前以外に誰がいる」
その時だけ、跡部はほんの少しムッとした。あ、怒った、と思った。けれど琴璃はそれが嬉しくて口元が緩んでしまう。自分のことで怒る理由が見つかって。あぁ、好きだなぁと思った。
「ま、幸村に怯むお前を見られたしな。あれはなかなか貴重だったぜ」
「だって、景ちゃん助けてくれないんだもん。困ってたのに何も言ってくれなかった」
「お前が誰かの前で俺のことを話すなんて機会はそうそう無いからな。どんな反応をするのか、見ていて楽しかった」
「しかも全然こっち見てくれないし。私に用があって来たんじゃないの?って、不安になっちゃった」
「あんな邪魔者が居たらどうせ、話したところで割り込んでくるに決まっている」
幸村を邪魔者扱いするあたりが彼らしい。でもやっぱり2人はちゃんと友人関係にあるんだ。琴璃はそう思ったけれど、幸村の話をする跡部の表情は心底嫌だという態度が表れていた。
昼休み。自分の席で本を読んでいると控えめに声がかけられた。顔を上げれば同じクラスの女子が立っている。
「ほら、あの子」
そう言って彼女は教室のドアの方を指差す。琴璃がこちらを伺うようにドアで半身を隠して立っていた。どうやらもう無視を決め込むのは辞めたらしい。跡部は席から立ち琴璃のそばまで行った。
「あの、景ちゃん」
「どうした。お前のほうから来るなんて珍しいな」
「うん。……今って忙しい?」
「いや、そんなことはない」
「こないだ言ってたドイツ語の小テスト返ってきてね、まだ分かんないとこあって」
教えてほしい、と頼んだけど結局跡部と喧嘩してそのまま自力で挑んだドイツ語の小テスト。結果はまずまずだった。跡部に教えて欲しかった範囲の部分をばっちり間違えた。やっぱり教えてもらっておくべきだった、と琴璃はこっそり後悔したのだ。
でも今日こうして伺いを立てにきたのは、純粋に教えてもらいたいのもあるが所詮は仲直りする口実なのだろう。跡部はすぐ分かった。なんとも彼女らしい。
「いいぜ。教えてやるよ。あんまり騒がしくない場所のほうがいいだろう?」
「まぁ、できれば」
「なら生徒会室だな。行くぞ」
「いいの?使っても」
「俺様は生徒会長だからな」
「……職権濫用だ」
「何とでも言え」
言いながらもう跡部は歩き出していた。琴璃は黙ってその後をついて行く。もう学校内で跡部と一緒に居ても誰も怖い目で見てくる人は居なくなった。何があっても彼が守ってくれるから、お陰で琴璃は平和な高校生活を送れている。だからこの間のことだって、跡部の勘違いとは言え琴璃の身を案じて起こした行動なのだ。わざとじゃない。そんなのは分かっていた。だから早く仲直りすれば良かったのに、どうにも機会を逃してしまい今日で丸1週間経ってしまった。会いに行くのは多少緊張した。だって昨日の彼は全く目も合わせてくれなかったのだ。本当に、自分に会うためにバイト先まで来たのか疑ったほどだった。昨日の最後にジローから、「早く仲直りしてね。じゃないとそろそろヤバいよ、跡部」と言われたのもあって、今日自分のほうから会いに来た。何がどうヤバいのか分からないけど、琴璃が思うほど今のところ彼は“ヤバい”ふうには見えない。
生徒会室は教室がある棟とは異なる上に、今が昼休みということもあってか周囲に他の生徒の姿は全く無かった。跡部は鍵を開けて琴璃に入るように促す。そして、ドアを閉めると後ろ手に鍵をかけた。琴璃がノートやら筆記用具やら、持ってきたものをテーブルに置いている。それが終わったのを見計らって彼女の腕を引っ張った。
「わっ」
2人して後ろのソファに倒れ込む。広いソファで随分と余裕がある。生徒会室に何故このサイズが必要なんだろうとは誰もが思うだろうがまさか恋人と過ごす為だとは。跡部自身もそんなことになるとは思ってもみなかった。だから自ずと笑いが込み上げてくる。そんな彼の様子をどうしたのかと琴璃は疑うように見ていた。まだ、抱き締められた状態のままで離してもらえていない。
「景ちゃん、怒ってないの?」
「何故俺が怒る必要がある。怒っていたのはお前のほうじゃなかったのか?」
「……そうだけど、」
「お前の大事な友人を俺が侮辱したからな」
「でもわざとじゃないって分かったのに。その後私、景ちゃんからの連絡を無視した」
そのことに関しては怒らないのか。ずっと疑問に思っていた。素直になれなくて子供みたいな態度をとった自分をどう思っているんだろう。そもそも彼の怒りの沸点とはどの程度なんだろうか。大きくなって再会して、彼の変わっていない所もあれば新たに知った所もある。彼は想像以上に感情を表に出さない。
「景ちゃんはさ、私がどんなことをしたら怒るの?無視したくらいじゃムッとしたりしないんだね」
「何だ、それは。まさかお前は俺を試していたのか?」
「ち、違うよ、そんなことしない。しないけど……景ちゃん、絶対に怒ったりしないから」
「別に。お前が俺を怒らせるようなことをしないからな」
「じゃあ何したら怒るの?」
真剣な目でそんなことを言う琴璃に跡部は笑ってしまう。
「そんなにお前は俺様に叱ってほしいのか。変わった趣味だな」
「な、そんなんじゃないよ!別に、怒られたくなんかないもん。ただ……」
「ただ?」
いつもあまり感情を顔に出さない彼だから。笑ったりはするけど琴璃ほどはっきり見せない。そこまで大したことじゃないと思っているのだろうか。だからちょっと今回のことも自分だけ怒ってて虚しくなった。時間が経てば経つほどそう思えてしまった。早くごめんねを言えたら良かったのに、跡部を前にすると自分はなんて幼いんだろうと思ってしまう。いつも大事にしてくれるのにこんなことで振り回して。本当はもっと早く謝ろうとしていた。じゃないとそろそろ向こうから来そうな気がして。と、思っていた矢先に彼はバイト先に現れた。でもまさか友達と来るとは思わなかった。そのせいで何だか素直になりきれなくて。他人が居たせいで、琴璃は無駄に意地を張ってしまったのだ。そんなことしないでさっさと謝ればよかったのに。今抱きしめられてじんわり思い知る。
「ごめんね」
ようやく言えた。その言葉を聞いて跡部は琴璃の額にキスをした。腕の中で琴璃は俯く。たかが1週間ぶりなのにどうしてこんなに心から満たされるのだろう。
「お前に無視され続けられていた間、寂しかったぜ?俺は」
「……景ちゃんがそういうこと言うの、珍しい」
「愛を語るのはただ1人だけだと、昨日宣言してきたからな」
「それって、もしかして、わたし?」
「お前以外に誰がいる」
その時だけ、跡部はほんの少しムッとした。あ、怒った、と思った。けれど琴璃はそれが嬉しくて口元が緩んでしまう。自分のことで怒る理由が見つかって。あぁ、好きだなぁと思った。
「ま、幸村に怯むお前を見られたしな。あれはなかなか貴重だったぜ」
「だって、景ちゃん助けてくれないんだもん。困ってたのに何も言ってくれなかった」
「お前が誰かの前で俺のことを話すなんて機会はそうそう無いからな。どんな反応をするのか、見ていて楽しかった」
「しかも全然こっち見てくれないし。私に用があって来たんじゃないの?って、不安になっちゃった」
「あんな邪魔者が居たらどうせ、話したところで割り込んでくるに決まっている」
幸村を邪魔者扱いするあたりが彼らしい。でもやっぱり2人はちゃんと友人関係にあるんだ。琴璃はそう思ったけれど、幸村の話をする跡部の表情は心底嫌だという態度が表れていた。