独占欲
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顔が熱い。勢いよく厨房に飛び込んで来た琴璃を見て、バイト仲間にどうしたのと言われた。なんでもないです、と答えてもう一度フロアに戻って先ほど帰った客のテーブルを片付け出した。時計を見ると閉店時間まであと20分弱といったところ。あの4人は多分閉店まで居るだろうな。丸井とジローがいつもそうだから今日も例外じゃないだろう。テーブルを拭いていると誰かがこっちへ来る気配がした。振り向かないから誰だか分からないけれどだんだん足音が近くなってくる。この先のトイレに向かうのかと思っていたのに、その足音は琴璃の背後でぴたりと止まった。
「……景ちゃん?」
振り向くより前に、何故だか彼の名を呼んでしまった。でもそこに居たのは彼ではなかった。
「残念。俺は跡部じゃないよ」
「幸村さん」
幸村が1人で立っていた。さっきと変わらず柔らかい雰囲気を纏っている。なのにさっきは結構踏み込んだ態度で来られたけど。表情と言動が一致しない人。不思議、とか謎、という言葉がしっくりくる。
「さっきは、なんか色々聞いちゃってごめんね」
「あ、いえ」
あんなに好印象だったけれどそれは1番最初だけで。直感的にこの人はちょっと苦手だな、と思ってしまった。
「俺のこと、苦手だなって思ってる?」
「え、あ、いえ、そんな」
「ふふ。キミは嘘がつけないタイプなんだね」
「いや、あの……すいません」
「大丈夫。俺、そういうの慣れてるから」
「そういうの、とは?」
「笑顔が怖いとか愛想が無いとか。結構なこと言われ慣れてるからそれくらいで落ち込まないよ」
「そ、そんなふうには見えません。それは違うと思います。きっとその人が、その、ちょっとおかしかったんです」
「あはは」
一生懸命フォローしようとしてよく分かんないことを言っている。でも誠意は伝わったらしい。幸村は楽しそうに笑った。そして、琴璃のいるすぐそばの壁にもたれる。
「ごめんね。でももう苛めないから。これ以上キミに構ったら俺が跡部に殺されちゃうよ」
「景ちゃんはそんな野蛮なことしないですよ」
即座にそう答える琴璃を見ていい子なんだなと思った。
「キミは優しいんだね」
「え?」
「話してる俺を否定しないで、でもやんわりと跡部を気遣える。なんだか、彼がキミを選んだ理由が何となく分かった気がする」
「そ、そうですか」
「って、そんな偉そうに言えるほど俺は跡部と大して仲良くないんだけどね」
「でも、幸村さんもテニス部の部長さんなんですよね?景ちゃんと接点があるんじゃないですか?」
「あぁ、まぁね。でもそれくらいだよ。丸井と芥川みたいに共通の趣味も無いし。公式試合では未だぶつかったことも無いから」
さっき、幸村は跡部と対戦することになったなら勝つと軽々と言っていた。彼が淀みなく言うのを見て、テニスの腕は確かなのは何も知らない琴璃でも感じ取れた。いつか本当に2人が対峙したら。どんな試合になるんだろう。そんな考えを秘めながら幸村を見ていると彼は琴璃に笑い返してきた。大人っぽい人だなあ、と思う。跡部も大人っぽいけれど、幸村も実年齢より上に見える。外見じゃなくて雰囲気が。かと思えば、さっきはあんなふうに琴璃を困らせるようなことを聞いてきたり。今日初めて会ったのに、彼のいろんな面を見せられている気がする。そう言えば同い年なのにここまでずっと敬語で話していた。圧力があるわけじゃないのに、幸村を前にすると自然とそうなってしまっていた。
幸村の立っているすぐそばの壁にニッチが出来ていて、そこに植物が置いてある。ポトスだね、と言って彼はそれを優しい眼差しで見ていた。こんなふうに柔らかく笑うことも出来る人なんだな。また違う一面を見せられている。
「凄いよね、彼は。テニスの才能だけじゃなく色んなものを持ってる。みんなが羨ましがってるもんね」
常に多くの人から注目される。彼は昔から、皆を率いる存在だった。あんなふうに若いうちから地位も権力も手に入れられるって凄い。それは跡部と再会した時に琴璃も思った。
「幸村さんは、そんなことなさそうですね」
「うん、俺は別に羨ましいとかは思わないんだ。みんなが羨ましがるような彼の部分ってさ、光の当たってる部分だけだから」
光が当たれば、影も出来る。そんな彼の影の部分を知らずに、彼が何でも手にしていると周りは思い込んでいる。今彼が手にしているものは何の苦労無く得られたものではないというのに。綺麗な部分だけを見て彼を評価するから、ずっと高いレベルで居る人なんだと錯覚してしまう。彼だって人間だというのに。琴璃がそう思えるようになったのは跡部と付き合うようになってからだった。琴璃も、彼は皆と違って特別な人だと思っていた。間違ってはいないのだけど、それが当たり前だと思ってしまうのは違う気がする。
「きっと彼は彼だけのステージで闘っているから。そこで俺たちの知らない沢山のものを背負ってるんだろうな。それを簡単に羨ましがってもさ、俺は同じようには背負えない」
「……幸村さん」
そんなに仲良くないと言うくせに、幸村は跡部のことをちゃんとリスペクトしている。琴璃の知らない、2人の間柄が垣間見えたような気がした。
「でも俺がテニス強いのは本当だよ。だから、機会があったら見においでよ。跡部のこと、本当に負かしちゃうから」
「ぜったい、負けません!」
最後は戯けてそんな会話を交わした。素敵な友人だなと思う。跡部は決してそんなふうに認めないだろうけど。
もう、全然苦手なんかじゃない。席に戻ってゆく彼の背を見つめながら、琴璃はそう思った。
そして、幸村が席に戻るともう半分以上皿の上のパンケーキは無くなっていた。
「幸村くん遅いって。なに、腹でも壊してんの?まだ食ってもねぇのに」
「まぁ、そういうことにしといて」
「ふーん?じゃあこれ、ジロ君と俺で食っちまうぜ?跡部は要らねーって言うからよ」
跡部はパンケーキなんてものに目もくれず1人コーヒーを飲んでいる。幸村はその向かい側に座ると彼を盗み見た。
あんなことぐらいじゃ、やっぱり動じなかったか。幸村の意地悪に対しての琴璃の返答も流石だったけど、恋人が絡まれてるのを目の前で見せられても全く取り乱さない。お互いに信頼しきっているから、彼らはあんなふうに立ち振る舞えるのだ。
「いいなぁ」
「ん?なに、幸村くん」
うっかり心の声が出てしまった。多分今のは跡部にも聞こえてる。でも彼は幸村のほうを見ることはなかった。今日はずっと相手にされてないや。もしかして嫌われちゃったかな。だが別に焦るわけでもなく、幸村は残りの自分のコーヒーを一気に飲み干した。
跡部が会計をしている間、丸井とジローは外で片付けをしている琴璃と話していた。あの2人に絡まれて仕事が捗るのかな、と幸村はガラス越しに見つめながらぼんやり考えていた。でもやっぱり、琴璃は適当にあしらったりしない。店の外だから何を話してるのかまでは分からないけれど、彼女はずっと笑顔だ。
会計を済ませた跡部がやって来た。当然4人の飲食代は彼の奢り。
「跡部、ごちそうさま」
「ったく。余計なことしやがって」
「え?何のこと?」
「とぼけんじゃねぇよ。俺様の前でふざけた演技見せやがって」
「あはは。バレてる」
「お前はいつから役者志望になったんだ?わざとらしさに見ていてうんざりしたぜ」
そんなことを言うが、幸村のちょっかいなんて跡部は全く気になってはいなかった。それよりも琴璃の困り果てた様子のほうが多少気にはなった。彼女は真に受けやすいからやっぱり幸村からのちょっかいを受け流せなかった。それは跡部の予想通りだったけれど、まさか琴璃が幸村に言い返すとは思わなかった。
「だってさ、俺に向けてきたはじめましての彼女の顔見た?不機嫌の色全然隠しきれてなかったよ。折角可愛いのに、琴璃ちゃん」
「アイツはすぐ顔に出る」
「ふふ。ていうかむしろキミには感謝してほしいな。俺のお陰で彼女に愛されてるのが再確認できただろ?」
「フン。余計なお世話だ」
「あんなに可愛い子を怒らせるなんて、一体キミは何したの?」
さぁな、と適当な返事をして跡部は店の入口へと向かう。その後ろを幸村もついて行く。
「独占欲が裏目に出たんだろうよ」
もう喧嘩になった原因なんて忘れかけていたけど。もとを辿ればきっと、そんなような類いのもの。琴璃を独り占めしようとしたから変な思い違いを招いたんだろう。
「えぇっ、何それ。跡部も独占欲とか見せちゃうの?」
「さぁ。どうだろうな」
「うわぁ意外。ねぇ、それってどんな時?」
幸村の問いかけに跡部はまたしてもさぁなとだけ答え薄く笑う。もう話に付き合う気はないらしい。でも幸村は引き下がらない。
「もう。さっきからちっともちゃんと答えてくれないじゃないか。良い機会だから教えてよ、キミの恋愛観」
「誰がお前なんかに真面目に答えるか」
「ケチ」
奢ってもらっておいてそんな物言いをする。でもそんな幸村の厚顔さにも跡部は鼻で笑うだけだった。
「俺様が愛を語る相手はこの世で1人だけだと決めてんだよ」
緩やかに跡部が視線を向けた。それを幸村が追う。その先には外で談笑している愛しい彼女が居た。
「なんかさ、やっぱり跡部は跡部なんだね」
「何だそれは」
「キミのステータスを羨むことはしないけど、リア充なのは羨ましい」
「あぁ?何言ってんだてめぇは」
「俺さ、幸せそうなカップル見るとつい、意地悪したくなっちゃうんだよね」
その時だけは、跡部も幸村の顔を凝視した。笑顔で何を言い出すかと思えば。やっぱりコイツは、理解できない。
「フン、良い趣味してやがるぜ」
「それほどでも」
バーカ、褒めてねぇよ。呆れながら、でも少し笑いながら跡部は言い捨て扉の向こうへ出て行った。どこかへ電話をかけている。きっとこの後、呼んだ車で幸村たちを駅まで送ってくれるんだろう。
「ほんと、面倒見が良いよね」
だから皆キミについて行きたがるんだろうな。自分には無い色んなものを持ってる彼は紛れもなく、友人であり好敵手だ。幸村は1人そんなことを思った。でも、一生本人には伝えないだろう。
「……景ちゃん?」
振り向くより前に、何故だか彼の名を呼んでしまった。でもそこに居たのは彼ではなかった。
「残念。俺は跡部じゃないよ」
「幸村さん」
幸村が1人で立っていた。さっきと変わらず柔らかい雰囲気を纏っている。なのにさっきは結構踏み込んだ態度で来られたけど。表情と言動が一致しない人。不思議、とか謎、という言葉がしっくりくる。
「さっきは、なんか色々聞いちゃってごめんね」
「あ、いえ」
あんなに好印象だったけれどそれは1番最初だけで。直感的にこの人はちょっと苦手だな、と思ってしまった。
「俺のこと、苦手だなって思ってる?」
「え、あ、いえ、そんな」
「ふふ。キミは嘘がつけないタイプなんだね」
「いや、あの……すいません」
「大丈夫。俺、そういうの慣れてるから」
「そういうの、とは?」
「笑顔が怖いとか愛想が無いとか。結構なこと言われ慣れてるからそれくらいで落ち込まないよ」
「そ、そんなふうには見えません。それは違うと思います。きっとその人が、その、ちょっとおかしかったんです」
「あはは」
一生懸命フォローしようとしてよく分かんないことを言っている。でも誠意は伝わったらしい。幸村は楽しそうに笑った。そして、琴璃のいるすぐそばの壁にもたれる。
「ごめんね。でももう苛めないから。これ以上キミに構ったら俺が跡部に殺されちゃうよ」
「景ちゃんはそんな野蛮なことしないですよ」
即座にそう答える琴璃を見ていい子なんだなと思った。
「キミは優しいんだね」
「え?」
「話してる俺を否定しないで、でもやんわりと跡部を気遣える。なんだか、彼がキミを選んだ理由が何となく分かった気がする」
「そ、そうですか」
「って、そんな偉そうに言えるほど俺は跡部と大して仲良くないんだけどね」
「でも、幸村さんもテニス部の部長さんなんですよね?景ちゃんと接点があるんじゃないですか?」
「あぁ、まぁね。でもそれくらいだよ。丸井と芥川みたいに共通の趣味も無いし。公式試合では未だぶつかったことも無いから」
さっき、幸村は跡部と対戦することになったなら勝つと軽々と言っていた。彼が淀みなく言うのを見て、テニスの腕は確かなのは何も知らない琴璃でも感じ取れた。いつか本当に2人が対峙したら。どんな試合になるんだろう。そんな考えを秘めながら幸村を見ていると彼は琴璃に笑い返してきた。大人っぽい人だなあ、と思う。跡部も大人っぽいけれど、幸村も実年齢より上に見える。外見じゃなくて雰囲気が。かと思えば、さっきはあんなふうに琴璃を困らせるようなことを聞いてきたり。今日初めて会ったのに、彼のいろんな面を見せられている気がする。そう言えば同い年なのにここまでずっと敬語で話していた。圧力があるわけじゃないのに、幸村を前にすると自然とそうなってしまっていた。
幸村の立っているすぐそばの壁にニッチが出来ていて、そこに植物が置いてある。ポトスだね、と言って彼はそれを優しい眼差しで見ていた。こんなふうに柔らかく笑うことも出来る人なんだな。また違う一面を見せられている。
「凄いよね、彼は。テニスの才能だけじゃなく色んなものを持ってる。みんなが羨ましがってるもんね」
常に多くの人から注目される。彼は昔から、皆を率いる存在だった。あんなふうに若いうちから地位も権力も手に入れられるって凄い。それは跡部と再会した時に琴璃も思った。
「幸村さんは、そんなことなさそうですね」
「うん、俺は別に羨ましいとかは思わないんだ。みんなが羨ましがるような彼の部分ってさ、光の当たってる部分だけだから」
光が当たれば、影も出来る。そんな彼の影の部分を知らずに、彼が何でも手にしていると周りは思い込んでいる。今彼が手にしているものは何の苦労無く得られたものではないというのに。綺麗な部分だけを見て彼を評価するから、ずっと高いレベルで居る人なんだと錯覚してしまう。彼だって人間だというのに。琴璃がそう思えるようになったのは跡部と付き合うようになってからだった。琴璃も、彼は皆と違って特別な人だと思っていた。間違ってはいないのだけど、それが当たり前だと思ってしまうのは違う気がする。
「きっと彼は彼だけのステージで闘っているから。そこで俺たちの知らない沢山のものを背負ってるんだろうな。それを簡単に羨ましがってもさ、俺は同じようには背負えない」
「……幸村さん」
そんなに仲良くないと言うくせに、幸村は跡部のことをちゃんとリスペクトしている。琴璃の知らない、2人の間柄が垣間見えたような気がした。
「でも俺がテニス強いのは本当だよ。だから、機会があったら見においでよ。跡部のこと、本当に負かしちゃうから」
「ぜったい、負けません!」
最後は戯けてそんな会話を交わした。素敵な友人だなと思う。跡部は決してそんなふうに認めないだろうけど。
もう、全然苦手なんかじゃない。席に戻ってゆく彼の背を見つめながら、琴璃はそう思った。
そして、幸村が席に戻るともう半分以上皿の上のパンケーキは無くなっていた。
「幸村くん遅いって。なに、腹でも壊してんの?まだ食ってもねぇのに」
「まぁ、そういうことにしといて」
「ふーん?じゃあこれ、ジロ君と俺で食っちまうぜ?跡部は要らねーって言うからよ」
跡部はパンケーキなんてものに目もくれず1人コーヒーを飲んでいる。幸村はその向かい側に座ると彼を盗み見た。
あんなことぐらいじゃ、やっぱり動じなかったか。幸村の意地悪に対しての琴璃の返答も流石だったけど、恋人が絡まれてるのを目の前で見せられても全く取り乱さない。お互いに信頼しきっているから、彼らはあんなふうに立ち振る舞えるのだ。
「いいなぁ」
「ん?なに、幸村くん」
うっかり心の声が出てしまった。多分今のは跡部にも聞こえてる。でも彼は幸村のほうを見ることはなかった。今日はずっと相手にされてないや。もしかして嫌われちゃったかな。だが別に焦るわけでもなく、幸村は残りの自分のコーヒーを一気に飲み干した。
跡部が会計をしている間、丸井とジローは外で片付けをしている琴璃と話していた。あの2人に絡まれて仕事が捗るのかな、と幸村はガラス越しに見つめながらぼんやり考えていた。でもやっぱり、琴璃は適当にあしらったりしない。店の外だから何を話してるのかまでは分からないけれど、彼女はずっと笑顔だ。
会計を済ませた跡部がやって来た。当然4人の飲食代は彼の奢り。
「跡部、ごちそうさま」
「ったく。余計なことしやがって」
「え?何のこと?」
「とぼけんじゃねぇよ。俺様の前でふざけた演技見せやがって」
「あはは。バレてる」
「お前はいつから役者志望になったんだ?わざとらしさに見ていてうんざりしたぜ」
そんなことを言うが、幸村のちょっかいなんて跡部は全く気になってはいなかった。それよりも琴璃の困り果てた様子のほうが多少気にはなった。彼女は真に受けやすいからやっぱり幸村からのちょっかいを受け流せなかった。それは跡部の予想通りだったけれど、まさか琴璃が幸村に言い返すとは思わなかった。
「だってさ、俺に向けてきたはじめましての彼女の顔見た?不機嫌の色全然隠しきれてなかったよ。折角可愛いのに、琴璃ちゃん」
「アイツはすぐ顔に出る」
「ふふ。ていうかむしろキミには感謝してほしいな。俺のお陰で彼女に愛されてるのが再確認できただろ?」
「フン。余計なお世話だ」
「あんなに可愛い子を怒らせるなんて、一体キミは何したの?」
さぁな、と適当な返事をして跡部は店の入口へと向かう。その後ろを幸村もついて行く。
「独占欲が裏目に出たんだろうよ」
もう喧嘩になった原因なんて忘れかけていたけど。もとを辿ればきっと、そんなような類いのもの。琴璃を独り占めしようとしたから変な思い違いを招いたんだろう。
「えぇっ、何それ。跡部も独占欲とか見せちゃうの?」
「さぁ。どうだろうな」
「うわぁ意外。ねぇ、それってどんな時?」
幸村の問いかけに跡部はまたしてもさぁなとだけ答え薄く笑う。もう話に付き合う気はないらしい。でも幸村は引き下がらない。
「もう。さっきからちっともちゃんと答えてくれないじゃないか。良い機会だから教えてよ、キミの恋愛観」
「誰がお前なんかに真面目に答えるか」
「ケチ」
奢ってもらっておいてそんな物言いをする。でもそんな幸村の厚顔さにも跡部は鼻で笑うだけだった。
「俺様が愛を語る相手はこの世で1人だけだと決めてんだよ」
緩やかに跡部が視線を向けた。それを幸村が追う。その先には外で談笑している愛しい彼女が居た。
「なんかさ、やっぱり跡部は跡部なんだね」
「何だそれは」
「キミのステータスを羨むことはしないけど、リア充なのは羨ましい」
「あぁ?何言ってんだてめぇは」
「俺さ、幸せそうなカップル見るとつい、意地悪したくなっちゃうんだよね」
その時だけは、跡部も幸村の顔を凝視した。笑顔で何を言い出すかと思えば。やっぱりコイツは、理解できない。
「フン、良い趣味してやがるぜ」
「それほどでも」
バーカ、褒めてねぇよ。呆れながら、でも少し笑いながら跡部は言い捨て扉の向こうへ出て行った。どこかへ電話をかけている。きっとこの後、呼んだ車で幸村たちを駅まで送ってくれるんだろう。
「ほんと、面倒見が良いよね」
だから皆キミについて行きたがるんだろうな。自分には無い色んなものを持ってる彼は紛れもなく、友人であり好敵手だ。幸村は1人そんなことを思った。でも、一生本人には伝えないだろう。