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今日は中庭に行かないよ。
水曜日の朝。朝練を終えて部室で携帯を見たらそんなメールが届いていた。送り主に彼女の名前が自分の携帯に表示されている。こっちから何かを送る前に早速向こうから来るなんて。嬉しいけど、メッセージの内容を見てほんの少しだけ落胆する。なんや、今日は会えへんのかいな。そんなことを思いながらジャージから制服へと着替えだす。朝練にはジローが居ないから幾分静かではあるけれどそれでも多少は騒がしかった。岳人と宍戸が昨日のテレビ番組について語っている。そこに珍しく鳳と日吉も加わっていた。黙々と着替えているのは忍足の他に跡部と樺地だけで、2人は着替えを済ますとさっさと部室から出て行ってしまった。ほな俺も、と出る前に何気なくもう一度スマホを見たらまた点滅していることに気付いた。
『行かないかわりに放課後ここに行きます』
そのメッセージとともに何かのURLも付いていた。タップして表示された場所を見て自然と顔が緩む。一緒に行こう、とか言えへんのかいな。でもそういうところが彼女らしい。スマホをポケットにしまって部室を出る。早く放課後にならないか、そればかり考えて。
先週の図書館にてやっと彼女の連絡先を聞き出した。いいよ、といつものように少し素っ気なく承諾したあの子は琴璃という名前だった。彼女のことは、生徒会長である跡部の力を借りれば突き止められたのかもしれないが、名前すら分からないなら望みは薄いと思ったし、それじゃ駄目だと思って自力で見つけ出した。本が好きで花に詳しい女の子。そんな漠然すぎる手がかりだけで琴璃を見つけられたのは奇跡かもしれない。経緯は簡単で、まだ懲りずに忍足が琴璃を求めて中庭に顔を出していた時。作業服の中年の男性に話しかけられた。彼は、氷帝の敷地内の庭整備をしている用務員のおじさんだった。1人でいた忍足に最近琴璃ちゃん見ないね、と話しかけてきたのだ。前に忍足が琴璃と一緒に居るところを見かけたことがあったらしい。風邪でも引いたの?と聞かれて俺が知りたいほうですわ、と答えた。琴璃は1年の時からここに来ていて、おじさんが枝を剪定したり草むしりをしていると、話しかけてきたりよく分からない歌を歌ってくるらしい。何やそれ、と思った。やっぱり彼女は少し変わった子だ。にしてもそんなにフレンドリーに見えなかったから意外だった。そんな無防備な彼女をまだ、忍足は見たことがなかった。おじさんのことが少し羨ましいとか思ってしまった。
名前を知ったらクラスを知るのも簡単だった。彼女はA組だった。忍足はH組。校舎の端と端のクラス。成る程これでは用がない限り会わないわけだ。A組といえば跡部と同じクラスではないか。尚更、彼に聞けば早く解決したのではと思ったけれど、きっと彼女のことなんか知らないと言ってくるに違いない。なんとなくそんな気がした。琴璃は目立つのを避けるような子だから、対極の跡部と仲が良いようには見えない。目立たない子なのに、どうして自分の目には特別に映ったんだろうか。そんなこと考えても分からない。“誠の恋をするものはみな一目で恋をする“。恋愛作家の偉人もそう云うくらいなのだからそこに理由なんて無いのだろう。部室を出て校舎へと向かう道を歩く。前方に、先に出ていった跡部と樺地が歩いてるのを見つけた。走って追いついて2人の前に回り込んで、俺、今恋してんねん、と言ったなら。
「……流石にあかんわ」
間違いなく精神状態を疑われる。おまけに軽蔑の目を向けられるだろう。想像したら笑えた。
恋とは何か。様々な恋愛小説をいくら読んでも、結局のところ言葉で説明しろと言われたらよく分からない。でも、今みたいに不意におかしなことを考えてしまうことがあるほど。時に理性と常識が飛んでしまうほどに、俺はあの子に恋をしている。
放課後になって訪れたその場所は自分の好奇心を掻き立てた。
「へぇ」
店内を見渡して零れた感心の溜息。周りが壁というか本棚になっていて、そこら中に書物が収納されている。ブックカフェという場所に来たのは初めてだから余計新鮮に映る。
「最近じゃこういうタイプの店もあんねや」
「なんか今の言い方ジジくさい」
「なんでやねん、単純に感動しとるんやで」
紙の匂いとコーヒー豆の薫りが鼻孔をくすぐる。柔らかい照明の中で控えめに洋楽が流れている。雰囲気の良い店だなと思った。
「私は時々ここに来るんだ」
少し自慢気に言って琴璃はメニュー表を開いた。何にしようかな、と呟きながら1枚ずつ捲っている。やがてデザートメニューのページで手が止まり、暫く喋らずじっと眺めている。その悩む彼女の様子を忍足が見つめている。見ているだけで勝手に頬が緩んでしまう。あかん俺変態みたいやん、と自分にツッコミを入れた。なんとも情けない様子だとは自負している。こんな自分はテニス部の誰にも見られたくない。
ようやく決まってやって来た店員に注文をした。メロンクリームソーダ、て。流行りのものではなくどこか懐古的なものを頼んだ彼女が可愛らしい。忍足はブラックコーヒーを注文した。
「忍足くんが前に読んでた恋愛小説、この店にあったから読んだよ」
「おお、どやった?」
「うーん、びみょう」
「微妙、て。えらい適当な感想」
「だってさ、あの主人公は結局2人の男性と付き合って、最後の最後にもともと好きだった幼馴染のほうを捨てるんだよ?ひどすぎない?」
「あぁ、まぁ、そこに関しては俺も同感。なんや、琴璃ちゃんも純愛ものじゃないとあかんの」
「別にそういうわけでもないけど、一途に思ってたほうの人が報われなくて可哀想だなって話」
「せやな」
その話は、女が2人の男の間で揺れ動く様子が書かれていて、簡単に言えば二股をかけている内容だった。高校生が読むような綺麗な恋愛じゃない。忍足も読んでいた時、大人な恋愛なんだな、とは思ったけど共感はできなかった。
自分の目の前で、あの女の人は調子が良すぎる、と辛口評価を述べる琴璃。結構毒舌な子でもあるんやな。また1つ、琴璃の素顔が見えた。言い換えれば忍足に心を開いてくれてるということ。はじめは彼女のことが何も分からなくて、ミステリアスささえ仄かに感じていたけれど。蓋を開ければ、他人思いで引っ込み思案で、でも実は芯がある子だった。
「俺も一途に思って、結果報われて良かったわ」
「……そうなの?」
「せやで。ずっとキミのこと見とった」
なんてこと無くさらりと言って。忍足は頼んだブラックコーヒーを飲みだした。反対に琴璃は手が止まる。しゅわしゅわ言っている緑の液体の中にバニラアイスがゆっくり溶けてゆく。
「だって、そんなの……知らないよ、別に忍足くんいつも普通にしてたからこっちは分かんないもん」
「ほんなら、早い段階で“キミのことが好きです”って言っとけば良かった?」
「それは信用できない」
「せやろ?俺という男を少しずつ知ってもろてからと思って、まず読書のお友達から始めたんやで。まぁ読書好きなのは事実やし、琴璃ちゃんの読書レビューは聞いてて楽しかったからええんやけどな」
琴璃はさっきからずっと落ち着かない。こういう話をしたことがないから。誰かに、こんな真っ直ぐに興味を向けられたことなんてなかった。それもその相手が氷帝でそれなりに有名なモテる人。自分と違う、日なたの人。
「……忍足くんて、変わった趣味してるね」
またひねくれ発言が口を衝く。忍足が、何やそれ、と苦笑いした。
フィクションの世界についてなら、忍足と愛とか恋を語り合ったりもしたこともあった。けれどそれは登場人物のことであるからで。所詮は彼らの架空の恋模様だからあまり深く考えずに話せた。でも今は主役が自分。自分のことを語らうのは全然慣れていない。なのに琴璃はこの間忍足に告白をされたのだ。しかも当の本人は他人事みたいに捉えている。ちょっとは挙動不審になるものじゃないのか。どこまでも落ち着いてる彼に琴璃は少なからず戸惑った。
彼はいつもポーカーフェイスだ。実はテニス部の試合を一度だけ見に行ったことがある。友達に誘われて、どうしても行きたいけど1人じゃ心細いからついてきてと頼み込まれて付き添った過去があった。その時の忍足も、遠くから見ていたけどこんなふうに内心で何を考えているのか分からない顔つきだった。相手に心を読ませようとしない、隙がない。だから余計に、本当に自分のことを想っていてくれてたのか、疑ってしまうではないか。ミステリー小説のように相手の真意を洞察することができたら。彼の本心が種明かしできたらいいのに。
「もう少し、俺のこと信用したって。あと、自分のことも」
その言葉に背中を押されたような気がした。
もう、彼の心をどれだけ推理しても解けないから伺い見るのはやめようと思った。信用して、と言う彼の瞳は真っ直ぐだった。そこに嘘偽りは無い。本当に、彼は自分のことを好きだと言ってくれたのだと思い知る。
ほとんどアイスが沈んでしまったメロンソーダ。琴璃はまだ飲み始めていなかった。本題をまだ伝えてないから。今度は自分が話す番だ。
「昨日ね、友達に打ち明けた」
友達とは、忍足に片思いしていた告白をした女の子のこと。
「私は忍足くんが好きってことと、だから応援できないってこと、伝えたの。そしたら、琴璃の気持ちを知らないで協力してなんて言ってごめんねって言われた。黙ってたことを怒られるかなって思ったんだけどさ、全然そんなことなくて安心した。良かった」
「ちょお、待ってストップ」
「え?」
「今、勢い任せか知らんけど結構大事なこと言ったで、自分」
「何が?」
まだ直接彼女の気持ちを聞いていない。忍足が言ったきりで、なんの返球ももらってはいなかった。こういう子だから、嫌に返事を急かしたりはしなかったけど。叶うものならやっぱり、ちゃんと言葉で、自分に向けて言ってほしい。抑えていた欲望が、俯いて照れる琴璃を目の前にしたことで急激に膨らみ始めた。
「あーあかん、やり直しや。ほんで?琴璃ちゃんは何を友達に打ち明けたんやっけ?」
「だから、忍足くんが……」
琴璃をじっと見つめて次の言葉を待っている。眼鏡越しに見える優しい彼の瞳が、言っても良いんだよと。琴璃の弱気の心にそう言っているような気がした。だから、からからになった口をそっと開いて、小さめの声で言った。
「好き」
「良くできました」
その時の彼は。さっきまでの感情を隠した表情ではなくて。目を細めて心底嬉しそうに笑っていた。今日1番の笑顔だった。
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BGMは、『やっぱバーチャルな恋ばっかりしとってもアカンと思うねん』
これ一択。あの歌最高
水曜日の朝。朝練を終えて部室で携帯を見たらそんなメールが届いていた。送り主に彼女の名前が自分の携帯に表示されている。こっちから何かを送る前に早速向こうから来るなんて。嬉しいけど、メッセージの内容を見てほんの少しだけ落胆する。なんや、今日は会えへんのかいな。そんなことを思いながらジャージから制服へと着替えだす。朝練にはジローが居ないから幾分静かではあるけれどそれでも多少は騒がしかった。岳人と宍戸が昨日のテレビ番組について語っている。そこに珍しく鳳と日吉も加わっていた。黙々と着替えているのは忍足の他に跡部と樺地だけで、2人は着替えを済ますとさっさと部室から出て行ってしまった。ほな俺も、と出る前に何気なくもう一度スマホを見たらまた点滅していることに気付いた。
『行かないかわりに放課後ここに行きます』
そのメッセージとともに何かのURLも付いていた。タップして表示された場所を見て自然と顔が緩む。一緒に行こう、とか言えへんのかいな。でもそういうところが彼女らしい。スマホをポケットにしまって部室を出る。早く放課後にならないか、そればかり考えて。
先週の図書館にてやっと彼女の連絡先を聞き出した。いいよ、といつものように少し素っ気なく承諾したあの子は琴璃という名前だった。彼女のことは、生徒会長である跡部の力を借りれば突き止められたのかもしれないが、名前すら分からないなら望みは薄いと思ったし、それじゃ駄目だと思って自力で見つけ出した。本が好きで花に詳しい女の子。そんな漠然すぎる手がかりだけで琴璃を見つけられたのは奇跡かもしれない。経緯は簡単で、まだ懲りずに忍足が琴璃を求めて中庭に顔を出していた時。作業服の中年の男性に話しかけられた。彼は、氷帝の敷地内の庭整備をしている用務員のおじさんだった。1人でいた忍足に最近琴璃ちゃん見ないね、と話しかけてきたのだ。前に忍足が琴璃と一緒に居るところを見かけたことがあったらしい。風邪でも引いたの?と聞かれて俺が知りたいほうですわ、と答えた。琴璃は1年の時からここに来ていて、おじさんが枝を剪定したり草むしりをしていると、話しかけてきたりよく分からない歌を歌ってくるらしい。何やそれ、と思った。やっぱり彼女は少し変わった子だ。にしてもそんなにフレンドリーに見えなかったから意外だった。そんな無防備な彼女をまだ、忍足は見たことがなかった。おじさんのことが少し羨ましいとか思ってしまった。
名前を知ったらクラスを知るのも簡単だった。彼女はA組だった。忍足はH組。校舎の端と端のクラス。成る程これでは用がない限り会わないわけだ。A組といえば跡部と同じクラスではないか。尚更、彼に聞けば早く解決したのではと思ったけれど、きっと彼女のことなんか知らないと言ってくるに違いない。なんとなくそんな気がした。琴璃は目立つのを避けるような子だから、対極の跡部と仲が良いようには見えない。目立たない子なのに、どうして自分の目には特別に映ったんだろうか。そんなこと考えても分からない。“誠の恋をするものはみな一目で恋をする“。恋愛作家の偉人もそう云うくらいなのだからそこに理由なんて無いのだろう。部室を出て校舎へと向かう道を歩く。前方に、先に出ていった跡部と樺地が歩いてるのを見つけた。走って追いついて2人の前に回り込んで、俺、今恋してんねん、と言ったなら。
「……流石にあかんわ」
間違いなく精神状態を疑われる。おまけに軽蔑の目を向けられるだろう。想像したら笑えた。
恋とは何か。様々な恋愛小説をいくら読んでも、結局のところ言葉で説明しろと言われたらよく分からない。でも、今みたいに不意におかしなことを考えてしまうことがあるほど。時に理性と常識が飛んでしまうほどに、俺はあの子に恋をしている。
放課後になって訪れたその場所は自分の好奇心を掻き立てた。
「へぇ」
店内を見渡して零れた感心の溜息。周りが壁というか本棚になっていて、そこら中に書物が収納されている。ブックカフェという場所に来たのは初めてだから余計新鮮に映る。
「最近じゃこういうタイプの店もあんねや」
「なんか今の言い方ジジくさい」
「なんでやねん、単純に感動しとるんやで」
紙の匂いとコーヒー豆の薫りが鼻孔をくすぐる。柔らかい照明の中で控えめに洋楽が流れている。雰囲気の良い店だなと思った。
「私は時々ここに来るんだ」
少し自慢気に言って琴璃はメニュー表を開いた。何にしようかな、と呟きながら1枚ずつ捲っている。やがてデザートメニューのページで手が止まり、暫く喋らずじっと眺めている。その悩む彼女の様子を忍足が見つめている。見ているだけで勝手に頬が緩んでしまう。あかん俺変態みたいやん、と自分にツッコミを入れた。なんとも情けない様子だとは自負している。こんな自分はテニス部の誰にも見られたくない。
ようやく決まってやって来た店員に注文をした。メロンクリームソーダ、て。流行りのものではなくどこか懐古的なものを頼んだ彼女が可愛らしい。忍足はブラックコーヒーを注文した。
「忍足くんが前に読んでた恋愛小説、この店にあったから読んだよ」
「おお、どやった?」
「うーん、びみょう」
「微妙、て。えらい適当な感想」
「だってさ、あの主人公は結局2人の男性と付き合って、最後の最後にもともと好きだった幼馴染のほうを捨てるんだよ?ひどすぎない?」
「あぁ、まぁ、そこに関しては俺も同感。なんや、琴璃ちゃんも純愛ものじゃないとあかんの」
「別にそういうわけでもないけど、一途に思ってたほうの人が報われなくて可哀想だなって話」
「せやな」
その話は、女が2人の男の間で揺れ動く様子が書かれていて、簡単に言えば二股をかけている内容だった。高校生が読むような綺麗な恋愛じゃない。忍足も読んでいた時、大人な恋愛なんだな、とは思ったけど共感はできなかった。
自分の目の前で、あの女の人は調子が良すぎる、と辛口評価を述べる琴璃。結構毒舌な子でもあるんやな。また1つ、琴璃の素顔が見えた。言い換えれば忍足に心を開いてくれてるということ。はじめは彼女のことが何も分からなくて、ミステリアスささえ仄かに感じていたけれど。蓋を開ければ、他人思いで引っ込み思案で、でも実は芯がある子だった。
「俺も一途に思って、結果報われて良かったわ」
「……そうなの?」
「せやで。ずっとキミのこと見とった」
なんてこと無くさらりと言って。忍足は頼んだブラックコーヒーを飲みだした。反対に琴璃は手が止まる。しゅわしゅわ言っている緑の液体の中にバニラアイスがゆっくり溶けてゆく。
「だって、そんなの……知らないよ、別に忍足くんいつも普通にしてたからこっちは分かんないもん」
「ほんなら、早い段階で“キミのことが好きです”って言っとけば良かった?」
「それは信用できない」
「せやろ?俺という男を少しずつ知ってもろてからと思って、まず読書のお友達から始めたんやで。まぁ読書好きなのは事実やし、琴璃ちゃんの読書レビューは聞いてて楽しかったからええんやけどな」
琴璃はさっきからずっと落ち着かない。こういう話をしたことがないから。誰かに、こんな真っ直ぐに興味を向けられたことなんてなかった。それもその相手が氷帝でそれなりに有名なモテる人。自分と違う、日なたの人。
「……忍足くんて、変わった趣味してるね」
またひねくれ発言が口を衝く。忍足が、何やそれ、と苦笑いした。
フィクションの世界についてなら、忍足と愛とか恋を語り合ったりもしたこともあった。けれどそれは登場人物のことであるからで。所詮は彼らの架空の恋模様だからあまり深く考えずに話せた。でも今は主役が自分。自分のことを語らうのは全然慣れていない。なのに琴璃はこの間忍足に告白をされたのだ。しかも当の本人は他人事みたいに捉えている。ちょっとは挙動不審になるものじゃないのか。どこまでも落ち着いてる彼に琴璃は少なからず戸惑った。
彼はいつもポーカーフェイスだ。実はテニス部の試合を一度だけ見に行ったことがある。友達に誘われて、どうしても行きたいけど1人じゃ心細いからついてきてと頼み込まれて付き添った過去があった。その時の忍足も、遠くから見ていたけどこんなふうに内心で何を考えているのか分からない顔つきだった。相手に心を読ませようとしない、隙がない。だから余計に、本当に自分のことを想っていてくれてたのか、疑ってしまうではないか。ミステリー小説のように相手の真意を洞察することができたら。彼の本心が種明かしできたらいいのに。
「もう少し、俺のこと信用したって。あと、自分のことも」
その言葉に背中を押されたような気がした。
もう、彼の心をどれだけ推理しても解けないから伺い見るのはやめようと思った。信用して、と言う彼の瞳は真っ直ぐだった。そこに嘘偽りは無い。本当に、彼は自分のことを好きだと言ってくれたのだと思い知る。
ほとんどアイスが沈んでしまったメロンソーダ。琴璃はまだ飲み始めていなかった。本題をまだ伝えてないから。今度は自分が話す番だ。
「昨日ね、友達に打ち明けた」
友達とは、忍足に片思いしていた告白をした女の子のこと。
「私は忍足くんが好きってことと、だから応援できないってこと、伝えたの。そしたら、琴璃の気持ちを知らないで協力してなんて言ってごめんねって言われた。黙ってたことを怒られるかなって思ったんだけどさ、全然そんなことなくて安心した。良かった」
「ちょお、待ってストップ」
「え?」
「今、勢い任せか知らんけど結構大事なこと言ったで、自分」
「何が?」
まだ直接彼女の気持ちを聞いていない。忍足が言ったきりで、なんの返球ももらってはいなかった。こういう子だから、嫌に返事を急かしたりはしなかったけど。叶うものならやっぱり、ちゃんと言葉で、自分に向けて言ってほしい。抑えていた欲望が、俯いて照れる琴璃を目の前にしたことで急激に膨らみ始めた。
「あーあかん、やり直しや。ほんで?琴璃ちゃんは何を友達に打ち明けたんやっけ?」
「だから、忍足くんが……」
琴璃をじっと見つめて次の言葉を待っている。眼鏡越しに見える優しい彼の瞳が、言っても良いんだよと。琴璃の弱気の心にそう言っているような気がした。だから、からからになった口をそっと開いて、小さめの声で言った。
「好き」
「良くできました」
その時の彼は。さっきまでの感情を隠した表情ではなくて。目を細めて心底嬉しそうに笑っていた。今日1番の笑顔だった。
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BGMは、『やっぱバーチャルな恋ばっかりしとってもアカンと思うねん』
これ一択。あの歌最高
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