メルティショコラパンケーキダブルホイップ
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「お。限定だって、これ。これにしようぜ?なぁ琴璃」
「うん、ブンちゃんが好きなのでいいよ」
「そ?んじゃ、これとカフェラテとジンジャーエール。あ、あと追加トッピングでダブルホイップ付けてください」
店員に注文を告げると丸井はメニューを閉じて大きく背伸びをした。あー腹減った、と、呑気に言っている。それを見て琴璃は、今日もあんなにお昼にパン食べてたのに、と、昼休みのことを思い出しながら笑った。
放課後になり、2人でいつものカフェに来ている。今日のテニス部は珍しくオフで、授業が終わるやいなや丸井は琴璃のクラスに飛び込んで来た。彼女の手を引っ張って、遊び行こーぜと、それだけ言ってとにかく歩き出す。正門を出たところでどこに行くのかと琴璃に聞かれてそこでようやく足を止めた。どこへ行こうかなんてちっとも考えてなかった。ただ琴璃と一緒に居られるのが嬉しくて。その気持ちだけで歩いてた。こんな自分をもしあの生意気な後輩にでも見られたのなら。ただのリア充じゃないッスか、とか言われそうだ。
最初は海にでも行こうかと思ったけど、その案は頭の中で却下になった。今日もなかなかの寒さだから、これで海風を喰らったら貧弱な琴璃は風邪をひくかもしれない。一応、そういうところの配慮を考える頭の余裕はある。どんなに浮かれても琴璃のことを1番に考えていたいから。自惚れかもしれないけど、仲直りしてからは琴璃の1番の理解者は俺なんだと、そう思ってる。
どこでもいいよ、と琴璃が言うので結局いつものカフェに行くことになった。あの日別れ話を持ちかけられた場所。ここへ今日来るのはそれ以来だった。嫌な思い出で止まったままだったけれど、またこうして2人で来て向かい合って座って、どのスイーツを食べようかと幸せな悩みを共有する。今日の琴璃はずっと笑顔だ。丸井と会ってからずっとにこにこしていている。やっぱり笑顔が1番可愛い。
「うお、うまそー」
店員がお待たせしました、と運んできた大きな皿には3段重ねのココア生地のパンケーキがうず高く積まれている。そこに苺やソースも乗っていて、もうこれ以上ないほどのボリュームだった。これだけでもうとんでもないサイズなのに、更に追加でホイップクリームを注文するあたりが彼らしいなと琴璃は思う。よっしゃあ、と張り切って甘いクリームを口に運ぶ。
「こないだの時はマジで何の味もしなかったけどさ。今、超うめぇ」
夢中になってクリームの塊を頬張っている。口の周りが大変なことになっても気にしない。子供っぽい丸井を見て琴璃がくすくす笑った。
「お前も笑ってないで食えよ」
「うん、あの、すごいね」
「何が?」
「私、甘いの好きなほうだけどこんなにすごいの食べたことないから」
「なーに言ってんだよ。お前、そっちの山任せた」
「ええ、こんなに!」
「ほら、琴璃」
呆然とする琴璃に丸井はナイフとフォークを手渡す。そして、自らも両手に持って琴璃の反対側の場所にナイフを入れる。
「初めての2人の共同作業でーす」
「な、なに言ってるの」
「だって、これ完食しねぇと帰れないぜ?俺ら」
「そうだけど、その、びっくりするよ」
「ん?」
「だって、……そーゆうのは大事な時に言うやつだもん」
結婚式の披露宴で新郎新婦がケーキ入刀する時に出る定番の台詞を。丸井はいったいどこで覚えてきたのか。男兄弟の多い彼がもともと知っていたなんて思えない。きっとテニス部の仲間でそんな話をしたんだろうが、多分、本人はその台詞の正しい使いどころをよく分かっていない。
「あ、おいしい」
「うんうん、いい顔」
今日も容赦なく甘い。でも何故か今日のはいつも以上に甘いと感じる。チョコレートの味だからという物理的な理由ではなくて、色んなことがあった後だから。だから、より一層甘いと思えるのかもしれない。
思えば、喧嘩らしい喧嘩を2人はしたことがなかった。丸井はたまに強引なところはあるけど、なんだかんだ琴璃の意見をちゃんと聞いてくれる。琴璃のほうも、あれこれ丸井に言ったりする性格ではない。だから今回の衝突が2人にとって初めての経験だった。
友達に戻りたいだなんて。嘘でも言った自分を琴璃はすごく責めたくなった。きっとこれが逆の立場だったら。とてもショックだし悲しいと感じる。琴璃は丸井にそんな思いをさせてしまったのだ。心から申し訳ないと思った。結果的には、彼はやっぱり怒ったけどちゃんと琴璃と向き合ってくれた。言った手前自分からは歩み寄れなかったから、あの夜会いに来てくれてすごくすごく嬉しかった。互いが互いを思ってることが通じ合えて。この人を好きで良かった。友達に戻らなくて良かった。
「はい、琴璃ちゃん笑ってくださーい」
丸井がスマホを構えて琴璃に呼びかける。写真を撮ろうとしている。それに釣られて琴璃はフォークを持ったままピースサインをしてみせた。カシャッと音がして丸井は今撮ったものを確認する。
「え、私だけ?」
「まーまー。いーから」
そして、1人で写真を確認したと思うと盛大に笑い出した。
「だっははは!」
「何?なんで笑うの?ちょっと見せてよ!」
「ひー、おかしー」
丸井の手から奪い取ったスマホ画面には、口がクリームだらけの自分が呑気にピースして笑っている。ついでになかなかの間抜け顔にも見える。どうせならもっと、マシな顔の自分を撮ってほしかった。そんな文句を口にする前に丸井にスマホをあっさり取り返されてしまった。
「これ、待ち受けにしよ」
「な、だめ!」
「いーんだよ。これ見て部活頑張るんだから」
「えー、やだよ……こんな変な顔」
「俺にとっては超絶可愛いからいーの」
その言葉に一気に赤くなる琴璃。好きも可愛いも、幼馴染だった時には当然言われなかった。でもこうして恋人になってからは躊躇いもなく丸井は口にするようになった。恥ずかしいけど、嬉しい。自分は愛されているんだと実感するから。
「ブンちゃん。ありがとう」
「何が?」
「何でもいいの。お礼が言いたかったの」
「ふーん?変なやつ」
でも、友達から恋人になっても変わらないものもある。いつも琴璃を1番に考えてくれるところとか。一緒にいて退屈になったことなんか一度もなかった。幼い頃からずっと変わらない。それはこれからも続くと思う。いつまでも、ずっと。
コーヒーカップに手を伸ばそうとした琴璃の手を丸井が掴んだ。どうしたの、と動く唇に丸井の指が触れる。クリームがついていたのを忘れかけていた。
「どういたしまして」
「へ?」
「さっきのお前の、ありがとうの返事」
よく分かんねえけど、と付け足して。その指先のクリームをぺろりと舐めた。
甘いショコラ味のパンケーキと目の前の愛しい人の笑顔。それだけでもう、充分幸せ。
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丸井くんは彼女を喜ばせるの上手そう
「うん、ブンちゃんが好きなのでいいよ」
「そ?んじゃ、これとカフェラテとジンジャーエール。あ、あと追加トッピングでダブルホイップ付けてください」
店員に注文を告げると丸井はメニューを閉じて大きく背伸びをした。あー腹減った、と、呑気に言っている。それを見て琴璃は、今日もあんなにお昼にパン食べてたのに、と、昼休みのことを思い出しながら笑った。
放課後になり、2人でいつものカフェに来ている。今日のテニス部は珍しくオフで、授業が終わるやいなや丸井は琴璃のクラスに飛び込んで来た。彼女の手を引っ張って、遊び行こーぜと、それだけ言ってとにかく歩き出す。正門を出たところでどこに行くのかと琴璃に聞かれてそこでようやく足を止めた。どこへ行こうかなんてちっとも考えてなかった。ただ琴璃と一緒に居られるのが嬉しくて。その気持ちだけで歩いてた。こんな自分をもしあの生意気な後輩にでも見られたのなら。ただのリア充じゃないッスか、とか言われそうだ。
最初は海にでも行こうかと思ったけど、その案は頭の中で却下になった。今日もなかなかの寒さだから、これで海風を喰らったら貧弱な琴璃は風邪をひくかもしれない。一応、そういうところの配慮を考える頭の余裕はある。どんなに浮かれても琴璃のことを1番に考えていたいから。自惚れかもしれないけど、仲直りしてからは琴璃の1番の理解者は俺なんだと、そう思ってる。
どこでもいいよ、と琴璃が言うので結局いつものカフェに行くことになった。あの日別れ話を持ちかけられた場所。ここへ今日来るのはそれ以来だった。嫌な思い出で止まったままだったけれど、またこうして2人で来て向かい合って座って、どのスイーツを食べようかと幸せな悩みを共有する。今日の琴璃はずっと笑顔だ。丸井と会ってからずっとにこにこしていている。やっぱり笑顔が1番可愛い。
「うお、うまそー」
店員がお待たせしました、と運んできた大きな皿には3段重ねのココア生地のパンケーキがうず高く積まれている。そこに苺やソースも乗っていて、もうこれ以上ないほどのボリュームだった。これだけでもうとんでもないサイズなのに、更に追加でホイップクリームを注文するあたりが彼らしいなと琴璃は思う。よっしゃあ、と張り切って甘いクリームを口に運ぶ。
「こないだの時はマジで何の味もしなかったけどさ。今、超うめぇ」
夢中になってクリームの塊を頬張っている。口の周りが大変なことになっても気にしない。子供っぽい丸井を見て琴璃がくすくす笑った。
「お前も笑ってないで食えよ」
「うん、あの、すごいね」
「何が?」
「私、甘いの好きなほうだけどこんなにすごいの食べたことないから」
「なーに言ってんだよ。お前、そっちの山任せた」
「ええ、こんなに!」
「ほら、琴璃」
呆然とする琴璃に丸井はナイフとフォークを手渡す。そして、自らも両手に持って琴璃の反対側の場所にナイフを入れる。
「初めての2人の共同作業でーす」
「な、なに言ってるの」
「だって、これ完食しねぇと帰れないぜ?俺ら」
「そうだけど、その、びっくりするよ」
「ん?」
「だって、……そーゆうのは大事な時に言うやつだもん」
結婚式の披露宴で新郎新婦がケーキ入刀する時に出る定番の台詞を。丸井はいったいどこで覚えてきたのか。男兄弟の多い彼がもともと知っていたなんて思えない。きっとテニス部の仲間でそんな話をしたんだろうが、多分、本人はその台詞の正しい使いどころをよく分かっていない。
「あ、おいしい」
「うんうん、いい顔」
今日も容赦なく甘い。でも何故か今日のはいつも以上に甘いと感じる。チョコレートの味だからという物理的な理由ではなくて、色んなことがあった後だから。だから、より一層甘いと思えるのかもしれない。
思えば、喧嘩らしい喧嘩を2人はしたことがなかった。丸井はたまに強引なところはあるけど、なんだかんだ琴璃の意見をちゃんと聞いてくれる。琴璃のほうも、あれこれ丸井に言ったりする性格ではない。だから今回の衝突が2人にとって初めての経験だった。
友達に戻りたいだなんて。嘘でも言った自分を琴璃はすごく責めたくなった。きっとこれが逆の立場だったら。とてもショックだし悲しいと感じる。琴璃は丸井にそんな思いをさせてしまったのだ。心から申し訳ないと思った。結果的には、彼はやっぱり怒ったけどちゃんと琴璃と向き合ってくれた。言った手前自分からは歩み寄れなかったから、あの夜会いに来てくれてすごくすごく嬉しかった。互いが互いを思ってることが通じ合えて。この人を好きで良かった。友達に戻らなくて良かった。
「はい、琴璃ちゃん笑ってくださーい」
丸井がスマホを構えて琴璃に呼びかける。写真を撮ろうとしている。それに釣られて琴璃はフォークを持ったままピースサインをしてみせた。カシャッと音がして丸井は今撮ったものを確認する。
「え、私だけ?」
「まーまー。いーから」
そして、1人で写真を確認したと思うと盛大に笑い出した。
「だっははは!」
「何?なんで笑うの?ちょっと見せてよ!」
「ひー、おかしー」
丸井の手から奪い取ったスマホ画面には、口がクリームだらけの自分が呑気にピースして笑っている。ついでになかなかの間抜け顔にも見える。どうせならもっと、マシな顔の自分を撮ってほしかった。そんな文句を口にする前に丸井にスマホをあっさり取り返されてしまった。
「これ、待ち受けにしよ」
「な、だめ!」
「いーんだよ。これ見て部活頑張るんだから」
「えー、やだよ……こんな変な顔」
「俺にとっては超絶可愛いからいーの」
その言葉に一気に赤くなる琴璃。好きも可愛いも、幼馴染だった時には当然言われなかった。でもこうして恋人になってからは躊躇いもなく丸井は口にするようになった。恥ずかしいけど、嬉しい。自分は愛されているんだと実感するから。
「ブンちゃん。ありがとう」
「何が?」
「何でもいいの。お礼が言いたかったの」
「ふーん?変なやつ」
でも、友達から恋人になっても変わらないものもある。いつも琴璃を1番に考えてくれるところとか。一緒にいて退屈になったことなんか一度もなかった。幼い頃からずっと変わらない。それはこれからも続くと思う。いつまでも、ずっと。
コーヒーカップに手を伸ばそうとした琴璃の手を丸井が掴んだ。どうしたの、と動く唇に丸井の指が触れる。クリームがついていたのを忘れかけていた。
「どういたしまして」
「へ?」
「さっきのお前の、ありがとうの返事」
よく分かんねえけど、と付け足して。その指先のクリームをぺろりと舐めた。
甘いショコラ味のパンケーキと目の前の愛しい人の笑顔。それだけでもう、充分幸せ。
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丸井くんは彼女を喜ばせるの上手そう
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