メルティショコラパンケーキダブルホイップ
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実際俺も思ってはいたから、いつか注意しようとは思っていたんだ。
家のベランダで冬の真っ暗な空を見上げながら、今日幸村に言われたことを思い出していた。
『部活と彼女を天秤にかける必要なんてないけど、どっちも大事ならどっちもしっかりと向き合うべきだよ。それができなきゃ、そもそも立海のレギュラーでいる資格はない』
琴璃と付き合うようになってから、丸井は部活に対する姿勢が疎かになっていた。気の緩みがあからさまに見えていた。それを今日、幸村に指摘された。本人は気付いていなくとも周囲の人間はどことなくそれを感じていたのだ。そしてそのことに琴璃も気付いていた。それを今日幸村に教えてもらった。丸井をそうさせてしまったのは自分なんだと思い詰めていたことを。当然そんなこと張本人の丸井は今まで知る由もなかった。聞けば、琴璃が自ら幸村に謝罪に来たと言う。私のせいでごめんなさい、と。でも、それはおかしいよ、と幸村は彼女に言った。当たり前だけど琴璃の責任なんて1ミリもない。怠惰な面を見せた丸井が悪いのだから。
そして琴璃は幸村に会ったその日に、丸井に友達に戻りたいと告げた。あのカフェでの出来事だ。そんな裏事情を知るわけがなかったから丸井は当たり前のようにイライラしたし琴璃を責めたくなった。でもそれは違った。丸井を思っての言動だったことが今日ようやく分かった。自分のせいで丸井がテニスに全力で打ち込めていない。そう思い込んだ琴璃は、自分と恋人関係を解消したいと言ってきた。つまりは自分のだらしなさが招いた結果だということになる。
「……なんだよ、それ。アイツ、バカじゃねぇの」
事実が分かって苛立ちが全身を駆け巡る。真冬の空の下なのに今は寒さを感じないほどに。イライラするけど、それより何より自分が物凄く情けないと感じた。何故なら全ては自分が招いた結果なのだ。馬鹿なのは自分自身だ。
ふーっと大きくため息を吐いた。白い息が黒い闇の中に出て一瞬で消えてゆく。今更、友達に戻りたいだなんて。そんなこと嫌だし琴璃も本心では思っていない。絶対そうに決まってる。じゃなきゃあの涙はどう説明をつける。テニスに不真面目な自分を思ってそうしたというのなら、こんなの間違っている。これじゃ余計にテニスに身が入らない。それこそ琴璃が居なくなっては解決しない。
時間を見たくてスマホを出した。夜の10時を過ぎた頃。早寝の琴璃はいつも10時就寝なのを知っている。でもそんなの関係なかった。躊躇うことなく彼女の番号を出して発信させる。呼び出し音は一度だけかかりすぐに止まった。まさかワンコールで相手が出るとは思わなかったので丸井は息を飲む。電話の向こうから、小さく頼りない声でもしもし、と聞こえた。
「早いじゃん、出んの」
「……ちょうどスマホ触ってたから」
「寝てんのかと思った」
「うん、寝るとこだったの」
会話が途切れた。不気味なくらいにしんとしている。沈黙が苦手な丸井は何か話そうと落ち着かなくなる。
「琴璃あのさ、」
「ブンちゃん、私ね、テニスに夢中になってるブンちゃんが何より好き」
突然、琴璃が言い出した。
「私のせいで部活早く上がってほしくないし、土日だってちゃんとテニスに時間かけてほしい。前みたいにテニス一筋なブンちゃんを見ていたいの。私なんかよりテニスを大事にしてよ。今までみたく、テニスに全力なブンちゃんが見たいよ」
琴璃が苦しげに喋ってるこんな時に。仁王の昔の彼女の話を思い出した。琴璃の涙声の懇願を聞きながらぼんやりと想起する。仁王は前の彼女に“部活と私どっちが大事なの”と言われたのがきっかけで別れたらしい。そんなこと言う女がいるのかよ、と思った。それに勝手な女だな、とも。でも今、琴璃が言ったことはその真逆だ。恋人である自分よりももっとテニスを優先してくれなんて。なかなか信じられない発言だ。でもそれを言えるのは自分のことを信用してくれているから。琴璃は自分のことをいつもそばで支えてくれていた。それを今、痛いほど思い知った。
「テニスは大事だ。けど、お前も大事なんだよ」
どっちを優先とか、そんなのできるか。幸村くんの言う通りだ。俺にはどっちも欠けることはできない。だからどっちも護るしかない。気付いたらすごい勢いで部屋を飛び出していた。
「今から行くわ、お前んとこ」
「え?今?こんな時間だよ?」
「でも会いたいんだよ、今」
どうしても、今じゃないと。自転車を飛ばす夜の道。琴璃の家はここから5分以内で着く距離で幼稚園からずっと一緒だった。だから自然と幼馴染になった。友達になれた。でも、それだけじゃ満たされない。琴璃のことが好きで、誰より大切でずっと一緒に居たい。そう思うから告白した。物凄く緊張したけど彼女は照れながらよろしくお願いしますと言ってきた。あの日の嬉しさを忘れない。なのにまた友達に戻るだなんて。そんなの死んでも許さない。
冬の夜なのに適当な部屋着のまま構わず飛び出してきたから当然寒い。冷たい風で耳がちぎれそうになる。でもペダルを踏む力は緩めない。むしろ強くなる。1分1秒でも早くお前に会いたい。それだけを考えて夜の道を走ってゆく。
やがて見えてきた1棟のマンション。ベランダに琴璃が居て丸井に気付くと下の入り口まで出てきた。彼女も、寝る間際だったせいかあまり防寒対策になっていない部屋着を着ていた。
「ブンちゃん、」
何か言おうとした琴璃を丸井は構わずぎゅっと抱きしめた。彼女の身体はすっかり冷えていた。電話を切ってからずっとベランダに出て丸井が来るのを待っていた。
「冷たいね」
「当たり前だろ、真冬だぜ」
「ごめんね、ひどいこと言って。やっぱり私、友達に戻るとか……嫌」
ぼそっと、丸井に抱き締められたまま琴璃が喋る。
「なんでそんなこと言っちゃったんだろうって、ずっと後悔してた。それがブンちゃんのためになるならって思ったけど、やっぱり寂しいよ。友達は嫌だよ」
「俺が言おうとしたこと、全部先に言うなよ」
「だって」
ぐず、と鼻をすする音が聞こえた。丸井は琴璃の顔を覗き込む。その様子を見て胸が傷んだ。また泣かせちまった。彼女の泣き顔はこんなにも自分を困惑させる。
「ごめんな、琴璃。もう泣くな」
「うん。でも、私も理由も言わないであんなこと言っちゃったし」
泣き止むどころか、あろうことか琴璃の目に再び涙が溜まりだす。自分にも非があったことを反省している。ああもう。そういう優しいところがたまらなく好きだ。
「だーっ、もう分かったから。細かいこと考えんの、ヤメ。とりあえず今まで通りお前は俺のそばにいてくれればいーの。OK?」
「……うん、ありがとう」
星もない真冬の空の下で、こんな薄着で抱きしめあっている。でも、馬鹿みたいに笑って、ごめんと好きを言い合っていたら、不思議と寒さなんて感じなかった。
家のベランダで冬の真っ暗な空を見上げながら、今日幸村に言われたことを思い出していた。
『部活と彼女を天秤にかける必要なんてないけど、どっちも大事ならどっちもしっかりと向き合うべきだよ。それができなきゃ、そもそも立海のレギュラーでいる資格はない』
琴璃と付き合うようになってから、丸井は部活に対する姿勢が疎かになっていた。気の緩みがあからさまに見えていた。それを今日、幸村に指摘された。本人は気付いていなくとも周囲の人間はどことなくそれを感じていたのだ。そしてそのことに琴璃も気付いていた。それを今日幸村に教えてもらった。丸井をそうさせてしまったのは自分なんだと思い詰めていたことを。当然そんなこと張本人の丸井は今まで知る由もなかった。聞けば、琴璃が自ら幸村に謝罪に来たと言う。私のせいでごめんなさい、と。でも、それはおかしいよ、と幸村は彼女に言った。当たり前だけど琴璃の責任なんて1ミリもない。怠惰な面を見せた丸井が悪いのだから。
そして琴璃は幸村に会ったその日に、丸井に友達に戻りたいと告げた。あのカフェでの出来事だ。そんな裏事情を知るわけがなかったから丸井は当たり前のようにイライラしたし琴璃を責めたくなった。でもそれは違った。丸井を思っての言動だったことが今日ようやく分かった。自分のせいで丸井がテニスに全力で打ち込めていない。そう思い込んだ琴璃は、自分と恋人関係を解消したいと言ってきた。つまりは自分のだらしなさが招いた結果だということになる。
「……なんだよ、それ。アイツ、バカじゃねぇの」
事実が分かって苛立ちが全身を駆け巡る。真冬の空の下なのに今は寒さを感じないほどに。イライラするけど、それより何より自分が物凄く情けないと感じた。何故なら全ては自分が招いた結果なのだ。馬鹿なのは自分自身だ。
ふーっと大きくため息を吐いた。白い息が黒い闇の中に出て一瞬で消えてゆく。今更、友達に戻りたいだなんて。そんなこと嫌だし琴璃も本心では思っていない。絶対そうに決まってる。じゃなきゃあの涙はどう説明をつける。テニスに不真面目な自分を思ってそうしたというのなら、こんなの間違っている。これじゃ余計にテニスに身が入らない。それこそ琴璃が居なくなっては解決しない。
時間を見たくてスマホを出した。夜の10時を過ぎた頃。早寝の琴璃はいつも10時就寝なのを知っている。でもそんなの関係なかった。躊躇うことなく彼女の番号を出して発信させる。呼び出し音は一度だけかかりすぐに止まった。まさかワンコールで相手が出るとは思わなかったので丸井は息を飲む。電話の向こうから、小さく頼りない声でもしもし、と聞こえた。
「早いじゃん、出んの」
「……ちょうどスマホ触ってたから」
「寝てんのかと思った」
「うん、寝るとこだったの」
会話が途切れた。不気味なくらいにしんとしている。沈黙が苦手な丸井は何か話そうと落ち着かなくなる。
「琴璃あのさ、」
「ブンちゃん、私ね、テニスに夢中になってるブンちゃんが何より好き」
突然、琴璃が言い出した。
「私のせいで部活早く上がってほしくないし、土日だってちゃんとテニスに時間かけてほしい。前みたいにテニス一筋なブンちゃんを見ていたいの。私なんかよりテニスを大事にしてよ。今までみたく、テニスに全力なブンちゃんが見たいよ」
琴璃が苦しげに喋ってるこんな時に。仁王の昔の彼女の話を思い出した。琴璃の涙声の懇願を聞きながらぼんやりと想起する。仁王は前の彼女に“部活と私どっちが大事なの”と言われたのがきっかけで別れたらしい。そんなこと言う女がいるのかよ、と思った。それに勝手な女だな、とも。でも今、琴璃が言ったことはその真逆だ。恋人である自分よりももっとテニスを優先してくれなんて。なかなか信じられない発言だ。でもそれを言えるのは自分のことを信用してくれているから。琴璃は自分のことをいつもそばで支えてくれていた。それを今、痛いほど思い知った。
「テニスは大事だ。けど、お前も大事なんだよ」
どっちを優先とか、そんなのできるか。幸村くんの言う通りだ。俺にはどっちも欠けることはできない。だからどっちも護るしかない。気付いたらすごい勢いで部屋を飛び出していた。
「今から行くわ、お前んとこ」
「え?今?こんな時間だよ?」
「でも会いたいんだよ、今」
どうしても、今じゃないと。自転車を飛ばす夜の道。琴璃の家はここから5分以内で着く距離で幼稚園からずっと一緒だった。だから自然と幼馴染になった。友達になれた。でも、それだけじゃ満たされない。琴璃のことが好きで、誰より大切でずっと一緒に居たい。そう思うから告白した。物凄く緊張したけど彼女は照れながらよろしくお願いしますと言ってきた。あの日の嬉しさを忘れない。なのにまた友達に戻るだなんて。そんなの死んでも許さない。
冬の夜なのに適当な部屋着のまま構わず飛び出してきたから当然寒い。冷たい風で耳がちぎれそうになる。でもペダルを踏む力は緩めない。むしろ強くなる。1分1秒でも早くお前に会いたい。それだけを考えて夜の道を走ってゆく。
やがて見えてきた1棟のマンション。ベランダに琴璃が居て丸井に気付くと下の入り口まで出てきた。彼女も、寝る間際だったせいかあまり防寒対策になっていない部屋着を着ていた。
「ブンちゃん、」
何か言おうとした琴璃を丸井は構わずぎゅっと抱きしめた。彼女の身体はすっかり冷えていた。電話を切ってからずっとベランダに出て丸井が来るのを待っていた。
「冷たいね」
「当たり前だろ、真冬だぜ」
「ごめんね、ひどいこと言って。やっぱり私、友達に戻るとか……嫌」
ぼそっと、丸井に抱き締められたまま琴璃が喋る。
「なんでそんなこと言っちゃったんだろうって、ずっと後悔してた。それがブンちゃんのためになるならって思ったけど、やっぱり寂しいよ。友達は嫌だよ」
「俺が言おうとしたこと、全部先に言うなよ」
「だって」
ぐず、と鼻をすする音が聞こえた。丸井は琴璃の顔を覗き込む。その様子を見て胸が傷んだ。また泣かせちまった。彼女の泣き顔はこんなにも自分を困惑させる。
「ごめんな、琴璃。もう泣くな」
「うん。でも、私も理由も言わないであんなこと言っちゃったし」
泣き止むどころか、あろうことか琴璃の目に再び涙が溜まりだす。自分にも非があったことを反省している。ああもう。そういう優しいところがたまらなく好きだ。
「だーっ、もう分かったから。細かいこと考えんの、ヤメ。とりあえず今まで通りお前は俺のそばにいてくれればいーの。OK?」
「……うん、ありがとう」
星もない真冬の空の下で、こんな薄着で抱きしめあっている。でも、馬鹿みたいに笑って、ごめんと好きを言い合っていたら、不思議と寒さなんて感じなかった。