メルティショコラパンケーキダブルホイップ
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琴璃に別れを切り出されてから数日が経った。そもそもあれは、本当に別れたいという意味だったのだろうか。別れたいならどうして琴璃は“友達に戻りたい”だなんて言ったのか。それならその言葉のとおり、今までみたいに変わらず仲良くするぶんには肯定的なのではないか。そんなふうに自問自答しては機嫌が悪くなるだけだった。そんなこと、誰が納得するもんか。友達に戻りたい理由すら分からないのに、はいそうですかと言えるわけがない。しかし色々考えては頭の中で否定するだけで未だ行動に移せていない。琴璃のクラスに行けばすぐに会えるはずなのにどうも足が進まなかった。だからずっと、平行線のまま。
今も廊下を歩きながら悶々と考えている。心配と苛立ちがないまぜになって頭の中が良くわからないことになっている。とりあえず今は放課後になったのでテニスコートへ向かう途中。昨日も一昨日も、部活が終わっても琴璃はいつもの場所で待っていなかった。部活に入っていない琴璃は今まで丸井の部活が終わるのを待っててくれていたけど、それもぱたりと無くなった。もとより、彼女が待っているようになったのは丸井がそれを要求したから始まったことだった。だから来なくなるのも仕方ない。
「……俺が言わなきゃ、もう待っててもくれねぇてことね」
「あ、丸井くん」
つい零れた独り言に被さるように、誰かに名前を呼ばれた。振り向くと同じクラスの女子生徒が居た。丸井とはクラスメイトでもあり、彼女は琴璃の友人だった。2人が付き合うようになった時も人一倍喜んでくれた女友達で、この間琴璃が食堂で一緒に食べていた子が彼女だ。
「ねぇ、怪我大丈夫だった?」
「は?俺?元気だけど」
「違うよ、琴璃がよ。え、もしかして知らないの?」
「……知らねぇけど」
「そうなの?昨日の体育ですごい派手に転んだのよ、あの子。ハードル走のハードルを、飛ばないで突っ込んだの」
その子の話によれば、琴璃は頭からスライディングしてそれはもう痛々しい怪我を負ったらしい。阿呆か、と思った。高校生にもなってハードル飛ばずに転ぶとか、どんだけトロいんだよ。けどアイツならやりかねない。琴璃は素晴らしく運動音痴なのだ。顔面からいったのなら鼻血なんかも出たのだろうか。昔から危なっかしいところがありすぎて放っておけないところがあったが。とにかく琴璃のそんな珍事は今ので初耳だった。会ってないのだから知らないのは当然だ。なのに彼女は、当然丸井は知ってるのだという前提で話し掛けてきた。彼氏なら知ってて当たり前でしょう、という雰囲気で。
「そう言えば、なんで最近琴璃とお昼一緒に食べないの?最近あの子、私を誘ってくるんだけど」
「……別に。そーゆう時だってあるだろ。年中一緒に居るなんて無理だっつの」
「ふぅん。そっか」
自分から友達に戻りたいとか言ってきたくせに。周りには何も言ってないのか、彼女は事情を知らないようだった。だから丸井も余計なことは言わない。彼女は琴璃をよろしくねと言うと行ってしまった。それには適当に笑って返した。
琴璃が怪我しただなんて。
いつもそんなつまらないことも報告してくるのに、琴璃は今回は何も言ってこなかった。俺にバカだな、って笑われながらも心配されたいんじゃないのか。まさかメールが打てないほどの怪我をしたわけじゃあるまいし。ならどうして琴璃が知らせてこないのか。考えるまでもない。自分を避けているからだ。ここ数日顔を見なければ声も聞かない。食堂で見たのだってこっちが一方的にという形。立海は広いから、用がなければ何日か会わないことだってあるかもしれないけど。それにしたってこんなに会わないのは変だ。どうして避ける。お前は、俺の彼女だろが。
「ねぇねぇ丸井くん」
また呼ばれて振り向くとまた別の女子が立っていた。さっきの彼女と同様に同じクラスで琴璃の友人。神妙な顔をして丸井に近寄ってくる。
「琴璃ちゃん大丈夫?」
「……何の話?」
「昨日の化学の授業でね、琴璃ちゃん実験道具倒して怪我しちゃったんだよ」
またか。1日に2回も災難に巻き込まれるとは。普段なら、アイツ持ってんな、とか、わりと呑気なことを思いつつ心配をするのだけど。今日はそんなふうに思えなかった。言わずもがな琴璃が負傷したこと自体は心配だ。でもそれは一瞬思っただけで。それよりも、腹の底から沸々とある感情が湧き上がってきている。彼女はその時の状況や琴璃が手を負傷したことを事細かに教えてくれた。その時の自分はどんな顔をして聞いていたんだろうか。分からないけれど、2人目の情報提供者と別れた頃には、いよいよ苛立ちは隠せなくなってきた。
丸井が知らない琴璃の近況を周りは色々知っている。なんで連絡してこない。どうして俺を避ける。焦燥がありえない速さで成長してゆく。今まで誰かに対してこんなふうに怒ったことがなかった。だから余計にコントロールできない。
そんな時に。向こうから歩いてくる女子生徒が1人。今度は誰だと思ったけど、相手が誰なのかが分かった途端丸井は歩調を速めた。彼女は何か荷物を抱えていて視界が悪いらしくまだ丸井に気が付かない。何も持っていなかったならきっともっとすぐに気がついていただろうに。そして、丸井の存在に気付いた時には、互いの距離は1、2メートルしか空いてなかった。彼女は一瞬はっとした顔を見せたがすぐに目を逸らす。ここで引き返すなんていかにも怪しすぎる。他にも廊下に生徒は居たし、そのまま何事もないようにすれ違おうとしていた。でも丸井はそんな真似を許さなかった。
「待てよ」
こんな低い声が自分に出たなんて。多分、言った本人がびっくりしている。琴璃は声に従って足を止めた。けれど丸井のほうに振り向かない。両手に抱えていた辞書みたいな厚さの本に目を落としたまま動こうとしない。このままやり過ごそうとでも思っているのか。
「怪我、したんだってな」
「……うん」
大丈夫か?、と二言目に言えない自分はガキだと思った。頭で分かっていても素直になれない。それだけではなく怒りのままに琴璃を責めようとしている。
「俺には何も教えてくれねーんだ。友達 なのに?」
何も言わない琴璃。丸井のことを視界にさえ入れようとしない。丸井はその態度にますます腹が立って琴璃の腕を掴んだ。一応、怪我してないほうの右手を。だけど結構強めに掴んだ。痛さに思わず顔を歪める琴璃。今更彼女の姿を正面から見たけど、何とも痛々しい格好をしている。右脚はガーゼで覆われ、左手首に湿布のようなもの、そして絆創膏で巻かれた数本の指。彼女たちの証言どおり相当派手にいったのが想像できた。
「なんなんだよお前。何がしたいわけ?」
「……痛いよ」
「答えろよ」
その時琴璃の目にきらりと光るものが見えた。その思い掛けない正体を知って丸井は狼狽える。
「なんで泣くんだよ。ワケ分かんねぇよ」
丸井が琴璃を泣かせたことなんて今まで無かった。もっと幼く一緒に遊んでいた頃だって、こんなことは一度も。どっかのガキ大将みたいな子に泣かされた琴璃を守ったことはあっても、丸井が彼女に涙を流させたことは出会って十数年間の中で皆無だった。それが、こんな形で琴璃の涙を見ることになるなんて。やっぱり別れたいと言いたいのか。俺のことを好きじゃない、そういう意味の涙なのか。思いのままに聞きたかったけど堪えた。言ったら彼女はもっと泣くだろうから。だから、また逃げるように琴璃の前から立ち去ることを選んだ。
廊下の角を曲がる時、ブンちゃん、と彼女が自分の名を呼んでいるような気がした。
今も廊下を歩きながら悶々と考えている。心配と苛立ちがないまぜになって頭の中が良くわからないことになっている。とりあえず今は放課後になったのでテニスコートへ向かう途中。昨日も一昨日も、部活が終わっても琴璃はいつもの場所で待っていなかった。部活に入っていない琴璃は今まで丸井の部活が終わるのを待っててくれていたけど、それもぱたりと無くなった。もとより、彼女が待っているようになったのは丸井がそれを要求したから始まったことだった。だから来なくなるのも仕方ない。
「……俺が言わなきゃ、もう待っててもくれねぇてことね」
「あ、丸井くん」
つい零れた独り言に被さるように、誰かに名前を呼ばれた。振り向くと同じクラスの女子生徒が居た。丸井とはクラスメイトでもあり、彼女は琴璃の友人だった。2人が付き合うようになった時も人一倍喜んでくれた女友達で、この間琴璃が食堂で一緒に食べていた子が彼女だ。
「ねぇ、怪我大丈夫だった?」
「は?俺?元気だけど」
「違うよ、琴璃がよ。え、もしかして知らないの?」
「……知らねぇけど」
「そうなの?昨日の体育ですごい派手に転んだのよ、あの子。ハードル走のハードルを、飛ばないで突っ込んだの」
その子の話によれば、琴璃は頭からスライディングしてそれはもう痛々しい怪我を負ったらしい。阿呆か、と思った。高校生にもなってハードル飛ばずに転ぶとか、どんだけトロいんだよ。けどアイツならやりかねない。琴璃は素晴らしく運動音痴なのだ。顔面からいったのなら鼻血なんかも出たのだろうか。昔から危なっかしいところがありすぎて放っておけないところがあったが。とにかく琴璃のそんな珍事は今ので初耳だった。会ってないのだから知らないのは当然だ。なのに彼女は、当然丸井は知ってるのだという前提で話し掛けてきた。彼氏なら知ってて当たり前でしょう、という雰囲気で。
「そう言えば、なんで最近琴璃とお昼一緒に食べないの?最近あの子、私を誘ってくるんだけど」
「……別に。そーゆう時だってあるだろ。年中一緒に居るなんて無理だっつの」
「ふぅん。そっか」
自分から友達に戻りたいとか言ってきたくせに。周りには何も言ってないのか、彼女は事情を知らないようだった。だから丸井も余計なことは言わない。彼女は琴璃をよろしくねと言うと行ってしまった。それには適当に笑って返した。
琴璃が怪我しただなんて。
いつもそんなつまらないことも報告してくるのに、琴璃は今回は何も言ってこなかった。俺にバカだな、って笑われながらも心配されたいんじゃないのか。まさかメールが打てないほどの怪我をしたわけじゃあるまいし。ならどうして琴璃が知らせてこないのか。考えるまでもない。自分を避けているからだ。ここ数日顔を見なければ声も聞かない。食堂で見たのだってこっちが一方的にという形。立海は広いから、用がなければ何日か会わないことだってあるかもしれないけど。それにしたってこんなに会わないのは変だ。どうして避ける。お前は、俺の彼女だろが。
「ねぇねぇ丸井くん」
また呼ばれて振り向くとまた別の女子が立っていた。さっきの彼女と同様に同じクラスで琴璃の友人。神妙な顔をして丸井に近寄ってくる。
「琴璃ちゃん大丈夫?」
「……何の話?」
「昨日の化学の授業でね、琴璃ちゃん実験道具倒して怪我しちゃったんだよ」
またか。1日に2回も災難に巻き込まれるとは。普段なら、アイツ持ってんな、とか、わりと呑気なことを思いつつ心配をするのだけど。今日はそんなふうに思えなかった。言わずもがな琴璃が負傷したこと自体は心配だ。でもそれは一瞬思っただけで。それよりも、腹の底から沸々とある感情が湧き上がってきている。彼女はその時の状況や琴璃が手を負傷したことを事細かに教えてくれた。その時の自分はどんな顔をして聞いていたんだろうか。分からないけれど、2人目の情報提供者と別れた頃には、いよいよ苛立ちは隠せなくなってきた。
丸井が知らない琴璃の近況を周りは色々知っている。なんで連絡してこない。どうして俺を避ける。焦燥がありえない速さで成長してゆく。今まで誰かに対してこんなふうに怒ったことがなかった。だから余計にコントロールできない。
そんな時に。向こうから歩いてくる女子生徒が1人。今度は誰だと思ったけど、相手が誰なのかが分かった途端丸井は歩調を速めた。彼女は何か荷物を抱えていて視界が悪いらしくまだ丸井に気が付かない。何も持っていなかったならきっともっとすぐに気がついていただろうに。そして、丸井の存在に気付いた時には、互いの距離は1、2メートルしか空いてなかった。彼女は一瞬はっとした顔を見せたがすぐに目を逸らす。ここで引き返すなんていかにも怪しすぎる。他にも廊下に生徒は居たし、そのまま何事もないようにすれ違おうとしていた。でも丸井はそんな真似を許さなかった。
「待てよ」
こんな低い声が自分に出たなんて。多分、言った本人がびっくりしている。琴璃は声に従って足を止めた。けれど丸井のほうに振り向かない。両手に抱えていた辞書みたいな厚さの本に目を落としたまま動こうとしない。このままやり過ごそうとでも思っているのか。
「怪我、したんだってな」
「……うん」
大丈夫か?、と二言目に言えない自分はガキだと思った。頭で分かっていても素直になれない。それだけではなく怒りのままに琴璃を責めようとしている。
「俺には何も教えてくれねーんだ。
何も言わない琴璃。丸井のことを視界にさえ入れようとしない。丸井はその態度にますます腹が立って琴璃の腕を掴んだ。一応、怪我してないほうの右手を。だけど結構強めに掴んだ。痛さに思わず顔を歪める琴璃。今更彼女の姿を正面から見たけど、何とも痛々しい格好をしている。右脚はガーゼで覆われ、左手首に湿布のようなもの、そして絆創膏で巻かれた数本の指。彼女たちの証言どおり相当派手にいったのが想像できた。
「なんなんだよお前。何がしたいわけ?」
「……痛いよ」
「答えろよ」
その時琴璃の目にきらりと光るものが見えた。その思い掛けない正体を知って丸井は狼狽える。
「なんで泣くんだよ。ワケ分かんねぇよ」
丸井が琴璃を泣かせたことなんて今まで無かった。もっと幼く一緒に遊んでいた頃だって、こんなことは一度も。どっかのガキ大将みたいな子に泣かされた琴璃を守ったことはあっても、丸井が彼女に涙を流させたことは出会って十数年間の中で皆無だった。それが、こんな形で琴璃の涙を見ることになるなんて。やっぱり別れたいと言いたいのか。俺のことを好きじゃない、そういう意味の涙なのか。思いのままに聞きたかったけど堪えた。言ったら彼女はもっと泣くだろうから。だから、また逃げるように琴璃の前から立ち去ることを選んだ。
廊下の角を曲がる時、ブンちゃん、と彼女が自分の名を呼んでいるような気がした。