メルティショコラパンケーキダブルホイップ
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お昼の時間だけ地元のパン屋が立海の校内でパンを売りに来ている。丸井は常連レベルで昼ご飯にここのパンを買っている。いつものように昼休みに教室を出て、いつものように売っている中庭に来て、いつものように菓子パンを買う、つもりだった。いつものように沢山買おうとしたところで今日はやめた。いつもならいろんな菓子パン、それとクリームパンを2つ。そのうち1つは琴璃のぶん。でも今日は要らないから。
「おばさん、今日は焼きそばパンだけちょうだい」
「……それだけでいいの?他は?」
「ん、いーや。今日は1個で」
そんなこと言うもんだから売りに来ていたその店のおばさんには驚かれた。こんなことは今までになかったから。具合でも悪いのか、と本気で心配された。具合は悪くないけど機嫌は悪い。こんなに極端に少食になってしまったというのに、アイツは今日一度も連絡を寄越さない。
いつもとは違うパンが入った袋をぶら下げて学食へ行く。すると琴璃がもう待っていて丸井にこっちだよ、と手を振ってくる。そして一緒にお昼を食べるのに。今日はそれもない。無意識に彼女の姿を探してしまった。この校舎内に居るであろうに、急に遠くに行ってしまったように感じる。そしてまた無駄に苛々する。
「別に要らなかったな、これ」
そこまで腹も減ってなかった。でも買ったからには食べるとするか。1人で食べるのもなんか寂しいと思ってたらたまたま見つけたテニス部の仲間。桑原と赤也が2人で喋りながら昼食をとっていた。
「ヤロウ2人で仲良しじゃん?」
「うお、丸井先輩?」
「一緒に昼メシ食おうぜ」
相手の返事を待たずして同じテーブルの椅子に腰掛けた。そして、買ったばかりの焼きそばパンの袋を破り開ける。
「まーた丸井先輩は菓子パンッスか。糖分取りすぎ」
「おい赤也、これは焼きそばパンだから惣菜パンなんだよ。菓子パンの部類には入らねぇ」
「だから?」
「後ろめたさはゼロだ」
「……うさんくさ」
普段通りの2人のやり取りを桑原は隣で聞いていた。普段ならその次元の低い会話に突っ込むのだけれど。なんとなく勘づいてしまった。丸井の機嫌があまり良さそうでないことに。自分らと食べたくてここに来たくせにどこか空気が重い。いつもはあれほど馬鹿みたいに菓子パンを買い込んでるのにそれもない。というかそもそもいつもなら自分たちなんかと昼食はとらない。彼にはもっと大切な存在がいるではないか。どうやって探ろうかと気を揉んでいると隣の空気読めない後輩が果敢に切り込んだ。
「つーか、丸井先輩。なんで今日は彼女さんと一緒じゃないんスか?」
直球に疑問を投げ込んだ後輩。桑原の顔が引き攣る。
「おい、赤也……」
「ジャッカル先輩もそう思ったでしょ?いつもなら彼女とメシ食ってんのに、なんで今日は俺らと食ってんスか?」
「別に。俺とアイツは友達だから、俺も友達と食ってんだよ」
「……は?何すか、それ」
はぁ、と丸井は大袈裟に溜め息を吐いた。2度も言わせんな、という顔。赤也は友達ではなく後輩だけど今はそんなことどうでもいい。
「俺ら友達の関係に戻ったから。だからアイツは彼女じゃねぇっつったんだよ」
「でーええぇ!?何それどーゆうこと!?丸井先輩、彼女と別れたんスか!?あの、幼馴染でずっと好きだったのになかなか言い出せなくてよーやく勇気出して告ったらなんととっくに両思いだった彼女と!」
「うるせえ!」
「あだっ」
渾身の力を込めて赤也の脳天にチョップした。頭を抱えてうずくまる赤也に、桑原は少し同情する。
「……俺だって分かんねぇよ」
理由を聞けなかった。あまりに唐突すぎて何も言えなかった。昨日のことを思い出す。はじめは何の冗談かと思ったけど、琴璃がすごく悲しそうな顔をしてたから冗談なんかじゃないと分かった。その顔を見たら本気で言ってるのだと。自分とは友達に戻りたいのだと、分かってしまったのだ。辛そうに眉を下げて俯く琴璃を見たら問い詰める気力さえ失せた。これ以上居心地悪い空気の中に居るのが耐えられなくて、そのまま「あっそ」とだけ言って丸井は店を後にした。琴璃の真意も分からないまま。もちろん納得もしていないまま。
「なぁおい、ブン太……」
「あ、ねぇ、ちょっとちょっと」
また言葉の腰を折る後輩。少しは空気読め、とジャッカルは念を送った。でも多分意味がない。
「ねぇ、あれ、丸井先輩の彼女サンじゃないっすか?」
赤也が指さした方向に二人の女子がいる。片方は間違いなく琴璃だった。友達と昼食を取っている様子。昨日の暗たげな表情とは打って変わって今は楽しそうに談笑してる。無論、琴璃は丸井たちの視線に気がついていない。そこへ2人組の男子生徒がやって来て琴璃に話しかけた。どうやら空いてる席を探しているようで、琴璃たちの隣の空席を使ってもいいかと許可を取っている。横に長いテーブルだから相席のような形になり、そのままその4人で仲良く昼食を取りだした。同じクラスなのか知らないけど、遠目から見ても話に盛り上がっているように見える。ジャッカルがちらりと丸井のほうを盗み見る。すぐに顔に出る相棒は果たして今どんな顔をしているのか。思った通り、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。彼女が、他の男子と楽しそうに昼食をとる姿なんて見ていて楽しいわけがない。
「……アイツのことが好きだから、俺とは友達に戻りたいって言ったのかな」
「ハァ?」
何を言い出すんだ、と赤也ですら思った。丸井は魂が抜けたような目をしている。下を向きもそもそと食べる焼きそばパンは全然美味しそうに見えない。きっと本人は味なんて分かっていない。
赤也は今まで飄々としてる丸井しか見たことがなかった。ふざけて馬鹿なことして一緒になって真田にどやされる、そんなお気楽な彼だった。赤也にとってはテニス部の先輩の中で1番に息が合う存在。それが今は、こんなふうに気難しい顔をして身体を丸ませて。すっかり落ち込んでいるではないか。こんなにも被害妄想するほどショックだったんだな、とさすがの赤也もなんとなく空気を読んだ。不憫な先輩だな、と思う。思っただけで口にしない点が空気を読んだところである。
「何だ騒がしいな」
急にざわつきが大きくなって何事かと目を戻すと、発生源はあの4人組からだった。男子のほうがコップを倒して水を零してしまったようだ。慌てるだけで使い物にならない男と急いで机を拭く琴璃。もう1人の琴璃の女友達は倒したコップを片付けに運びに行った。何やってんだよバカ。女にやらせといてただテンパってるだけかよ。声に出さないけど丸井はそう思った。
コップを倒した際に男子の袖口が濡れてしまったらしい。それを見て琴璃はハンカチを渡している。その光景が嫌に丸井の目に鮮明に映る。2人だけが景色からくり抜かれたようにはっきりと。
「……アイツ、男にハンカチ貸してやがる。普通、貸すか?」
「まぁ、予期せぬトラブルだったからな」
「彼女さんが優しいって証拠じゃないスか?」
別におかしなことではない。赤也の言う通り琴璃の優しさから出た行動なのだ。琴璃は何の目論見もないのに今の丸井の目には全てが怪しく映ってしまう。誰かに向けている彼女の笑顔も今はただの不安材料になるだけ。
「なんなんだよ、マジで」
軽い胃もたれを感じる。でもそれはきっと焼きそばパンのせいじゃない。もっと違う見えないものが胸のつかえを起こさせているせいだ。丸井は黙ってパンが入っていた袋を片手で強く握り潰す。ぐしゃりと乾いた音がした。それがまるで自分の気持ちみたいに思えた。
「おばさん、今日は焼きそばパンだけちょうだい」
「……それだけでいいの?他は?」
「ん、いーや。今日は1個で」
そんなこと言うもんだから売りに来ていたその店のおばさんには驚かれた。こんなことは今までになかったから。具合でも悪いのか、と本気で心配された。具合は悪くないけど機嫌は悪い。こんなに極端に少食になってしまったというのに、アイツは今日一度も連絡を寄越さない。
いつもとは違うパンが入った袋をぶら下げて学食へ行く。すると琴璃がもう待っていて丸井にこっちだよ、と手を振ってくる。そして一緒にお昼を食べるのに。今日はそれもない。無意識に彼女の姿を探してしまった。この校舎内に居るであろうに、急に遠くに行ってしまったように感じる。そしてまた無駄に苛々する。
「別に要らなかったな、これ」
そこまで腹も減ってなかった。でも買ったからには食べるとするか。1人で食べるのもなんか寂しいと思ってたらたまたま見つけたテニス部の仲間。桑原と赤也が2人で喋りながら昼食をとっていた。
「ヤロウ2人で仲良しじゃん?」
「うお、丸井先輩?」
「一緒に昼メシ食おうぜ」
相手の返事を待たずして同じテーブルの椅子に腰掛けた。そして、買ったばかりの焼きそばパンの袋を破り開ける。
「まーた丸井先輩は菓子パンッスか。糖分取りすぎ」
「おい赤也、これは焼きそばパンだから惣菜パンなんだよ。菓子パンの部類には入らねぇ」
「だから?」
「後ろめたさはゼロだ」
「……うさんくさ」
普段通りの2人のやり取りを桑原は隣で聞いていた。普段ならその次元の低い会話に突っ込むのだけれど。なんとなく勘づいてしまった。丸井の機嫌があまり良さそうでないことに。自分らと食べたくてここに来たくせにどこか空気が重い。いつもはあれほど馬鹿みたいに菓子パンを買い込んでるのにそれもない。というかそもそもいつもなら自分たちなんかと昼食はとらない。彼にはもっと大切な存在がいるではないか。どうやって探ろうかと気を揉んでいると隣の空気読めない後輩が果敢に切り込んだ。
「つーか、丸井先輩。なんで今日は彼女さんと一緒じゃないんスか?」
直球に疑問を投げ込んだ後輩。桑原の顔が引き攣る。
「おい、赤也……」
「ジャッカル先輩もそう思ったでしょ?いつもなら彼女とメシ食ってんのに、なんで今日は俺らと食ってんスか?」
「別に。俺とアイツは友達だから、俺も友達と食ってんだよ」
「……は?何すか、それ」
はぁ、と丸井は大袈裟に溜め息を吐いた。2度も言わせんな、という顔。赤也は友達ではなく後輩だけど今はそんなことどうでもいい。
「俺ら友達の関係に戻ったから。だからアイツは彼女じゃねぇっつったんだよ」
「でーええぇ!?何それどーゆうこと!?丸井先輩、彼女と別れたんスか!?あの、幼馴染でずっと好きだったのになかなか言い出せなくてよーやく勇気出して告ったらなんととっくに両思いだった彼女と!」
「うるせえ!」
「あだっ」
渾身の力を込めて赤也の脳天にチョップした。頭を抱えてうずくまる赤也に、桑原は少し同情する。
「……俺だって分かんねぇよ」
理由を聞けなかった。あまりに唐突すぎて何も言えなかった。昨日のことを思い出す。はじめは何の冗談かと思ったけど、琴璃がすごく悲しそうな顔をしてたから冗談なんかじゃないと分かった。その顔を見たら本気で言ってるのだと。自分とは友達に戻りたいのだと、分かってしまったのだ。辛そうに眉を下げて俯く琴璃を見たら問い詰める気力さえ失せた。これ以上居心地悪い空気の中に居るのが耐えられなくて、そのまま「あっそ」とだけ言って丸井は店を後にした。琴璃の真意も分からないまま。もちろん納得もしていないまま。
「なぁおい、ブン太……」
「あ、ねぇ、ちょっとちょっと」
また言葉の腰を折る後輩。少しは空気読め、とジャッカルは念を送った。でも多分意味がない。
「ねぇ、あれ、丸井先輩の彼女サンじゃないっすか?」
赤也が指さした方向に二人の女子がいる。片方は間違いなく琴璃だった。友達と昼食を取っている様子。昨日の暗たげな表情とは打って変わって今は楽しそうに談笑してる。無論、琴璃は丸井たちの視線に気がついていない。そこへ2人組の男子生徒がやって来て琴璃に話しかけた。どうやら空いてる席を探しているようで、琴璃たちの隣の空席を使ってもいいかと許可を取っている。横に長いテーブルだから相席のような形になり、そのままその4人で仲良く昼食を取りだした。同じクラスなのか知らないけど、遠目から見ても話に盛り上がっているように見える。ジャッカルがちらりと丸井のほうを盗み見る。すぐに顔に出る相棒は果たして今どんな顔をしているのか。思った通り、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。彼女が、他の男子と楽しそうに昼食をとる姿なんて見ていて楽しいわけがない。
「……アイツのことが好きだから、俺とは友達に戻りたいって言ったのかな」
「ハァ?」
何を言い出すんだ、と赤也ですら思った。丸井は魂が抜けたような目をしている。下を向きもそもそと食べる焼きそばパンは全然美味しそうに見えない。きっと本人は味なんて分かっていない。
赤也は今まで飄々としてる丸井しか見たことがなかった。ふざけて馬鹿なことして一緒になって真田にどやされる、そんなお気楽な彼だった。赤也にとってはテニス部の先輩の中で1番に息が合う存在。それが今は、こんなふうに気難しい顔をして身体を丸ませて。すっかり落ち込んでいるではないか。こんなにも被害妄想するほどショックだったんだな、とさすがの赤也もなんとなく空気を読んだ。不憫な先輩だな、と思う。思っただけで口にしない点が空気を読んだところである。
「何だ騒がしいな」
急にざわつきが大きくなって何事かと目を戻すと、発生源はあの4人組からだった。男子のほうがコップを倒して水を零してしまったようだ。慌てるだけで使い物にならない男と急いで机を拭く琴璃。もう1人の琴璃の女友達は倒したコップを片付けに運びに行った。何やってんだよバカ。女にやらせといてただテンパってるだけかよ。声に出さないけど丸井はそう思った。
コップを倒した際に男子の袖口が濡れてしまったらしい。それを見て琴璃はハンカチを渡している。その光景が嫌に丸井の目に鮮明に映る。2人だけが景色からくり抜かれたようにはっきりと。
「……アイツ、男にハンカチ貸してやがる。普通、貸すか?」
「まぁ、予期せぬトラブルだったからな」
「彼女さんが優しいって証拠じゃないスか?」
別におかしなことではない。赤也の言う通り琴璃の優しさから出た行動なのだ。琴璃は何の目論見もないのに今の丸井の目には全てが怪しく映ってしまう。誰かに向けている彼女の笑顔も今はただの不安材料になるだけ。
「なんなんだよ、マジで」
軽い胃もたれを感じる。でもそれはきっと焼きそばパンのせいじゃない。もっと違う見えないものが胸のつかえを起こさせているせいだ。丸井は黙ってパンが入っていた袋を片手で強く握り潰す。ぐしゃりと乾いた音がした。それがまるで自分の気持ちみたいに思えた。