メルティショコラパンケーキダブルホイップ
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部活あがり。
ものの数十秒で着替えを済ませ鞄を肩に担ぐ。最近、また速さに磨きがかかっている。
「んじゃ、お疲れー」
「ちょ、丸井センパイ!これどーすんすか!」
部室から出ていこうとする丸井の背にやかましい声がかかる。後輩にあたる切原が指差しているのは高々と積み上げられた週刊漫画雑誌。結構な量が部室の一角を占拠している。全て丸井の私物だ。いつからか、読み終わっても家に持ち帰るということをしなくなってからはこんな惨状になっている。
「あー、どっかそのへん適当に置いといてくれい」
「ちゃんと片付けとかないと、いい加減幸村部長に怒られますよ!」
「それはマズイな。……頼んだ、ジャッカル」
「おい、ふざけんな!」
適当な返事と相棒に仕事を押し付けて今度こそ部室を後にする。フェンスを曲がったいつもの場所に人影があった。その姿を確認して安心する。気持ちがせいて小走りになってしまう。
「わり、待たせたな」
「ううん、大丈夫だよ」
会えて嬉しいのに、ちょっとかっこつけて落ち着いたトーンで声を掛けた。琴璃は部活帰りの丸井をここで待っていた。彼女と付き合うようになってまだ日が浅い。でも、もう琴璃とは10年以上の仲。家が近い関係で昔から知っていた。ついこの間までずっと友人関係だったけれど、2人はめでたく付き合うようになった。そんな彼女は、丸井の部活終わりをいつも待っていてくれている。前に、もっと部室の近くのベンチにでも座ってろよ、と言ったけど、彼女はこの場所でいいと言った。ここはテニスコートからは死角になっていて見えない。だから丸井は、琴璃が来ているかどうかは部活が終わってからでないと確認できない。彼女に早く会いたいから部室を出るのがどんどん早くなった。だから今日みたいに片付けやらを中途半端にしてくることが日常茶飯事になってきている。
「でも……帰っちゃっていいの?みんなまだ掃除とかしてるみたいだけど」
こちらからは逆にテニスコートの様子が見えて、まだ部員たちがコート整備や球拾いをしていた。
「ん?あぁ、あれは後輩らの仕事だから」
あんまり良くは知らないけど、上下関係の厳しい集団だとは琴璃も聞いたことがある。大所帯であり名門校である立海テニス部は昔からの伝統を重んじている。丸井もレギュラーの仲間入りを果たすまでは連日、そういう雑用係を経験していた。レギュラーになった今はもう殆ど手を出さなくなった。むしろあまりにもやらなくなってしまっている。レギュラーの者が雑用仕事を免除される、という決まりはないのにだらしなくなっている。そもそも彼は後輩の面倒見が人一倍良かったはず。こんなふうになおざりにする人ではなかった。最近の彼はこんな感じ。当然琴璃も気がついていた。
「……流石に手伝ってあげたほうが」
「へーきだって!ほら、行こうぜ」
丸井はそう言って、琴璃の手を握り歩き出す。急に引っ張られて琴璃はつんのめりそうになった。痛くはないけどわりと強い力。少し強引で気が急いている証拠。それは彼の機嫌が良いという証でもある。
まだ冬真っ只中の今は、この時間で既に真っ暗だった。手を繋いで帰り道を並んで歩く。さみー、と呟く丸井の息が白い。
「最近は部活、どう?」
「どうって?」
「なんか、ブンちゃんが朝練にあんまり来なくなってるって風のうわさで聞いたから」
「あー今週は行けない日もあったかな」
「どっか怪我でもしたの?」
「は?なんで?」
「だって、いつもなら毎日ちゃんと出てるでしょ、朝練。さっきとかもみんなより早くにあがってきたから、もしかしてどこか痛めたりしてるのかなって」
「別に?なんも怪我してねぇし元気だけど?お前と早く帰りたいから急いで来たんだよ」
「……そっか」
駅前の、海から近い場所にあるカフェ。琴璃とはここによく来ている。それこそ、2人が付き合う前のただの友人関係だった頃から。付き合うようになってからは寄り道する頻度が増えた。
「うひょーうまそう!」
丸井はいつもスイーツを頼む。それを看板とした店だから当たり前だけど、ここに来る度に2人で甘いものを食べている。琴璃も甘いものが大好きで新メニューや季節限定メニューが出ると喜んでいた。でも今日は違った。頼んだ3段重ねのパンケーキがやって来たのに、いつものようにキラキラと目を輝かせない。気付かない丸井は鼻歌交じりにナイフとフォークを持つ。
「琴璃、どんくらい食う?切り分けてやるよ」
「私は……少しでいいや」
「そーなん?腹減ってねぇの?」
「うん、ちょっと」
もともとこの時間に腹が減るのは丸井くらいだ。慣れた手付きで丸井はナイフを入れる。苺やアイスも器用に2枚の皿に取り分けてやった。ありがとう、と言って琴璃はフォークを手にした。食べようとした時、テーブルに置いていた丸井のスマホが何かの通知を示した。メルマガか、と言っていじりだす。
「うお、明日雨だってよ。しかも今日より寒いらしいぜ」
「そうなの?雪になったりするかなあ」
「どーだろな。けど、雪になったらいいよなー」
「なんで?ブンちゃん寒いのあんまり好きじゃないよね?」
「さみぃのは嫌だけどさ、雪になれば部活は中止になるだろ?そしたらお前とデートできるじゃん」
軽い口調でそんなことを言いながら、丸井はパンケーキにフォークを突き刺す。ふわふわで弾力があって、誰もが笑顔になる食べ物。でも琴璃はさっきから笑っていない。
「あのね、ブンちゃん」
「んあ?」
いつの間にか琴璃はフォークをテーブルに置いていた。まだ皿の上に食べ残されてるのに。その皿を一点に見つめたまま琴璃は口を開く。
「私たち、もとに戻れるかな?」
「は?何言ってんのお前」
言葉の通りで。琴璃の言ったことの意味が全く分からなかった。食べるのに夢中だったというのもあるかもしれない。琴璃はようやく俯いていた顔を上げた。真正面から丸井と向き合う。
「友達に戻りたいの。彼女じゃなくて、ブンちゃんとは友達がいい」
ものの数十秒で着替えを済ませ鞄を肩に担ぐ。最近、また速さに磨きがかかっている。
「んじゃ、お疲れー」
「ちょ、丸井センパイ!これどーすんすか!」
部室から出ていこうとする丸井の背にやかましい声がかかる。後輩にあたる切原が指差しているのは高々と積み上げられた週刊漫画雑誌。結構な量が部室の一角を占拠している。全て丸井の私物だ。いつからか、読み終わっても家に持ち帰るということをしなくなってからはこんな惨状になっている。
「あー、どっかそのへん適当に置いといてくれい」
「ちゃんと片付けとかないと、いい加減幸村部長に怒られますよ!」
「それはマズイな。……頼んだ、ジャッカル」
「おい、ふざけんな!」
適当な返事と相棒に仕事を押し付けて今度こそ部室を後にする。フェンスを曲がったいつもの場所に人影があった。その姿を確認して安心する。気持ちがせいて小走りになってしまう。
「わり、待たせたな」
「ううん、大丈夫だよ」
会えて嬉しいのに、ちょっとかっこつけて落ち着いたトーンで声を掛けた。琴璃は部活帰りの丸井をここで待っていた。彼女と付き合うようになってまだ日が浅い。でも、もう琴璃とは10年以上の仲。家が近い関係で昔から知っていた。ついこの間までずっと友人関係だったけれど、2人はめでたく付き合うようになった。そんな彼女は、丸井の部活終わりをいつも待っていてくれている。前に、もっと部室の近くのベンチにでも座ってろよ、と言ったけど、彼女はこの場所でいいと言った。ここはテニスコートからは死角になっていて見えない。だから丸井は、琴璃が来ているかどうかは部活が終わってからでないと確認できない。彼女に早く会いたいから部室を出るのがどんどん早くなった。だから今日みたいに片付けやらを中途半端にしてくることが日常茶飯事になってきている。
「でも……帰っちゃっていいの?みんなまだ掃除とかしてるみたいだけど」
こちらからは逆にテニスコートの様子が見えて、まだ部員たちがコート整備や球拾いをしていた。
「ん?あぁ、あれは後輩らの仕事だから」
あんまり良くは知らないけど、上下関係の厳しい集団だとは琴璃も聞いたことがある。大所帯であり名門校である立海テニス部は昔からの伝統を重んじている。丸井もレギュラーの仲間入りを果たすまでは連日、そういう雑用係を経験していた。レギュラーになった今はもう殆ど手を出さなくなった。むしろあまりにもやらなくなってしまっている。レギュラーの者が雑用仕事を免除される、という決まりはないのにだらしなくなっている。そもそも彼は後輩の面倒見が人一倍良かったはず。こんなふうになおざりにする人ではなかった。最近の彼はこんな感じ。当然琴璃も気がついていた。
「……流石に手伝ってあげたほうが」
「へーきだって!ほら、行こうぜ」
丸井はそう言って、琴璃の手を握り歩き出す。急に引っ張られて琴璃はつんのめりそうになった。痛くはないけどわりと強い力。少し強引で気が急いている証拠。それは彼の機嫌が良いという証でもある。
まだ冬真っ只中の今は、この時間で既に真っ暗だった。手を繋いで帰り道を並んで歩く。さみー、と呟く丸井の息が白い。
「最近は部活、どう?」
「どうって?」
「なんか、ブンちゃんが朝練にあんまり来なくなってるって風のうわさで聞いたから」
「あー今週は行けない日もあったかな」
「どっか怪我でもしたの?」
「は?なんで?」
「だって、いつもなら毎日ちゃんと出てるでしょ、朝練。さっきとかもみんなより早くにあがってきたから、もしかしてどこか痛めたりしてるのかなって」
「別に?なんも怪我してねぇし元気だけど?お前と早く帰りたいから急いで来たんだよ」
「……そっか」
駅前の、海から近い場所にあるカフェ。琴璃とはここによく来ている。それこそ、2人が付き合う前のただの友人関係だった頃から。付き合うようになってからは寄り道する頻度が増えた。
「うひょーうまそう!」
丸井はいつもスイーツを頼む。それを看板とした店だから当たり前だけど、ここに来る度に2人で甘いものを食べている。琴璃も甘いものが大好きで新メニューや季節限定メニューが出ると喜んでいた。でも今日は違った。頼んだ3段重ねのパンケーキがやって来たのに、いつものようにキラキラと目を輝かせない。気付かない丸井は鼻歌交じりにナイフとフォークを持つ。
「琴璃、どんくらい食う?切り分けてやるよ」
「私は……少しでいいや」
「そーなん?腹減ってねぇの?」
「うん、ちょっと」
もともとこの時間に腹が減るのは丸井くらいだ。慣れた手付きで丸井はナイフを入れる。苺やアイスも器用に2枚の皿に取り分けてやった。ありがとう、と言って琴璃はフォークを手にした。食べようとした時、テーブルに置いていた丸井のスマホが何かの通知を示した。メルマガか、と言っていじりだす。
「うお、明日雨だってよ。しかも今日より寒いらしいぜ」
「そうなの?雪になったりするかなあ」
「どーだろな。けど、雪になったらいいよなー」
「なんで?ブンちゃん寒いのあんまり好きじゃないよね?」
「さみぃのは嫌だけどさ、雪になれば部活は中止になるだろ?そしたらお前とデートできるじゃん」
軽い口調でそんなことを言いながら、丸井はパンケーキにフォークを突き刺す。ふわふわで弾力があって、誰もが笑顔になる食べ物。でも琴璃はさっきから笑っていない。
「あのね、ブンちゃん」
「んあ?」
いつの間にか琴璃はフォークをテーブルに置いていた。まだ皿の上に食べ残されてるのに。その皿を一点に見つめたまま琴璃は口を開く。
「私たち、もとに戻れるかな?」
「は?何言ってんのお前」
言葉の通りで。琴璃の言ったことの意味が全く分からなかった。食べるのに夢中だったというのもあるかもしれない。琴璃はようやく俯いていた顔を上げた。真正面から丸井と向き合う。
「友達に戻りたいの。彼女じゃなくて、ブンちゃんとは友達がいい」
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