知らないうちに愛されていた
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暫くして琴璃がやって来た。少し慌てた様子で、いつものように遅れてごめんね、と言いながら。普段と変わらずの様子。でも跡部は表情を崩さない。
「さっき、お前の友達とやらが来た」
「え、来たの?」
やはり琴璃には教えずに単独で来たようだ。実に迷惑極まりない。
「来たが、俺が追い出した」
それを聞いた琴璃は一瞬息を飲んだ。
「なんで?」
「部外者だろうが。あの女は」
会話はするけど、もう跡部は琴璃のほうを見ていない。ただならぬ空気を感じる。言葉の節々に刺々しさを孕んでいるのが琴璃でもすぐ分かった。顔に出してるわけじゃないし普段どおりの声のトーンだけど。いつもそばに居るから彼の僅かな変化さえ分かる。
「なんで?あの子、こないだ言ってた転校してきた子なんだよ」
「だから何だと言うんだ?」
「だから……せっかくだから生徒会長の跡部くんに会いたいって言ってたんだよ。挨拶がてらに会いたいって」
「そんなふうには見えなかったがな」
「……なんで怒ってるの?」
「お前、あの女が俺に好意を持っていたこと知ってたんだろ」
「え……」
「知っててあの部外者をここに呼んだんだろ」
「部外者って、そんな言い方」
「そうだろうが。それとも、俺のことが好きならば関係者になれるのか?」
言葉の棘を隠さなくなってきた。今跡部は怒っている。顔は無表情に近いけれど、琴璃に対して嫌悪を見せている。こんなことは知り合ってから一度も無かった。
「好きって言うか、あの子が転校してきたから、生徒会長の跡部くんに挨拶したいって言うからここに呼んだんだよ。それは駄目なの?」
「あの女の下心が見え見えじゃねえか」
きっと、琴璃に見せる態度とさっきまでの跡部に媚びる本性は演じ分けているんだろう。琴璃には見抜けなくても跡部はすぐ見抜いた。やたらわざとらしかったから気付かないというほうが無理ではあるが。
「あの女が言ってたぜ。琴璃は応援してくれてるって。まさか本気じゃねぇだろうな」
「……応援?そんなの、知らないよ」
琴璃はわけが分からず首をふる。そこに関しては安堵した。跡部は心の中で密かにほっとする。どうせあの女の誇張だとは思っていた。だけど琴璃の口から違うと聞くまでは何処となく気分が悪かったのだ。他人の言葉に翻弄されたと言うより、琴璃に否定してほしかった。琴璃の思惑が無いことに確信を持ちたかった。でもそれは結局、琴璃のことを僅かでも疑ったことになる。苛立ちがつのる。今の自分に余裕がない。こんなことは今までに無かった。テニスでどんなに攻めあぐねても絶対に己を見失うことなんて無かったというのに。
「跡部くん……」
生徒会室 だけは2人だけの空間だと、暗黙の了解みたいになっていた。その空気に気づいたのか他の生徒会メンバーもあまり寄り付かない。会長である跡部から指示が出た時にだけ活動をする。ほぼ職権濫用みたいなもので、この場所に来る琴璃を護っているつもりだった。
当然のように自分の目の届く範囲において、彼女の居場所を作ってきた気でいた。でもそれはひょっとして、自分の思い過ごしだったのかもしれない。実際は琴璃は跡部のものじゃない。それを今、改めて思い知った瞬間だった。さっきから琴璃が悲しげな顔を向けてくる。その顔を見せられるたび気分が悪くなってゆく。
護っていたつもりだったけど、本当は、籠に閉じ込めていたんじゃないか。自分に言えないだけで琴璃は望んでいなかったんじゃ。そんな胸騒ぎを憶える。何よりも、琴璃が関係ない人間を連れてこようとしていたことが引っ掛かってどうしようもない。第三者が割り込んでくることで気持ちに綻びができた。そのせいで琴璃に裏切られたような、そんな気持ちになる。そんなふうに考えるのは馬鹿げているのに。最初から約束も誓い事なんかもしていないのに。最初から、2人の間には何もないのに。
「跡部くん、ねぇ」
「もういい」
普段のように自分を客観視できない。何故、琴璃に対しては自分の感情が露わになってしまうのか。平常心でいたいのに琴璃には通用しない。苛立ちもするし惧れも感じる。他人にはほとんど起きない感情が彼女を前にすると呼び起こされる。そうなる理由は分かっている。もうずいぶん前から。でもずっと野放しにしてきた。踏み込んだら、もしかして崩してしまうんじゃないかって。だから言わなかったし、言わなくても琴璃には伝わってると思っていた。だけどそれはただの、くだらない思い込みだった。
「さっき、お前の友達とやらが来た」
「え、来たの?」
やはり琴璃には教えずに単独で来たようだ。実に迷惑極まりない。
「来たが、俺が追い出した」
それを聞いた琴璃は一瞬息を飲んだ。
「なんで?」
「部外者だろうが。あの女は」
会話はするけど、もう跡部は琴璃のほうを見ていない。ただならぬ空気を感じる。言葉の節々に刺々しさを孕んでいるのが琴璃でもすぐ分かった。顔に出してるわけじゃないし普段どおりの声のトーンだけど。いつもそばに居るから彼の僅かな変化さえ分かる。
「なんで?あの子、こないだ言ってた転校してきた子なんだよ」
「だから何だと言うんだ?」
「だから……せっかくだから生徒会長の跡部くんに会いたいって言ってたんだよ。挨拶がてらに会いたいって」
「そんなふうには見えなかったがな」
「……なんで怒ってるの?」
「お前、あの女が俺に好意を持っていたこと知ってたんだろ」
「え……」
「知っててあの部外者をここに呼んだんだろ」
「部外者って、そんな言い方」
「そうだろうが。それとも、俺のことが好きならば関係者になれるのか?」
言葉の棘を隠さなくなってきた。今跡部は怒っている。顔は無表情に近いけれど、琴璃に対して嫌悪を見せている。こんなことは知り合ってから一度も無かった。
「好きって言うか、あの子が転校してきたから、生徒会長の跡部くんに挨拶したいって言うからここに呼んだんだよ。それは駄目なの?」
「あの女の下心が見え見えじゃねえか」
きっと、琴璃に見せる態度とさっきまでの跡部に媚びる本性は演じ分けているんだろう。琴璃には見抜けなくても跡部はすぐ見抜いた。やたらわざとらしかったから気付かないというほうが無理ではあるが。
「あの女が言ってたぜ。琴璃は応援してくれてるって。まさか本気じゃねぇだろうな」
「……応援?そんなの、知らないよ」
琴璃はわけが分からず首をふる。そこに関しては安堵した。跡部は心の中で密かにほっとする。どうせあの女の誇張だとは思っていた。だけど琴璃の口から違うと聞くまでは何処となく気分が悪かったのだ。他人の言葉に翻弄されたと言うより、琴璃に否定してほしかった。琴璃の思惑が無いことに確信を持ちたかった。でもそれは結局、琴璃のことを僅かでも疑ったことになる。苛立ちがつのる。今の自分に余裕がない。こんなことは今までに無かった。テニスでどんなに攻めあぐねても絶対に己を見失うことなんて無かったというのに。
「跡部くん……」
当然のように自分の目の届く範囲において、彼女の居場所を作ってきた気でいた。でもそれはひょっとして、自分の思い過ごしだったのかもしれない。実際は琴璃は跡部のものじゃない。それを今、改めて思い知った瞬間だった。さっきから琴璃が悲しげな顔を向けてくる。その顔を見せられるたび気分が悪くなってゆく。
護っていたつもりだったけど、本当は、籠に閉じ込めていたんじゃないか。自分に言えないだけで琴璃は望んでいなかったんじゃ。そんな胸騒ぎを憶える。何よりも、琴璃が関係ない人間を連れてこようとしていたことが引っ掛かってどうしようもない。第三者が割り込んでくることで気持ちに綻びができた。そのせいで琴璃に裏切られたような、そんな気持ちになる。そんなふうに考えるのは馬鹿げているのに。最初から約束も誓い事なんかもしていないのに。最初から、2人の間には何もないのに。
「跡部くん、ねぇ」
「もういい」
普段のように自分を客観視できない。何故、琴璃に対しては自分の感情が露わになってしまうのか。平常心でいたいのに琴璃には通用しない。苛立ちもするし惧れも感じる。他人にはほとんど起きない感情が彼女を前にすると呼び起こされる。そうなる理由は分かっている。もうずいぶん前から。でもずっと野放しにしてきた。踏み込んだら、もしかして崩してしまうんじゃないかって。だから言わなかったし、言わなくても琴璃には伝わってると思っていた。だけどそれはただの、くだらない思い込みだった。