清く正しく優しい君
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駅までの道を並んで歩く。凄く自然な流れで一緒に帰ることになった。忍足はテニスバッグを担いでいる。運動部は部活動の時間帯なのに帰っても良いのか。そんな琴璃の視線に気づいてか、今日の午後は部活は休みだと教えてやった。
忍足の歩調は決して早くなく、むしろ琴璃に合わせてくれている。駅に着くまではなんとなくの会話をして。でもそれが途切れることはなかった。他愛のない、普通の話。好きな食べ物だとか、最近聴いてるアーティストだとか今日の体育はソフトボールできつかったとか。そんなどうでもいい話。でも琴璃にとっては大切な時間に感じられた。まさにこれこそ琴璃の望んでいたものだったから。忍足は自分の話もするけど琴璃の話をちゃんと聞いてくれる。こんな話してつまらないかなと迷ったけど、忍足は少しも退屈そうな表情を見せなかった。だからあっという間に駅に着いてしまった。
「お。着いてもうた。なぁ琴璃ちゃん、まだ時間、平気?」
「うん。どうしたの?」
「ちょっと行ってみたい場所あんねん。付き合うてくれん?」
この場合の、付き合うとは。男女の交際ではなくて行動を共にするという意味。だけど一瞬琴璃の胸が僅かに跳ねた。数週間前にも言われた言葉だけど、感じ方が全然違うものだった。優しげに笑って付き合ってほしいと言う忍足にドキリとした。いいよ、と返事をして彼について行く。いつも入る改札とは反対側方面に歩いてゆくとそこには小さいカフェがあった。ビルの1階にテナントで入っている。駅の反対側に周ることなんてあまりないから、琴璃はその存在を知らなかった。
「テニス部のやつがな、ここに彼女と来たんやって。それを自慢してくるから俺も1回行ってみたくて。けど、男連中で入るのはハードル高めやん?」
店内の9割は女性客で占められていた。それでいて可愛らしい雰囲気の店。もともと女性をターゲットにしているような内装だ。残り1割の男性客は皆、女性と一緒に訪れている。多分、どのペアも恋人もしくは夫婦といったところ。忍足と琴璃も周りから見たらその1つのペアに見えるのかもしれない。中に案内され席につくと、店員がわざわざシェアできるハーフメニューもありますよ、と言ってきた。
「忍足くんの彼女はきっと、幸せだろうな」
不意に、琴璃は思った。そして自然と言葉に出た。この空間の雰囲気もあって、もしも彼が恋人だったら。そんなふうに考えてしまう。きっと彼女になった子を大事にしてくれると思う。あの元彼のように自分の欲求を最優先になんてしないだろう。あの時思わず出た、いいなあ、は、そんな気持ちの表れだったのかもしれない。
「琴璃ちゃん、さっきの聞いてた?彼女がおったんならその子連れてここ来とるで、俺」
「……あ、そっか」
「それに、さすがに俺も本命がおったらこんなふうに別の子と会ったりせぇへんで」
「そ、そうだよね」
元彼だったらそんなことも平気でやるだろう。確証はないけどもしかしたら、琴璃と付き合ってる時も他に彼女がいたのかもしれない。気づいたらさっきから彼と忍足を無意識に比べている。本当に、今更だけど勢いで付き合うんじゃなかった。もう解消したのに、失恋したわけでもないのに沈んだ気持ちが続いている。自分の理想が高すぎたのだろうか。ただ普通のことを願っただけなのに。でもその普通 が、彼と琴璃とでは違った。ただそれだけのこと。
「お待たせいたしました」
店員が頼んだ飲み物を運んできた。それを見て琴璃の顔が綻ぶ。
「わあ、かわいい」
カフェラテが琴璃の前に置かれる。それはラテアートがされていて、泡で出来たウサギが笑っていた。
「こんな可愛いの飲めない」
そう言ってスマホで写真を撮っている。嬉しそうに、何枚も。そんな彼女を見ながら忍足はコーヒーカップに口をつける。普通の女の子なんやな、と思った。女子は大概こういうものが好きだ。
今日はずっと琴璃の困った顔を見ていた。忍足の怪我に慌てふためく様子や、自分を責めてる暗い表情も。泣き顔は見えなかったけど、目を赤くした彼女も見た。会ってまだ2回目なのに様々な表情を見た。でも、最初に見た笑っている顔が1番だと思った。やっぱり女の子は笑顔が1番似合う。琴璃も例外ではなく、むしろ笑った彼女はすごく可愛いと感じた。
「こんな可愛くて素敵なお店知らなかったよ」
「喜んでもらえたんなら良かったわ。俺って女子力高い?」
「ふふ。高い高い。ありがとう忍足くん」
にっこりと琴璃が笑う。この笑顔が何度でも見たくなると思わせる。
一緒に帰ったりカフェに寄ったり。琴璃の望む普通のデートプランを忍足はたった30分のうちで2つ叶えた。たったこれだけで彼女は幸せそうに笑う。元彼はこんな容易い願いも受け入れてくれなかった。そんな男とは別れて正解だったと思う。
「なぁ琴璃ちゃん」
ようやく琴璃がカフェラテを飲みだした頃、忍足のカップの中身はもう殆ど空になっていた。
「キミの描いとる理想のデート、俺とせぇへん?」
「え?」
琴璃は視線をカップから忍足に移す。意味がよく分からなくて、目の前の彼の顔をじっと見る。相変わらず忍足は頬杖をついてニコリと笑っている。
「琴璃ちゃんが彼氏としたかった普通のこと、俺とせぇへんかなって」
忍足の歩調は決して早くなく、むしろ琴璃に合わせてくれている。駅に着くまではなんとなくの会話をして。でもそれが途切れることはなかった。他愛のない、普通の話。好きな食べ物だとか、最近聴いてるアーティストだとか今日の体育はソフトボールできつかったとか。そんなどうでもいい話。でも琴璃にとっては大切な時間に感じられた。まさにこれこそ琴璃の望んでいたものだったから。忍足は自分の話もするけど琴璃の話をちゃんと聞いてくれる。こんな話してつまらないかなと迷ったけど、忍足は少しも退屈そうな表情を見せなかった。だからあっという間に駅に着いてしまった。
「お。着いてもうた。なぁ琴璃ちゃん、まだ時間、平気?」
「うん。どうしたの?」
「ちょっと行ってみたい場所あんねん。付き合うてくれん?」
この場合の、付き合うとは。男女の交際ではなくて行動を共にするという意味。だけど一瞬琴璃の胸が僅かに跳ねた。数週間前にも言われた言葉だけど、感じ方が全然違うものだった。優しげに笑って付き合ってほしいと言う忍足にドキリとした。いいよ、と返事をして彼について行く。いつも入る改札とは反対側方面に歩いてゆくとそこには小さいカフェがあった。ビルの1階にテナントで入っている。駅の反対側に周ることなんてあまりないから、琴璃はその存在を知らなかった。
「テニス部のやつがな、ここに彼女と来たんやって。それを自慢してくるから俺も1回行ってみたくて。けど、男連中で入るのはハードル高めやん?」
店内の9割は女性客で占められていた。それでいて可愛らしい雰囲気の店。もともと女性をターゲットにしているような内装だ。残り1割の男性客は皆、女性と一緒に訪れている。多分、どのペアも恋人もしくは夫婦といったところ。忍足と琴璃も周りから見たらその1つのペアに見えるのかもしれない。中に案内され席につくと、店員がわざわざシェアできるハーフメニューもありますよ、と言ってきた。
「忍足くんの彼女はきっと、幸せだろうな」
不意に、琴璃は思った。そして自然と言葉に出た。この空間の雰囲気もあって、もしも彼が恋人だったら。そんなふうに考えてしまう。きっと彼女になった子を大事にしてくれると思う。あの元彼のように自分の欲求を最優先になんてしないだろう。あの時思わず出た、いいなあ、は、そんな気持ちの表れだったのかもしれない。
「琴璃ちゃん、さっきの聞いてた?彼女がおったんならその子連れてここ来とるで、俺」
「……あ、そっか」
「それに、さすがに俺も本命がおったらこんなふうに別の子と会ったりせぇへんで」
「そ、そうだよね」
元彼だったらそんなことも平気でやるだろう。確証はないけどもしかしたら、琴璃と付き合ってる時も他に彼女がいたのかもしれない。気づいたらさっきから彼と忍足を無意識に比べている。本当に、今更だけど勢いで付き合うんじゃなかった。もう解消したのに、失恋したわけでもないのに沈んだ気持ちが続いている。自分の理想が高すぎたのだろうか。ただ普通のことを願っただけなのに。でもその
「お待たせいたしました」
店員が頼んだ飲み物を運んできた。それを見て琴璃の顔が綻ぶ。
「わあ、かわいい」
カフェラテが琴璃の前に置かれる。それはラテアートがされていて、泡で出来たウサギが笑っていた。
「こんな可愛いの飲めない」
そう言ってスマホで写真を撮っている。嬉しそうに、何枚も。そんな彼女を見ながら忍足はコーヒーカップに口をつける。普通の女の子なんやな、と思った。女子は大概こういうものが好きだ。
今日はずっと琴璃の困った顔を見ていた。忍足の怪我に慌てふためく様子や、自分を責めてる暗い表情も。泣き顔は見えなかったけど、目を赤くした彼女も見た。会ってまだ2回目なのに様々な表情を見た。でも、最初に見た笑っている顔が1番だと思った。やっぱり女の子は笑顔が1番似合う。琴璃も例外ではなく、むしろ笑った彼女はすごく可愛いと感じた。
「こんな可愛くて素敵なお店知らなかったよ」
「喜んでもらえたんなら良かったわ。俺って女子力高い?」
「ふふ。高い高い。ありがとう忍足くん」
にっこりと琴璃が笑う。この笑顔が何度でも見たくなると思わせる。
一緒に帰ったりカフェに寄ったり。琴璃の望む普通のデートプランを忍足はたった30分のうちで2つ叶えた。たったこれだけで彼女は幸せそうに笑う。元彼はこんな容易い願いも受け入れてくれなかった。そんな男とは別れて正解だったと思う。
「なぁ琴璃ちゃん」
ようやく琴璃がカフェラテを飲みだした頃、忍足のカップの中身はもう殆ど空になっていた。
「キミの描いとる理想のデート、俺とせぇへん?」
「え?」
琴璃は視線をカップから忍足に移す。意味がよく分からなくて、目の前の彼の顔をじっと見る。相変わらず忍足は頬杖をついてニコリと笑っている。
「琴璃ちゃんが彼氏としたかった普通のこと、俺とせぇへんかなって」