セレスティアルブルー
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今日も夏らしい空が広がっていた。合宿が始まってからずっと晴天に恵まれている。早いものでもう折返しにきていた。
「良い天気やなぁ」
それを無視して跡部は優雅にティーカップへ口をつける。練習の合間の僅かな休憩時間だが、わざわざ食堂で紅茶を飲んでいる。暑いのに、そんな気分だった。別に紅茶が飲みたいわけじゃなくて人のあまり居ない場所に行きたかった。コート周辺の休憩場所は他の選手たちが居て人口密度が高いから。それにいちいち他校の誰かと会話する気にもならない。だからわりと人が居なくて休憩できる場所を選んでやって来たのに、どういうつもりか忍足が自分について来た。
「お、琴璃ちゃんや」
選手たちは休憩の時間だがマネージャーたちは特に関係なく動いている。琴璃は、跡部たちのいる建物とは別の棟のベランダに居て、干していた洗濯物を取り込んでいた。この天気なのであっという間に乾いてしまう。
「なんや、小さいのにせっせと動いとるの見てると小動物みたいやなぁ、あの子」
「ハンッ、中身はとんだ化け物だぜ」
猫被りとはまさしくアイツのことを言うんだろう。声に出さずに心の中でそう思う。
「化け物、て。跡部、いつの間にあの子と仲良くなったん?」
「仲良くなるどころか、あの女は俺様に敵意剥き出しだぜ」
「はーん、やっぱり嫌われてもうたんか。けど、あれは跡部が悪いんやで、初っ端からあんな意地悪なこと言うから」
「冗談を流せないで、真っ向から食って掛かってくるのは真田ぐらいかと思ってたんだがな。ヤツと同じくらいあの女の頭も固いんだろうよ」
「いやそれにしても、人には受け流せない冗談だってあるもんやで」
「だとしたらあの女の地雷は手塚ってことか」
「うーんどうなんやろ。手塚の彼女やないけど、琴璃ちゃんは手塚に恋してるんかな?」
そんなふうには見えなかったが。もしそうなら、嘘でも付き合っているのかと聞かれたら動揺したりするだろう。でも彼女は真っ向から否定して迷惑そうな顔を見せたから、やっぱり違うんだと思う。あれだけ顔に出るんだから演技ではないだろうし。
「まぁ、ちょっかい出したくなる気持ちも分からんでもないかな。なんか、可愛いやん、あの子」
「……テメェはいつから千石みたいになったんだよ」
「選手以外の人間は相部屋らしいんやけど、琴璃ちゃんと同じ部屋は山吹のマネやっとる子なんやて」
次から次へと跡部にとってはどうでもいい情報を話す忍足。
「でな、その山吹の子は琴璃ちゃんとはまたちょっと違うタイプやねん。なんや、千石みたいな子やった」
「どういう意味だそれは。そして忍足、テメェはいつの間に選手でもねぇ人間と仲良くなってんだ」
「え。練習中とか食事の時とか、あの子たち違う学校やのにいろいろ世話してくれるやん。跡部も話しかけられてたんとちゃう、いろんなとこのマネージャーさんに」
「知るかよ」
知らないはずがない。一方的に話しかけられてくるのを跡部が嫌がって無視しているので、忍足のように交流が広がるわけがなかった。
「まぁでも、跡部は最初からああいう子らの相手せーへんやろうけど」
「だからさっさと千石のヤロウに群がってたぜ。アイツは女なら誰でも相手してやるからな」
「ふーん。じゃあなんで琴璃ちゃんは相手にしたん?」
「あ?」
「だって、普通ならいつもみたいに無視するやん、あの子のことも。なのに跡部、初日ん時の試合終わって琴璃ちゃんのこと見て笑うてた」
真田の他に自分のことを観察していた男がここにもいた。確かに練習とは言え氷帝の跡部が試合するということで皆が注目していたのは事実だが、試合終わりの行動まで見られているなんて。つくづくコイツは曲者だと思う。
「フン。あの女、俺様に向かって手塚が肩を怪我してなけりゃ負けるはずないって言ってきた」
「えぇ、そんなこと言うん?結構凄い子やな」
跡部はティーカップに手を伸ばす。
「ん、けど待って、それって跡部のほうから何か吹っかけたんやなくて?」
「手塚と寝たことがあるか、と言った」
「そら怒るわ」
やっぱり。跡部のほうから何かちょっかいを出してきたんだと知って忍足は何故か安心した。あんな大人しそうな子がいきなりそんな暴言を吐くように見えない。さっきの、琴璃は化け物発言の真相がようやく分かった。
「よっぽど悔しかったんやろな」
「悔しい?」
「そらそうやろ。自分とこの部長を倒した相手にそないなふうにからかわれたんやから。琴璃ちゃんは手塚の為に怒ったんやな。ええ子やなぁ」
「フン。知るかよ」
忍足はふと、気づいた。だからあの試合、跡部にしては真面目に相手していたのか。普通、あんな大して知らない対戦相手に最初から全力のサーブをお見舞いしたりしないのに。プレイに無駄も隙もなかった。それはいつものことだけど最短時間で勝ちにいくつもりで球を打っていたのが忍足の中で不思議だったのだ。いつもの跡部らしくない、と。だから試合が終わっても跡部の行動を観察していた。そうしたら反対側のコートに琴璃が居て。彼女が跡部を見た時、跡部は物凄く勝ち誇った顔をしていた。忍足はそれを見て吹き出しそうだった。あっさり勝つところを見せつけていたのだ。相手の負傷なんて自分の勝利には関係ない、という顔。なんや、ちゃっかり言われたこと根に持ってたんかい、と心の中で突っ込んだ。でも跡部らしくないな、とも思った。いつもなら他人の、まして女子から言われた言葉なんてこの男が気にするわけがないのに。琴璃ちゃんは凄い子やなあ。改めてそう思った。琴璃からしたら、根も葉もないことを言われて頭にきて言い返しただけなのに。
休憩終了までまだ時間がある。いつまでこんなくだらない話が続くのか跡部は少しうんざりしていた。そんなに褒めるほどの女かよ。何となくまた琴璃のほうへ視線を向ける。跡部たちが休憩中も、彼女は何十人分かのタオルを黙々と取り込んでいる。当然こっちの存在には気付いていない。
合宿所の立地が小高い山の上に建てられている為、ここは1階だが琴璃の居る所はテラスデッキみたいになっている。そこまで高くないが真下は崖だ。緑に囲まれていて見晴らしはなかなか良い。ピンチハンガーにかかった最後の1枚がすぐそばの木の枝に引っ掛かってしまっていた。琴璃は少し身を乗り出して取ろうとしている。なかなか取れないのを跡部も忍足も黙って見ていた。忍足は、偉いなあ、だとか言っていたけど跡部はただの風景の一部のように見ていた。
だが何度引っ張ってもタオルは取れない。そんなに極端に背が低いわけじゃないから、単純に彼女の引っ張る力が弱いだけなんだろう。なかなか取れないのでついに琴璃は上半身まるごと乗り出した。柵に足をかけて思い切り腕を伸ばす。片腕1本であの高さにいる自身の身体を支えようとしている。というか、タオルを取るのに夢中で今どういう体勢でいるのか分かっていない。完全に下は崖だということを忘れている。流石に風景として見ていられなくなってきた。おい、と跡部が忍足に声を掛けたその瞬間。そこに居たはずの琴璃が目の前から消えた。
「……え、え?落ちた?」
忍足がそう声に発するまでたっぷり10秒くらいあった。今そこに琴璃が居た場所に何もない。何の音もしなかった。タオルだけが相変わらず木に引っかかったまま。風に揺られてひらひらとはためいている。一瞬の出来事すぎて忍足は動揺が隠せない。でも跡部は違った。
「チッ」
「ちょぉ、跡部どこ行くん!」
勢いよく部屋から出ていこうとする。その寸前、一度足を止めて忍足へ振り返る。そして、
「忍足、テメェは手塚の野郎とここの関係者に知らせてこい。あと、場合によっちゃ救急車もだ」
それだけ言うと部屋を飛び出していった。
「良い天気やなぁ」
それを無視して跡部は優雅にティーカップへ口をつける。練習の合間の僅かな休憩時間だが、わざわざ食堂で紅茶を飲んでいる。暑いのに、そんな気分だった。別に紅茶が飲みたいわけじゃなくて人のあまり居ない場所に行きたかった。コート周辺の休憩場所は他の選手たちが居て人口密度が高いから。それにいちいち他校の誰かと会話する気にもならない。だからわりと人が居なくて休憩できる場所を選んでやって来たのに、どういうつもりか忍足が自分について来た。
「お、琴璃ちゃんや」
選手たちは休憩の時間だがマネージャーたちは特に関係なく動いている。琴璃は、跡部たちのいる建物とは別の棟のベランダに居て、干していた洗濯物を取り込んでいた。この天気なのであっという間に乾いてしまう。
「なんや、小さいのにせっせと動いとるの見てると小動物みたいやなぁ、あの子」
「ハンッ、中身はとんだ化け物だぜ」
猫被りとはまさしくアイツのことを言うんだろう。声に出さずに心の中でそう思う。
「化け物、て。跡部、いつの間にあの子と仲良くなったん?」
「仲良くなるどころか、あの女は俺様に敵意剥き出しだぜ」
「はーん、やっぱり嫌われてもうたんか。けど、あれは跡部が悪いんやで、初っ端からあんな意地悪なこと言うから」
「冗談を流せないで、真っ向から食って掛かってくるのは真田ぐらいかと思ってたんだがな。ヤツと同じくらいあの女の頭も固いんだろうよ」
「いやそれにしても、人には受け流せない冗談だってあるもんやで」
「だとしたらあの女の地雷は手塚ってことか」
「うーんどうなんやろ。手塚の彼女やないけど、琴璃ちゃんは手塚に恋してるんかな?」
そんなふうには見えなかったが。もしそうなら、嘘でも付き合っているのかと聞かれたら動揺したりするだろう。でも彼女は真っ向から否定して迷惑そうな顔を見せたから、やっぱり違うんだと思う。あれだけ顔に出るんだから演技ではないだろうし。
「まぁ、ちょっかい出したくなる気持ちも分からんでもないかな。なんか、可愛いやん、あの子」
「……テメェはいつから千石みたいになったんだよ」
「選手以外の人間は相部屋らしいんやけど、琴璃ちゃんと同じ部屋は山吹のマネやっとる子なんやて」
次から次へと跡部にとってはどうでもいい情報を話す忍足。
「でな、その山吹の子は琴璃ちゃんとはまたちょっと違うタイプやねん。なんや、千石みたいな子やった」
「どういう意味だそれは。そして忍足、テメェはいつの間に選手でもねぇ人間と仲良くなってんだ」
「え。練習中とか食事の時とか、あの子たち違う学校やのにいろいろ世話してくれるやん。跡部も話しかけられてたんとちゃう、いろんなとこのマネージャーさんに」
「知るかよ」
知らないはずがない。一方的に話しかけられてくるのを跡部が嫌がって無視しているので、忍足のように交流が広がるわけがなかった。
「まぁでも、跡部は最初からああいう子らの相手せーへんやろうけど」
「だからさっさと千石のヤロウに群がってたぜ。アイツは女なら誰でも相手してやるからな」
「ふーん。じゃあなんで琴璃ちゃんは相手にしたん?」
「あ?」
「だって、普通ならいつもみたいに無視するやん、あの子のことも。なのに跡部、初日ん時の試合終わって琴璃ちゃんのこと見て笑うてた」
真田の他に自分のことを観察していた男がここにもいた。確かに練習とは言え氷帝の跡部が試合するということで皆が注目していたのは事実だが、試合終わりの行動まで見られているなんて。つくづくコイツは曲者だと思う。
「フン。あの女、俺様に向かって手塚が肩を怪我してなけりゃ負けるはずないって言ってきた」
「えぇ、そんなこと言うん?結構凄い子やな」
跡部はティーカップに手を伸ばす。
「ん、けど待って、それって跡部のほうから何か吹っかけたんやなくて?」
「手塚と寝たことがあるか、と言った」
「そら怒るわ」
やっぱり。跡部のほうから何かちょっかいを出してきたんだと知って忍足は何故か安心した。あんな大人しそうな子がいきなりそんな暴言を吐くように見えない。さっきの、琴璃は化け物発言の真相がようやく分かった。
「よっぽど悔しかったんやろな」
「悔しい?」
「そらそうやろ。自分とこの部長を倒した相手にそないなふうにからかわれたんやから。琴璃ちゃんは手塚の為に怒ったんやな。ええ子やなぁ」
「フン。知るかよ」
忍足はふと、気づいた。だからあの試合、跡部にしては真面目に相手していたのか。普通、あんな大して知らない対戦相手に最初から全力のサーブをお見舞いしたりしないのに。プレイに無駄も隙もなかった。それはいつものことだけど最短時間で勝ちにいくつもりで球を打っていたのが忍足の中で不思議だったのだ。いつもの跡部らしくない、と。だから試合が終わっても跡部の行動を観察していた。そうしたら反対側のコートに琴璃が居て。彼女が跡部を見た時、跡部は物凄く勝ち誇った顔をしていた。忍足はそれを見て吹き出しそうだった。あっさり勝つところを見せつけていたのだ。相手の負傷なんて自分の勝利には関係ない、という顔。なんや、ちゃっかり言われたこと根に持ってたんかい、と心の中で突っ込んだ。でも跡部らしくないな、とも思った。いつもなら他人の、まして女子から言われた言葉なんてこの男が気にするわけがないのに。琴璃ちゃんは凄い子やなあ。改めてそう思った。琴璃からしたら、根も葉もないことを言われて頭にきて言い返しただけなのに。
休憩終了までまだ時間がある。いつまでこんなくだらない話が続くのか跡部は少しうんざりしていた。そんなに褒めるほどの女かよ。何となくまた琴璃のほうへ視線を向ける。跡部たちが休憩中も、彼女は何十人分かのタオルを黙々と取り込んでいる。当然こっちの存在には気付いていない。
合宿所の立地が小高い山の上に建てられている為、ここは1階だが琴璃の居る所はテラスデッキみたいになっている。そこまで高くないが真下は崖だ。緑に囲まれていて見晴らしはなかなか良い。ピンチハンガーにかかった最後の1枚がすぐそばの木の枝に引っ掛かってしまっていた。琴璃は少し身を乗り出して取ろうとしている。なかなか取れないのを跡部も忍足も黙って見ていた。忍足は、偉いなあ、だとか言っていたけど跡部はただの風景の一部のように見ていた。
だが何度引っ張ってもタオルは取れない。そんなに極端に背が低いわけじゃないから、単純に彼女の引っ張る力が弱いだけなんだろう。なかなか取れないのでついに琴璃は上半身まるごと乗り出した。柵に足をかけて思い切り腕を伸ばす。片腕1本であの高さにいる自身の身体を支えようとしている。というか、タオルを取るのに夢中で今どういう体勢でいるのか分かっていない。完全に下は崖だということを忘れている。流石に風景として見ていられなくなってきた。おい、と跡部が忍足に声を掛けたその瞬間。そこに居たはずの琴璃が目の前から消えた。
「……え、え?落ちた?」
忍足がそう声に発するまでたっぷり10秒くらいあった。今そこに琴璃が居た場所に何もない。何の音もしなかった。タオルだけが相変わらず木に引っかかったまま。風に揺られてひらひらとはためいている。一瞬の出来事すぎて忍足は動揺が隠せない。でも跡部は違った。
「チッ」
「ちょぉ、跡部どこ行くん!」
勢いよく部屋から出ていこうとする。その寸前、一度足を止めて忍足へ振り返る。そして、
「忍足、テメェは手塚の野郎とここの関係者に知らせてこい。あと、場合によっちゃ救急車もだ」
それだけ言うと部屋を飛び出していった。