セレスティアルブルー
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琴璃が走ってコートに戻ると、それに気付いた山吹のマネージャーの子が近寄ってきた。
「遅かったね琴璃ちゃん。なんかあった?」
「ううん、ちょっと、迷っちゃって」
走ってきたせいもあって琴璃の心臓はドクドク煩い。額にうっすらかいた汗を慌てて手の甲で拭いた。
「見て、始まるよ」
彼女が指差すコート。そこには今さっきまで琴璃と会っていた人物がいた。相手はどこの学校の選手か分からない。一応、この選抜に選ばれたのだからそれなりに実力があるのだろう。けれど可哀相なくらい跡部への注目が強すぎて彼は霞んでしまっている。琴璃みたいに女子マネージャーを連れてきている学校は他にも居て、その彼女たちが集って氷帝の跡部に熱い視線を送っている。琴璃の隣にいる山吹の彼女も例外ではなかった。
「やっぱ格好いいなぁ、跡部さん」
「え」
「あの外見でテニスも上手くて成績優秀で、しかもお家が超お金持ちなんだって。スペック良すぎじゃない?」
「う、うん」
さっき遅れたのは跡部と会っていたからだ、と正直にこの子に言わなくて良かったと思った。彼女は跡部を見てうっとりしている。氷帝と対峙した時も物凄いギャラリーと声援だった。なんだあの派手な応援の仕方は、と驚いた。今日はあの日ほどではないが、跡部がサービスエースを決めた途端に小さな悲鳴が沸き上がる。彼女たちもここは合宿だから控えてるつもりだろうけど、今ここに居る女子はみんな跡部に釘付けになっている。もはや例外なのは琴璃のほうだった。
「はぁー、あんな格好いい人が山吹にも居たらなあ」
「いるじゃないか、ここに」
声がしたので振り返る、のは琴璃だけだった。
「あー千石先輩。お疲れ様です」
声だけで分かったのか彼女は千石に視線を向けず、それでいて適当な挨拶を送る。同じ学校で先輩なのにあまりにも軽い対応。流石に琴璃は手塚や不二にはこんなふうにできない。
「ひどっ。ちょっと、今の態度見た?琴璃ちゃん。俺だってそれなりの顔面偏差値だと思わない?」
千石が琴璃に泣きついてきても彼女は平然としている。ちゃっかり千石は、琴璃の名前を覚えている。
「えーそれ、自分で言っちゃうんですか。ていうかどうしたんですか、先輩も試合でしょ」
「俺はこの次の、隣のコートだよ。その前に水分補給したくてさ。キミが運んできたやつ、俺も貰っていいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「サンキュー」
千石はにこにこして琴璃の手からボトルを受け取る。さっきは腕ごと掴まれたから一瞬構えてしまう。けれど今はそんなことにはならなかった。そして3人で並んで跡部のコートを見る。
「流石だなぁ、跡部くんは。まだワンポイントもとられてないや」
試合カウントはあっという間に進み、あと1セット取れば跡部の勝利になる。
「先輩は跡部さんと戦ったことあるんですか?」
「あるよ。前にあったJr選抜合宿でね」
「結果は?」
「そりゃぁ、まあ、うん。跡部くんって最初から強かったから」
「ふーん」
適当に濁したので琴璃は試合の行方を察した。やはり跡部は強い。手塚に勝利した男なのだから。強い上にこんなに人を魅了している。琴璃も自然と跡部の姿を目で追っていた。
そこへちょうど向こうで対戦相手らしい選手が千石の名を呼んでいる。出番らしい。
「よーし。いいトコ見せちゃおっかな。琴璃ちゃん、応援しててね」
「あ、はい。頑張ってください」
「ふぁいとー」
自分の学校の選手が試合するというのにこの扱い。千石が何も言わないところからして日常的にこんな感じらしい。彼女はこの場から全く動く気がない。この合宿で初めて知り合った子。同じ1学年でとても話しやすかったからすぐ打ち解けた。もっとも最初に話しかけてきたのは千石で、その流れでマネージャーの彼女を紹介してくれた。
「琴璃ちゃんは?跡部さんのこと格好いいとか思わないの?」
「へ?」
「あーでも、手塚さんも不二さんもイケメンだから見慣れててそんなに感じないか。いーなぁ、そばにそーゆう人が居て」
千石は駄目なのか。聞きたかったけど間違いなく一蹴されると思ってやめた。どうやら彼女の中では千石は“そーゆう人”の対象外らしい。千石も整った容姿をしているのに。誰にでも愛想があって(それを女たらしだと彼女は言うが)、初対面だった琴璃にも親切にしてくれる。後輩に対してもとても面倒見の良さそうな性格。でも、跡部は千石とまた違うタイプの格好良さだ。自然と人を惹き付ける力がある。千石は、どちらかと言えば皆と協調してゆくような人。跡部はちょっと違う。皆と足並み揃えるというより、自分で統制するような存在。皆を率いて前を歩くような。大所帯の氷帝テニス部を見た時、上に立つのが凄くサマになっていた。あれだけでしか跡部を見たことがなかったけど、琴璃の中ではそんなイメージになっていた。
それに、跡部が格好いいかなんて誰が聞かれてもそう答えるだろう。琴璃だって同意見だ。ルックスは確かにいいと思う。あんな間近で見たけれど物凄く整った顔をしていた。男なのに肌は綺麗で髪もサラサラだったのがよく見えた。間違いなく格好良い。外見は。
でも、もう琴璃の中で跡部への印象は180度変わった。さっきの一件が無ければただ普通に格好良くてテニスが強い人だと思っていた。それ以上でもそれ以下でもない。だがどんなに強くて格好良かろうが、あんな絡まれ方をされればまず警戒する。跡部は余裕の顔をしていたけど琴璃は怒りさえ覚えたのに。琴璃は手塚と付き合っていないけど、あんなふうに言われて心穏やかにしていられない。馬鹿にされてると感じた。だから耐えられず言い返した。ただ、それを少し反省もしていた。さっき跡部に放った言葉に少しだけ後悔を感じている。言い返したくて、黙ってられなくて咄嗟に出た嫌味。言った琴璃がこんなにも後味が悪い。ならば跡部はどんな気分だろう。あの試合は、あの場にいた誰もが固唾を呑む試合だった。一瞬の余所見も許されない熱い戦いだったものを、怪我がどうとか言った自分を恥じたくなった。手塚はきっと、そんなふうに思ってなんかいないのに。
「あ。跡部さん勝った!」
千石の試合はそっちのけで彼女はずっと跡部の居るコートを見ていた。ストレート勝ちをおさめた跡部にきゃあきゃあ言っている。コートから離れる間際、跡部がこっちを向いた。そして、琴璃と目が合うとニヤリと笑った。本当に一瞬だったがばっちり目が合った。でも気まずくて、琴璃のほうからすぐに目を逸らしてしまった。
「ねぇ!ちょっと今こっち見たよね、笑ったよね!」
「うー、ん。どうだろ」
彼女は微笑みを向けられたとでも思ったようだが、琴璃にはそんなふうには見えない。何を意味していたのだろうか。分からないけどきっと、さっき琴璃が暴言を吐いたことに対しての何か、な気がした。
「貴様は……相変わらず目立ちたがり屋だな」
ベンチで休んでいる跡部に真田が話しかける。彼も今し方試合をしていた。無論、ストレートで勝利した。
「あん?俺はただ普通に試合してただけだぜ」
「公式戦などでもないのに、他校の女子から騒がれおって」
「ハン、自分の人気がねぇからって僻むなよ」
「んな、そんなわけなかろうが!」
「仕方ねぇだろう。俺様の魅力は隠せないんだからよ」
真顔でさらっとこんなこと言えるのはこの男ぐらいだ。真田はいちいち突っ込まなかった。もともと話が合わないと思ってたがそれを再確認した瞬間だった。
「だが1人だけはお前に笑顔を向けてなかった人間がいたぞ」
そう言って、真田は向かいのコートのほうに目を向ける。そこにはベンチで選手たちにドリンクやタオルを渡す琴璃の姿があった。彼女だけは、跡部に黄色い歓声を向けていなかった。それを真田は目敏く見つけていた。
「確か青学のマネージャーだな、彼女は。お前は彼女に嫌われているのか?」
「フン、知らねぇよ。大会で俺が手塚を倒したことを根に持ってるんじゃねぇのか」
ちょうど試合を終えた不二が琴璃のもとへやってきた。2人で何か喋りながら反対側のコートに目をやる。そこでは手塚が他校の選手と試合していた。琴璃は真っ直ぐ手塚を見ている。どこか見守るでもあるような、優しい目。
「仲が良いこった」
あんな目は自分には絶対に向けられないのだ。絶対に。
「遅かったね琴璃ちゃん。なんかあった?」
「ううん、ちょっと、迷っちゃって」
走ってきたせいもあって琴璃の心臓はドクドク煩い。額にうっすらかいた汗を慌てて手の甲で拭いた。
「見て、始まるよ」
彼女が指差すコート。そこには今さっきまで琴璃と会っていた人物がいた。相手はどこの学校の選手か分からない。一応、この選抜に選ばれたのだからそれなりに実力があるのだろう。けれど可哀相なくらい跡部への注目が強すぎて彼は霞んでしまっている。琴璃みたいに女子マネージャーを連れてきている学校は他にも居て、その彼女たちが集って氷帝の跡部に熱い視線を送っている。琴璃の隣にいる山吹の彼女も例外ではなかった。
「やっぱ格好いいなぁ、跡部さん」
「え」
「あの外見でテニスも上手くて成績優秀で、しかもお家が超お金持ちなんだって。スペック良すぎじゃない?」
「う、うん」
さっき遅れたのは跡部と会っていたからだ、と正直にこの子に言わなくて良かったと思った。彼女は跡部を見てうっとりしている。氷帝と対峙した時も物凄いギャラリーと声援だった。なんだあの派手な応援の仕方は、と驚いた。今日はあの日ほどではないが、跡部がサービスエースを決めた途端に小さな悲鳴が沸き上がる。彼女たちもここは合宿だから控えてるつもりだろうけど、今ここに居る女子はみんな跡部に釘付けになっている。もはや例外なのは琴璃のほうだった。
「はぁー、あんな格好いい人が山吹にも居たらなあ」
「いるじゃないか、ここに」
声がしたので振り返る、のは琴璃だけだった。
「あー千石先輩。お疲れ様です」
声だけで分かったのか彼女は千石に視線を向けず、それでいて適当な挨拶を送る。同じ学校で先輩なのにあまりにも軽い対応。流石に琴璃は手塚や不二にはこんなふうにできない。
「ひどっ。ちょっと、今の態度見た?琴璃ちゃん。俺だってそれなりの顔面偏差値だと思わない?」
千石が琴璃に泣きついてきても彼女は平然としている。ちゃっかり千石は、琴璃の名前を覚えている。
「えーそれ、自分で言っちゃうんですか。ていうかどうしたんですか、先輩も試合でしょ」
「俺はこの次の、隣のコートだよ。その前に水分補給したくてさ。キミが運んできたやつ、俺も貰っていいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「サンキュー」
千石はにこにこして琴璃の手からボトルを受け取る。さっきは腕ごと掴まれたから一瞬構えてしまう。けれど今はそんなことにはならなかった。そして3人で並んで跡部のコートを見る。
「流石だなぁ、跡部くんは。まだワンポイントもとられてないや」
試合カウントはあっという間に進み、あと1セット取れば跡部の勝利になる。
「先輩は跡部さんと戦ったことあるんですか?」
「あるよ。前にあったJr選抜合宿でね」
「結果は?」
「そりゃぁ、まあ、うん。跡部くんって最初から強かったから」
「ふーん」
適当に濁したので琴璃は試合の行方を察した。やはり跡部は強い。手塚に勝利した男なのだから。強い上にこんなに人を魅了している。琴璃も自然と跡部の姿を目で追っていた。
そこへちょうど向こうで対戦相手らしい選手が千石の名を呼んでいる。出番らしい。
「よーし。いいトコ見せちゃおっかな。琴璃ちゃん、応援しててね」
「あ、はい。頑張ってください」
「ふぁいとー」
自分の学校の選手が試合するというのにこの扱い。千石が何も言わないところからして日常的にこんな感じらしい。彼女はこの場から全く動く気がない。この合宿で初めて知り合った子。同じ1学年でとても話しやすかったからすぐ打ち解けた。もっとも最初に話しかけてきたのは千石で、その流れでマネージャーの彼女を紹介してくれた。
「琴璃ちゃんは?跡部さんのこと格好いいとか思わないの?」
「へ?」
「あーでも、手塚さんも不二さんもイケメンだから見慣れててそんなに感じないか。いーなぁ、そばにそーゆう人が居て」
千石は駄目なのか。聞きたかったけど間違いなく一蹴されると思ってやめた。どうやら彼女の中では千石は“そーゆう人”の対象外らしい。千石も整った容姿をしているのに。誰にでも愛想があって(それを女たらしだと彼女は言うが)、初対面だった琴璃にも親切にしてくれる。後輩に対してもとても面倒見の良さそうな性格。でも、跡部は千石とまた違うタイプの格好良さだ。自然と人を惹き付ける力がある。千石は、どちらかと言えば皆と協調してゆくような人。跡部はちょっと違う。皆と足並み揃えるというより、自分で統制するような存在。皆を率いて前を歩くような。大所帯の氷帝テニス部を見た時、上に立つのが凄くサマになっていた。あれだけでしか跡部を見たことがなかったけど、琴璃の中ではそんなイメージになっていた。
それに、跡部が格好いいかなんて誰が聞かれてもそう答えるだろう。琴璃だって同意見だ。ルックスは確かにいいと思う。あんな間近で見たけれど物凄く整った顔をしていた。男なのに肌は綺麗で髪もサラサラだったのがよく見えた。間違いなく格好良い。外見は。
でも、もう琴璃の中で跡部への印象は180度変わった。さっきの一件が無ければただ普通に格好良くてテニスが強い人だと思っていた。それ以上でもそれ以下でもない。だがどんなに強くて格好良かろうが、あんな絡まれ方をされればまず警戒する。跡部は余裕の顔をしていたけど琴璃は怒りさえ覚えたのに。琴璃は手塚と付き合っていないけど、あんなふうに言われて心穏やかにしていられない。馬鹿にされてると感じた。だから耐えられず言い返した。ただ、それを少し反省もしていた。さっき跡部に放った言葉に少しだけ後悔を感じている。言い返したくて、黙ってられなくて咄嗟に出た嫌味。言った琴璃がこんなにも後味が悪い。ならば跡部はどんな気分だろう。あの試合は、あの場にいた誰もが固唾を呑む試合だった。一瞬の余所見も許されない熱い戦いだったものを、怪我がどうとか言った自分を恥じたくなった。手塚はきっと、そんなふうに思ってなんかいないのに。
「あ。跡部さん勝った!」
千石の試合はそっちのけで彼女はずっと跡部の居るコートを見ていた。ストレート勝ちをおさめた跡部にきゃあきゃあ言っている。コートから離れる間際、跡部がこっちを向いた。そして、琴璃と目が合うとニヤリと笑った。本当に一瞬だったがばっちり目が合った。でも気まずくて、琴璃のほうからすぐに目を逸らしてしまった。
「ねぇ!ちょっと今こっち見たよね、笑ったよね!」
「うー、ん。どうだろ」
彼女は微笑みを向けられたとでも思ったようだが、琴璃にはそんなふうには見えない。何を意味していたのだろうか。分からないけどきっと、さっき琴璃が暴言を吐いたことに対しての何か、な気がした。
「貴様は……相変わらず目立ちたがり屋だな」
ベンチで休んでいる跡部に真田が話しかける。彼も今し方試合をしていた。無論、ストレートで勝利した。
「あん?俺はただ普通に試合してただけだぜ」
「公式戦などでもないのに、他校の女子から騒がれおって」
「ハン、自分の人気がねぇからって僻むなよ」
「んな、そんなわけなかろうが!」
「仕方ねぇだろう。俺様の魅力は隠せないんだからよ」
真顔でさらっとこんなこと言えるのはこの男ぐらいだ。真田はいちいち突っ込まなかった。もともと話が合わないと思ってたがそれを再確認した瞬間だった。
「だが1人だけはお前に笑顔を向けてなかった人間がいたぞ」
そう言って、真田は向かいのコートのほうに目を向ける。そこにはベンチで選手たちにドリンクやタオルを渡す琴璃の姿があった。彼女だけは、跡部に黄色い歓声を向けていなかった。それを真田は目敏く見つけていた。
「確か青学のマネージャーだな、彼女は。お前は彼女に嫌われているのか?」
「フン、知らねぇよ。大会で俺が手塚を倒したことを根に持ってるんじゃねぇのか」
ちょうど試合を終えた不二が琴璃のもとへやってきた。2人で何か喋りながら反対側のコートに目をやる。そこでは手塚が他校の選手と試合していた。琴璃は真っ直ぐ手塚を見ている。どこか見守るでもあるような、優しい目。
「仲が良いこった」
あんな目は自分には絶対に向けられないのだ。絶対に。