セレスティアルブルー
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「琴璃ちゃん、まだ1年なんやて」
「誰だそれは」
この合宿にはそれなりの人数が集められているので、試合形式の練習が多いかと思いきや、初日は基礎的な練習メニューが組まれていた。今は休憩に入り跡部はベンチに座ってドリンクを飲んでいる。そこへ忍足がやってきた。
「さっき会うたやん。青学のマネージャー」
そう言えば不二がそんなふうに呼んでいた気がする。
「琴璃ちゃんは手塚の彼女やないんやって」
「んなこと分かってる」
「じゃあ、なんであんなこと言ったん?」
ロビーで跡部が手塚につまらないちょっかいを出したことを言っている。跡部は思い出して軽く鼻で笑った。手塚はからかってもムキになってやり返してこない。そういう性格だから尚更茶化し甲斐がある。要するに跡部の中で手塚は暇つぶしみたいな扱いだった。そんな軽いノリで、適当に流して終わるかと思いきや、琴璃も巻き込んだから彼女の反感を買ってしまったのだが。
なんとなく、手塚は強さを認めている相手だから弄りたくなるのかもしれない。でも、相手が真田や幸村だったら跡部はそんな冗談を言ったりしない。冗談の通じない真田なんかには、多分一生構わない。
「あの子めっちゃ跡部のこと睨んどったな。嫌われたんちゃう」
「フン、そいつは困ったな」
ドリンクを脇に置いて足を組む。ちっともそんなふうに思ってはいない。
「けど、あんな子が青学のテニス部におったんやな。関東大会にもちゃんと来てたらしいで。あんなかわええ子、なんで気付かなかったんやろ」
「なになに、なんの話?」
そこへちょうど幸村がやってきた。すぐ後ろには真田もいた。幸村はヘラヘラして近付いてくる。練習メニューがつまらない、と顔に書いてある。対して真田は気難しい顔をして、幸村の腰巾着みたいについてきた。やっぱりコイツらには必要以上に絡む気にならない。
「あぁ、今な、青学にマネージャーがおったんやなって話してたん」
主に忍足がほぼ一方的に喋っていたのだが、あたかも跡部と話し込んでいたふうな説明をする。別にどうでも良かったので跡部は訂正しなかった。
「あぁ、あの子ね。可愛いよね。さっき手塚と歩いてるの見たよ。いーなぁ、青学。ねぇ真田、うちもマネージャー募ろうか」
「……必要ないと思うのだが」
「えー必要だよ。洗濯とかスコア付けとか備品管理とか部室の整理整頓とか」
「そんなものレギュラー以外のヤツにやらせればいい」
まさか跡部が発言するとは思わなかったので幸村と忍足が顔を見合わせる。ちゃんと、興味が無いようでも話は聞いていた。氷帝も立海もマネージャーが居ないのが当たり前だが、双方の部長はそれぞれ別の意見を持っているようだ。真田がずいと前に出てきた。
「ほう、跡部よ、珍しく意見が合うな。俺もそう思うぞ、幸村。人手は大いに足りているではないか」
「馬鹿だなあ、そういうことじゃないんだってば。一番肝心なこと。居たら目の保養になるでしょ」
「それや」
何故か忍足が同調した。
「暑くて死にそうな時も、寒くてやってらんない時も、あの子がいるから頑張ろうって思える。そういう存在って大事じゃない?」
「うんうん、分かるわ」
真田は口を半開きにしたまま動かなかった。意味がわからない、と顔に書いてある。常勝を掲げる強豪校の部長が下心でマネージャーを欲しがるなんて。真田が呆然とする気持ちを跡部は分からなくもなかった。
「みんな必要じゃない?癒やしって大事だよ」
「せやな」
「それをマネージャーというもので補うのは……」
真田は真っ当な意見をしているのに、幸村の圧に押されかけている。くだらない会話だな、と思いながらドリンクボトルを手に取ったがそこで初めて空だと気付いた。練習メニューは普段通りではないのに、ついいつものペースで飲んでしまっていた。相変わらず癒やしがどうだと話してる連中は放っておいた。施設内の備品や携行品があるブースに行ったが、場所がよく分からない。またしてもこんなところで、樺地を連れてくるべきだったと思う。
「どうぞ」
声がしたほうを向くと琴璃が居た。跡部に差し出してきたのはスクイズボトル。こっちを向いているけど視線は跡部の首元辺りを見ている。そうやって、いつまでも目を合わせようとしない。忍足の言った通り、どうやら本当に嫌われたようだ。
「大好きな手塚にはくれてやらなくて良いのか?」
余計な言葉が付いていたから琴璃は即座にムッとする。単純な女だなと思った。典型的な顔に出るタイプだ。
「みなさんのぶんもあります」
彼女の足元にはドリンクボトルが籠いっぱい入っていた。青学のマネージャーと言っても、ここでは学校関係なく全体的に仕事をするのだ。相変わらず跡部の顔を見ない琴璃。でもドリンクを寄越そうとしている。跡部は面白くなって琴璃の手ごとボトルを掴んだ。ぎょっとして、琴璃はついに跡部の顔を見た。望んだ通りのリアクションに跡部はニヤリと笑って見せる。
「手塚にはもう抱かれたのか?」
一瞬の硬直、の後、見る見る琴璃の顔は赤く染まってゆく。そして、初対面の時と同様に跡部を鋭く睨んだ。だが跡部は涼しい顔をしている。
「……どうしてそんなこと言うんですか」
「別に。お前は手塚が好きなんだろう?」
「そんなこと一言も言ってません」
「さっき否定しなかったじゃねぇか」
「否定しなかったからって決めつけないで」
跡部も本気で琴璃が手塚の女だなんて思っていない。
こんなにもムキになって跡部に反抗してくる。その態度を見たかった。本気で怒っている琴璃の反応を見て、楽しんでいる、ただの暇つぶし程度にしか思っていない。
「これ以上そういう冗談を言うのは辞めてください。私にも、手塚部長にも迷惑です」
迷惑と、女に真正面から言われたのは初めてだった。だからといってそんなことで跡部景吾は怯んだりしないけれど。逆に関心さえ覚えた。媚びもせず愛嬌もない琴璃は跡部の目に新鮮に映る。彼女が怒った原因を作り出したのは自分なのに。
足元の籠を両手で持って琴璃は出ていこうとする、その前にもう一度跡部に向き直った。
「部長が負けたのは肩を怪我していたからです。そうでなきゃ、貴方なんかに負けるはずない」
声が少し震えていた。怒りと緊張が合わさったせいだ。琴璃は関東大会の話をしている。勝利したのは跡部であったが、当時手塚は腕の調子が良くなかった。ハンデを背負って戦ったようなもの。あれでは正々堂々と勝ったとは言えない。それは跡部が1番よく分かっている。
あの試合は確かにハンデはあった。それでもものすごく中身の濃い、そして長い試合だった。手塚も跡部も全力を出し切った。もちろん琴璃も見ていたのだからよく分かっている。それを戦ってもいない琴璃にとやかく言われるのは当人にしてみればなかなか癇に障る。でも跡部は苛つきを見せない。むしろ口元は笑っている。どこまでも余裕だ。
言われっぱなしで悔しくて、琴璃は何か言い返してやろうと思って考えて出たのが悪口みたいになってしまった。手塚が聞いたら絶対に良い顔はしない。でも、止められなかった。
捨て台詞にしてここから立ち去るつもりだった。なのに籠が案外重くて、ドアを開けたまま運ぶのに苦戦する。思いのほか重量があってもたもたしてしまう。颯爽と出ていくはずだったのに。せめて跡部の顔は見るまいと背を向けてはいるけれど。2本しか腕はないから片手でドアを押さえながら、もう片方の腕でカゴを運ばなければならない。でも琴璃の腕力では片腕で持ち上げるのが辛い。
「フン、言うじゃねぇか、お前」
突如黒い影が出てきてドアが開閉する。琴璃の力ではない。振り向くとすぐ後ろに跡部が居た。
「あ……」
初めて、跡部の顔をこんな近くで見る。切れ長の青い瞳。素直に、綺麗だと思った。ずっと見てると吸い込まれそうなくらい。琴璃をずっと見つめて、捕らえて離さない。目が逸らせない。
「ほら、見とれてないでさっさと出ろよ」
はっとして琴璃は両手で籠を持ち直した。そして、礼も言わずに逃げるように部屋から出ていった。
「誰だそれは」
この合宿にはそれなりの人数が集められているので、試合形式の練習が多いかと思いきや、初日は基礎的な練習メニューが組まれていた。今は休憩に入り跡部はベンチに座ってドリンクを飲んでいる。そこへ忍足がやってきた。
「さっき会うたやん。青学のマネージャー」
そう言えば不二がそんなふうに呼んでいた気がする。
「琴璃ちゃんは手塚の彼女やないんやって」
「んなこと分かってる」
「じゃあ、なんであんなこと言ったん?」
ロビーで跡部が手塚につまらないちょっかいを出したことを言っている。跡部は思い出して軽く鼻で笑った。手塚はからかってもムキになってやり返してこない。そういう性格だから尚更茶化し甲斐がある。要するに跡部の中で手塚は暇つぶしみたいな扱いだった。そんな軽いノリで、適当に流して終わるかと思いきや、琴璃も巻き込んだから彼女の反感を買ってしまったのだが。
なんとなく、手塚は強さを認めている相手だから弄りたくなるのかもしれない。でも、相手が真田や幸村だったら跡部はそんな冗談を言ったりしない。冗談の通じない真田なんかには、多分一生構わない。
「あの子めっちゃ跡部のこと睨んどったな。嫌われたんちゃう」
「フン、そいつは困ったな」
ドリンクを脇に置いて足を組む。ちっともそんなふうに思ってはいない。
「けど、あんな子が青学のテニス部におったんやな。関東大会にもちゃんと来てたらしいで。あんなかわええ子、なんで気付かなかったんやろ」
「なになに、なんの話?」
そこへちょうど幸村がやってきた。すぐ後ろには真田もいた。幸村はヘラヘラして近付いてくる。練習メニューがつまらない、と顔に書いてある。対して真田は気難しい顔をして、幸村の腰巾着みたいについてきた。やっぱりコイツらには必要以上に絡む気にならない。
「あぁ、今な、青学にマネージャーがおったんやなって話してたん」
主に忍足がほぼ一方的に喋っていたのだが、あたかも跡部と話し込んでいたふうな説明をする。別にどうでも良かったので跡部は訂正しなかった。
「あぁ、あの子ね。可愛いよね。さっき手塚と歩いてるの見たよ。いーなぁ、青学。ねぇ真田、うちもマネージャー募ろうか」
「……必要ないと思うのだが」
「えー必要だよ。洗濯とかスコア付けとか備品管理とか部室の整理整頓とか」
「そんなものレギュラー以外のヤツにやらせればいい」
まさか跡部が発言するとは思わなかったので幸村と忍足が顔を見合わせる。ちゃんと、興味が無いようでも話は聞いていた。氷帝も立海もマネージャーが居ないのが当たり前だが、双方の部長はそれぞれ別の意見を持っているようだ。真田がずいと前に出てきた。
「ほう、跡部よ、珍しく意見が合うな。俺もそう思うぞ、幸村。人手は大いに足りているではないか」
「馬鹿だなあ、そういうことじゃないんだってば。一番肝心なこと。居たら目の保養になるでしょ」
「それや」
何故か忍足が同調した。
「暑くて死にそうな時も、寒くてやってらんない時も、あの子がいるから頑張ろうって思える。そういう存在って大事じゃない?」
「うんうん、分かるわ」
真田は口を半開きにしたまま動かなかった。意味がわからない、と顔に書いてある。常勝を掲げる強豪校の部長が下心でマネージャーを欲しがるなんて。真田が呆然とする気持ちを跡部は分からなくもなかった。
「みんな必要じゃない?癒やしって大事だよ」
「せやな」
「それをマネージャーというもので補うのは……」
真田は真っ当な意見をしているのに、幸村の圧に押されかけている。くだらない会話だな、と思いながらドリンクボトルを手に取ったがそこで初めて空だと気付いた。練習メニューは普段通りではないのに、ついいつものペースで飲んでしまっていた。相変わらず癒やしがどうだと話してる連中は放っておいた。施設内の備品や携行品があるブースに行ったが、場所がよく分からない。またしてもこんなところで、樺地を連れてくるべきだったと思う。
「どうぞ」
声がしたほうを向くと琴璃が居た。跡部に差し出してきたのはスクイズボトル。こっちを向いているけど視線は跡部の首元辺りを見ている。そうやって、いつまでも目を合わせようとしない。忍足の言った通り、どうやら本当に嫌われたようだ。
「大好きな手塚にはくれてやらなくて良いのか?」
余計な言葉が付いていたから琴璃は即座にムッとする。単純な女だなと思った。典型的な顔に出るタイプだ。
「みなさんのぶんもあります」
彼女の足元にはドリンクボトルが籠いっぱい入っていた。青学のマネージャーと言っても、ここでは学校関係なく全体的に仕事をするのだ。相変わらず跡部の顔を見ない琴璃。でもドリンクを寄越そうとしている。跡部は面白くなって琴璃の手ごとボトルを掴んだ。ぎょっとして、琴璃はついに跡部の顔を見た。望んだ通りのリアクションに跡部はニヤリと笑って見せる。
「手塚にはもう抱かれたのか?」
一瞬の硬直、の後、見る見る琴璃の顔は赤く染まってゆく。そして、初対面の時と同様に跡部を鋭く睨んだ。だが跡部は涼しい顔をしている。
「……どうしてそんなこと言うんですか」
「別に。お前は手塚が好きなんだろう?」
「そんなこと一言も言ってません」
「さっき否定しなかったじゃねぇか」
「否定しなかったからって決めつけないで」
跡部も本気で琴璃が手塚の女だなんて思っていない。
こんなにもムキになって跡部に反抗してくる。その態度を見たかった。本気で怒っている琴璃の反応を見て、楽しんでいる、ただの暇つぶし程度にしか思っていない。
「これ以上そういう冗談を言うのは辞めてください。私にも、手塚部長にも迷惑です」
迷惑と、女に真正面から言われたのは初めてだった。だからといってそんなことで跡部景吾は怯んだりしないけれど。逆に関心さえ覚えた。媚びもせず愛嬌もない琴璃は跡部の目に新鮮に映る。彼女が怒った原因を作り出したのは自分なのに。
足元の籠を両手で持って琴璃は出ていこうとする、その前にもう一度跡部に向き直った。
「部長が負けたのは肩を怪我していたからです。そうでなきゃ、貴方なんかに負けるはずない」
声が少し震えていた。怒りと緊張が合わさったせいだ。琴璃は関東大会の話をしている。勝利したのは跡部であったが、当時手塚は腕の調子が良くなかった。ハンデを背負って戦ったようなもの。あれでは正々堂々と勝ったとは言えない。それは跡部が1番よく分かっている。
あの試合は確かにハンデはあった。それでもものすごく中身の濃い、そして長い試合だった。手塚も跡部も全力を出し切った。もちろん琴璃も見ていたのだからよく分かっている。それを戦ってもいない琴璃にとやかく言われるのは当人にしてみればなかなか癇に障る。でも跡部は苛つきを見せない。むしろ口元は笑っている。どこまでも余裕だ。
言われっぱなしで悔しくて、琴璃は何か言い返してやろうと思って考えて出たのが悪口みたいになってしまった。手塚が聞いたら絶対に良い顔はしない。でも、止められなかった。
捨て台詞にしてここから立ち去るつもりだった。なのに籠が案外重くて、ドアを開けたまま運ぶのに苦戦する。思いのほか重量があってもたもたしてしまう。颯爽と出ていくはずだったのに。せめて跡部の顔は見るまいと背を向けてはいるけれど。2本しか腕はないから片手でドアを押さえながら、もう片方の腕でカゴを運ばなければならない。でも琴璃の腕力では片腕で持ち上げるのが辛い。
「フン、言うじゃねぇか、お前」
突如黒い影が出てきてドアが開閉する。琴璃の力ではない。振り向くとすぐ後ろに跡部が居た。
「あ……」
初めて、跡部の顔をこんな近くで見る。切れ長の青い瞳。素直に、綺麗だと思った。ずっと見てると吸い込まれそうなくらい。琴璃をずっと見つめて、捕らえて離さない。目が逸らせない。
「ほら、見とれてないでさっさと出ろよ」
はっとして琴璃は両手で籠を持ち直した。そして、礼も言わずに逃げるように部屋から出ていった。