セレスティアルブルー
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昨日の夕立が嘘のように青い空が広がっている。今日は合宿最終日。午前中だけ活動がある為、琴璃はコートで試合をしている選手たちの為にドリンクを用意していた。そこへ、どこかの学校の選手と試合を終えた不二が琴璃のもとへやって来た。お疲れ様です、とタオルを差し出す。
「ありがとう」
「合宿も終わりですね。お疲れ様でした」
「琴璃もね。合宿は慣れないことばっかりで、色々大変だったんじゃない?」
「そうですね……でも、色々勉強になりましたし、他校の子とも仲良くなれました」
「あぁ、山吹のマネージャーか。よく一緒に居たよね」
「はい、同じ部屋だったんです」
その彼女は今、屋内コートのほうの手伝いに行っている。
「そう言えば琴璃、怪我は?もう平気なの?」
「あ、はい。ちょっとお風呂がしみますけど、それ以外はもう平気です」
「そっか、良かった。手塚もすごく心配してたから」
不二も手塚も、心から心配してくれる。この合宿にはお手伝いのような位置で来たのに、余計な心配をかけてしまった。そのことを琴璃は気に病んでいた。何か少しでも役に立って挽回しよう、と。そう思っていつも以上に気を使っていた。なのに、昨日もただ眼鏡ケースを取りに行ってくるだけのことが出来なかった。あの後数十分してから慌てて思い出して部屋に戻ったけど、部屋には跡部も真田も居なかった。眼鏡ケースも見当たらなかった。どうしようと廊下を行ったり来たりしていたら手塚が現れて。ケースは真田から受け取ったと言われた。ほっとしたけど申し訳なくもなった。そんな簡単なお遣いもできないなんて。私はこの合宿で役に立ったのかな。つい、弱気になってしまう。そんな琴璃の肩に不二は優しく手を置く。
「キミはいつも、力になってくれてるよ」
まるで琴璃の心を見透かすように。今1番欲しかった言葉をくれた。その優しさが嬉しくて。ちょっとだけ泣きそうになったのでコートに視線を逸らす。あまりにも不自然だったと思う。
なんとなく、彼の姿を探す。跡部はコートに居なかった。居なくて良かったと思う。直接会ったらまだ昨日のことを思い出してあたふたしてしまうだろうから。でももう、今日で合宿は終わる。跡部は氷帝の生徒なのだからもう会うことはない。
「手塚はキミの、お父さんみたいだよね」
「へっ」
唐突な話題。手塚が自分のお父さん。考えたこともなかったけど、不二の言いたいことが分かったような気がする。手塚はいつも、保護者のような立ち位置で琴璃を気にかけてくれているから。でもせめてお兄さんのほうが聞こえがいい気がする。
「昨日さ、立海のほうのお父さんがすごい勢いでやってきてさ。おたくの娘さんが大変なことになってますよー、って。最初何言ってるのか分からなかったよ。勝手に騒いで勝手に焦ってるんだもん」
「へ……?」
「本当はそんな言い方じゃないよ?今のは大げさに盛ってみたんだけど。とにかく何とかしないと、って彼なりに思ったみたいで僕らに告げ口しにきたんだ。笑っちゃうよね」
楽しそうな不二。でも琴璃は意味が全く分からないから笑えない。琴璃の曖昧な反応を気にすることなく不二は続ける。
「手塚はさ、キミがとられるのが嫌だから何も言わないんだよ。あ、恋愛的な意味じゃなくてね。何せ、お父さんだから」
ますます意味が分からない。
「でも僕は、キミに笑っていてほしいし我慢とかしてほしくないと思ってる。この合宿ももう終わるしね」
その時、風が吹いた。まるで不二が操っているかのように、彼の言葉を乗せるように。琴璃の前髪を揺らすくらいの、やや強めの風。不二は変わらず微笑んでいる。
「いいかい琴璃、今日が終わったら簡単には会えなくなっちゃうんだ。だから、言いたいことはちゃんと伝えたほうが良いんじゃないかな」
話の内容を琴璃が理解してるのかなんてどうでもいいようで。不二はもう行ってしまった。残されて、不二に今言われたことを頭の中で繰り返す。
今日が終わったら。会えなくなっちゃう。心の中で繰り返す。ようやく何かがすとんと落ちてきた。同時に不二の言いたいことが分かった。
今日で合宿も終わり。まだ少し夏休みは続くけど、この集団と明日は会わない。山吹の子とは仲良くなったから連絡先を交換したけど、その他の人たちは違う。また会おうと思っても自力で呼び出す術がない。コートの向こうを見つめているのに、琴璃の頭の中は跡部でいっぱいになっていた。彼とは学校も学年も違う。だからきっと、話せるのは今日をおいて他にない。言いたいことはもう今日しか伝えられない。
「……でも、」
それでも。言いたいことは、言いたいままで良い。伝えたところで何かが起こるのかな、なんて思ってしまう。ひどく現実的な考えの自分に驚く。でも、彼は自分とは世界が違いすぎる。たった数日間近くに居ただけでそれが分かってしまった。心の中で、勝手に無理だと線を引いてしまっている。
琴璃にとって手塚は憧れだ。果たして跡部も、そうなのかもしれない。そうやって無理矢理思うことにする。特別な感情に気づいてないふりをする。もしかしたら、そこまで見抜いて不二は琴璃にああ言ったのかもしれないけど。
ただ、合宿中跡部に助けられたのは事実だ。とても感謝している。だから、それはちゃんと伝えようと思った。
なんとなく、琴璃は1人空を見上げる。思えば合宿中はほとんど晴天だった。綺麗な青色が天から降り注いでいるように。普通の青空でも琴璃にとって特別に感じる。彼の瞳と同じ青だから。青色が好きになった。今日の空はどこまでも突き抜けるように澄んでいる。そんな空が自分に何かを言っているような気がした。今の自分に勇気をくれそうな気がする。でも、琴璃にはそれが、“伝えなさい”とは言ってるふうには感じられなかった。
無事に合宿は終わり、選手たちは駐車場で屯していた。皆、送迎用のバスの前で集まっている。先程解散になったのでもう間もなく出発するといった具合だ。
氷帝学園はさすがお坊ちゃま学校というべきか、普通は他の学校同士で乗り合わせなのに、彼らの迎えのバスは学校が直接手配したものだった。遠くからでも『帝』のロゴですぐ分かる。
そのバスの側に跡部は居た。腕を組んで立っている。それも不機嫌そうな顔をして。容易く他校の女子たちが話しかけられないほどのオーラだった。最後の最後に跡部に話しかけたそうな女子がいっぱい居たけど、その不穏な空気を読んで辞めていた。その様子を琴璃も数メートル離れて見ていた。何を怒っているのか。彼はバスにもたれたまま険しい顔をしている。近寄りがたいけど、でも、もうこれを逃したらチャンスはない。勇気を出して駆け寄った。
「跡部さん」
跡部は琴璃に視線は向けたがやっぱり不機嫌そうな顔。圧倒されそうになる。でもこの気迫に負けじと正面から跡部と向き合う。あの、と琴璃が話し出すより前に跡部が口を開いた。
「お前、忍足のヤロウを見たか?」
「え、忍足さん……ですか。いえ、見てないですけど」
「ッチ、あのヤロウ何処行きやがった」
「あ、揃わないと帰れないですもんね」
「そうじゃねぇ。アイツ、俺様の荷物を持たされるのが嫌でわざと時間ギリギリまで姿を現さねぇつもりだ。ったく」
悪態をついてから、もういい、と自身の荷物に手を伸ばそうとする。
「あ、あの、跡部さん」
一瞬だけ躊躇った。瞬間的に不二の言葉が脳裏に蘇る。もう会えないかもしれない。それを考えたらやっぱり後悔したくないから。跡部はじっと琴璃を見つめている。ちゃんと、琴璃が何か話すのを待ってやっている。
琴璃はごくりと唾を飲み込んで。そして、
「短い期間でしたがお世話になりました。跡部さんにはいろいろ助けてもらったし、ご迷惑もおかけしました」
思いが溢れそうになる。でも困らせたくない。自分本位の気持ちなんて、投げられてもきっとこの人を困らせる気がする。
「跡部さんに会えて良かったです。本当に、いろいろありがとうございました」
だから感謝だけを伝えよう。最後は笑顔でお別れを言おう。
「では、これにて!」
最後に深く頭を下げてから琴璃はぐるりと背を向けて走り出す。でもその瞬間。跡部は琴璃の着ているパーカーのフードに何かを放り投げ入れた。気づかない琴璃はあっという間に走り去って行ってしまう。跡部の反応を見ることもなく全速力で、まるで逃げるように。
「なんだアイツは。武士かよ」
「なんや自分、顔がニヤけとんで」
何処からともなく忍足が姿を現す。
「うるせぇな。つーか、テメェはどこに行ってたんだよ」
「どこって。今日で合宿終わりやから色んな人に挨拶とかしてたんや。そしたらなんと、他校のマネージャーの子らに連絡先聞かれてもうて」
「ったくこのエロメガネが」
悪口を言われているのに忍足はへらりと笑った。
「あ、そいや琴璃ちゃんにまだ挨拶してへんかった」
「アイツなら今さっきまでここに居たぜ」
そこへ1台のバスが2人の前を横切る。窓際には手塚が見えた。跡部に気づいて挨拶代わりに軽く手を挙げた。ということは青学連中は今のバスに乗り込んでいたことになる。琴璃は行ってしまったのだ。あーあ、と忍足は情けない声を出す。
「はぁー。琴璃ちゃん、最後に話したかったわ」
「別に、そう遠くないうちにアイツは会いに来る」
「え?なんで?」
跡部はそれには答えなかった。そして、やっぱり忍足に荷物を持たせて、自分はさっさとバスに乗り込んだ。バスのステップに上がる前に空を見上げる。暑さを忘れさせるくらいの、綺麗な澄んだ青空だった。
「そういえば見なかったな」
琴璃が嬉しそうに見せてきた青い色した砂糖菓子。昨日の暗闇じゃ分からなかったが、本当はどんな色をしていたんだろうか。この空の青とどっちが綺麗なんだろう。比べて確認したかったけど、彼女はもう行ってしまった。やがてバスがゆっくり動き出す。跡部は窓際に座り暫くこの青い空を見つめていた。
「ありがとう」
「合宿も終わりですね。お疲れ様でした」
「琴璃もね。合宿は慣れないことばっかりで、色々大変だったんじゃない?」
「そうですね……でも、色々勉強になりましたし、他校の子とも仲良くなれました」
「あぁ、山吹のマネージャーか。よく一緒に居たよね」
「はい、同じ部屋だったんです」
その彼女は今、屋内コートのほうの手伝いに行っている。
「そう言えば琴璃、怪我は?もう平気なの?」
「あ、はい。ちょっとお風呂がしみますけど、それ以外はもう平気です」
「そっか、良かった。手塚もすごく心配してたから」
不二も手塚も、心から心配してくれる。この合宿にはお手伝いのような位置で来たのに、余計な心配をかけてしまった。そのことを琴璃は気に病んでいた。何か少しでも役に立って挽回しよう、と。そう思っていつも以上に気を使っていた。なのに、昨日もただ眼鏡ケースを取りに行ってくるだけのことが出来なかった。あの後数十分してから慌てて思い出して部屋に戻ったけど、部屋には跡部も真田も居なかった。眼鏡ケースも見当たらなかった。どうしようと廊下を行ったり来たりしていたら手塚が現れて。ケースは真田から受け取ったと言われた。ほっとしたけど申し訳なくもなった。そんな簡単なお遣いもできないなんて。私はこの合宿で役に立ったのかな。つい、弱気になってしまう。そんな琴璃の肩に不二は優しく手を置く。
「キミはいつも、力になってくれてるよ」
まるで琴璃の心を見透かすように。今1番欲しかった言葉をくれた。その優しさが嬉しくて。ちょっとだけ泣きそうになったのでコートに視線を逸らす。あまりにも不自然だったと思う。
なんとなく、彼の姿を探す。跡部はコートに居なかった。居なくて良かったと思う。直接会ったらまだ昨日のことを思い出してあたふたしてしまうだろうから。でももう、今日で合宿は終わる。跡部は氷帝の生徒なのだからもう会うことはない。
「手塚はキミの、お父さんみたいだよね」
「へっ」
唐突な話題。手塚が自分のお父さん。考えたこともなかったけど、不二の言いたいことが分かったような気がする。手塚はいつも、保護者のような立ち位置で琴璃を気にかけてくれているから。でもせめてお兄さんのほうが聞こえがいい気がする。
「昨日さ、立海のほうのお父さんがすごい勢いでやってきてさ。おたくの娘さんが大変なことになってますよー、って。最初何言ってるのか分からなかったよ。勝手に騒いで勝手に焦ってるんだもん」
「へ……?」
「本当はそんな言い方じゃないよ?今のは大げさに盛ってみたんだけど。とにかく何とかしないと、って彼なりに思ったみたいで僕らに告げ口しにきたんだ。笑っちゃうよね」
楽しそうな不二。でも琴璃は意味が全く分からないから笑えない。琴璃の曖昧な反応を気にすることなく不二は続ける。
「手塚はさ、キミがとられるのが嫌だから何も言わないんだよ。あ、恋愛的な意味じゃなくてね。何せ、お父さんだから」
ますます意味が分からない。
「でも僕は、キミに笑っていてほしいし我慢とかしてほしくないと思ってる。この合宿ももう終わるしね」
その時、風が吹いた。まるで不二が操っているかのように、彼の言葉を乗せるように。琴璃の前髪を揺らすくらいの、やや強めの風。不二は変わらず微笑んでいる。
「いいかい琴璃、今日が終わったら簡単には会えなくなっちゃうんだ。だから、言いたいことはちゃんと伝えたほうが良いんじゃないかな」
話の内容を琴璃が理解してるのかなんてどうでもいいようで。不二はもう行ってしまった。残されて、不二に今言われたことを頭の中で繰り返す。
今日が終わったら。会えなくなっちゃう。心の中で繰り返す。ようやく何かがすとんと落ちてきた。同時に不二の言いたいことが分かった。
今日で合宿も終わり。まだ少し夏休みは続くけど、この集団と明日は会わない。山吹の子とは仲良くなったから連絡先を交換したけど、その他の人たちは違う。また会おうと思っても自力で呼び出す術がない。コートの向こうを見つめているのに、琴璃の頭の中は跡部でいっぱいになっていた。彼とは学校も学年も違う。だからきっと、話せるのは今日をおいて他にない。言いたいことはもう今日しか伝えられない。
「……でも、」
それでも。言いたいことは、言いたいままで良い。伝えたところで何かが起こるのかな、なんて思ってしまう。ひどく現実的な考えの自分に驚く。でも、彼は自分とは世界が違いすぎる。たった数日間近くに居ただけでそれが分かってしまった。心の中で、勝手に無理だと線を引いてしまっている。
琴璃にとって手塚は憧れだ。果たして跡部も、そうなのかもしれない。そうやって無理矢理思うことにする。特別な感情に気づいてないふりをする。もしかしたら、そこまで見抜いて不二は琴璃にああ言ったのかもしれないけど。
ただ、合宿中跡部に助けられたのは事実だ。とても感謝している。だから、それはちゃんと伝えようと思った。
なんとなく、琴璃は1人空を見上げる。思えば合宿中はほとんど晴天だった。綺麗な青色が天から降り注いでいるように。普通の青空でも琴璃にとって特別に感じる。彼の瞳と同じ青だから。青色が好きになった。今日の空はどこまでも突き抜けるように澄んでいる。そんな空が自分に何かを言っているような気がした。今の自分に勇気をくれそうな気がする。でも、琴璃にはそれが、“伝えなさい”とは言ってるふうには感じられなかった。
無事に合宿は終わり、選手たちは駐車場で屯していた。皆、送迎用のバスの前で集まっている。先程解散になったのでもう間もなく出発するといった具合だ。
氷帝学園はさすがお坊ちゃま学校というべきか、普通は他の学校同士で乗り合わせなのに、彼らの迎えのバスは学校が直接手配したものだった。遠くからでも『帝』のロゴですぐ分かる。
そのバスの側に跡部は居た。腕を組んで立っている。それも不機嫌そうな顔をして。容易く他校の女子たちが話しかけられないほどのオーラだった。最後の最後に跡部に話しかけたそうな女子がいっぱい居たけど、その不穏な空気を読んで辞めていた。その様子を琴璃も数メートル離れて見ていた。何を怒っているのか。彼はバスにもたれたまま険しい顔をしている。近寄りがたいけど、でも、もうこれを逃したらチャンスはない。勇気を出して駆け寄った。
「跡部さん」
跡部は琴璃に視線は向けたがやっぱり不機嫌そうな顔。圧倒されそうになる。でもこの気迫に負けじと正面から跡部と向き合う。あの、と琴璃が話し出すより前に跡部が口を開いた。
「お前、忍足のヤロウを見たか?」
「え、忍足さん……ですか。いえ、見てないですけど」
「ッチ、あのヤロウ何処行きやがった」
「あ、揃わないと帰れないですもんね」
「そうじゃねぇ。アイツ、俺様の荷物を持たされるのが嫌でわざと時間ギリギリまで姿を現さねぇつもりだ。ったく」
悪態をついてから、もういい、と自身の荷物に手を伸ばそうとする。
「あ、あの、跡部さん」
一瞬だけ躊躇った。瞬間的に不二の言葉が脳裏に蘇る。もう会えないかもしれない。それを考えたらやっぱり後悔したくないから。跡部はじっと琴璃を見つめている。ちゃんと、琴璃が何か話すのを待ってやっている。
琴璃はごくりと唾を飲み込んで。そして、
「短い期間でしたがお世話になりました。跡部さんにはいろいろ助けてもらったし、ご迷惑もおかけしました」
思いが溢れそうになる。でも困らせたくない。自分本位の気持ちなんて、投げられてもきっとこの人を困らせる気がする。
「跡部さんに会えて良かったです。本当に、いろいろありがとうございました」
だから感謝だけを伝えよう。最後は笑顔でお別れを言おう。
「では、これにて!」
最後に深く頭を下げてから琴璃はぐるりと背を向けて走り出す。でもその瞬間。跡部は琴璃の着ているパーカーのフードに何かを放り投げ入れた。気づかない琴璃はあっという間に走り去って行ってしまう。跡部の反応を見ることもなく全速力で、まるで逃げるように。
「なんだアイツは。武士かよ」
「なんや自分、顔がニヤけとんで」
何処からともなく忍足が姿を現す。
「うるせぇな。つーか、テメェはどこに行ってたんだよ」
「どこって。今日で合宿終わりやから色んな人に挨拶とかしてたんや。そしたらなんと、他校のマネージャーの子らに連絡先聞かれてもうて」
「ったくこのエロメガネが」
悪口を言われているのに忍足はへらりと笑った。
「あ、そいや琴璃ちゃんにまだ挨拶してへんかった」
「アイツなら今さっきまでここに居たぜ」
そこへ1台のバスが2人の前を横切る。窓際には手塚が見えた。跡部に気づいて挨拶代わりに軽く手を挙げた。ということは青学連中は今のバスに乗り込んでいたことになる。琴璃は行ってしまったのだ。あーあ、と忍足は情けない声を出す。
「はぁー。琴璃ちゃん、最後に話したかったわ」
「別に、そう遠くないうちにアイツは会いに来る」
「え?なんで?」
跡部はそれには答えなかった。そして、やっぱり忍足に荷物を持たせて、自分はさっさとバスに乗り込んだ。バスのステップに上がる前に空を見上げる。暑さを忘れさせるくらいの、綺麗な澄んだ青空だった。
「そういえば見なかったな」
琴璃が嬉しそうに見せてきた青い色した砂糖菓子。昨日の暗闇じゃ分からなかったが、本当はどんな色をしていたんだろうか。この空の青とどっちが綺麗なんだろう。比べて確認したかったけど、彼女はもう行ってしまった。やがてバスがゆっくり動き出す。跡部は窓際に座り暫くこの青い空を見つめていた。