セレスティアルブルー
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バスから降りて天を仰ぐ。8月の、夏真っ盛りらしい綺麗な青空が広がっている。けれどのんびり眺めている暇はなく、そのまますぐに施設の中へ入ってゆく。どうせ後で嫌というほど外で過ごすのだ。空の青さを感じていられる余裕があるだろうか。ここに来ている者たちはそれなりの実力があるのだろうけど。どうせ暇だろう。跡部は気だるげに荷物を肩に担いだ。今日は運んでくれる後輩が居ないから自分で動かなければならない。その時点で既に面倒くさかった。
「なかなかええとこやん」
「まぁ及第点ってとこだな」
外観はそんなに悪くはなかった。合宿所のエントランスホールに足を踏み入れる。中も総じて清潔感のある印象。外気温と違って涼しい空間だった。ここは都内の施設だが近郊地からは少し離れている。そのため、合宿所の裏は建物なんて無くちょっとした山林になっていた。あの都心のうだるような暑さほどではない。合宿参加の話がきた時は一体どんな僻地でさせられるんだ、と嘆息したのだが、思ったよりはちゃんとしている。
「やぁやぁ、氷帝のおふたりさん」
見知った人間がロビーのほうから姿を現した。山吹の千石だった。跡部たちを見つけてにこにこと近寄ってくる。
「久しぶり、跡部くん。Jr選抜合宿以来だねぇ。嬉しいな、また会えて」
「誰だったか、テメェは」
跡部は直ぐ側のソファに荷物を置き自分もそこに座る。
「ちょっとー。いくらなんでもそれは酷いじゃないか」
「うるせぇな。お前の高すぎるテンションにうんざりしてんだよ」
「えぇっ、なんで。跡部くんはこの合宿楽しみじゃないの?」
「全く」
大きな大会が終わったばかりだというのに何故こんな合宿に参加しなければいけないのか。今日から5日ほど、ここで選ばれた者がテニス合宿をする。関東地区のみのテニス強豪校が対象とされ、その中の代表選手2名が参加をするのだが、氷帝は跡部と忍足が招集された。ついこないだ関東大会を終えたばかりで、氷帝は青学に敗れた。色々、思うことはある。跡部としては、こんな合宿に出ている暇があったら次の大きな大会に向けて己の部の練習に力を入れたいのに。
「やぁ、キミたちも一緒なんだね」
そこへタイミング良く姿を現す2人の人物。跡部たちの存在に気付いて手塚と不二は足を止める。
「青学はお前らが参加か」
妥当だと思った。忍足が呑気に久しぶりやなぁ、と話しかけている。久しぶりってほど間は空いていないのに。どちらかというとまだ興奮冷めやらない。忍足は普段通りに接しているが跡部はそういう気になれなかった。それぐらい、関東大会の敗北の悔しさがまだ消えずに残っている。態度に表すとか、そんな子どもじみたことはしないけれど。けれどこんなに早く彼らと試合ができるチャンスがきたのは願ってもないことだった。そういう意味ではこの合宿に参加できたのは良いことなのかもしれない。
青学2人の後ろから別の人間が姿を見せた。忍足はお?、と今度は間抜けな声を出す。意外なことに女子だった。
「受付手続きしてきます」
彼女は一旦荷物をロビーのソファに置き、忍足にぺこりと頭を下げつつ歩いてくる。受付する場所に行くには跡部を越えないとならない。
「フン。なんだ手塚。女同伴で来るたぁ、随分余裕じゃねぇか」
ちょうど跡部の横を通る時に言った。彼女が手塚の女だなんて。そんなわけがないと分かっている。でもそんな意地悪を言ったのは本当に、ただの気まぐれだった。らしくない、無駄な絡み方をする。跡部の言葉を聞いて彼女はキッと睨んだ。でも足は止めずに通り過ぎる。その表情があまりに敵意丸出しで思わず笑いそうになった。女に睨まれた経験はあるけど、ここまで嫌悪感を表された試しはなかった。だから余計に彼女の反応が新鮮で面白く映る。
「彼女はうちのマネージャーだよ。待って琴璃、僕も行くよ」
「マネージャーだと?」
「おや、跡部くん知らないの?」
不二は琴璃と呼んだ彼女とフロントへ行ってしまった。その代わりに千石が会話に入り込んできた。
「何の話だ」
「そっかあ、氷帝にはマネージャーって居ないんだっけ。でも、キミのことだからてっきり樺地くんあたりを代わりに連れてくるんだと思ってた」
「おい千石。テメェ勿体ぶらねぇでさっさと言え」
「合宿に参加できるのは各校2名だが、それとは別に、選手のサポート及び合宿生活における雑務を担う役として1人までの参加が認められている」
代わりに手塚が答えた。
「ま、要するに雑用ってことやな」
「そういうコト。ちなみにウチは俺と亜久津とマネージャーが来てるよ。見た感じだと、どこもみんな男子2人と女の子がいるよねぇ」
“選手2人とマネージャー”と言わず性別で表現する。しかもわざわざ女子のほうは丁寧に女の子呼びをした。コイツはどういうつもりで合宿に来てんだ。跡部は呆れて小さく溜息を吐いた。世間話はそこら辺にしてそろそろ部屋に向かおうと思った。もう既に跡部たちの受付は済んでいる。忍足が青学の連中と挨拶を交わしている間にさっさと手続きを済ませておいた。
「おらよ」
「うわっと。へ、何?」
「テメェのルームキーだ」
2つ持っていた鍵の片方を忍足に投げる。部屋はそれぞれに1室用意されている。跡部は当然だと思っていたが忍足はそれを知って喜んだ。およそ1週間の合宿期間、誰かと相部屋なんて跡部には考えられない。荷物を持ってエレベーター乗り場へ向かう。成程こういう時に樺地がいれば良かったと思った。
ここから去る時に後ろからお待たせしました、と声がした。青学の連中も受付が終わったらしい。琴璃が手塚と不二に鍵やプリントを渡している。千石は意味もなくニコニコして側に突っ立っている。まだいやがる、と思った。跡部はちらりと琴璃を見る。青学にマネージャーなんて居たのか。1番直近で青学と戦ったのはついこないだの関東大会だ。しかしあの時は彼女の存在を認識していない、と思う。というのも、跡部はあまり他人に興味がない。女1人が青学側のベンチに居たところで大して記憶に残るはずがなかった。
琴璃は青学2人と千石を交えて仲良く談笑していた。千石はこんな所でもナンパしている。琴璃に好きな食べ物だの得意な科目だの、どうでも良いことを聞くたびに彼女は答えながらも手塚に目配せしている。面倒くさがられてるじゃねぇか、と跡部は内心笑った。でも、さっき跡部を睨みつけてきた時とまるで別人のように穏やかに笑っている。手塚の女呼ばわりされてそんなに嫌だったのか。それともまさか本当に好きなのか。別にどうでもいいけど明らかに跡部に見せた顔と違いすぎて。
可愛くない女だな、と思った。それが琴璃への第一印象だった。
「なかなかええとこやん」
「まぁ及第点ってとこだな」
外観はそんなに悪くはなかった。合宿所のエントランスホールに足を踏み入れる。中も総じて清潔感のある印象。外気温と違って涼しい空間だった。ここは都内の施設だが近郊地からは少し離れている。そのため、合宿所の裏は建物なんて無くちょっとした山林になっていた。あの都心のうだるような暑さほどではない。合宿参加の話がきた時は一体どんな僻地でさせられるんだ、と嘆息したのだが、思ったよりはちゃんとしている。
「やぁやぁ、氷帝のおふたりさん」
見知った人間がロビーのほうから姿を現した。山吹の千石だった。跡部たちを見つけてにこにこと近寄ってくる。
「久しぶり、跡部くん。Jr選抜合宿以来だねぇ。嬉しいな、また会えて」
「誰だったか、テメェは」
跡部は直ぐ側のソファに荷物を置き自分もそこに座る。
「ちょっとー。いくらなんでもそれは酷いじゃないか」
「うるせぇな。お前の高すぎるテンションにうんざりしてんだよ」
「えぇっ、なんで。跡部くんはこの合宿楽しみじゃないの?」
「全く」
大きな大会が終わったばかりだというのに何故こんな合宿に参加しなければいけないのか。今日から5日ほど、ここで選ばれた者がテニス合宿をする。関東地区のみのテニス強豪校が対象とされ、その中の代表選手2名が参加をするのだが、氷帝は跡部と忍足が招集された。ついこないだ関東大会を終えたばかりで、氷帝は青学に敗れた。色々、思うことはある。跡部としては、こんな合宿に出ている暇があったら次の大きな大会に向けて己の部の練習に力を入れたいのに。
「やぁ、キミたちも一緒なんだね」
そこへタイミング良く姿を現す2人の人物。跡部たちの存在に気付いて手塚と不二は足を止める。
「青学はお前らが参加か」
妥当だと思った。忍足が呑気に久しぶりやなぁ、と話しかけている。久しぶりってほど間は空いていないのに。どちらかというとまだ興奮冷めやらない。忍足は普段通りに接しているが跡部はそういう気になれなかった。それぐらい、関東大会の敗北の悔しさがまだ消えずに残っている。態度に表すとか、そんな子どもじみたことはしないけれど。けれどこんなに早く彼らと試合ができるチャンスがきたのは願ってもないことだった。そういう意味ではこの合宿に参加できたのは良いことなのかもしれない。
青学2人の後ろから別の人間が姿を見せた。忍足はお?、と今度は間抜けな声を出す。意外なことに女子だった。
「受付手続きしてきます」
彼女は一旦荷物をロビーのソファに置き、忍足にぺこりと頭を下げつつ歩いてくる。受付する場所に行くには跡部を越えないとならない。
「フン。なんだ手塚。女同伴で来るたぁ、随分余裕じゃねぇか」
ちょうど跡部の横を通る時に言った。彼女が手塚の女だなんて。そんなわけがないと分かっている。でもそんな意地悪を言ったのは本当に、ただの気まぐれだった。らしくない、無駄な絡み方をする。跡部の言葉を聞いて彼女はキッと睨んだ。でも足は止めずに通り過ぎる。その表情があまりに敵意丸出しで思わず笑いそうになった。女に睨まれた経験はあるけど、ここまで嫌悪感を表された試しはなかった。だから余計に彼女の反応が新鮮で面白く映る。
「彼女はうちのマネージャーだよ。待って琴璃、僕も行くよ」
「マネージャーだと?」
「おや、跡部くん知らないの?」
不二は琴璃と呼んだ彼女とフロントへ行ってしまった。その代わりに千石が会話に入り込んできた。
「何の話だ」
「そっかあ、氷帝にはマネージャーって居ないんだっけ。でも、キミのことだからてっきり樺地くんあたりを代わりに連れてくるんだと思ってた」
「おい千石。テメェ勿体ぶらねぇでさっさと言え」
「合宿に参加できるのは各校2名だが、それとは別に、選手のサポート及び合宿生活における雑務を担う役として1人までの参加が認められている」
代わりに手塚が答えた。
「ま、要するに雑用ってことやな」
「そういうコト。ちなみにウチは俺と亜久津とマネージャーが来てるよ。見た感じだと、どこもみんな男子2人と女の子がいるよねぇ」
“選手2人とマネージャー”と言わず性別で表現する。しかもわざわざ女子のほうは丁寧に女の子呼びをした。コイツはどういうつもりで合宿に来てんだ。跡部は呆れて小さく溜息を吐いた。世間話はそこら辺にしてそろそろ部屋に向かおうと思った。もう既に跡部たちの受付は済んでいる。忍足が青学の連中と挨拶を交わしている間にさっさと手続きを済ませておいた。
「おらよ」
「うわっと。へ、何?」
「テメェのルームキーだ」
2つ持っていた鍵の片方を忍足に投げる。部屋はそれぞれに1室用意されている。跡部は当然だと思っていたが忍足はそれを知って喜んだ。およそ1週間の合宿期間、誰かと相部屋なんて跡部には考えられない。荷物を持ってエレベーター乗り場へ向かう。成程こういう時に樺地がいれば良かったと思った。
ここから去る時に後ろからお待たせしました、と声がした。青学の連中も受付が終わったらしい。琴璃が手塚と不二に鍵やプリントを渡している。千石は意味もなくニコニコして側に突っ立っている。まだいやがる、と思った。跡部はちらりと琴璃を見る。青学にマネージャーなんて居たのか。1番直近で青学と戦ったのはついこないだの関東大会だ。しかしあの時は彼女の存在を認識していない、と思う。というのも、跡部はあまり他人に興味がない。女1人が青学側のベンチに居たところで大して記憶に残るはずがなかった。
琴璃は青学2人と千石を交えて仲良く談笑していた。千石はこんな所でもナンパしている。琴璃に好きな食べ物だの得意な科目だの、どうでも良いことを聞くたびに彼女は答えながらも手塚に目配せしている。面倒くさがられてるじゃねぇか、と跡部は内心笑った。でも、さっき跡部を睨みつけてきた時とまるで別人のように穏やかに笑っている。手塚の女呼ばわりされてそんなに嫌だったのか。それともまさか本当に好きなのか。別にどうでもいいけど明らかに跡部に見せた顔と違いすぎて。
可愛くない女だな、と思った。それが琴璃への第一印象だった。
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