第八訓
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ズバン
「!!」
転がった勢いを利用し下から刀を振り上げてきたのだ
なす術なく斬られた銀時の左肩は決して浅くはない傷を負い赤い鮮血が舞い土方とは反対の後方へ倒れる
ドシャア ガラガラ
「なんだ?オイ銀さーんてめっ遊んでたらギャラ払わねーぞ」
屋根の上での様子は見えずとも聞こえてくる騒がしい物音に下で作業する雇い主の男が怒鳴る
『だってさ銀時。ギャラ貰えないと今月ヤバいんだから頼むよ』
「うるせェハゲェェェ!!才花てめェも今月生活よりまず俺を心配しろ!警察呼べ警察!!」
まさかの斬られた兄の身よりもギャラの有無の方を心配する才花に血の出る左肩を押さえながら銀時は叫ぶと
「俺が警察だよ」
土方が笑みと共に呟き立ち上がる
「あ…そうだった。…世も末だなオイ」
「クククそーだな」
銀時の皮肉ったぼやきに対し小さく笑いながら肯定する土方
「(……なんだかあのガキと同じく読めねェ野郎だな。近藤さんの時は汚ねェ手使ったってきいたがそんな素振りも見せねェ)」
土方が不審そうに見つめる先で銀時は肩の傷を持っていた手ぬぐいで押さえながら「あだだ」と呟き立ち上がった
「(それどころか貸した刀さえ使おうとしやがらねェとは。ガキの方も連れが斬られたってのに全く心配する様子もねェ。まさかコイツら自分が命狙われてるにも拘らず俺を気づかってるってのか)」
敵意を向けてくる剣を持った相手に対して応戦する気も無ければましてや怯えている様子も全くない銀時と才花両者の読めない態度に土方が思案していると銀時が傷を押さえてた手ぬぐいを肩に乗せたまま受け取った刀をついに鞘から抜く
「(フン…いよいよくるかよ)」
それを見て土方の僅かに口角が上がる
「(命のやりとりといこうや!!)」
刀を握る両手にぐっと力を込め真っ直ぐ突っ込んで行く土方
「うらアアアアア!!」
ザァァン!
「(斬った!!)」
雄叫びと共に力強く縦一線に振り下ろされた刀は見事銀時を斬ったかに思えた
だがー
「(なに!?)」
土方が斬ったのは銀時が肩の傷を押さえるのに使っていた手拭いだった
そして標的を失い無防備となった土方の真横に刀を構えた銀時が突如として現れる
「(かわされた。斬られ…)」
自身の終わりを覚悟し身を固める土方
ザンッ カラン
空を裂くような短く低い刃音が鳴ったかと思えばその後聞こえたのはカランという軽い音を立てて響く金属音
音の正体は銀時によって真っ二つに折られた土方の刀で落ちた刀身は瓦の屋根に転がる
「はァい終了ォ」
斬られると思っていた土方はまさかの決着に目を大きく見開き呆気に取られてる中銀時は全く締まりのない緩い声で勝負の終了を告げた
「いだだ。おいハゲェェ!!才花に残りの仕事任せて俺ちょっと病院行ってくるわ!!」
『ねぇハゲー、銀時が仕事サボろうとしてるー』
「誰がサボりだ!よく見ろ!肩バッサリいかれて血だらけだろーが!」
『大丈夫。私も月一で血だらけになるよ』
「女の子がそんなこと言うんじゃありません!」
「待てェ!!」
斬られた左肩を押さえながら才花と他愛もない言い合いをしながら何事もなかったかのように背を向けその場を去って行こうとする銀時を土方が呼び止める
「…てめェ情けでもかけたつもりか」
「情けだァ?そんなもんお前にかける位ならご飯にかけるわ」
『じゃあ私はうどんにかけてぶっかけうどんにする』
「うるせぇお前は黙ってろ」
ガシッ
『ふぐっ』
そう言って片手で銀時は才花の頬を鷲掴みにし黙らせると言葉を続けた
「喧嘩ってのはよォ何かを護るためにやるもんだろが。お前が真選組を護ろうとしたようによ」
「…護るってお前は何護ったってんだ?」
怪訝そうに土方が尋ねる
「俺の武士道(ルール)だ」
銀時は肩越しに真っ直ぐな目で土方を見据えるとそう静かに答えた
「じゃーな」
そして再び歩き出すと今度こそその場から去って行く
決着から終始呆気に取られている土方は銀時の後には続かず自分と同じく取り残されている才花を見た
銀時に鷲掴みにされていて痛かったのか頬を摩っている
「オイ…」
『ん?』
「お前も奴と同じか?」
『………』
「お前が護ったのは何だったんだ」
『んー⋯“約束”かな』
「約束…?」
才花の意外な答えに思わず聞き返す土方
『そー指切りげんまんってやつの約束』
そう言いながら銀時が去って行った方向とは反対の最初に作業をしていた屋根の方へと歩いていく才花
『嘘つくと針千本飲まされるからさ』
「……」
『あ、でもあの歌って嘘ついたら針千本飲ませるだけじゃなくて指切りで指を切り落とされて、げんまんは拳で一万回殴られるんだってさ。おっそろしいよね~』
恐ろしいと言う割には抑揚のない声で淡々と話しながら才花は何かを探して辺りを見渡す
『どれか一つを選べるならまだ良かったのになぁ。あーでもどれも嫌だな。やりたくない』
そして探し物を見付けるとしゃがんでそれを拾う
手にしていたのは土方によって弾き飛ばされた小太刀の鞘だった
拾った鞘に小太刀を納めると最初の時と同じくそれを腰に差す
最初見た時は気付かなかったが小太刀の鞘には小さな鈴が一つ結び付けられているがよく見ると鈴は潰れており音は鳴らないようだった
「その刀と関係あるのか?」
『………』
思わず才花にそう尋ねた土方
わざわざ切れもしない鈍刀を持つ理由があるとしたら才花の言う“約束”とやらが全くの無関係とは思えない
しかし才花からの答えは
『どーなんだろうねぇ…』
最初の時と同じような曖昧な返事
だが今までのはぐらかすような返答とは違い才花自身も本当に分からないとどこか自問しているような感じに聞こえた
『さてと…銀時もサボって帰ったし私も帰ろっかな。それじゃ』
そして何事もなかったかのように土方に背を向け去って行ってしまった
銀時も才花も去って誰もいなくなった屋根の上で土方は一人呆気に取られ立ち尽くす
「…フフ面白ェ人だ。
俺も一戦交えたくなりましたぜ」
その様子を高い建物の屋根から見下ろしていた沖田は面白そうに笑みを浮かべ呟く
「やめとけ。お前でもキツいぞ総悟」
隣に立ってそう制すのは近藤
「アイツは目の前で刃を合わせていても全然別のところで勝手に戦ってるよーな男なんだよ。勝ちも負けも浄も不浄も越えたところでな」
「ワリぃ近藤さん俺も負けちまったよ」
屋根の上で仰向けに寝転がりながら土方は煙草を咥え一人ぼやいた
その口元は微かに笑みを浮かべてるように見えた
END
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