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「侍の国」
僕らの国がそう呼ばれていたのは今は昔の話
かつて侍達が仰ぎ夢を馳せた江戸の空には今は異郷の船が飛び交う
かつて侍達が肩で風を切り歩いた街には今は異人がふんぞり返り歩く
「だからバカおめっ…違っ…それじゃねーよ!!そこだよそこ!!」
とあるファミレスに店長である中年の男の怒鳴り声が響く
「おめっ今時レジ打ちなんてチンパンジーでも出来るよ!!オメー人間じゃん!一年も勤めてんじゃん!何で出来ねーんだよ!!」
「す…すみません。剣術しかやってこなかったものですから」
店長に怒鳴られているバイトの眼鏡をかけた少年は頭を掻きながら苦笑いを浮かべ謝る
「てめェェェまだ剣ひきずってんのかァ!!」
ガッ
「ぐはっ!!」
すると店長は少年を殴り飛ばす
「侍も剣ももうとっくに滅んだんだよ!!それをいつまで侍気どりですかテメーは!!あん?」
「オイオイそのへんにしておけ店長」
そこへある客が声をかけ止める
見るとその客は頭身こそ人と同じだが顔はヒョウという異形な姿をしている
「オイ少年。レジはいいから牛乳頼む」
「あ…ヘイ。ただいま」
ヒョウの姿をした客に言われて少年は頼まれた牛乳を用意する
「旦那ァ甘やかしてもらっちゃ困りまさァ」
「いや最近の侍を見てるとなんだか哀れでなァ。廃刀令で刀を奪われるわ。職を失うわ。ハローワークは失業した浪人で溢れてるらしいな」
「我々が地球(ここ)に来たばかりの頃は事あるごとに侍達がつっかかってきたもんだがこうなると喧嘩友達をなくしたようで寂しくてな」
ガッ
そう言いながら客は牛乳を持ってきた少年が傍に来ると彼の足をわざと引っ掛け転ばせる
ドガシャン
盆を手にし両手が塞がっていた状態で受け身が取れるはずもなく少年は隣の席に転がり頭から突っ込んでしまう
「ついちょっかい出したくなるんだよ」
それを見て客は仲間と意地の悪い高笑いをする
⋯ー二十年前
突如江戸に舞い降りた異人「天人」
彼等の台頭により侍は弱体化の一途をたどる
「何やってんだ新八!!
スンマセンお客さん!!」
「オラッおめーが謝んだよ」
再び怒鳴りながら店長は少年ー志村新八の髪を掴み引っ張り上げる
ー剣も地位ももぎとられ
誇りも何も僕らは捨て去った
いや…侍だけじゃない
この国に住まう者はきっとみんなもう…
「おい」
「?」
揉めている店長と新八の前にふと現れた一人の男が一言声をかける
バカン!
「がふ!!」
次の瞬間男は突如店長を殴り飛ばした
ガシャン
「わっ!!」
「なっなんだァ!?」
「何事だァ!!」
殴られた店長はさっきのヒョウの姿をした天人の客の席へと吹っ飛びそこに座っていた客達は驚く
「(――!?侍!?)」
呆気に取られ座り込む新八は男が自分の脇を抜けで行くすれ違い際に彼の腰に差された木刀に気付く
一方男は腰に差した木刀を抜き騒ぐ天人達の前に立つ
「なんだ貴様ァ!!」
「廃刀令の御時世に
木刀なんぞぶらさげおって!!」
「ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。発情期ですかコノヤロー」
どこか間延びした気怠げな声で呟くその男は青い波柄の入った白い着流しを片方だけ羽織り下はブーツというちぐはぐな格好をしていた
だがそれよりも目に付くのは銀髪の天然パーマ
男は中身が溢れ空になったグラスを手にし天人達に掲げる
「見ろコレ…てめーらが騒ぐもんだから俺のチョコレートパフェがお前コレ…」
「まるまるこぼれちゃったじゃねーか!!」
バコォン!
「!!」
そして声を荒げながら手にしていた木刀を振り下ろし天人の一人を卒倒させる
「…きっ…貴様ァ何をするかァァ!!」
「我々を誰だと思って…」
「俺ァなァ!!医者に血糖値高過ぎって言われて…パフェなんて週一でしか食えねーんだぞ!!」
狼狽える残った二人の天人の話などお構いなしに男は不満を叫びながら再度木刀を振るう
ドサッ ザッ
一瞬で天人二人も卒倒しその場に倒れた
他の客達が悲鳴を上げながら店の外へ走り逃げていく中その光景に目を見開き呆然と立ち尽くす新八
『あーあ…
パフェこぼしたくらいでみみっちいよ銀時』
「!!」
そこへ騒然としてる周りの喧騒とはあまりにもそぐわない呑気な声がする
声のする方を見ると男が元々座っていた席に彼の連れである見たところ新八と大して歳の変わらない少女がいた
少女は赤の四割菱柄が入った白い着流しの裾を片方だけたくし上げて羽織り下はブーツという男とどこか似た格好をしている
また腰には少女には似つかわしくない重厚そうな鍔のない黒鞘の小太刀が差さっていた
しかし少女の髪は男の銀髪の天然パーマとは異なり黒髪で毛先が不揃いなボサボサ頭をしているも僅かに動くたびに揺れる髪はサラサラのストレートだった
「あァ?血糖値正常のお前には俺のこの辛さがわからねーだろ。つか才花てめーちゃっかり自分だけパフェキープしてんじゃねーよ!」
少女から「銀時」と呼ばれた男はパフェを食べ損ねた自分とは反対に席に座り黙々と無事だったいちごパフェを食べている少女を指差す
『子供の頃さ親から「ご飯食べる時は茶碗を持って食べなさい」って言われなかった?肘ついて横着な食べ方するからだよ』
一方銀時から「才花」と呼ばれた少女はパフェのグラスを持って最後の一口を頬張りながら抑揚のない声でそう答える
「だァチクショー!もう金ねーのにどうすりゃいいんだよ」
『まぁまぁイライラしないで甘いモンでも食べて落ち着きなはれ』
「その甘いモンをこぼされてイライラしてんだろーが!」
マイペースな才花の言葉に突っ込む銀時
そんな二人の会話を新八はただ呆気に取られて見ていた
「…ったく今日はツイてねーな。オイ行くぞ才花」
『うぃー』
ーそいつらは侍というにはあまりに荒々しく
しかしチンピラというにはあまりに…
「店長に言っとけ。味はよかったぜ」
『ごちそーさまー』
真っすぐな目をした男女だった
そう告げ店を後にする銀時と才花二人の後ろ姿をただ見送る新八