第六訓
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――――⋯⋯
「覚えてるわけねーよな十三年も前の話だ。いや覚えてても思い出したくねーわな。人を殺めちまったヤクザな父親のことなんかよォ」
「俺のおかげでアイツがどれだけ苦労したかしれねーんだから。顔も見たくねーはずだ」
『………』
「………帰るわ。
バラ買ってくんのも忘れちまったし」
そう言い男は座っていたベンチから立ち上がる
「銀ちゃーん!!才花ぁぁ!!」
するとお通のライブ会場の方から神楽が猛ダッシュでやって来た
「どした?」
「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れ出してポドン発射」
「普通にしゃべれ。訳わかんねーよ!」
『なるほど…えらいこっちゃ』
「オイ才花。全くわかってねーくせして適当なこと言うな」
『バレてーらー』
「いやあの会場にですね天人がいたらしくて。これがまた厄介なことに食恋族…。興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人なんです」
銀時に頬を鷲掴みにされ指摘を受けた神楽はいつもの胡散臭いチャイナ口調どころか突然流暢な標準語で話し出した
『いやだねぇ~そんな男はモテないよ』
「興奮して好きな人を捕食するような奴がモテてたまるか」
『あれ?そーいやおじさんどこ行った?』
才花の言う通り辺りを見渡してもさっきまでいた男が忽然と姿を消してしまっていた
「なァ才花ぁ…ちょっとおつかいに行ってきてほしーんだけど……」
『………』
ライブ会場の方を見つめやれやれと言った風に溜め息を一つ吐いた銀時は頭を掻きながら才花にそう言ったー⋯
―――⋯⋯
その頃ライブ会場は神楽の言う通り食恋族の天人の男が暴れ騒然としていた
「お通ちゃ~ん僕と一つになろう胃袋で」
寺門通親衛隊の法被を着たその天人は饅頭のような丸く可愛らしい顔とは裏腹に解けた晒の下からは歪な歯がギラリと並ぶ不気味な大口が覗いている
「隊長ォォォ!!
会員ナンバー49が暴走しました!!」
「アレも会員だったのか…マスコット人形かと思ってた。イカンお通ちゃんが!!」
そうこうしてる内に天人はお通のいるステージへと迫っていく
「早く逃げるわよお通!!」
「いや…腰がぬけちゃって…どーしよ」
慌てて母であるマネージャーが駆け寄り逃げようと手を引くが当のお通は突然のことに恐怖で腰が抜けてしまい動けない
「お通ちゃ~ん!!」
「!!」
そこへ伸びる天人の腕
ドン
「!!」
すると間一髪のところ何者かがお通を突き飛ばし二人の間に飛び込むと天人の腕を受け止めた
「だっ…誰だアレェェェ!?」
お通を守ったのは銀時でも新八でも親衛隊らでもない目の部分だけ穴の空いたレジ袋を頭に被ったお通の父だった
「お通ぅぅぅ!!早く逃げろォォ!!」
バコン
「!!」
お通へ叫ぶ男だったが天人の大きな腕に叩き飛ばされてしまいお通は目を見開く
「いけェェ僕らもお通ちゃんを護れェ!!」
そこへ新八達親衛隊も駆けつけて天人を抑えるべく乱闘になる
「しっかりしっかりして下さい!!」
その脇のステージで倒れた男に駆け寄り必死に声をかけるお通
父親である正体を隠すため被ったレジ袋の奥で男は目を開けた
「あ…気がついた」
「無茶するねェアンタ。こんなバカな真似して…何者だい?」
「…ただのファンさ。あんたの」
男は静かにただそう答えた
ドドン
「!!」
その時何かが倒れる大きな音がし見ると暴れていた天人が横たわっておりその上にはそれぞれ木刀と番傘を手にした銀時と神楽が立っていた
どうやら無事暴れていた天人を鎮めることが出来たようだ
ガチャ
さらに会場の扉が開くと才花が現れ銀時達がいるステージ下まで駆け寄ってくる
『おじさーん』
ゆるい声と共に才花の手から何かが投げられ男は咄嗟にキャッチする
投げ渡されたそれはいかにも即席といった感じの紙とセロテープで包装された三本のたんぽぽの“花束”だった
「そんなもんしか見つからなかった。百万本には及ばねーが後は愛情でごまかして」
『大丈夫。たんぽぽって小さい花が200個くらい集まって出来てるからそれで600本分ってことにくらいにはなるよ』
銀時と才花は背を向け歩きながらそう言い新八と神楽を連れて会場を後にする
「(バカやろう…
あんな約束…覚えてるわけねーだろうが)」
「?」
「(だがこの際覚えてよーが忘れてよーが関係ねーや。俺は俺の約束を護ろう)」
男は何も言わず最後に娘の姿を目に焼き付けるかのようにレジ袋の奥から見つめ才花の用意した花束をお通へ渡す
「(お通……しっかりやれよ)」
そして扉を開け会場を出て行くその時
「あの」
お通が男へ声をかける
「……今度はちゃんとバラ持ってきてよね。私それまで舞台(ここ)でずっと待ってるからさ」
「お父ちゃん!」
バタン
返事はなく扉は閉じられた
「よォ涙のお別れはすんだか?」
会場の外で銀時が尋ねる
「バカヤローお別れなんかじゃねェ。また必ず会いにくるさ…今度は胸張ってな」
『次こそは大事な一瞬を見落とさないようにネクロマンサー』
「あぁ…」
外したレジ袋を握りしめる男は涙を流しながら娘との約束を次こそはきちんと果たすべく決意新たに誓うのだった
END