「……。」

「ありがとうございます。」

古市さんの部屋で座布団に座りコーヒーを受け取った。久々にダッシュしてすごい息切れ。

「監督さんが慌てていたから何事かと思った。」

「俺からしたら大事な話です。」

古市さんが口を閉ざし、キャスター付きの椅子に座った。

と、遠い。

「…手短に頼む。」

少しムカッとしてしまった。

ダメだダメだ。落ち着け、俺。

「…俺の勘違いだったら、笑ってください。」

避けてませんか？

「……。」

俺に背を向けて無言を貫いている。

「…理由、教えてください。全然わからないんです…」

「……。」

結構辛いんですけど。

「…古市さぁん…」

泣きそうです。

「なっ、」

古市さんが俺を見て慌てて俺の前に屈む。

「…古市さん。」

「…はぁ。ったく…」

雑に頭を撫でられた。古市さんとやっと会話できた。

「店放ったらかしにしてまで来るか、普通。」

「行きます。」

うわぁ、めっちゃ呆れてる。

「…客だからか。」

「古市さんは、特別なんです。」

「は。」

古市さんの動きが止まった。

「…貴方が、お客さんの中で一番生地を大切にしてくれていると思っています。」

古市さんの手を捕まえる。

「いつも優しそうに生地を見てくれます。演劇の一部だと考えてくれます。それが、嬉しいんです。」

その表情を他の店で見せているのなら、少し悲しい。

また、来てくれませんか。あの表情が見たいです。

思っていることを一言一句伝えた。

「…馬鹿かお前は。」

「痛っ。」

頭を叩かれてしまった。

「一人の客のために店を開けるな。」

「だから、古市さんは特別って…」

「わかったわかった。それでも、だ。」

「…はい。」

「あと…」

古市さんが俺の頭を下に向かせた。

「俺も…悪かった。」