4月24日
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なんてことない日。いつもの様に至さんに割り振られた部屋に朝から入り浸る。103号室。千景さんの生活痕はほとんどないのに対し、至さんの私物はあちこちにちらばっていて、綺麗とは言いがたかった。そんな部屋のソファは私の特等席である。この部屋に充満する香りに包まれれば、至さんにいつでも抱き締められているようで安心してしまう。ソファに沈み、半分閉じかけた目でスマートフォンの画面にうつるソシャゲのログインボーナスを受け取った。
「は〜今度のイベ推しイベなんだよね」
先程までPCに面と向かっていた至さんが、ゆっくりと私のいるソファへと近付いてくる。スマホを横に持ち、慣れたように私の隣へと腰掛けた。ソファが二人分の重さでぐ、っと沈む。
「課金祭りだね」
「う〜〜〜ん困る」
前髪を上げている至さんのおでこ、眉間にはわかりやすくシワがよった。今回のイベントはあまり乗り気ではないよう。
「どうしたの、廃課金戦士いたるまん」
「なんか新しいあだ名キタコレ呟いとこ」
至さんが課金を渋る案件などこの世にあるのだろうか。もしかして借金でも背負ってしまった…?
「なんかお前失礼なこと考えてない?」
「多分…」
むくれる至さんがどうしよもなく可愛く思えてしまって、至さんのひんやりとした頬を両手で包んだ。そして触れるだけのキスをする。「へへ」と笑ってみれば、目をまん丸にした至さんが微動だにせずそのまま固まっていた。私は段々恥ずかしくなり、目線も神経もソシャゲへと戻した。
しばらくしてだった。
「っぁ…なに…激レア…」
そう言う掠れた至さんの声が聞こえたのは。
❊❊❊
「珍しいっすね。推しイベなのに」
「あ〜万里じゃんおつ〜」
今回もイベントのランク1位はたるちである。だが普段の至さんの推しイベでのポイントとは比べ物にならないくらい少ないのだ。つまり、いつもの様に水の入ったバケツをひっくり返すような課金をしていないということ。その事があまりにも信じられず、稽古終わりに声をかけてしまった。
「課金してないんすか」
「課金はしてるよ。俺のアイデンティティだし」
「でもそんな走ってないっすよね」
そう言えば、至さんは見たこともないくらい優しい顔で笑った。
「今月は現実に課金したいの」
❊❊❊
今日もいつも通り103号室の特等席に体を預けていた。時期がクリスマスだということで、ソシャゲのイベントもサンタクロースばかりで、タップする手が止まらない。そんな私とは反対に、仕事の処理だろう、PCに向かう千景さん。キーボードの音と時計の針の音が響く、静かな時間をしばらくの間過ごしていた。どれくらい経ったのだろうか。千景さんが気付けば立ち上がり扉の前へと歩いて行き、ゆっくりとこちらを振り返る。
「俺は明日の夜まで戻らない」
「え、あ、はい?」
千景さんはそう私に告げてどこかへと姿を消した。それと入れ違いに、至さんが帰ってくる。
「かえで」
仕事帰りの、ピシッとしたスーツにキラキラとしたエフェクトがかかってそうな爽やかな笑み。そんな至さんがソファにもたれる私に近付いてくるので、不思議と背筋が伸びた。
「おかえりなさい」
「うん。ただいま」
私の隣に腰かけた至さん。無意識に心拍数が跳ね上がった。至さんにまで聞こえてなければいいけど。
「あのさ」
甘く、砂糖菓子のように溶けるような声色で至さんは続ける。
「今月、クリスマスでしょ?だから」
目の前に、大人びたシンプルな紙袋が差し出される。
「可愛い彼女に少し早いけどクリスマスプレゼント」
「ぁ…?」
あまりにも唐突な事だったので、頭の中は真っ白だ。至さんがこんなサプライズ近い、ましてや推しイベ期間にプレゼントを渡してくるなんて予想もしていなかった。見るからに高そうな。
「い、至さん、あの、ありがとうございます、でも」
「…不満だった?」
でも、と言ったことに眉をわかりやすく下げるものだから、慌てて訂正をする。
「違う。推しイベ期間だから、課金に回せばいいのにって。高くなくても、至さんから貰ったものはなんでも嬉しいから…」
「は〜〜〜〜日頃の行いが悪すぎた」
至さんは大きくため息をつく。一気にオフモードのテンションになってしまったから、地雷でも踏んでしまったかな、と不安になる。けれど至さんの表情は、甘ったるいものだった。
「あのね、推しよりも大好きな彼女に課金したかっただけ。」
「課金…」
言い回しが至さんらしいな、と笑ってしまう。
「まぁ、俺っていつもお前に与えられてばっかだし」
腫れ物でも扱うかのように優しく私を抱き寄せ、額や頬にキスを落としていく。至さんの香りに侵される。
「…そんなことない」
「そう?俺この間かえでにキスされたのHP回復したし、むしろメーター振り切ったけど。それにゲーム一緒にやってくれるし、お世話してくれるし」
「…私も至さんから貰ってばっかなのでWinWin」
「ふはっ!そうだね、WinWin」
至さんからの視線があまりにも愛おしさを含んでいて、恥ずかしくなる。
「かえで」
不意に名を呼ばれ、顔を上げる。
「好き」
その言葉と共に至さんのふわふわした髪の毛で目の前が埋め尽くされ、喉に柔らかさと痛みを感じた。
「な、なにっ」
「はは、何って、喉にキスしてー」
噛み付いた、と笑う至さんの顔は悪戯っ子そのもので。あまりの出来事に顔に火がつく。
「だ〜〜〜至さん!」
「ごめんごめん」
そう言いながら至さんは私の喉に繰り返しキスをし、甘噛みをする。くすぐったさに声が出る。それが至さんのスイッチを押したのか、気付けば天井と至さんを見ていた。
「本当はこのままイルミネーションでも見に行こうと思ったんだけど、やめていい?」
「…」
甘ったるさに酔ったようだ。私は肯定の代わりに千景さんが明日の夜まで帰らないと言っていたことを伝える。ギラギラと奥に欲を揺蕩わせた至さんの瞳には逆らえなかった。
…
「ねぇ、喉のキス 意味で調べて見て」
一眠りして、眩しい光で目が覚めた頃。至さんは夢見心地の私に語りかける。
「水取ってきてあげるね」
私は1人至さんの匂いが強く残るベッドに残された。頭はまだ働いてはいないが、探るようにスマホを取り出し検索をかける。…一気に目が覚めた。至さんがつけた喉元に散る痕からじわじわと熱がぶり返し、焼けるようだった。
喉元
欲求。あなたを離したくない。あなたが愛おしすぎる。
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