27話:ヒミツが溶ける

 僕の心臓の動きが速いのが、果たして走って学校を出たからなのか、それとも別の要因なのかなんて最早分からなかった。

「な、なんかとんでもないことを口走ってしまった気がする……」

 しかし、とんでもないことを言った気がすると自分でも理解が出来ることが起きたということだけは、否が応にも認識してしまっていた。
 少し前だったら、こんなこと到底口になんてしなかった筈だ。というよりも、恐らくはそんなことを言うような状況なんて僕は作らないだろう。もとよりそのはずだったのに、この状況は一体なんだ? こんな状況になったのは、一体何が切っ掛けだっただろう?
 考えなくても頭に浮かぶのは、図々しくひと学年下のクラスにまで足を運んでくる橋下 香という人物である。確かに、あの人に会わなければ、僕は図書室にここまで頻繁に来ることなんてなかった。迷惑に思うこともなかったし、お昼休みにわざわざ逃げ回ることだってしなかったし、先輩と後輩という位置づけが発生することだってなかったはずだ。
 ここまで文句が出てしまうというのは確かなのだが、しかしそれは、あくまでも切っ掛けのひとつに過ぎないということを、僕はちゃんと理解していた。
 最終的にあそこに向かっているのは、少なくとも自分の意思が上乗せされているからだ。

(……嫌だな)

 それは誰が見ても明らかで、しかしそう簡単に認めたいものでもなく、僕は思いっきり首を横に振った。
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