39話:ニセモノに謳う

「そういえば、祥吾くんときみは知り合いなんだっけ?」踏切がようやく見えなくなってきた頃合いだろうか? タカハラさんが、ふとそんなことを口にした。
「え? う、うん……。従兄弟なんだって」
「ふぅん」

 軽く返事をすると、会話はすぐに終わった。祥吾はタカハラさんのことを知っているようだったから、てっきり従兄弟であると言うことはもう知っているのだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。

「タカハラさんは、祥吾と知り合い?」
「知り合いといえばそうかもねぇ」

 タカハラさんの答えは、なんだか曖昧だった。

「ボク、祥吾くんに嫌われてるみたいだから」

 表情を変えること無く、優しい顔のままそう言った。

「それって、タカハラさんがユーレイだから?」
「うーん、どうだろう」

 適当に、当たっていそうなことを言ってみたものの、それは見当が外れていたようだ。
 タカハラさんは、少しわざとらしく顎に手を当てて考えるフリを始めた。確かに夏にタカハラさんとあった時、祥吾のタカハラさんに対する態度はオレの時とは少し様子が違っていたのを思い出した。オレにはタカハラさんが悪い人には見えないというのもあり、嫌われているという理由が幽霊だからなのではないかということしか思い浮かばなかった。

「多分、普通に出会っていても嫌われてると思うよ」だが、どうもオレには想像がつかない何か違うものが、二人にはあるらしかった。
「……どうして?」
「どうしてだろうね? ボクにはさっぱり分からないな」

 あくまでも嫌われていると明言をしつつ、しかしその理由は分からないだなんてどういうことなのだろうかと、オレは思わず首を傾げた。そのすぐ後のことだ。

「うわっ!」

 タカハラさんに気を取られ、雪に埋まっている小さな段差に気がつかずにそのままの勢いで雪に突っ込んでしまったのである。

「冷たぁい……」雪が積もっていたお陰で幸い痛くはなかったが、手は雪にまみれ、顔を上げた拍子に長靴の中に入ってしまった雪はみるみるうちに溶けてなくなった。マフラーと服についたのであろう雪を払いながら、既に繊維に吸収されたシミを気にしていた。

「大丈夫?」そう言って顔を覗かせるタカハラさんに、オレは再び釘付けになった。
「……タカハラさん、寒くないの?」
「え? あぁそうか、これだと雪が降ってるにしては少し薄着かもしれないね」

 タカハラさんの服装はこの前会った時と特に変化はなかったが、マフラーをしているオレからしてみたら薄着で、見ているだけでこちらが寒くなってしまいそうだった。ワイシャツの上に白いセータを着てはいるが、制服の上着を着ているだけで到底防寒されているとは思えない。秋や春頃であればその姿も違和感はなかっただろう。

「気張らないと、暑いとか寒いとかそういう感覚忘れちゃうんだよね」

 肩をすくめ、困ったような笑みでそんなことを口にするタカハラさんの自身の温度は、なんだかどこにも存在していないような、そんな気がしたのである。
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