04話:記憶の壁
――瞼が重い。
「……ん」
一体いつの間に寝入ってしまったのか、ゆっくりと目を開けると目の前には浅い緑色が広がっていた。中途半端に眠ったせいか、頭に警告音が鳴り響いているかのように脈打つのを感じる。ソファの軋む音と共に体を起こし、まだ寝ぼけた頭を出来るだけ動かそうと思考を巡らせた。
僕は確か、知らない間に白い空間に飛ばされて、自身のことを支配人と名乗る人物に出会って、そして案内人さんにとある部屋を案内された。それが、今僕がいるこの場所だ。結局、どうしてここに来たのかも分からないままだ。
辺りを見回せば、案内人さんが言っていた秘色という色が辺り一面を覆っている。どこか非現実みを帯びているようにも感じる無機質な空間は、相変わらずだ。
いわゆる夢と位置付けるのが正しいか、寝ている間ここで起きたこととは明らかに別の事象について思いを馳せる。夢の中の僕は、学校の屋上に居た。恐らくは自ら屋上へと足を運び、自らの意思で体を空に投げようとしたのだろう。そしてそこに、まるで示し合わせたかのようにしてキョウさんが姿を現した。
「……本当に、たまたまだったのかな」
恐らくだけど、あの感じからして、キョウさんと出会ったのはあそこがはじめてなのだろう。偶然だったのかどうかまでを疑うわけではないが、余りにもタイミングが良すぎるせいでそう思ってしまう。
本当に偶然? 授業中にも関わらずたまたま現れた? そんな都合のいいことが、果たしてあるのだろうか?
これが僕の考えすぎならそれでいいのだけれど、もうひとつ気になることがある。これは、僕の記憶が無いからそう思うのかも知れないけど……。
「僕、結構冷めてたな……」
今この場所にいる僕の性格と、夢の中での性格。キョウさんはいつものそれと同じようだったけど、僕だけはどうやら違うらしい。冷めているというか、自身のテリトリーを荒らされたくないという空気を放っているようなそんな感じだ。普段からああだったのか、相手がキョウさんだからなのかはまだ分からない。今の僕がおかしいというのも十分に考えられるだろうが、記憶がないという状況でそれは少し詭弁が過ぎるというものだ。
結局のところ、僕はまだここに来る前のことなんて何も思い出せていないということだろう。そう結論付けるには十分過ぎる不十分な情報量の中、ひとりで考えたところ余計に疲れるだけだ。
その中でも、恐らく真実として立証が可能なことはいくつかあった。ひとつは、理由はどうあれ僕は屋上から飛び降りようとしていたということ。それをキョウさんが助けてくれたということ。それだけは、恐らくキョウさんに聞けばある程度真実なのかただの夢だったのかの区別はつくはずだ。
「……橋下さん、か」
恐らくこの空間に来て初めて、そんな単語を口にしただろう。
零れた言葉に目を向けるように下を向けば、いつの間にか耳から外れていたイヤホンが目に入る。どうやら寝ている間に停止ボタンを押してしまったようで、イヤホンを耳に入れてもさっきまで奏でていたそれらは何も聞こえてこない。どういうわけか、辺りは酷く静寂に溢れているという事実に押しつぶされそうな感覚に陥った。
そういえば、案内人さんにこの音楽プレイヤーについて聞きに行こうと思ってたけど、そのまま寝てしまったんだった。本来の目的を思い出し、僕はやっと腰をあげる。頭は重いけど、起きたことだし早速行ってみようか。そう思ったけど、ここでまたとある疑問が浮上した。
聞いたところで、僕は一体どうするのだろう?
案内人さんに聞いたからといって、分かるだなんて限らない。というより、そんな都合のいいことはきっとあるわけがない。だけど、芽生えてしまった知りたいという感情を僕はどうにも抑えることが出来なかった。……いや、それは少しだけ違うかもしれない。
本来この状況なら、橋下さんにあった方が合理的かもしれない。きっと思い出せることだって増えるのだろう。だが、あの情報だけしか持っていない今の僕が橋下さんに会うというのは、少しだけ度胸が必要だ。
今の僕……というのは少し違うかもしれないが、あの人に会う度胸と勇気を今は持ち合わせていない。
「……ん」
一体いつの間に寝入ってしまったのか、ゆっくりと目を開けると目の前には浅い緑色が広がっていた。中途半端に眠ったせいか、頭に警告音が鳴り響いているかのように脈打つのを感じる。ソファの軋む音と共に体を起こし、まだ寝ぼけた頭を出来るだけ動かそうと思考を巡らせた。
僕は確か、知らない間に白い空間に飛ばされて、自身のことを支配人と名乗る人物に出会って、そして案内人さんにとある部屋を案内された。それが、今僕がいるこの場所だ。結局、どうしてここに来たのかも分からないままだ。
辺りを見回せば、案内人さんが言っていた秘色という色が辺り一面を覆っている。どこか非現実みを帯びているようにも感じる無機質な空間は、相変わらずだ。
いわゆる夢と位置付けるのが正しいか、寝ている間ここで起きたこととは明らかに別の事象について思いを馳せる。夢の中の僕は、学校の屋上に居た。恐らくは自ら屋上へと足を運び、自らの意思で体を空に投げようとしたのだろう。そしてそこに、まるで示し合わせたかのようにしてキョウさんが姿を現した。
「……本当に、たまたまだったのかな」
恐らくだけど、あの感じからして、キョウさんと出会ったのはあそこがはじめてなのだろう。偶然だったのかどうかまでを疑うわけではないが、余りにもタイミングが良すぎるせいでそう思ってしまう。
本当に偶然? 授業中にも関わらずたまたま現れた? そんな都合のいいことが、果たしてあるのだろうか?
これが僕の考えすぎならそれでいいのだけれど、もうひとつ気になることがある。これは、僕の記憶が無いからそう思うのかも知れないけど……。
「僕、結構冷めてたな……」
今この場所にいる僕の性格と、夢の中での性格。キョウさんはいつものそれと同じようだったけど、僕だけはどうやら違うらしい。冷めているというか、自身のテリトリーを荒らされたくないという空気を放っているようなそんな感じだ。普段からああだったのか、相手がキョウさんだからなのかはまだ分からない。今の僕がおかしいというのも十分に考えられるだろうが、記憶がないという状況でそれは少し詭弁が過ぎるというものだ。
結局のところ、僕はまだここに来る前のことなんて何も思い出せていないということだろう。そう結論付けるには十分過ぎる不十分な情報量の中、ひとりで考えたところ余計に疲れるだけだ。
その中でも、恐らく真実として立証が可能なことはいくつかあった。ひとつは、理由はどうあれ僕は屋上から飛び降りようとしていたということ。それをキョウさんが助けてくれたということ。それだけは、恐らくキョウさんに聞けばある程度真実なのかただの夢だったのかの区別はつくはずだ。
「……橋下さん、か」
恐らくこの空間に来て初めて、そんな単語を口にしただろう。
零れた言葉に目を向けるように下を向けば、いつの間にか耳から外れていたイヤホンが目に入る。どうやら寝ている間に停止ボタンを押してしまったようで、イヤホンを耳に入れてもさっきまで奏でていたそれらは何も聞こえてこない。どういうわけか、辺りは酷く静寂に溢れているという事実に押しつぶされそうな感覚に陥った。
そういえば、案内人さんにこの音楽プレイヤーについて聞きに行こうと思ってたけど、そのまま寝てしまったんだった。本来の目的を思い出し、僕はやっと腰をあげる。頭は重いけど、起きたことだし早速行ってみようか。そう思ったけど、ここでまたとある疑問が浮上した。
聞いたところで、僕は一体どうするのだろう?
案内人さんに聞いたからといって、分かるだなんて限らない。というより、そんな都合のいいことはきっとあるわけがない。だけど、芽生えてしまった知りたいという感情を僕はどうにも抑えることが出来なかった。……いや、それは少しだけ違うかもしれない。
本来この状況なら、橋下さんにあった方が合理的かもしれない。きっと思い出せることだって増えるのだろう。だが、あの情報だけしか持っていない今の僕が橋下さんに会うというのは、少しだけ度胸が必要だ。
今の僕……というのは少し違うかもしれないが、あの人に会う度胸と勇気を今は持ち合わせていない。