恋愛方程式
そんなに知りたいなら、教えてやろうか。二度は言わない。一度きりだよ。もし聞こえなかったらそれでお終い、聞き返したって無駄。あはは、録音機器のご使用はおやめください、ってね。
ああ、俺的には別に、このままでいてやってもいいんだけど。お前が教えろってうるさいから、仕方なく、教えてやろうってわけ。せがんだこと、後悔するなよ。
南條聖は微笑んだ。含みのある笑み──しかし、その心中を読ませようという気はないようだった。
北原廉はむっとした。早く言え、表情に現れた言葉がそのまま声となって出てくる。
ははは、と南條は笑った。そのまんますぎだよねえお前、と。俺的にはそういうとこが可愛いって思うけど。南條はくすくすと笑う。
言いたいか言いたくないかで言ったら、あんまり言いたくないんだけどね。独り言のような音量で南條は続ける。
──告げろと言うなら、白状しようか。
降参、と言う風に南條は両手を挙げた。おどけたようにひらひらと振って、いつも通りにへらりと笑う。
ムスッと急かす真っ直ぐな瞳を、じっと見つめ返した。ああ、叶うならば逃げてしまいたい、ああ、かなわない。こいつから逃げられるはずがない。うっかり気がついてしまった、あの時から──…
*
「あれ、廉。珍しいことしてるねえ? 明日は槍でも降るかな~」
「──あ? 聖かよ、ノックくらいしろ」
「したけど、返事しなかったのはお前だろ? で、なに? 自発的に宿題なんかやっちゃって。もうすぐミーティングだから呼びに来てやったのに……あ、そこのスペル間違えてるよ、自分ひとりでやろうっていう気ならそういう凡ミスには気をつけな?」
「アァ? どこだ……?」
「あらら、凡ミスじゃなくて認識ミス? 致命的だな~。そこ、ほら。eじゃなくてaだよ」
「チッ、紛らわしいんだよ……つか、テメーのせいで集中切れた。今何時だ」
「もうすぐミーティングって言っただろ。まもなく十一時~」
マジかよ。北原はそう呟いて、机の端の方に置いてあったスマートフォンのディスプレイを明るくした。マジだ、とまた呟いたのが聞こえる。信用しないなら最初からスマホを頼ればいいのに、と思いながら南條は失礼な奴のつむじを見下ろした。
今は、楽しい夏休み。綾薙学園ミュージカル学科二年生として最初のメインイベント、育成枠のオーディションと卒業記念公演の本番を終えてほっと一息ついているところだ。四月から七月までのたった三ヶ月、候補生の頃よりもさらに濃い時間だったように感じる。
色々あったな、と思う。南條は机に手を着き、シャーペンを握り直した北原の手元を覗き込んだ。あと二問、キリのいいところまで解いてから行くことにしたらしい。そのペースで間に合うのかは疑問だが。
色々──オーディションも兼ねた稽古、合宿。配役発表後は本番へ向けた本格的な稽古。それからもちろん、学生の本分としての学業も。思わず、詰め込みすぎじゃない? と言いたくなるくらいだ。進級してクラスも入れ替わり、環境も変わったばかりでこの忙しさ。見慣れているのはチームメイトと、あとは昨年隣の稽古場だったteam楪の面々とトップのスターオブスターたちくらいか。南條は馴染むのに苦労するタイプではないため、その辺りは上手く適応したが。
廉、ちゃんと本文読んでる? 冒頭にほぼ答え書いてあるんだけど。書き込まれたばかりの解答をトントンと軽く指で叩いて、ふっと鼻で笑う。一応、的外れな選択ではないことを褒めてやるべきか。しかし北原の性格を知っている南條は、褒めるようなことはしない。
「その問題、まんまと引っかかってるけど……、ちゃんと読んでれば間違えるわけないんだよなぁ。ああ、要するに理解できてないってことがわかってるのにわざわざ聞いてごめんね〜、そんな単純な問題を間違えたのが信じられなくってさあ」
「アァ? 最後の方にこんな感じのこと書いてあるだろーが」
「ん〜、冒頭と矛盾してることに気がつけないなんて……ツルツルスベスベなのは肌だけにしときな? 脳みそにはちゃんとシワがないと。ほら、もう一度最初から読んでみなよ、声に出して」
「あ? あー、ハイ、ミケ」
「うん、マイクね」
猫じゃねーのか……ポツリと聞こえた声に吹き出して、アハハと笑う。いつもケンとかマイケルとかだろーがと反論されても、マイクも頻出だよと返すしかない。
期待を裏切らず、脳筋らしい学力のリーダーに、こうして勉強を教えるのももう慣れたことだ。傍から聞けばただ罵倒しているだけのようだが、これも北原のやる気を持続させるための方法なのだ。体育会系の北原的にはこういう感じの方が燃えるらしい。ほら、さっきまで集中が切れて緩んでた顔がまた引き締まった。
はいあといちも〜ん、待っててやるから早くしな。北原が座っている椅子の背もたれにギッと体重をかけて、解答を急かす。
早くしないと遅刻だよ、リーダー。ならヒント出せ。まずは自分で考えなきゃ意味ないってこともわからない? じゃあ椅子揺らすな、有罪。はいはい。
文句を言いつつもわずかに弾んだ声を聞いて、南條はこっそりと目を細めた。楽しいな、という感情から。一緒にいてこんなに飽きない奴は初めてだ。勉強会なんて序の口、一年の頃は毎度先輩に転がされる稽古風景だとか隣の稽古場を使う奴らとの喧嘩だとか最終的に転がされる現場だとか、見慣れても見飽きなかった思い出がたくさんある。
あと何回、勉強会できるかな。今までの回数を数えてから、ちょうど残り半分くらいの高校生活のことを考えた。あと、何回だろう。
よし行くぞ。と筆記用具を置いた北原は、南條の気持ちなんて知りやしないのだ。あと何回だって教わる気でいるに違いない、教わる立場のくせに偉そうな態度も変わらないだろう。
あいつら待ってるかもね、財布忘れるなよ〜。おう。じゃあ行こっか。
ミーティングの後は、みんなで食事の予定。一度部屋に戻ってもいいのだが、面倒なのでそのまま行けるように財布は持ってきた。北原も財布を持ち、パンツのポケットに入れて歩き始める。その背中を眺めながら、また思った。
あと何回、当たり前のように遊べるのかな。と。
**
「何? この点」
「………」
「お前、そんなでよく綾薙の中等部に入学できたね? 普通科って、一応進学校としてもそこそこ有名なんだけど。まあ、賢そうだとは微塵も思ってなかったけど……まさかこのレベルとはねえ……。一応今は赤点レベルではないけど、今後大丈夫なわけ? もし赤点で補講なんてことになったら……スター枠のリーダーが赤点ねえ……」
「勉強は苦手なんだよ……言っとくけど、綾薙の中ではってだけだからな! この学園の連中が俺より勉強できるってだけだ」
「はいはい、屁理屈、屁理屈。仮に一般高校では多少賢いレベルだったとしても、お前の高校生活はこの学園内でのお話になるんだから、この中でできるようにならないと意味ないんだよ~? わかってる~? これが理解できないなら廉はバカってことになるけど」
「アァ? そういうテメーはどうなんだよ」
「俺? 俺の結果はあそこ」
これは、一年の頃のとある試験の季節のこと。張り出された結果を見に行った時、隣の奴の眉間にわかりやすくシワが寄ったから、その視線の先を追ってみたのだ。
みたら、呆れた。南條には縁のない数字が並んでいたから。思考回路が筒抜けになるような奴だから、そんなに頭が良い方ではないだろうとは思っていたが、想像よりも下だった。同じ中等部出身だということは考慮しなくてもよかったらしい。
これくらいを維持できるならギリギリ問題ないが、単元が進めばより難しくなっていくわけで、それでついていけなくなるようだとこちらにも影響が及ぶ。赤点で補講となると稽古に支障が出るからだ。それに、そんな理由でリーダー不在となるのはどうにも間抜けだろう。指導者である漣にも不名誉を与えるようでなんとも申し訳ない。
南條の指さした方を見た北原が目を見開いた。そして次の瞬間、パッと南條の方を向いて、いかにも察しがつくことを言いそうな笑みを見せた。
「聖、勉強教えろ」
勉強教えて、と頼まれたこと自体は初めてではない。けれど引き受けたのは初めてだった。今までは俺も試験前で忙しいからなどと言ってはぐらかしてきたが、今回は、サブリーダーの役目として──というのは建前で、なんとなく面白そうだと思って引き受けることにしたのだ。北原は、傍にいて飽きない奴だから。
バンッと、北原が机の上に教材を広げた。その後ろに立ち、さてどう遊んで──教えてやろうかと考える。
「まずは数学、か。そうだな~、懇切丁寧に教えてやろうか? 廉くん、一足す一は二だよ~」
「ア? それくらい理解できてるに決まってるだろーが、つかそれ算数だろ」
「おお、賢いね~廉くん」
「バカにしてんのか?」
「まあね」
「有罪」
あはは、と笑うと、北原は不満そうに眉をひそめた。これはなかなかいいオモチャになりそうだが、勉強の邪魔ばかりして本当に成績が下がってしまっても困る。北原の座右の銘風に言うならば、教えるからには成績アップ、落ちたら無意味。だ。
「まあとりあえず解いてみてよ。お前のレベルがわからないとこっちも教えようがないし。というか、まさか全教科受け持ってもらおうなんて考えてないよなあ? ああ、その顔、全部見てもらう気満々だったみたいだね。ま、確かにあの成績を見た限りだと……全教科見る羽目になりそうって思うけど。はい数学、まずは初級の展開どうぞ」
「あー……ん? おー……あー………っと、…こうか?」
「ふぅん、一応基礎は理解できてるみたいだけど……、そこ、xかけ忘れてるよ」
「アァ? マジか……つーかややこしいんだよ、有罪」
「ちなみに俺的には、有罪なのは廉の注意力って思うよ。お前、勉強にやる気ないのがあからさまだよ?」
「っつっても、勉強は退屈っつーか……なんか燃えねーんだよな……」
「廉が燃えてるとこなんて、漣先輩に挑む時くらいしか見たことないけど?」
やれやれ、と大袈裟なため息をついてみせる。手を焼いてます、という演出だ。さっきからシャーペンの先があっちへふらふらこっちへふらふら、わからないから余計にそうなるのだとは思うが、いくらなんでも集中力がなさすぎる。
どうしたら集中するのだろうか。時間には限りがある、ちゃんと有効活用したい。人に教えると自分の勉強にもなるとは言うが、これでは教えるところまで辿り着かない可能性もある。北原の口癖を借りると、有罪。だ。
「一応、あの程度でも点は取れてるわけだし、壊滅的ってほどではなさそうだから……はい次の問題」
「おー……あー……んー……? ああ、あ? ん……」
「お前、静かにできないの?」
「ああ? 別にいいだろーが。で、これが……よし、どうだ」
「どうだも何も、お前には可哀想なくらいに注意力がないってことがわかったくらいで進歩なしかな~。よく見なよ、そこは整数だけだろ」
「アァ??」
はぁ、と今度は演出ではなく大きなため息が漏れる。ケアレスミスを指摘しているだけではただの時間の浪費だからだ。まず、ケアレスミスというのは試験の時に自分で気がつくことができなければ全く意味がない。つまり、ここでの指摘もあまり意味がないということ。
どうやら優しく教えてやるのは無駄なようだ。確かに、北原は褒めて伸びるタイプではないだろう。案外自分の実力というものを冷静かつ客観的に評価できる奴だから、褒められて調子に乗ることもない。
ならば、逆か。
南條はフッと鼻で笑った。むっとしたように振り返った北原を、哀れみの視線で見下して。
「というか廉……、こんな初歩的な問題で躓くなんて、むしろ今までよく赤点取らなかったね? 試験のたびに奇跡起こしてるんじゃない? まぐれで通過されてもなあ。俺の貴重な時間を潰してるってことを自覚して、少しは見返してやろうって気でやってくれないと困るんだけど。例えばほら、この問題。あはは、廉のお粗末な脳みそじゃ解けるわけないか」
「んだと? やってみなきゃわからねーだろーが。これだな? あー……、………、……………どうだ」
「へえ、一応正解だけど……一問解けたくらいで大きい顔されてもな〜。全問正解してから出直しな?」
「ああ? っし、次だ次」
──単純な奴は可愛いというか、なんというか。
煽ってみたら簡単に燃えてくれるなんて、焚火みたいな奴だ。やっぱり北原は傍にいて飽きない。普通の奴なら怒りそうな言葉を選んだのに、怒るどころかむしろ今は黙って問題を解いている。相当な変人だ、でも、それに合わせてやるこっちも大概かもしれない。
俺的に面白い方で、やる気出してくれるなんて。カリカリと机に向かう頭を見下ろした。これから、試験は何度もある。そのたびにこんなに楽しませてくれるのかと思ったら、うっかり、頬が緩んでしまった。大丈夫、見られてはいないから。
「……あーあ、慣れてきた頃に間違えるなんて、期待を裏切らないよな。そこは大いに裏切るべきところって思うけど? ちなみに廉、それは足し算のミスだから、算数からやり直した方がいいんじゃない?」
「ハッ、一足す一は二ってか? あ、六足す七は十三だろーが、なんで十二になってんだ」
「お前が間違えたんだろ?」
ふっ、アハハ! どちらからでもなく笑い声を上げて。時々間違えながらもテンポよく問題を解いていく北原に、合いの手の如く煽りを入れて。互いのリズムが心地よく重なる。
好きだな。と。
思ってしまった。こいつのこういうところが、好きだな、と。思ってしまった。気づいてしまった。直接的な表現をあえて選んで誤魔化すのは得意技だ、しかし、今は回りくどい表現に置き換えたいと思った。
「ちなみに俺的には、チームメイトだからって勉強までサポートしてやる義理なんてないって思うけど」
「これからも頼むぜ、聖」
なんて、噛み合っていないように聞こえる会話がまさに阿吽の呼吸だ。『けど』という逆接に続くこっちの言葉を汲み取れるなら、現国の成績ももう少しくらい良さそうなものなのに。都合よく解釈しただけだろ、まあ正解だけど。
──これからも傍にいさせてよ、リーダー。
「………お前らなぁ! オレがいること忘れてねえ?!」
「あれ、虎石。いたの?」
「オレの部屋だっつの……。つか、南條わかってて言ってんだろ! オレが集中できねえから出てけっ」
「俺の部屋でもあるだろーが。おい聖、和泉に従うのは癪だけど、うるせーからテメーの部屋行って続きやんぞ」
「廉は教わる立場のくせに偉そうだよな。はい、じゃあ荷物まとめて、行くよ~」
「じゃあな、和泉。一人で寂しく頑張れよ」
「いや、ゼッテー一人のが集中できると思うけどな?!」
*
「聖、教えろよ」
チームで集まった帰り道、第一寮の北原の部屋の前。ドアノブに手をかけた北原が、部屋の中へと入る一瞬前に目だけで振り返ってみせてそう言った。
ああやっぱり、こいつは何回だって教わる気でいる。結局自力で夏休みの宿題を片付けることは諦めたのか、確かに一人でやるよりも南條が見てやった方が効率は段違いだが。
「廉~、俺的には、宿題は自力でやらなきゃ意味ないって思うけど?」
中へ入り、ドカッと椅子にふんぞり返った北原を見て、南條は片目を瞑って毒を吐いた。出かける前までの続きで、宿題の話だとばかり思っていたから。
ちげーよ。と、北原は言った。予想に反して、随分と真っ直ぐな目に捕まった。思わず、じゃあ俺はここらで失礼、と踵を返してやりたくなったが、許してくれるような奴だとも思っていない。
じゃあ、なにを。嫌な予感がギクリと胸を掠める。喉元に鋭い刃でも突きつけられているような気分だ。もっとも、そんな状況に陥ったことはないから、実際どんな気分になるのかはわからないが。
「テメー、今日……らしくねーこと考えてただろ」
偉そうな座り方のまま、北原はじっとりと睨みつけるように南條を見つめていた。南條の沈黙をどう捉えたのか、北原がフッと笑う。可笑しそうにでも、バカにしたようにでも、楽しそうにでもない笑み──隣で何度も見てきた、勝気で自信たっぷりな笑みだ。
「らしくないこと? 別に?」
「嘘つけ。やけに静かだっただろーが。俺にはわかるぜ? 隠しても無駄だ。テメーがしおらしい時は、だいたいらしくねーこと考えてんだよ」
だから、吐け。と、北原は言う。お前のそれはいったい俺にとっての何を気取った発言なの、得意なはずの軽口が叩けずに閉口する。これでは図星と言っているのと同じようなものだ。
らしくないこと。今日、この頃、考えていることは、確かに柄じゃないことかもしれない。昔からのらりくらりとその場を生きてきた。先を見据え、自分が損をしないルートを確保して。どこでも上手くやれる自信はあったから、足さえ引っ張られなければいいという考え方で、それなりの情はあれど離れがたいというほどの特別な愛着はなかった。
「別に、そんな大したことじゃないって」
「ハッ、考えてたっつーのは事実なんだろ。いいから吐け」
「それ聞いてどうする気? お前、面白がってるだけだろ」
「ア? 気になるから聞いてんだよ。なんか悩みあるなら聞いてやるって言ってんだ。まあ、テメーみたいな奴が悩むことなんて、逆にくだらねーことだろうけどな」
「ええ、なにそれ」
──当たり前が、当たり前のままでありますように。
最近、願ってしまうことだ。出会った頃よりも大きくなってしまった存在は、頼んでもいないのに南條の心に居座っている。どういうタイプの奴の隣かは選んできたが、誰という個人の隣を選んだつもりはなかったのに。
team漣、北原廉。脳みそまで筋肉でできていそうなくらいに単純で、バカで、どっしり構えた芯は小学生みたいに捻くれている。軽い気持ちで推薦したリーダーは、今もリーダーだ。つい、傍にいることを選んでしまう。
そんなのも、この学生生活の間だけかもしれない。と、最近考えてしまうのだ。こうして毎日のように一緒にいられるのは今だけ、なのだろう。中等部時代はそうだった。副会長としてのサポートを頼まれて、毎日のように一緒にいたのは会期の一年間ずつだけだ。今まで矢面ご苦労様、卒業したらサヨウナラ。縁を切ったわけではない、けれどわざわざマメに連絡を取り合うようなことはせず、たまに来る連絡に返信する程度だ――あんなに一緒にいたのが、嘘のように。
それに対する抵抗感も未練も、今までなかった。これからもそのつもりだった。そうだろうと思っていた。
だけど、こいつらは。こいつは。
「──そんなに、知りたい?」
ねえ廉。お前は聞く覚悟があるの? ないだろ。俺が今からなんて答えるか想像できてないくせに。でも、聞いたのはお前の方だよ。自分から壊すようなこと、言いたくないけど。
でも、知りたいんだろ。
見つめた先の瞳が焦れている。そんなに急かさなくても、逃げないって。俺の方の覚悟は決まったから。
南條はおもむろに口を開いた。北原の方を真っ直ぐ見つめ、声を発する直前にふいっと逸らす。
これからも、お前の傍にいてやろうかな。
って、思ってるだけ。
それだけだよ。
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