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2. 知らない足音
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それから数日間、ミシャは諜報員の仕事で城外に出ることになった。
…それを見計らい、城に侵入した者が1人。
「…へぇ、あの赤髪の女の子が、ゼン王子のご友人ね」
庭の木から、望遠鏡で白雪を見つめる、男。
その口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
そうして、謎の男に見られているとは知らず、白雪は、疲れて眠るゼンの寝顔を見つめていた。
(わ、寝るの早いな……よっぽど疲れてたんだね)
最近ゼンは、無断で城への帰還を遅らせた反省に、休まず執務を続けている。
そんなゼンを何とか休ませて欲しいと、ミツヒデと木々に頼まれたのだ。
(よし! 私も頑張らないと)
白雪はゼンの頑張りに焚きつけられ、薬学書を開いた。
それから数時間後。
「ゼン」
「……んん…」
「ゼン、もう起きられる?」
「…ん、ぁあ? ……木々か…。…白雪は?」
「ミツヒデが見送りして、帰ったよ」
「あー…そう……。……ん? 本?」
ゼンは、傍らに薬学の本が落ちているのを見つけた。
「白雪のやつ、忘れてったのか…」
と、そこに。
「ゼン殿下、お休みのところ失礼致します」
ハルカ侯爵がやって来た。
「これはこれは、ハルカ侯爵」
それから。
ゼンは侯爵と話しながら、執務室へ戻る。
「…何? 軽々しく外の人間と会うな?」
「はい。貴方様は一国の王子というお立場。親しくする者は特に用心して選ばなければなりません」
「この身と王子の権威を守るため、だろ?」
「分かっておいでなら、
「…気に入らないか?」
「娘が期待し、つけ上がります! 殿下のお傍に置いて欲しいだの、それ相応の身分が欲しいだの、国王陛下に紹介して欲しいだのと要求されたらどうします! 殿下が臣下達に非難されるだけで、何の得もない!」
「なるほどな。…では、そんな期待を持ち合わせていない娘であれば?」
侯爵は長いため息をついた。
「…殿下、そんな娘がどこに
「だから、居たらいいのか?」
「居ると仰るなら、是非お連れ頂きたいものですなぁ」
「さっき来ていただろう」
「っ、殿下! 私は言葉遊びをしに参ったのではありません!」
「そうだなぁ。今のは俺が悪かった。…だがな、俺も遊びで言っているわけではないぞ、ハルカ候」
真っ直ぐに見てくるゼンに、侯爵は
「…分かりました。一日も早く殿下のお目が覚めますよう、願っております。…失礼」
執務室を出たハルカ侯爵は、傍の窓に寄りかかった。
周囲に人がいないのを確認し、独り言のように呟く。
「まったくあのお方は…。あれでは何を言っても無駄だ。…やはり、娘の方に頼む他ないようだな」
その呟きに、返答が来た。
「娘が帰ったことは、先ほど確認済みです。取り掛かりますね」
「…手早くな。今日の日没には、アレが帰ってくる」
「あぁ、以前仰っていた、獣のように感が鋭い、ゼン殿下のお気に入りですか? そいつ何者なんです?」
「お前は知らずとも良いことだ。長生きしたければ、余計な情報には首を突っ込まないことだな」
「はいはい、分かっておりますよ。……ご心配なく、仕事はすぐに済みますから」
言って、男はその場から、音もなく立ち去った。
10分後。
「何だと!? 今後、白雪殿が来ても、門を通すなぁ!?」
突然の連絡に、いつも白雪を通している門番2人は目を見開いた。
「何故だっ、白雪殿の入城は、ゼン殿下直々に客人として許可されているんだぞ!」
「それは取り消された」
「えっ、ウソォ!?」
連絡に来た男は、書状を見せる。
「殿下よりの伝令だ。"白雪の扱いに関し、臣下より非難の声が上がった為、これまで与えていた入城の許しは二度と無いものとする"」
「そんな、急に…」
「以上、口を挟むなとのこと。ご決断なされた殿下のご心痛、お察しするよう宜しくお願いする。…では」
「あ、ちょっと待ってくれ」
「?」
「ならば殿下にお伝えしなければっ」
「つい今し方、忘れ物を取りに戻られた白雪殿を、お通ししたばかりだと…」
「何っ!?」
男は慌てて辺りを見回した。
すると、城内に入っていく人影を見つける。
…林檎のように赤い髪。間違いない。
(しまった、聞かれたかっ)
このまま娘が殿下の元に辿り着いては、最悪の形で作戦が破綻する。
男は一目散に駆け出した。