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11. 守りたいもの
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タンバルンとの国境に至るまでの8日間、白雪はハルカ侯爵から、細かい立ち居振る舞いや作法を教えられた。
ミシャは仕事柄、潜入のためにあらゆる立ち居振る舞いや作法を仕込んであるため、特に問題は無かった。
オビも、どこで覚えたのか、ほぼ完璧な立ち居振る舞いをして見せた。
「ありがとうございました、ハルカ侯爵」
国境の砦で、3人は侯爵に頭を下げる。
「ウィスタルまでお気をつけて」
侯爵は最後に、白雪に忠告した。
「君も、招待を受け、イザナ殿下のご命令があった以上、無様な思いをして帰ってくるだけにならぬようにしろ」
「は、はい!」
「…ではな」
侯爵は早々と馬車に乗り、去っていった。
…それをある程度見送ったところで、オビはぐいっと伸びをして、首に手を当てる。
「は~ぁ、ホント堅物」
「お前、そんにゃんでタンバルンの7日間、耐えられるんか?」
「あの人の目がなければ、いくらでも耐えられるよ」
「ほ~? やっぱ侯爵が弱点にゃんね」
「……へいへい、もう認めるよ」
2人のやりとりに、白雪は笑った。
「ふふふっ、仲がいいね」
そして、国境の砦を見上げる。
「…さてと。入ろう、タンバルンに」
ミシャとオビも、同じように砦を見上げた。
「そうだね」
「ん」
御者が通行許可を貰って戻ってきたため、白雪は再び馬車に乗り、ミシャとオビは馬に乗る。
オビはミシャを抱えて手綱を握ると、ふと後ろを振り返った。
(…ひとまずここまで、
オビの考えていることを察したミシャが、前を向いたまま呟く。
「…大丈夫にゃよ。今、ミーたちは
「…そっか。ミシャが言うなら、安心だな」
オビはへらっと笑って、ミシャの頭をポンポンと撫でた。
一行はタンバルン領内に入り、1日移動したのち、訪城前の最後の宿に行きついた。
一夜明けた朝、王都入りのために、3人とも身なりを整える。
「ふぁ~ぁ……んにゃー、朝から整髪料の匂いは
宮廷楽師の恰好をしたミシャは、未だ開き切らない目で、階段を降りてきた。
「やっほ~、ミシャ。おはよ」
「んにゃ? オビ…。……げっ、にゃんかカッチリした服着てる…」
ただでさえ寝起きで、血色の悪いミシャの顔が、さらに青ざめる。
「なーにその反応」
「おぞましいにゃ…」
「ちょ、どゆことっ?」
そこに…
「あ、オビ! ミシャ! 早いね2人とも!」
白雪が階段を駆け下りてきた。
一歩踏み出すごとに、上品なドレスの裾が揺れる。
「おはよ、お嬢さん」
「おはよーにゃん、雪ちゃん」
「わっ、オビのそういう格好、初めて見た。雰囲気違って見えるね」
「お、普通の反応」
「え? 普通?」
「ミシャには開口一番、おぞましいって言われたから」
「お、おぞましいって…」
「中身と外身が全然違うにゃろ? にゃからおぞましいんにゃ」
「まぁ、ホントはこういうの動きにくいから嫌なんだけどねぇ…。せめて暗い色にしてくれって、ミツヒデさんに頼んだら、これが来た」
白雪は目をぱちくり。
「暗い色?」
「夜に目立たないでしょ?」
「それは何のために…」
オビはニヤリと口角を上げた。
「ん~、そりゃまぁ色々と。知りたい?」
「え、いや、遠慮しとこうかな…」
「城ん
「そこは弁えてるよ。…にしても、稽古の時とか思ったけど、お嬢さん、そういう上品な格好もいいよね」
「えっ、そ、そうっ?」
ほんのりと頬を染め、視線を泳がせる白雪。
その褒められ慣れていない反応に、オビとミシャは目を見合わせた。
「主って、お嬢さんに可愛いとか言ったりしないの?」
「い、言わないけど…」
「ゼンってば相変わらず抜けてんにゃ…」
「ホント、言うこと言ってんだか言ってないんだか…」
「あ、ははは…」
「そういえば、お嬢さんてタンバルン出身だよね? この辺 詳しいの?」
「ううん。この辺は全然。住んでたのは王都のちょっとハズレだから、もう少し行かないと分からないんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「んにゃ? もう馬車の準備、出来たみたいにゃよ?」
ミシャは耳を動かし、視線で窓の外を指す。
「今日は早かったね」
「そんじゃ、行きますか」
3人は出発の準備をして、外へ出た。
白雪はいつも通り、馬車に乗り込む。
ミシャも慣れたように、ぴょいっと馬に飛び乗った。
後ろにオビが乗り、手綱を握る。
馬が走り出すと、ミシャはオビに背を預け、軽く伸びをした。
「んにゃ~、ドレス持たされにゃくて良かった~」
「ん、何のこと?」
オビが耳元で尋ねると、ミシャは頬を膨らませて答える。
「着替えにゃよ。クラリネス出るとき、シナノとモメたんにゃ。この宮廷楽師の服にするか、雪ちゃんみたいにゃドレスにするか」
「あぁ、あの衣装係さんか。別にドレスでも良かったんじゃないの? 似合うと思うし」
「冗談。馬に乗れんくにゃるにゃろーが」
「そう? 横向きで乗って、俺が抱えちゃえば大丈夫だったんじゃない?」
「ンにゃ女の子みたいにゃこと出来にゃーわ」
「いやいや、女の子でしょうが」
ミシャは、フっと自嘲するような笑みを浮かべる。
「んにゃモン、とっくの昔に捨てた」
…独り、山の中で生きるにも、諜報員の仕事をするにも。
女の子では居られなかった。
力で及ばないなら、頭で、手段で、精神で。
たとえ生まれつき身体的に劣っていても、他で補って、男より強くなる必要があった。
「……」
オビはじっと、整髪料で固められた、ミシャの髪を見下ろした。
同じように、心も固めてしまったのだろう。
…けれど、知っている。
本当は寂しい時もあるし、恐い時もある。
弱るとそれが滲み出てくる。
けれど、いつもは決して表に出さない。
「…ホント、強いよね」
「ん?
「いーや、何でも~?」
オビはミシャの腹部に腕を回し、きゅっと力を籠めた。
(…女の子で、居させてやりたいな)
強くあろうとする心を否定はしない。
だが、不要な意地は張らせたくない。
「にゃから、押さえてにゃんでも落ちにゃーってば」
「念のためだよ~」
「それが分からにゃーっての…」
「あはは~」
やがて、一行はタンバルン王都の入り口に到着した。
「わぁ、久しぶりだっ」
いつもより少し高い、白雪の声。
故郷に帰って来られたことそのものは嬉しいようだ。
対して、ミシャは嫌そうな顔をする。
「…ここから馬車にゃんか……」
一応、礼節として、招待された客人が馬で乗りつけるわけにはいかない。
白雪が馬車の扉を開ける。
「城までは20分くらいだけど、いけそう?」
「…自信にゃー」
オビが笑って言う。
「気休めだけど、窓開けときなよ」
「そうする…」
ミシャは浮かない顔で、馬車に乗り込んだ。