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11. 守りたいもの
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それから数日。
オビは巳早を連れて、毎日のように鹿月を探し回った。
…が、白雪とミシャがタンバルンへ発つ前日になっても、手掛かり一つ掴めなかった。
「…参ったな」
月夜の下、木の枝に座って空を見上げる。
「…どこに居んのかねぇ、美少年……ん?」
ふと、城の廊下を歩く小柄な人影が目に留まった。
「ミシャ~」
いつも通り木を跳び渡り、人影の背後に降り立つ。
「
ミシャは、特に驚くこともなく振り向いた。
腕には大量の楽譜と、小包みを1つ抱えている。
「それ、タンバルンの楽譜?」
「そうにゃよ。ついさっき、やっと全部覚えられたとこ…」
ため息をつくミシャの目の下には、うっすらとクマが出来ていた。
オビはフっと口角を上げる。
「お疲れさん。……ん? その包みは?」
「ん? あぁ、これはリュウに作って貰った、新しい毒にゃ」
「武器に仕込むやつ?」
「そ。タンバルンじゃ、
「……」
オビは、表情を曇らせて、ミシャを見下ろした。
「ん? どした? オビ」
「…いいや、何でも」
わざとらしく笑みを浮かべ、ミシャの頭にポンと手を乗せる。
「朝弱いんだし、今日は早く寝なよ?」
言って、ひらひらと手を振り、どこかへ歩いていく。
その背中を、ミシャはしばらく見つめた。
(……変にゃの…)
いつもと少しだけ、様子が違う。
ミシャはため息をついて、自分の部屋へと歩いていった。
一方。
「あっれ? 木々嬢、ミツヒデさん」
廊下を歩いていたオビは、並んで歩く2人を見つけた。
「ん、あぁ、オビか」
「どこ行くんです? こーんな時間に2人して………はッ」
「何が "はッ" だ!」
「ゼンの迎えだよ。戻ってこないから」
「主が?」
オビは2人についていった。
"――――――ビュッ……ヒュォッ"
聞こえてきた、剣を振る音。
修練場まで来てみると、ゼンがひとり、剣を振っていた。
ミツヒデが声を張る。
「ゼン! そろそろ戻れ!」
「っ、ああ!」
"ヒュオッ、ブンッ"
返事はするものの、ゼンは一向にやめない。
「主1人で稽古中ですかい?」
木々が答えた。
「白雪がどっかの輩に目をつけられてることと、タンバルン行きが重なってから、夜に時間が空くとね」
「へぇ~。……やっぱ、本心では行かせたくないんですよね」
ミツヒデが苦笑する。
「そうだなぁ。…というより、自分で守りたくて仕方ないんだろうな」
その言葉は、何だか胸の奥に刺さった。
(―――自分で守りたい、か)
目の前にちらつく、ふわふわの白金髪と、あどけない笑顔。
オビは、傍の壁に立てかけられていた、訓練用の木剣を手に取った。
ミツヒデが眉をひそめる。
「…オビ?」
オビは答えず、ゼンの前に進み出た。
「はぁ…はぁ………ん? 何だ、オビ。お前も居たのか」
「主、勝負しましょう」
「…は?」
「俺が勝ったら、タンバルンへのお嬢さんの付き人、俺にして下さい」
「!」
「アンタが守れないときは、俺がアンタの代わりに守る。俺をお嬢さんの護衛役にしたのは、主ですよ?」
「……」
ゼンはじっと、オビの目を見据えた。
…両者とも、静かに剣を構える。
「……」
「……」
"――――――ダッ"
先手はゼンだった。
深く踏み込み、大きく剣を振る。
"ガッ"
オビはそれを弾き、くるりと宙返りして距離をとった。
「よ、っと…」
「ホント身軽だな、お前は」
「そりゃどーも」
"ヒュッ―――ガッ、バシッ、ガンッ"
続く剣の応酬。
しかし…
"ヒュッ、カッ!"
「げっ」
ゼンの一撃で、オビの剣が折れた。
オビは咄嗟に、その場に手をつく。
"バシッ"
「!」
軽くゼンの手元を蹴り上げ、剣を撥ねた。
"カラン、カラン…"
「……」
ゼンは、僅かにしびれの残る手を見下ろし、フっと小さなため息をついた。
「…勝負あったな」
「え…」
「剣なら分からんが、お前と武闘でやり合うのは分が悪い。オビ、お前の勝ちだ」
「! ……いいんですか?」
「兄上には、『俺が信頼をおく者を同行させる』と言ったからな。お前に任せたって約束違反にはならん。…ただ、白雪やミシャが抗議してきても、俺は責任取らないぞ?」
オビは何度かまばたきを繰り返してから、フっと笑った。
「ははっ、そこは助けて下さいよ、主」
ゼンはオビに手を差し伸べ、引っ張り立たせる。
「…さて、それじゃ、ちょっと報告してくるか。お前も報告しとけよ?」
「え、俺も? 誰に?」
キョトンとしてみせるオビに、ゼンは悪戯な笑みを向けた。
「言って欲しいのか?」
オビは複雑な顔で視線を逸らし、頬を掻く。
(バレてたか…)
「……行ってきます」
何だかむず痒い思いで首に手を当て、城の廊下を歩き出した。
"コツコツ…"
「?」
部屋で、武器に毒を仕込んでいたミシャは、窓を叩く音に顔を上げた。
そして、半目でため息をつく。
(…窓から来る奴にゃんて、アイツしかいにゃーか)
"シャッ"
カーテンを開けると、案の定、オビがへらへら顔で手を振っていた。
"カチャ…"
「
「あはは~、ちょっと報告」
「?」
「明日からのお嬢さんの付き人、俺に変更になったから」
「そうにゃの?」
ミシャは意外そうに、まばたきを繰り返す。
「そんなわけだから、よろしくね?」
「ん、まぁ、誰が付き人でも、ミーにはあまり関係にゃーけど…。さっき、ゼンとひと試合やってた?」
「お、さっすが。聞こえてたんだ。主に勝ったら、俺がミツヒデさんと付き人役を交代するって話でね」
「それ、オビから持ちかけたんか?」
「うん」
「
「まぁそうだけど、それを差し引いても、行きたい理由があるんだよねぇ」
オビは窓枠に腰掛けると、ベッドにぺたんと座っているミシャの頬に、手を伸ばした。
白く柔らかい頬は、掌に吸い付いてくる。
「?」
ミシャはきょとんと首を傾げた。
まるで小動物のようなそれが、何とも愛くるしい。
「ミシャ」
「
「タンバルンから帰ったら、話したいことがある」
「話? 今じゃダメにゃんか?」
「うん、帰ってからでないと」
「ん~? …まぁ、覚えとくにゃ」
「ありがと」
オビは、親指でミシャの頬を撫で、前髪越しに額に口づけた。
「!」
「そんじゃ、おやすみ」
へらっと笑って、窓から飛び降りていく。
「おや、すみ…」
ミシャは唖然として、開け放たれた窓を見つめた。
夜風でカーテンが揺れている。
何度かまばたきを繰り返してから、おもむろに前髪に触れた。
(……
カァっと、顔が熱くなる。
(
…その夜、ミシャはしばらく寝付けなかったそうだ。