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10. 招待状
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数日後。
「こら、ミシャ。ゼンが居ないからって、ここで笛を吹くな」
「いいにゃろ別に」
ゼンの執務室のバルコニーで、ミシャは暇潰しに笛を吹いていた。
ミツヒデにとやかく言われても、やめる気配は全くない。
ゼンは今、紙で指を切ったのと、執務の休憩を兼ねて、白雪のところへ行っている。
木々は兵士たちの訓練につき合っているところだ。
「どうせにゃら、ミッチーの仕事がはかどるようにゃ曲、吹いたげよっか」
「何だそれは…」
ミシャは銀の笛を唇に当て、アップテンポで軽やかな曲を吹き始める。
すると。
「お。楽しそうな音が聞こえるなぁと思ったら」
"ガササッ"
窓の外の木から、オビが跳んできた。
ミシャは演奏を止めず、オビに向かって片目を閉じてみせる。
オビは笑みを浮かべてミシャの隣に座り、演奏を聞いた。
…演奏が終わると、何度か拍手を送る。
「懐かしいなぁ。俺がここに来た頃、ミシャと城下町に行ったときに吹いた曲だよね」
「せいかーい!」
笛吹きのチェルとして、踊り子の伴奏に即興で吹いた曲だ。
ミツヒデは、やれやれと言いたげに苦笑しながら、本や書類を整頓していく。
オビは、何かを思い出したように外に目を向けた。
「そういえば、門のところに知らない奴が来てたけど」
「知らにゃー人にゃんてゴマンと来るよ?」
「いや、一般人って感じじゃなくてさ。ありゃ裏の仕事してる奴だね」
「へぇ~」
そこへ、噂をすれば何とやら。
「失礼致します」
城内の使用人がやって来た。
「ゼン殿下はいらっしゃいますか?」
ミツヒデが書類を抱えたまま答える。
「殿下は少々外しておりますが。何か御用でしょうか」
「ゼン殿下にお客人です。重要なお話しがあると…」
聞いた途端、ミシャは座っていた手すりから降りて、ターバンを取る。
オビも、頭に被っていたものを外し、身なりを整えた。
客人が来たとなれば、いつもの格好ではいられない。
ミツヒデがそれをチラリと見て、使用人に伝える。
「承知しました。通して下さい。殿下にお伝えします」
使用人は、客人だという男を1人、室内に通すと、一礼して去っていった。
男は執務室に入るなり、室内全体を見渡して鼻で笑う。
「懐かしいねぇ、この気品ある空気感」
オビは男を見て、2回ほどまばたきを繰り返した。
「あ。アイツだ」
「さっき言ってた、裏の仕事してるかもって
「そ」
「…当たってたにゃ~」
「知ってるのか? ミシャ」
「まぁにゃ~。ミッチー、ゼン呼んできにゃよ。コイツ、本当に
「え、あぁ、分かった」
ミシャの態度は既に、客人に対するそれではない。
背後に隠していたターバンを、もう一度頭に巻き直していた。
ミツヒデは整頓中の書類や本をその場に置いて、執務室を出ていく。
"キィィ……パタン"
扉が閉まると、客人の男は、飄々とした態度で頭の後ろに両手を組んだ。
「アンタ、俺のこと知ってるんだな」
「当然。にゃって、お前の家の情報、城に持ち帰ったんはミーにゃんにゃから」
「…何だと」
男は眉をピクっと動かし、殺気を放った。
オビが反応して、武器に手を添える。
ミシャはその手に自分の手を重ね、制した。
「没落貴族が今さら
「…テメェだったのか、俺の家を貶めやがった密偵は」
「悪いことしてたンはそっちにゃよ。不正に横領、脱税、闇取り引き。あそこまで真っ黒にゃった家は、ミーの仕事史上でも5本の指に入るにゃ」
「よく言うぜ。まだガキだった俺まで巻き添えにしやがって。元凶に関わりのあるものは全て排斥対象にする。それがお前らのやり方なんだろ?」
「ガキにゃった? 笑わせんにゃ。物心ついたばっかの赤子にゃらともかく、当時のお前の年で善悪の分別がつかにゃーわけがにゃーろう。お前は、自分がこれから家族と同じ道を辿ることを疑わにゃーった。にゃから、ミーはお前もろともシスク家を叩いたんにゃ」
「……ンのやろう」
「ま、恨みたきゃ恨みにゃよ。こんにゃ仕事柄、そういうンには
ミシャはヘラっと笑い、見下ろすような目で巳早を見た。
そこへ…
「おっと、ゼン殿下がお見えにゃね」
"ガチャ、ギィィィ……"
扉が開き、ゼンとミツヒデと木々が入ってきた。
巳早はミシャに向けていた殺気を消し去り、まるで別人のように態度を改める。
「ご機嫌麗しゅう、ゼン殿下」
ゼンは巳早を見るなり叫んだ。
「つまみ出せ!」
ミツヒデが慌てふためく。
「待っ、ゼン殿下! どうされ「聞こえなかったのか? つまみ出せと言ったんだ」
「おっ、落ち着けって…」
「コイツは前に、山で白雪を攫った男だ!」
「攫った…? ……あ! 白雪がクラリネスに来たばかりの頃の…」
ミシャが半目でため息をつく。
「あれの犯人、お前にゃったんか…」
巳早は笑顔を崩さない。
「巳早、と申します。お目通りが叶い光栄ですよ、殿下」
「お前だと分かってたら昼寝してたわ。…それで? 一体何の用だ。牢から出た挨拶か?」
「白雪は元気ですか?」
「……」
「聞けば、この城で働いているとか」
「…で? 用件は何だ」
「無視かよ</b>……申し上げる前に、白雪もここへ呼んで頂けますか?」
「…何?」
「殿下が今も白雪と親しいのでしたら、聞く価値のある話かと。彼女のためにも」
「……」
ゼンはじっと巳早を見据えた。
…そして、チラリとオビに目を向ける。
「…オビ、隣の部屋に連れてきてくれ」