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10. 招待状
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翌日。
「あ、いたいた。リュウ坊」
「?」
オビは、リュウを探して薬草園までやって来た。
「これさ、花の種、やっぱ返すわ。リュウ坊が持ってた方がいい。俺じゃ、ちゃんとしてやれないから」
「……何で?」
「花の世話したことないし。リュウ坊の木登りと一緒だよ、はははっ。…それに、この城にいつまで居られるか分かんない俺が、何か残したりするのもね…」
「…そのうち、どこか行くの?」
「どうだろうねぇ。俺にその気がなくても、主の気が変わっちゃえば…。おっと、外、風出てきてるね。このあと荒れるかも」
「…じゃあ、やっぱり、オビさんにあげる」
「へ?」
「…これ、種のままでも、綺麗だし。城を出なきゃならなくなって、どこかで見たくなったら、花にしてあげて」
「……」
と、そこに…
"ガララッ!"
白雪が飛びこんできた。
「はぁっ、はぁっ」
「おや、お嬢さん。どうしたの? そんなに暴れて」
「はぁっ、はぁっ、風、酷くなって、きたからっ、はぁっ、リュウ、呼び戻しに…」
「…あぁ、ごめん。すぐ片づける」
「オビが一緒だったんだ」
「まぁ、ちょっとね」
「なら、大丈夫だったね。…ミシャが、もうじき夕立が来るって。そのまま、明日も雨だって言ってたよ?」
「わお、そりゃまずいね。俺、リュウ坊抱えて走ろうか」
「…え、いや、俺は」
「ほ~れほれ、行くぞ~?」
「…わっ」
オビはリュウを抱え、白雪と一緒に薬室まで走っていった。
翌朝。
"サァー……"
クラリネスは、昨日の夕方から引き続き、雨に見舞われていた。
(お~、さっすがミシャの匂い天気予報。しっかり当たってら)
オビは廊下を歩きながら、滴る雨音を聞く。
(さてさて、今日は大丈夫かねぇ)
オビがやってきたのは、ミシャの部屋。
以前、雨の日にとんでもないことがあったため、様子を見に来たのだ。
"コンコン"
「ミシャ~、起きてるか~?」
雨音に負けないよう、少し声を張る。
…しかし。
「ん~、返事ないね~…」
聞こえなかったのか、以前のように何かが起こっているのか…
オビは、かなり強めに扉を叩いた。
"ゴンッ、ゴンッ"
すると…
"ガチャ…"
そっと、扉が開いた。
隙間から、緑色の瞳が恐る恐る見上げる。
訪ねてきたのがオビと分かると、ふっと警戒の色が和らいだ。
「…
「いや、聞こえてなかったみたいだし」
ミシャは眉をひそめて首を傾げた。
「
「あらら、この距離でも聞こえないか…」
思い返してみれば、あの雨の日の一件では、ずっと触れるほど近くで話していた。
「…それなら」
「!」
ひょいっと、オビは子供を抱くように、ミシャを抱き上げた。
「にゃっ、
「俺の声、聞こえてなかったみたいだし。大声出すより、近づいた方がいいかと思って。聞こえる?」
「き、聞こえるけど…」
「部屋、入ってもい?」
「…別に、構わにゃーよ?」
「それじゃ、お邪魔しまーす」
オビはミシャを抱えたまま、部屋の中へと入った。
正面のベッドの上に、仕込み途中の武器が見える。
オビは、床に散乱した置き物たちを器用に避けて、ベッドまで歩み寄った。
「よ、っと」
ミシャをベッドに降ろすと、自分もその隣に座る。
「今日は、大丈夫?」
ミシャは、オビの行動に戸惑いつつも、武器の仕込みを再開しながら答えた。
「今日はちゃんと、薬飲めたから。目ぇ見えてるにゃ」
「それは何より。…それ、武器の仕込み?」
「うん。おとといリュウが、新しい
オビはミシャの手元を見つめる。
「雪ちゃんの護衛、行かにゃんでいーの?」
「雨だとお嬢さん、調合か勉強で薬室から出ないから、俺の出番ない」
「それもそっか」
「……」
「……」
「…もしかして、機嫌悪い?」
「
「いや、何となく…」
ミシャは一旦手を止め、ため息をついた。
「そりゃあ、雨降るとうるさいからにゃあ…。部屋ン中にゃら少しはいいけど、それでも頭おかしくなりそうにゃよ。おまけに鼻も利かにゃーし、目はこれにゃし、最悪にゃ…」
傍の窓から、雨空を見上げる。
ぼやけて何も見えやしないが。
オビは、近場に転がっていた、動物らしき置物を手に取った。
「いつもはどうしてんの。雨の日」
「ん~?」
「武器の仕込み、いつもやるわけじゃないでしょ?」
「いつもは、片っ端から物に触って、記憶を辿って気を紛らわせてる」
「…そっか」
「…そうにゃ」
ミシャは作業を再開した。
オビは置き物をいじりながら、ふと、思いついたことを言ってみる。
「これから、雨の日はここに来てもいい?」
「?」
「話し相手が居た方が、気も紛れるでしょ」
ミシャは顔を上げ、オビを見つめて、ぱちぱちとまばたきを繰り返した。
そして、照れたように視線を逸らす。
「す、好きにすればいいんじゃにゃーか?」
オビはフっと笑った。
「んじゃ、来よっかな。…ていうか、この置き物、何の動物なわけ?」
「ん?」
ミシャは、オビが持っている置き物に触れた。
まんべんなく触って、形を把握する。
「あぁ、トラにゃよ」
「え……頑張ってもナマケモノだろ…」
「にゃははっ、ヘタにゃろ? そのヘタさが逆にウケてる、人気の彫り士にゃんよ」
「へぇ。くくっ、確かにここまでヘタだと、他のも見てみたくなるな」
「にゃろ? 今度連れてったげるにゃ」
ふわりと、ミシャは笑顔を浮かべる。
そのいつも通りの表情に、オビは安堵した。
…その日、オビは1日中、ミシャの部屋に居たそうだ。
夜。
雨も上がり、オビはミシャの部屋からおいとました。
しかし、まだ寝るには早い。
ということで、昨日に引き続き、またしてもゼンの部屋に入り込んだ。
「またお前は人の部屋に…。1人で暇なら、ミツヒデのとこにでも行けよ」
「ミツヒデさん、用がないと入れてくれないんですよ~」
「何? …分かった。入れるように言っておいてやる」
(…やっぱり。文句は言うけど、結局追い出さないんだよね)
「…俺には勿体ない居場所だな」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何も」
翌日。
「んにゃ~、晴れた晴れた!」
昨日1日部屋に籠っていたミシャは、日の下で思いっきり伸びをした。
オビと2人、白雪の護衛任務のため、薬室へ向かう。
「おはよ~、お嬢さん」
「おはようにゃ~ん」
「あ、オビ、ミシャ、おはよう!」
「…ん、あれ? 花がついてない」
オビは、白雪が管理しているという花に目を向けた。
リュウが種をくれた、あの花だ。
「あぁ、それ? 今年はもうおしまいだから」
「そうなんだ。種は揃ったのかい?」
「それが、あと1色だけ…。あれ、私、この話オビにしたっけ?」
「主に聞いたんだよ」
「ゼンから?」
「そ。…あと何色が足りないの?」
「青色。なかなか一気に全色は揃わないもんだね。来年、また咲くのを待つよ」
「そっか…。揃ったら見せてね?」
「うん」
オビは、傍にいたリュウに目配せした。
「
「ん~? 秘密」
「…
「えっ、ひどっ」
今日も、薬室の平和な1日が始まった。