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10. 招待状
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ある晴れた日の昼頃。
ウィスタル城内の庭で。
「お、ミシャ。おかえり~」
「たらいまぁ…」
オビは、仕事帰りのミシャに行き会った。
「お疲れさん。今回は1泊だったから、短かったね」
「その分、走り通しで疲れたにゃ…」
「報告は?」
「今行ってきたとこ。…あれ? オビ、雪ちゃんの護衛は?」
「今日は半年に一度の大掃除なんだって。さすがに研究室の物とか、知識ないと扱えないから、俺は手伝えないわけ」
「ヒマにゃんか」
「そ。主も仕事くれないしね~」
「ミーの代わりに仕事行ってくれにゃ…」
「そりゃねぇ、ミシャみたいな耳があれば喜んで代わってあげるけどさぁ?」
ミシャは、背後に迫ったオビの両手を、ガシッと捕まえる。
「どさまぎで耳触ろうとすんにゃ」
「あ、バレた?」
「お前、耳フェチか?」
「ん~、ミシャの耳限定で」
「……」
「え、いや、冗談だって。そんなマジで引かないでよ」
「……」
「ちょっ、ミシャさーんっ?」
「あれ、リュウがいる」
「無視かよ…」
ミシャは、庭で木の枝をじっと見上げているリュウを見つけた。
「……あれは、
「さぁねぇ」
2人はリュウの元へ歩み寄る。
「リュウ坊、どーした?」
「…あ、オビさん、ミシャ。…研究書類、風に飛ばされて、引っ掛かっちゃって」
2人が木の枝を見上げると、確かに、書類が1枚引っ掛かっていた。
「あらら。……えーと、取らないの?」
「……木登り、したことない」
「えっ、マジで!?」
「リュウは引き籠りの
「そりゃ困ったねぇ。…まぁでも、いっちょ登ってみたら? 案外いけるかもよ」
「え……。……うん」
オビは、リュウの持っていた本や書類を持ってやった。
リュウは無表情なまま、木に登り始める。
……が。
「……」
3歩進んだ辺りで動かなくなってしまった。
「身動きとれない?」
「……うん」
オビはフっと苦笑する。
「分かった分かった。木登りはまた今度ね。……よいしょ、っと」
「!」
オビは軽々と、リュウを肩車した。
リュウは初めての経験に戸惑う。
「ほら、届くでしょ?」
「…あ、うん……」
リュウは書類に手を伸ばした。
「リュウ坊、何歳だっけ?」
「……12」
「軽っるいな~。ミシャといい勝負だ」
「むむっ、ミーの方がまだ身長あるし、骨密度も高いにゃ!」
「重いって言われるよりいいんじゃないの? 普通は…」
"ガシッ"
「いででっ」
リュウは突然、オビの頭にしがみついた。
「ん、何? 高いの苦手だった?」
「……い、いや、俺、
オビはフっと笑う。
「んじゃ、薬室まで送ってあげよう!」
持っていたリュウの本や研究資料を、ミシャに預けて、オビは走り始めた。
ミシャは苦笑して、その後を追う。
「そうしてると、お前ら兄弟みたいにゃ」
「だってさリュウ坊」
「…兄弟……」
リュウは、今まで見たことのない高さからの景色に、終始ほうけていた。
「あらま、何これ」
薬室まで来てみると、床は一面、よく分からない器具で埋め尽くされていた。
目を瞬かせるオビに、リュウが答える。
「…これは、道具の日干し」
ミシャは眉をひそめて鼻を塞いだ。
「すっごいカビ臭い…」
「…だから、干してる」
「よいしょっと」
オビは、リュウを窓から部屋に降ろした。
そのとき、目の端に白い花が映る。
「ん、あれ? 見たことない花がある。何に効くの?」
「…あれは薬じゃない。観賞用。白雪さんが管理してる」
「へぇ。…いいね。この花は好きな感じだ」
「……」
リュウはじっと、オビを見つめた。
と、そこに…
"ガラ、ガララ…"
「よいっ……しょ…」
白雪が、箱を4つも重ねて抱え、薬室に入ってきた。
ミシャは目をぱちくり。
「わお、すごい荷物にゃね…」
オビが苦笑して歩み寄り、箱を2つ持ってやった。
白雪は、いきなり腕が軽くなって、目をぱちくり。
「あれ、オビ? ミシャにリュウも」
「これ、こっちの空いてるとこ置けばい?」
「あ、うん。ありがとう! ……あ、そうだ、リュウ。これ、薬倉庫の点検表です」
「…ご苦労様」
「お嬢さん、今みたいに運ぶものってまだある? 手伝おうか」
「あ、ううん。これだけなの。ありがとう。それに、倉庫の中、けっこう知らない道具だらけで、勉強になるんだ」
「そっか」
「…白雪さん」
「あ、はい」
「…この、エネル草」
「はい。以前使用したときと、香りが変わっています。以前は刺激臭がしましたが、今は甘い匂いに…」
「…虫食いは?」
「ありました」
「…エネルもどきが混入してたんだ。…気をつけてたつもりだったけど」
「廃棄、ですか?」
「…うん」
「…分かりました。数日前に採取した分も、点検しておきますね」
「…よろしく」
「はい!」
白雪は薬倉庫へと駆け戻っていった。
それを、オビとミシャは感心するような笑みで見つめる。
「相変わらず頑張り屋にゃね、雪ちゃんは」
「片づけが勉強になるなんて、お嬢さんくらいでしょ」
「…あ、そうだ。ミシャ」
「ん、
リュウはのそのそと、机の下にもぐる。
"ゴソゴソッ、ゴンッ"
立ち上がろうとして頭をぶつけた仕草に、ミシャとオビは吹き出しそうになった。
リュウは頭をさすりながら、ミシャに包みを差し出す。
「…これ。武器の毒。そろそろ、薬効切れるから」
「はっ、そうにゃった! 今度取りに来ようと思ってたんよ! いつもありがとにゃあ」
「…うん。…それと、オビさんには、これ」
「俺にも何かくれんの?」
「…書類、取ってくれたし、肩車、してくれたから。お礼」
リュウは、オビに向かって手を差し出した。
その小さな手の平には、カラフルな石らしきものが幾つか乗っている。
「…そこの白い花の種。白雪さんのじゃなくて、俺の」
「いいのかい? 貰っても」
「…うん」
「そっか。ありがとな」
その夜。
ゼンの部屋にて。
「? オビ、その種どうした。白雪に貰ったのか?」
ゼンに訊かれ、オビは弄んでいた花の種を指でつまんだ。
「いや、これはリュウ坊から」
「リュウに? お前はホント、誰とでもあっさり馴染むな。…木々以外」
「あはは~」
「白雪が集めてるらしいぞ、その種。花の色に関係なく、種の色が何種類もあるとかで、全部揃えたいそうだ」
「へぇ…」
「…それはそれとして、お前、人の部屋でくつろぐなよ、いつもいつも」
「はははっ、まぁまぁ」
「ったく…」
文句を言いながらも、それ以上は何もしないゼン。
オビはしばらく、その横顔を見ていた。