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9. 共に歩む決意
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その日も、薬室の仕事は何事もなく終わっていった。
午後3時頃。
「…白雪さん、それ終わったら、上がっていいよ」
リュウが自分の研究を進めながら、声を掛けた。
「えっ、もうですか?」
「…だって、今日の分、もう越えてるし」
「あ、でも、あの……何かに集中していないと、大変、というか……」
「…何が?」
「えっ!? あ、えっと、何かが……」
白雪の頬が、どんどん赤くなっていく。
オビとミシャはちらりと目を見合わせた。
白雪が今何を思い浮かべているのか、手に取るように分かる。
リュウは白雪をじっと見た。
「…白雪さん。もし何か悩んでいるなら」
「「「 ! 」」」
リュウが他人の悩み相談に乗るのか!?
ガラクもオビもミシャも、少し前のめりになる。
…が。
「紙に書くといいよ」
「「「……」」」
そう上手くはいかないかと、3人とも半目になった。
とりあえず、もう仕事はないということで、白雪は外に出ることにした。
オビとミシャも、後をついて行く。
どこか室内ならともかく、外を出歩くのなら護衛しなければならないからだ。
「……あ、森…」
白雪が目を留めたのは、城壁近くに広がる、戦闘演習用の森。
「行きたいのかい?」
「出来れば…」
「訓練とかで使ってなければ入っていいはずだけど…」
オビは隣のミシャを見下ろした。
ミシャは耳を動かして答える。
「誰もいにゃーよ。大丈夫」
「よし、そんじゃ、送っていきましょうか」
3人は森へと向かった。
「ん~、敷地内といっても遠いんだよね~」
「……」
「ありゃ、お嬢さん何も喋らなくなった…」
「そんにゃけ悩んでるってことにゃ」
「嫌だった、ってわけじゃないよな?」
「むしろ逆にゃね。このまま一線を踏み越えていいもんか、答えが出せにゃーの」
「ほ~…」
と、そのとき。
「あ、帰って来た」
ミシャの耳が、よく知っている馬の足音を聞き取った。
「白雪ー!」
ゼンの呼ぶ声。
白雪はびくっと肩を揺らした。
「おや、主たち、お早いお帰りで~」
「おかえりにゃ~ん」
「いや、予定通りだが…。お前らどうした? こんなところまで出て…。……白雪?」
「ん、あれ、お嬢さん?」
何故か、白雪はオビの後ろに隠れている。
「ちょ、何隠れてんの!?」
「な、なんか咄嗟に……びっくりして…」
「はいっ?」
察したミツヒデが、複雑そうな顔でゼンを見る。
「ゼン…」
「……」
ゼンは気まずそうな顔をした。
どうやら、ミツヒデと木々は、出先でゼンから聞いたようだ。
先日、ココクの見張り台で、白雪にキスをしたことを。
ミシャは、動揺している白雪を見上げる。
(こんにゃ大勢居たんじゃ、話せにゃーか)
「…オビ」
「ん?」
ミシャはオビの服を引っ張り、視線だけで思惑を伝える。
察したオビは、バッと両腕を広げた。
「よしっ、お嬢さん逃げろ!」
「えっ!?」
「ほ~れ早く、森まで走りにゃ?」
ミシャが白雪の背を押す。
その勢いに乗せられ、白雪は森の方へ走り出した。
ゼンは唖然とする。
「な、何だ、いきなり…」
オビとミシャは、目を見合わせて笑った。
「にゃっはは~、逃げちゃった」
「どうしましょうねぇ、主~」
「逃げたって……お前らが逃がしたんだろ」
「俺らが? やだな~。アンタがそうさせたんでしょう?」
「中途半端はいかんにゃあ」
「……」
ゼンはストンと、馬から降りた。
「ミツヒデ、木々、ミシャ、オビ。行ってくる。城で待て」
「「はい、ゼン殿下」」
少々強引だったが、2人きりにさせることには成功した。
「しかし、まさか白雪を逃がすとはな」
苦笑するミツヒデに、ミシャが言った。
「こうでもしにゃーと、何日でも悩み続けるにゃ、雪ちゃんは」
オビは、ゼンの乗ってきた馬の手綱を握る。
「まったく、手のかかる主だ」
木々が口角を上げた。
「そこがまた、面白いところでもあるけど」
オビは、森の方を見続けているミシャを見下ろす。
「2人の話、聞こえんの?」
「んーにゃ。この距離じゃ、声は聞こえにゃーよ。足音は聞こえるけど」
「そっか」
「…まぁ、たとえ話が聞こえたとしても、今回ばかりは耳を塞ぐけどにゃ」
ミシャは苦笑しながら、擦れる木の葉の音を聞いていた。
やがて、城の入り口で待っていると、ゼンが戻ってくる。
「ゼン!」
「ん、あぁ、そこにいたのか、お前ら」
「白雪は?」
「顔なじみの兵が居たから、送らせた」
「え、護衛役の俺の出番が…」
「ミツヒデ、木々、ミシャ、オビ。…俺はこの先も、この国で白雪と共にいられる道を行く。そう望んでいると、告げてきた」
「白雪は何て…」
「手を、とってくれたよ」
ゼンの青い瞳は、決意と喜びをこれでもかと湛えていた。
ミツヒデは感極まって、ゼンに飛びつく。
「そうかあ、ゼン!」
「うおっ!?」
「…そうかぁ」
「……あぁ。…まぁ、この話はまた改める。……で、まずは」
「おう、まずは?」
「ユリス島の報告書に取りかかる」
「了解」
「ミシャにも笛と鈴の件で手伝ってほしいことがあるから、一緒に来てくれ」
「はいよ~」
「オビは帰還報告を頼む」
「アイサー」
「行くぞ」
「「「「はい、ゼン殿下」」」」
5人は夕日を背に、城内へと入っていった。