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8. ユリスの鳥
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ところ変わって、ウィスタル城。
「…あと2分で時間切れだな」
「何かやらかしたんじゃないの、あの子爵」
「こら、木々…」
キハルは不安そうに、空を見上げていた。
周囲では、兵たちがざわつき始める。
「おい、もう25分経つぞ…」
「やっぱ上手くいかないんじゃないか?」
「相手は鳥だしなぁ…」
"ギィンッ!"
ゼンが剣を舞台に突きつけると、兵たちは肩を揺らして静まった。
「静かにしろ。羽音が聞こえん」
予想外のゼンの行動に、キハルは思わず目を見開く。
と、そのとき…
"――――――バサッ"
聞き慣れた羽音が聞こえた。
キハルは笛を口に当てる。
"ピュイィーーーッ"
"バサッ"
キハルの笛の音を頼りに、ポポが舞い降りてきた。
「おかえり! ポポ!」
その首では、鈴が鳴っている。
「殿下! 文書と鈴です!」
文書内容を、控えていたザクラが確認した。
「確かに、全員の署名を確認。問題ありませんな」
ゼンは満足げに頷き、声を張る。
「鳥使いによる通信の導入を決定する!」
兵たちは大いに盛り上がった。
…そんな中、ゼンの元へザクラが歩み寄る。
「…殿下、署名と共に報告が」
「?」
ゼンは報告の紙切れを受け取った。
「……!」
目を通し、表情に影を落とす。
「ミツヒデ、木々、馬の用意を」
「「 ! 」」
「キハル殿も一緒に」
「えっ!? は、はい!」
『妨害行為により、子爵の身柄を拘束。見張り台にて待機。補佐役、負傷』
ゼンは急ぎ、見張り台へと向かった。
その頃、見張り台では。
「んにゃ~、びしょびしょ…」
「まさかこの時期に泳ぐ羽目になるとはね」
湖から上がったオビとミシャが、軽口を叩きながら笑っていた。
白雪はというと、岸辺からまっすぐ城の方を見ている。
オビとミシャは目を見合わせて、困ったように苦笑した。
「お嬢さん? 見てても何も変わらないよ?」
「もうすぐゼンが来るにゃ」
「…うん」
「お、噂をすれば…」
ミシャは耳を動かし、道の先を見やった。
しばらくすると、馬が何頭か駆けてくる。
「さっすが、主はお嬢さんのこととなると早いねぇ」
馬が止まると、一番に降りてきたのは、キハルだった。
「白雪!」
「えっ、キハルも一緒に!?」
キハルは白雪の両手を握る。
「何があったの!?」
「えっと……あっ、それより、ポポ、間に合った!?」
「えぇ、もちろん! ありがとう、白雪!」
「よかったっ」
心から笑顔を浮かべる2人を見て、オビは隣のミシャにだけ聞こえるように言った。
「…笛でポポを呼び戻したことは、主たちにも秘密でいいよね?」
「…うん。これ以上ごちゃごちゃさせたくにゃーからね」
ミシャは、垂れてきた前髪を掻き上げる。
艶めかしく濡れた白金髪は、いつもとは違った色気を醸し出していた。
オビは無意識に、ミシャを見つめる。
その視線に気づいたミシャは、フっと笑みを浮かべて、口元に人さし指を立てた。
「笛のこと、2人にゃけの内緒にゃよ?」
「!」
濡れた前髪が一束、こぼれる。
オビは、何か心がざわつくのを感じた。
「ミシャ、オビ」
「「?」」
2人の元に、木々が近づいてきた。
「あ、キキ
「ほら、タオル。報告書の隅に、泳いだって書いてあったから、持ってきたよ?」
「にゃはっ、さっすが~!」
「気が利くねぇ木々嬢~」
ミシャはタオルを頭から被った。
木々はフっと口角を上げて、白雪にもタオルを渡しに行く。
オビは辺りをキョロキョロ見回した。
「あれ、そういや主は?」
ミシャが髪を拭きながら答える。
「見張り台ん
「そうか」
ミシャはあらかた髪を拭くと、ぷはっとタオルから頭を出した。
それを見下ろし、オビは思わず吹き出す。
「ぷっ、はははっ! すげぇ髪!」
ミシャのクセ毛は、掻き乱されてボサボサになっていた。
「い、いいんにゃ! そのうち乾けばいつも通りんにゃるんにゃから!」
「いや、ならないでしょ さすがにっ、はははっ」
オビは笑いながら、手でミシャの髪を梳く。
「いつもの動物の耳みたいな横髪、どうやって作ってんの?」
「別に作ってにゃーよ……にゃぁあ!? 触んにゃボケぇ!」
いきなり耳に触られ、ミシャはビリリリっと体を震わせた。
「はははっ、耳弱いから、いつも髪で隠してんの?」
「関係にゃーろぉ!」
まるで、大きな猫と小さな猫がじゃれているようだ。
ミツヒデはそれをため息混じりに見つめ、声を張る。
「おーい、お前ら。遊んでないで帰る準備しとけよ?」
「は~い」
「離せこにゃっ」
「ははははっ」
そこへ、ゼンが階段を降りてくる。
「白雪、ちょっといいか」
「あ、うん!」
キハルと話していた白雪は、ゼンの元へ走り寄った。
2人一緒に、再び見張り台の中へと入っていく。
それを見ていたオビは、まばたきを繰り返した。
「…なんか、主、泣きそうな顔してなかったか?」
ミシャは、自分を捕えていたオビの手を振りほどく。
「色々思うとこあるんにゃろ。……ん?」
ミシャは耳をピクピク動かした。
『すまん! 断りもなく!』
聞こえた、ゼンの声。
「ゼン、いったい
「え、何? 主がなんだって?」
ミシャはじっと、ゼンと白雪が居る辺りを見上げる。
『…白雪、今度お前に触れるときは、ちゃんと告げてからにする。そのときに、お前が思うことを聞かせてくれ』
(謝んにゃーといけにゃーとこに触った? ゼンが雪ちゃんの…?)
…そのうち、今何が起きていたか、察しがついた。
「はっ……にゃぁあ!?」
あんぐりと、ミシャは口を開ける。
オビには何のことだか分からない。
「お~いミシャさ~ん? 何その反応」
「……意外とやるにゃ、ゼン」
「はい?」
やがて、ゼンが見張り台から出てきた。
少し遅れて、白雪も出てくる。
…その頬は、赤い。
ミシャは確信を持った。
「ほー……こりゃ急展開にゃ…」
「何が…?」
「オビは、雪ちゃん乗せて帰ったげて? 雪ちゃんの護衛にゃし」
「え、あぁ…」
ミシャは軽い足取りで、木々のところへ走って行く。
「キキ
オビは眉をひそめ、頬を掻いていた。
→ 9. 共に歩む決意