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8. ユリスの鳥
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馬を走らせること20分。
オビとミシャは、ココクの見張り台に到着した。
衛兵が2人、此方に気付いて近寄ってくる。
「おや? オビ殿」
「それと……なぜ宮廷楽師のミシャ殿も?」
「殿下から伝令ですか?」
「いや、全員無事に見張り台に着いてるか確認に来たんだけど…」
「……オビ、離して」
「え?」
突然、ミシャの低い声が耳に響いた。
オビが見下ろすと、ミシャは見張り台の屋上を見上げている。
その瞳はやけに険しい色をしていた。
「…馬の足音で話が聞こえにゃー」
今、ミシャの耳には、白雪とブレッカ子爵の尋常ではない声が聞こえていた。
しかし、馬の蹄の音が体を通して響いてくるため、話の内容までは分からない。
オビはワケも分からぬまま、ミシャを押さえていた腕を緩めた。
ミシャはストンと馬から降りて、耳を澄ませる。
「時間まで中に居ろ!」
「わっ」
"ドタタッ、ガチャッ"
聞こえた会話と音に、ミシャは目を見開いて、傍の衛兵2人に叫んだ。
「今すぐブレッカ子爵を拘束しにゃ! 明らかに補佐役を妨害してる!」
「え…?」
「妨害…?」
「
「「わ、分かりました!」」
と、そのとき…
"ガチャッ"
見張り台の窓が開いた。
「この見張り台より低いっての!」
見慣れた赤髪が、宙で揺れる。
"ヒュオッ、バシャァンッ!"
「「「え……ええええっ!?」」」
「雪ちゃん!?」
「お嬢さん!?」
何があったのか、窓から湖へと、白雪が飛び込んだ。
「っ、ぷは!」
「ちょっ、お嬢さん! なんて真似してんだアンタ!」
「どこか痛めてにゃー!?」
「オビ! ミシャ!」
「「 ! 」」
2人の目に映る、じわりと血が滲んだ、白雪の腕。
白雪は傷などものともせず、叫んだ。
「湖の中に鈴が落ちたの! 見つけて鳴らさないと、ポポが降りてこない!」
オビは見張り台の屋上を見上げた。
(子爵の仕業か…っ)
「ミシャ! 鈴がどこにあるか分かる!?」
ミシャは目を閉じ、両手で両耳を囲い、鈴の音を探した。
「……ダメ、聞こえにゃー……ミーの耳は水音と相性悪いんにゃっ……」
雨が降ると周囲の音が聞こえにくくなるように、川や湖、海の音とも相性が悪い。
「そっか…。とにかく探さないと!」
白雪は身を翻し、湖の奥の方へ泳ぎ始めた。
オビとミシャも湖へと入る。
ミシャは手始めに、水の中に潜った。
水の中の音は、水に潜ると聞こえるようになる。
「……」
"――――――キ……ン…"
「!」
幾多の音の中に、1つだけ、あの特徴的な胡桃石の音が聞こえた。
「っ、ぷは!」
ミシャは水面に顔を出し、オビと白雪に知らせる。
「あっちの方にゃ!」
「聞こえたのか!?」
「音の方向にゃけ!」
「あっちだね!」
ミシャは目が利かないため、実際の捜索は2人に任せ、自分は音を聞くのに集中する。
"バシャッ"
「ぷはっ……はぁっ、もうちょい、向こう」
「この辺?」
「正確な場所は、まだ…」
「
衛兵の呼ぶ声に、3人は振り返った。
何やら空を指している。
見上げれば、ポポが飛んでくるのが見えた。
ポポは、鈴の音を探して、真っ直ぐに通り過ぎてしまう。
「ヤベェ、行っちまった!」
「まずいっ、早く鈴を見つけないと!」
焦る白雪とオビ。
しかしミシャは、じっと冷静に、ぼやけた鳥影を見上げた。
(…子爵が妨害工作したんにゃもん。このくらい、許されるにゃろ)
ミシャはオビの近くに泳いだ。
「…オビ、そのままそこに居て」
「え?」
ミシャは、見張り台や衛兵たちから隠れるように、オビの背に回る。
そして、懐から角の笛を取り出した。
ゼンと白雪が持っている、ミシャを呼ぶための笛の、予備だ。
オビは、ミシャがやろうとしていることを察し、そのまま、ミシャを隠す盾となった。
「……」
ミシャは笛を何度か試し吹きして、音程を確かめる。
そして、キハルの笛と同じ音を出すため、穴を1/3ほど塞いで、息を吹き込んだ。
"――――――"
ミシャとポポにしか聞こえない音が、響き渡った。
"バサッ…"
聞こえた羽音に、その場の全員が空を見上げる。
「も、戻ってきたぞ!?」
「何でだ!?」
ミシャはポポを見上げ、ヒュイヒュイっと笛に息を吹き込む。
石を探せ、という命令信号だ。
すると、ポポは水面まで降りてきて、白雪の近くでくるくる回り始めた。
「雪ちゃん! そこ!」
「あ、そっか!」
島の鳥たちは、波の音で胡桃石を見つけられると、キハルが言っていた。
白雪は大きく息を吸い、潜った。