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1. 赤髪の少女
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やがて行きついたのは、国境付近に在る、タンバルン王家の別邸。
5人を乗せた馬車は、邸宅の前に停められ、白雪だけがどこかへ連れていかれた。
「……はぁ…………はぁ……」
馬車の中で、ゼンは青白い顔で、荒い呼吸を繰り返す。
木々がミシャに訊いた。
「どんな毒か、匂いで分かったりする?」
「体の動きを麻痺させる毒にゃと思う。ミーがよく、武器に仕込むやつに近い匂いするから。……死ぬようにゃ毒じゃにゃーから、命の心配はにゃーけど、自然に毒が抜けるんを待つにゃら、時間かかるかも…」
ミツヒデの眉間にしわが寄った。
「…だが、どうする。このままだと、白雪はラジ王子の愛妾になるしかないぞ」
木々とミシャは顔を伏せる。
「…そうは、させないっ」
「「「 ! 」」」
突然、ゼンが起き上がった。
「ゼン!?」
「大丈夫なのか!?」
「っ、あぁ。…毒に、慣らされて、た、おかげで、な…」
ゼンは傍にあった剣を手に取り、馬車の扉を開ける。
「おい、ゼン!」
ミツヒデが慌てて止めようとするも、ゼンは聞く耳を持たず進んでいく。
ミシャが諦めたように笑った。
「ん~、こうにゃったら
そして、腰の短剣を引き抜き、ゼンの前に走り出る。
「お掃除はお任せを、殿下?」
ゼンはミシャを見下ろし、フっと口角を上げた。
「あぁ。任せた」
そこに、ミツヒデと木々も合流する。
「まったく」
「頑固な主様だ」
ゼンは皮肉めいた笑みを向けた。
「好きだろ?」
3人は一度目を見開いてから、笑う。
「あぁ。どっかのバカ王子より100倍マシだ」
「行くぞ」
「「「はい」」」
邸内の衛兵を薙ぎ倒し、4人は邸宅の最上階へ一気に上り詰める。
ラジ王子の部屋の前まで来ると、声が聞こえてきた。
「全く、キミの馬鹿げた行動のお陰で、私の評判は地に堕ちかねない」
「は、はあ……それより薬を…」
「キミを罪人として捕えれば、噂が事実だと認めるようなもの。…そこで、私の名誉回復のため、そちらから私の愛妾になりたいと申し出て貰う」
「え……」
「ただの町娘とはいえ、女性に恥をかかせたくないと、胸を痛めた私が受け入れ解決だ」
(……幻聴?)
「あ、あのっ、それよりもまず薬を! 私の友人に、薬を頂けないでしょうか!」
「あ~そうだったなぁ。白雪殿が首を縦に振れば、すぐさま届けさせよう。…それとも、こちらをお見舞いに届けさせようか?」
「……っ」
ラジが手にしたのは、林檎。
「……」
白雪の頭の中に、ゼンの言葉が巡った。
『赤っていうのは、運命の色のことを言うんだろ? 今は厄介な色でも、案外いいものに繋がっているかもしれないぞ?』
ラジが近づき、白雪の髪に指を絡める。
「私としては、これほど目を楽しませる娘と分かれば、遠くへやるのは惜しいからな」
「……」
白雪は、拳をぎゅっと握った。
…しかし、その力はすぐに抜く。
そして…
"パシンッ"
ラジの手を振り払った。
「んなっ、何をっ」
「あら、失礼」
白雪は真っ直ぐにラジを見つめて、言った。
「ラジ王子、どうぞお好きにお連れ下さい」
それを扉の前で聞いたゼンは、込み上げる思いに任せて扉を蹴破る。
「却下ァ!!」
白雪とラジは肩を揺らして振り向いた。
ゼンは敵意を持ってラジを睨む。
「それ以上、その娘の耳が穢れるような
「ゼン…」
「なっ、何者だ! 見張りは何をし、て…」
ラジは扉の方を見て、青ざめた。
見張りの衛兵たちが伸びている。
代わりに、見知らぬ3人の姿。
ミツヒデが嘲るように言った。
「大丈夫大丈夫、見張ってますよ?」
「ひぃっ!?」
見張りは全員、ミツヒデたちの手によって伸されていた。
白雪はゼンに駆け寄る。
「ゼンっ」
「よう白雪、これ結んでくれ」
ゼンは、包帯のほどけた腕を差し出す。
「え、いや、その前に体は…」
ラジは、ははーんと半目になった。
「そうか、毒を口にした男というのはキミのことか。いや~不運なことだった。白雪殿を動けないようにして連れて来させる手はずだったのだが」
「やはり、お前が林檎を寄越した張本人か」
ラジの眉がぴくっと動く。
「口の利き方を改めろ、男。私とキミでは身分が違うのだぞ」
ゼンはため息をついた。
「これは失礼、ラジ
「?」
「では面倒だが、改めて」
ゼンはラジに、持っていた剣の紋章を突きつけた。
「お初にお目にかかる。私は、クラリネス王国 第二王子、ゼン・ウィスタリア」
「……へ?」
ラジだけでなく、白雪も唖然とする。
「お、王子…? えっ、ちょっ、ゼンっ、しっかりして! 私のこと分かる!?」
「正気だ、白雪。…万一に備えて、毒には少し慣らされていてな」
「…ゼン、顔色が……」
ゼンは、安心させるように白雪の肩に手を置き、ラジの方へ振り返った。
「しかしまさか、隣国の王子に毒を盛られるとは、思いもしなかったよ、ラジ殿」
ラジは焦り始める。
「フッ、ぼ、僕が…私がっ、毒を盛ったという証拠など「いくらでもあるのでは? 例えば貴殿の動向や持ち物に」
「ひっ」
「正式な場で真偽を確かめても宜しいが?」
「そ、それは…」
「では取引をしようか、バカ王子」
詰め寄ってくるゼンに、ラジは青ざめた。
「今回のお前の愚行を公にされたくなければ、二度と白雪に関わることも、その口で白雪の名を呼ぶこともしないと誓え」
「な、なぜ白雪殿の…」
「剣を抜こうか?」
「わっ、分かった! 誓う! 今誓った!」
ゼンは白雪の方へ振り返る。
「白雪、お前も言ってやりたいことが山ほどあるだろ? 今のうちだぞ」
「…うん」
白雪は、足元に落ちていた林檎を拾った。
それを、ラジの目の前につきつける。
「どうぞ、ラジ王子。お見舞いの品です」
「ひっ」
「それと、ゼンに早く薬を」
5人は、別室に通された。
ゼンにはすぐさま、解毒薬が届けられる。
「……ありがとう」
「ん、白雪?」
「…力を、貸してくれて。……でも、ごめんなさい。私は、ゼンの毒にしかならなかった」
ゼンはまばたきを繰り返す。
「それは笑うところか? 俺が口にした毒林檎と、お前が同じ赤だから~とかそういう?」
「…なんか違う」
きっと責任を感じているのだろう。
そう思った木々が、フォローするように言った。
「白雪が謝ることじゃないよ。ゼンが自分で食べたんだから。ゼンと私たちが思慮に欠けてた、以上」
ミシャも、気を逸らせるように言う。
「ミッチーにゃんて、ゼンが死んだら俺も死ぬ~って、涙目んにゃってたもんねぇ?」
「なっ、ミシャ!」
ゼンはため息をついた。
「分かった分かった、悪かったよ。今度から果物は、ミツヒデに剥いて貰ってから食う」
「そうじゃないだろ!」
「いや、ミシャに嗅いでもらってからが一番いいのか」
「お前なぁ…」
「白雪」
ゼンは白雪に歩み寄った。
「俺が森で言ったこと、覚えてるか? 俺としては、今お前とこうしていることは、運命の方だと嬉しいんだが?」
「!」
「お前が自分で向かった森に俺たちがいて、関わりを持って、互いの身を守ろうとした。それがこの場限りの毒か、これからのつながりか、お前が決めればいい」
「えっと、それは……私が決めていいことなのかな?」
「当然! 俺だって、自分の運命は自分で決めてる。決めて、その道に進めるか否かは、自分次第だろ?」
「ゼンって…」
「ん?」
「やっぱりすごい考え方するね」
白雪はふわりと微笑んだ。
釣られるように、ゼンも微笑む。
「考え方じゃなくて生き方ですがね。…お前の答えは? 白雪」
ゼンは白雪に手を伸ばした。
白雪はその手に、自分の手を重ねる。
2人の一部始終を見ていた3人は、呆れ顔をする。
「カッコつけてるけどな、ゼンの目先の運命は、城に戻って怒られる事なんだよ、白雪」
「ふふっ、そうなんだ」
「また何日も城を抜け出したからね。私達もとばっちり。めでたしめでたし」
「にゃはは、ミーはゼン殿下の命令でついてきたにゃけってことで、許されるけどにゃ~」
「いつもズルいな、お前…」
「ふふっ、あはははっ」
思わず笑い出す白雪に、釣られるように、4人も笑った。
→ 2. 知らない足音