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8. ユリスの鳥
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ある晴れた日の朝。
「ふぁ~……おはよー雪ちゃん…」
ミシャは眠そうな顔で、薬草採集中の白雪の元へやって来た。
「あ、おはようミシャ。…あれ? オビは?」
「ん~? にゃんか昼頃に客人が来るとかで、ゼンのとこ。しばらくはミーが雪ちゃんの護衛担当にゃんよ」
「そっか。よろしくね?」
「はーい」
「昨日の帰り、遅かったんだって?」
「日付は跨いでにゃーよ」
「あんまり無理しないでね?」
「そのままお返しするにゃ~」
「あー、ははは…」
今日も、平和な王城の1日が始まった。
2時間後。
ウィスタル城内。
「お、やっと来たか、ゼン。客人は両者共、既に中で待ってるぞ?」
ゼンの執務室の前で、ミツヒデ、木々、オビは、ゼンを待っていた。
「客人はともかく、何でお前らが俺より早く到着してんだよ」
「何でって、オビに呼ばれて、そのままここへ来ただけだぞ?」
オビはわざと恭しい態度で答えた。
「そりゃもう、官舎まで最短経路で呼んで参りましたから」
「…お前はつくづく廊下と階段を使わんな」
「ゼンもだろ…」
「さて、何やら揉め事らしいが、どんな用件なんだか」
ゼンは3人を連れ、部屋へと入った。
"ガチャ、キィィ…"
室内に居たのは、初老の男と、若い少女。
ユリス島の領主・ブレッカ子爵と、領民の、キハル・トグリルだ。
「これはこれはゼン殿下。お時間を頂き誠に恐縮でございます」
「いや、構わない。さっそく話を聞こう」
…話をまとめると、島の固有種である鳥を保護してほしいとの内容だ。
「…ふむ。事情は分かった。検討し、明日改めてこちらの判断を述べるが……聞いた限りでは、当事者同士の話し合いが妥当と考えられる」
すると、少女は俯き、子爵は高らかに笑う。
「あっはっはっはっはっ! ……いや、失敬。ゼン殿下、私が至らぬことで、とんだお手数をお掛けしました。これで分かっただろう? トグリル」
少女は悔しそうに、鳥かごの持ち手を握る。
ゼンはそれをじっと見つめた。
「…部屋を用意させている。ゆっくりしていかれるといい、トグリル殿」
結局、話はほんの数分で終わった。
オビは、白雪の護衛のため、薬室の方へ向かう。
(…っと、今は採集時間か。ミシャが一緒に居てくれたみたいだな)
ちょっと驚かせてみようと、オビは白雪の背後の木に登る。
もちろん、ミシャは気付いて振り向いてきたが、口元に人さし指を立てて見せると、ため息をついて協力してくれた。
"ガササッ"
「やっほ~、お嬢さん。今日もせいが出ますねぇ」
「うわっ、オビ!?」
木の枝から逆さまに登場したオビは、そのままくるりと回って着地する。
「えへへ~、驚いた?」
「そりゃもう…。ミシャも教えてくれればいいのに」
「まぁ、このためだけにわざわざ遠回りしてたみたいにゃから、成功させてあげるのがせめてもの情けかにゃ~って」
「ちょ、恥ずかしいからそういうこと言わないでくれるっ?」
白雪は、オビの恰好に目をぱちくり。
「あれ、ちゃんとした上着着てるね」
「ついさっきまで、主んとこで客人の前に立ってたからねぇ。どうどう? 真面目そう? そして男前?」
「…木から登場しなければね……って、あ、もうこんな時間!?」
白雪は辺りを見渡し、草花の中に、黒髪の頭を見つけた。
「リュウ~! 室長に呼ばれてる時間ですよ~! リュウ~!」
「ん~、ありゃ聞こえてないね」
「集中モード入ってるなー…」
「仕方にゃーね。ひとっ跳びし―――
"ピュイィーーーッ"
どこからか、澄んだ笛の音がした。
そちらに目を向ければ、少女が笛を吹いている。
"バサッ"
「うわっ」
青い鳥が、リュウの膝の上にとまった。
白雪はチャンスを逃さず声を掛ける。
「あ、リュウ! 時間です! 薬室に戻って下さい!」
「時間……。……あぁ、薬室長に呼ばれて」
リュウはすくっと立ち、薬室の方へと走り出した。
オビが声を掛ける。
「気ぃつけてな~」
リュウを見送ると、白雪は先ほどの少女の方へ向き直った。
「今の鳥、あの人が笛で…?」
「ん~、みたいだね」
オビは、さっき会ったな~と思った。
ミシャは鳥をじっと見つめ、指を2本、唇に当てる。
"ピイィーーーッ"
「!?」
少女はぎょっとした。
少女の腕にとまっていた鳥は、バサッと羽ばたき、まっすぐミシャの元へ飛んでくる。
「にゃはは、いい子にゃね~」
「ちょ、ちょっとあなた! 私のポポに何する気!」
少女が慌てて走って来た。
「おっとっと、ごめんね? ほい、お帰り?」
"ピュイッ、ピッ!"
ミシャがもう一度指笛を吹くと、鳥は少女の元へ帰った。
少女は驚きながらも、腕に鳥をとまらせる。
「あ、あなた、鳥使いなの?」
「んーにゃ。さっきお姉さんが吹いてた音と、同じ音を出したにゃけ」
「同じ音って…」
「にゃはは~、耳はちょっと自慢にゃんよ」
そこに、白雪とオビが合流する。
「あ、あの、さっきはウチの上司を呼んで頂いて、ありがとうございました」
「え、あぁ、いいえ。……あら、赤い髪! あなたそれ生まれつき!?」
「え、えぇ、そうです」
「……ん? そっちの人、さっきゼン殿下のところに居たような…」
「居たかもねぇ」
「あ、この人がさっき言ってたお客さん?」
「そう」
「違うわよ!」
「「「?」」」
「笑い者にされただけだわ…っ」
オビは苦笑する。
「笑ってたのは王子じゃないだろ? あのブレッカっていう子爵の方」
「同じよ! 位の高い人間は、位のない人間を相手になんかしないのよ…っ」
白雪は、フっと柔らかい笑みを浮かべた。
「それは、ゼン殿下の人柄を指す言葉ではないよ?」
少女はムっとする。
「何言ってるのよ! 王族よ!? 貴族の頂点よ!? そうに決まってるじゃない! 貴族なんて絶対……っ」
ポロっと、涙が零れる。
「えっと、あの…ご、ごめんなさい、個人の感想で…」
「……いいわよ。…でも、本当のことよ」
「は、はぁ…」
「うん、丁度いいわ! 聞いて! 私今、1人でこんなところに居たくないの!」
「え、いや、私今仕事中で…」
「私が勝手に喋るから!」