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7. 雨
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白雪は廊下を抜け、城の庭へと出ていく。
オビとミシャも、後に続いた。
「おーい、いいのかい出歩いて」
ミシャは耳をぴくぴく動かし、オビの服の裾を引っ張った。
「…囲まれてるって言ってもいいくらい、人が居るにゃ」
「え?」
「たぶん、雪ちゃんを気にしてる貴族連中の回し者どもにゃよ…」
「あー……まぁ、別に隠れる必要はないんだけど…」
「けど、あんまりフラフラしてると、そういう人間にゃと思われる」
「そうだねぇ…」
白雪はいったいどこまで行くのか。
様子を窺っていると、突然、ピタっと止まった。
そして近場の壁に寄りかかり、何やら呟き始める。
「…いや、ちょっと待った。私、馬乗れないんだったぁ……」
オビとミシャは目をぱちくり。
「「……馬?」」
「そうかぁ……前はミツヒデさんに乗っけて貰って……ミツヒデさんて、兄がいたらあんな感じかなぁ……いや、そうじゃなくて…」
「馬でミッチーで、兄…?」
オビがため息をついて訊いた。
「お嬢さん。タンバルンにでも出掛ける気かい?」
すると、白雪がジトっとした目で振り向き…
「あ! ハルカ侯爵!」
言って、明後日の方向を指さした。
オビとミシャは、呆れるしかない。
白雪は頬を膨らませた。
「…何で向かないの」
「いや居ないでしょ、そんな都合よく。アンタから目ぇ離すわけにいかないし。…大体、ミシャも居るのに何で俺だけ…」
「だって、ミシャの弱点知らないし…」
「…ハルカ候は俺の弱点なの?」
「そうにゃろ」
白雪はじっと、オビを見上げる。
「…もしかして、今日一日、私の周り見張っててくれて、た?」
オビは笑顔を浮かべる。
白雪は申し訳なさそうな顔をした。
「あ……ありがとう…」
「はははっ、ホントは主がやれたら、一番いいんだけどね」
「……」
白雪は一気に仏頂面になった。
「あれ、良くないわけ…?」
「王子を1日借りたりしたら、それこそハルカ侯爵が来て怒ります!」
オビは、昼間に訊きそびれたことを訊くことにした。
「お嬢さん、その辺あっさりしてるけど、主が王子やってること、どう思ってるか訊いてもいい?」
その問いに、ミシャの眉がぴくっと動く。
白雪は真っ直ぐな目で答えた。
「ゼンらしいなぁと思うけど」
「…へぇ、そんなんでいいんだ」
「いかにも! 初対面でも偉そうだし、自分の国が好きだし、木々さんミツヒデさんだし。……ゼンはずっと王子で、そのどこかに惹かれて動く人が居るわけでしょ?」
「ふーん。…木々嬢たちだけじゃなくて、アンタがいてこその王子だとも思うよ、俺は」
「……その王子を」
「ん?」
「私が蹴落としてどうする!」
「な、なに…?」
「…笑えない。…よりにもよって、自分が一緒に居たら、ゼンが馬鹿にされるとか言われっぱなしでっ」
オビはミシャと目を見合わせ、2人一緒に小さくため息をついた。
「雪ちゃん、
白雪は泣きそうな、けれど怒っているような顔で答える。
「い、居たい場所はもう決まってるのにっ、動き方が分からない自分に腹が立つの! ラクスドの処分のことだって…っ」
「ラクスド?」
「ずっと気になってても、私が行って何になるのかって…」
「あーなるほど、ラクスド砦に行こうとしてたのか」
「それで馬にゃのね…」
「…ゼンにしたって、大丈夫としか言わないしっ……言いながら、手に、力が入ってたくせに……格好つけて…」
「今度はゼンの話んにゃった…」
「お嬢さんだって十分、格好つけが標準装備に見えるけどね」
「?」
「動き方が分かんないなら、探しに動けばいいんじゃない? アンタどう見ても、窓辺で憂いてるより行動派でしょ」
「……」
「ただ、今みたいに1人でってのはどうかと思うけどね」
「……そう、だった」
白雪は前髪をくしゃりと握り、俯いた。
「アンタが本当に行きたいなら、ラクスドくらい連れてってあげるよ?」
「!」
「けど、俺がもう行ってきちゃったんだなぁこれが」
「いつの間に…」
「昨日まで主から外出許可貰っててさ。主たち気にしてたみたいだし、俺もあの砦には、一応世話になったからね。タンバルンの王子様が来るっての待ってたら遅くなっちゃったけど、ちょっと様子見に」
白雪が目を見開くのはもちろんのこと、ミシャも目を見開いていた。
「団員皆して、言付け頼んできたよ。主たちとアンタに。たくさんありすぎて忘れちゃったけどねぇ。…まぁとにかく、みんな口揃えて言ってたよ。『しっかりやります!』って」
「……そ、っか……そっか。……うん、私もしっかりやらないと!」
白雪の瞳に、いつも通りの輝きが戻った。
「ありがとう! オビ!」
「え、あぁ…」
いきなり向けられた笑顔に、オビは目を見開いて固まる。
「よし、そろそろ帰らない、と……」
歩き出そうとした白雪は、ふわりと揺れた。
「雪ちゃん!」
「お嬢さん!」
ミシャが慌てて白雪の腕を掴み、倒れる速度を緩め、オビが回り込んで受け止める。
「はぁ……危機一髪か」
「ホントびっくりにゃ…。…ん? 寝ちゃったね」
「え?」
見下ろせば、白雪はすよすよと穏やかな寝息を立てていた。
「今後、雪ちゃんにお酒は厳禁にゃね」
「同感」
ミシャの手を借りつつ、オビは白雪を背負った。
白雪を起こさないよう、ゆったりと薬室へ歩き出す。
「雪ちゃん、イザナ王子にラクスドのこと言われてから、気にしてたんにゃね」
「あぁ、そういや兄殿下が帰ってきてすぐ、お嬢さん呼ばれたんだっけ」
オビは、ミシャに頬の傷を舐められたときを思い出した。
「イザナ王子にとって……というか、王家にとっては、身分とか色々大事にゃからねぇ。……けど、雪ちゃんが、ゼンが王子じゃにゃーったらにゃんて言わにゃーで、ホント良かった」
「あぁ、それ、昼間訊いたら呆れられた」
「昼間?」
「ロカの酒瓶取りに行ったときさ、主が王子じゃなかったらって思わないの~って訊いたら、次言ったら侮辱と取る、ってさ」
「にゃははっ、そっかそっか。…昔、ミーがここに来るちょっと前、ゼンはそこんとこで一悶着あったんにゃって。おかげで、人との距離の取り方に、ずっと悩んでた」
「へぇ、あの主が」
「けど、雪ちゃんが答えをくれたんにゃよ。強いにゃ、雪ちゃんは」
「まぁ、確かに強いけど、この子は1人だと突っ走っちゃうタイプだし、1人で居る間はそれを自覚できないから、諸刃の剣みたいな強さだね」
「そういうとこは、ゼンとそっくりにゃ」
「ははっ、確かに」
「っと、噂をすれば、王子様のご到着にゃ」
「?」
見ると、向こうから見知った人影が走ってくる。
「はぁっ、はぁっ」
「あれ、主。仕事抜け出せたんですか?」
「おっ、お前らっ、はぁっ、妙な書き置き、残すな!」
「
「ん? 何って、"お嬢さんが動けないので帰れません"って一言」
「…お前、喋れば饒舌にゃくせに、書くとダメにゃねぇ…」
「ちょ、地味に刺さる…」
「そこはどうでもいい! 薬室に居るかと思えば、何でこんなとこに居るんだよ!」
「雪ちゃんがフラフラ出てっちゃったんにゃよ」
「追っかけたらこんなとこまで」
「はぁ……今は、酔いで寝てるのか?」
「えぇ、まぁ」
「そうか……とりあえず、戻るぞ」
「「はーい」」