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1. 赤髪の少女
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4人は白雪を連れて、空き家に入った。
ゼンは白雪に治療してもらい、ミツヒデと木々は、家に置いてあるチェスを始める。
ミシャは、白雪の持っている薬を1つ1つ嗅いでは、いい匂いに表情を緩めたり、嫌な臭いに顔をしかめたりしていた。
ゼンが家のことを白雪に説明する。
「この家は空き家で、俺たちの遊び場だ。んで、あっちでチェスしてる、負けてるのがミツヒデで、余裕で勝ってるのが木々だ」
「んなっ、ゼン、何で見もしないのに俺が負けてると言い切れる!」
「フフン、何となくだ」
「現に負けてるでしょ」
「ぐっ…」
「で、そこの小っさいのが、ミシャだ。悪いな、お前の荷物を
「あははっ、いいよ。薬を舐めたりしなければ大丈夫だから。……はい、終わったよ?」
ゼンは、綺麗に包帯の巻かれた腕を見た。
「ありがとな。…しかし、いい手際だな」
「慣れてるからね。薬剤師やってるって言ったでしょ?」
「そうだったな。…んで? そんな薬剤師様が何で家出したんだ?」
「……」
白雪は目を逸らし、薬瓶の蓋を閉めた。
「…大した理由じゃないよ。…少し、散歩に行ってきます」
淡々とそう言って、家を出ていく。
何となく哀愁が漂って見えるその背中を、ゼンはじっと見つめた。
「……」
そして、何を考えたのか、白雪のあとをついて家を出ていった。
"キィィ……パタン"
閉まった扉を見つめ、ミツヒデがため息をつく。
「…あれは相当気に入ってるな」
木々は優雅に紅茶を傾けた。
「そうだね。白雪の方は、捕まって災難だろうけど」
ミシャが2人の元に歩み寄る。
「一応、荷物は全部見たにゃ。武器は持ってにゃーし、匂いで感じた限り、薬ん
「そうか、ご苦労様」
「しっかし、人の荷物を漁るんが趣味って、ゼンはミーを
「まぁまぁ、そこは許してやれよ。お前の本職を言うわけにはいかないだろ?」
「そうにゃけど、もうちょっとにゃあ……。……んで? 様子、見に行くんにゃろ?」
ミシャの問いに、ミツヒデと木々は目を見合わせて、頷いた。
白雪とゼンを追うように、家を出た3人。
2人にバレないように、少し距離を開けて、こっそりついていった。
…その途中。
"ピク…"
ミシャの耳が動く。
「…ミッチー、キキ
「ん?」
「どうした?」
「…北の方から足音が聞こえるにゃ。大人の男が3人」
「通行人じゃないのか?」
ミシャは首を横に振った。
「重たい足音…。これは衛兵のブーツの音にゃ」
ミツヒデの瞳に警戒の色が宿る。
「…お前が警戒するってことは、クラリネスの衛兵じゃない、ってことか?」
「うん。衛兵に支給されるブーツについてる金属の飾りの音が違う。これはタンバルンにゃ」
「そんな音まで聞こえるのか…」
木々は顎に手を当てた。
「ここは国境付近だし、タンバルン側の関所の門番が、何らかの理由でこっちに来てるってことも考えられるけど…」
「ちょっと見てくるにゃ」
ミツヒデが心配そうな眼差しで見下ろす。
「気をつけろよ?」
ミシャは満面の笑みで振り返った。
「ミーがヘマするわけにゃーろう。危険にゃと思ったら、すぐ知らせに戻る。2人は、ゼンと雪ちゃんをお願いにゃ?」
「あぁ」
"シュッ―――"
ミシャは近くの木の枝に飛び乗り、そのまま木を伝って北の方角へ向かった。
(……見つけた)
木を飛び渡っていたミシャは、3つの人影を見つけると、十分に距離を取って止まった。
木の葉の陰から、そっと3人を観察する。
ミシャの視力では、色合いの判断が関の山だが。
(服の色合いからするに、やっぱりタンバルンの衛兵にゃね…)
3人は、すぐ傍に潜んでいるミシャに気づくことなく、話をしながら歩いていく。
(
聞いても無駄か、と、ミシャは小さくため息をつく。
今、兵たちが歩いている道は、表通りに繋がる細い獣道だ。
その道は、先程までゼンたちと一緒に居た、あの空き家くらいにしか繋がっていない。
しかも、兵たちが向かっているのは表通りの方向。
何かをした帰り道だとしても、どこで何をしていたのか、全く想像がつかない。
(……ん? スンスン、かすかに林檎の匂い…。ちょっと前まで持ってたんかにゃ。……けど、
ミシャは数回鼻を動かして、目を見開いた。
(これは毒の匂い……。……! まさかっ)
最悪の想像が頭をよぎり、慌てて空き家の方へ駆け出した。
一方、その空き家の中では…
「……」
「……」
散歩から帰った白雪とゼンが、テーブルを挟んで、向かい合わせに座っていた。
テーブルには、林檎が山のように積まれたカゴが1つ。
2人が家に帰って来たとき、扉の前に置いてあったのだ。
カゴの持ち手には、白雪が髪を束ねていたリボンが結わえ付けられている。
「つまり、コレの送り主は、家を空けて遠出している白雪の身を案じて、タンバルンの国境手前の町まで迎えに来ている、と……随分執念深い紳士のようだな?」
「あはは…」
「何を笑ってる! 国境越えて逃げるくらいの大事だったのか!?」
「ま、まぁ、相手が相手だったからね…」
「誰だ?」
「…タンバルンの、第一王子」
「なっ、ラジとかいうバカ王子か!?」
「さすが、隣国にまで轟くおバカの噂…」
「…そうか、ミシャが話してた、ラジ王子が女に逃げられたって噂は、お前のことだったのか。…王子なら、国境通過の記録だろうが何だろうが、調べさせることは容易だ」
白雪は、カゴいっぱいの林檎を見つめた。
「……」
1つ、手に取る。
「カゴに入れるくらい、ワケない、か…」
「白雪…?」
「…傷み始めてる。この赤、もうダメかな」
「……」
林檎をじっと見つめていた白雪は、ハッとしてゼンに笑顔を向けた。
「あはは、なんちゃって…」
「……」
ゼンは黙って立ち上がり、つかつかと白雪に歩み寄る。
「…ゼン?」
ゼンは白雪の腕を掴み、引き寄せた。
そして…
"――――――シャク"
白雪の手に在った林檎を齧る。
「ゼン…」
すると…
「行儀悪いなぁ」
「「 ! 」」
ミツヒデの声が響いた。
白雪もゼンも、肩を揺らす。
見れば、いつからそこに居たのか、ミツヒデと木々がこちらを見ていた。
ゼンは盛大に咳き込む。
「ゲホッゲホッ」
「ダメだろゼン、自分で取らないと」
「何見てっ…ゲホッゲホッ」
「喋るか食べるかどっちかにしないと」
「呼んでないだろ! 引っ込んでろ!」
「うわ~、傷つくなぁ」
「ゼン」
「「「 ? 」」」
白雪の声に振り返れば、まっすぐな瞳が見つめていた。
「馬鹿なこと言った、ごめん」
「白雪…」
と、そこに…
"バンッ!"
ミシャが飛び込んできた。
「はぁっ、はぁっ」
「ミシャ? どうした、そんなに慌てて…」
「りんご食べにゃーで!」
「「「……え?」」」
突然飛び込んできて何を言い出すのか。
白雪とミツヒデと木々は、まばたきを繰り返す。
…しかし、ゼンだけは、その言葉の意味がよく分かった。
「…遅せぇよ、ミシャ」
「食べたんにゃ!?」
「…ミツヒデ、木々、悪い……怒るな、よ」
ふらりと揺れる、ゼンの体。
ミツヒデが咄嗟に飛び出した。
「ゼン!」
"ドッ…"
間一髪、床に倒れ込む前に、ミツヒデがゼンを受け止めた。
木々もミシャも、傍に駆け寄る。
「ゼン!」
「おいっ、どうした!」
「遅かったにゃ…」
「どういうことだミシャ!」
「ここから北に行ったとこで、タンバルンの衛兵たちを見つけた。そいつらから漂ってた林檎の匂いと毒の匂いに、まさかとは思ったんにゃけど…」
木々が白雪の方を見る。
「解毒は出来る?」
「ちょっと待って下さい!」
白雪は、ミシャが白雪の鞄から出して、匂いを嗅いでいた薬を見渡し、表情を歪めた。
「…ダメだっ、これだけじゃ調合できない」
そのとき、ミシャの耳が動いた。
「誰か来るっ」
叫んで、腰の短剣に手を掛ける。
ミツヒデと木々も、素早く剣に手を掛けた。
3人が睨みつける中、家の戸が開く。
"ギィィ…"
「!」
戸口に見えた人物に、白雪は目を見開いた。
「あなたは…」
「おや、林檎を口にされたのは、白雪殿ではなかったか」
やって来たのは、タンバルンの衛兵1人。
しかし、ミシャが先ほど見た3人とは違う。
身なりからして、少し上の階級だろう。
白雪は見覚えがあるようだ。
「どういうことですか!」
詰め寄る白雪に、衛兵は冷静に返す。
「ご心配なく。毒の薬はある方が持っています。…大人しく、ご同行願えますね?」
…5人は、馬車でタンバルンへと連れていかれた。