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7. 雨
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ラジ王子がタンバルンへ帰ってから、約一週間後。
「それじゃあゼン、私行くね」
「あぁ。またな」
仕事の休憩時間にゼンと会っていた白雪は、休憩時間も終わるため、薬室へ戻ることにした。
…その途中。
「……」
何か、後ろから見られているような気配を感じ、立ち止まって振り返った。
しかし、そこには誰も居ない。
(…姿、見せるわけないか)
白雪は元の方向へ向き直り、駆け出した。
「チッ…走りやがって。気付いたのか? ってンなわけねぇか。たかが小娘に」
物陰に隠れていた男は、小さな紙に走り書きをして、伝書用の小筒に詰めた。
"ピュィッ"
口笛を1回鳴らし、小筒を投げる。
と…
「っし、取った!」
「んなっ!?」
どこからかゼンが現れ、投げられた小箱をキャッチした。
ゼンはそのまま、男を押さえつける。
「うぐ…っ」
「えーなになに? "対象 青あり。他の家からの接触は見られず"か。青ありって、俺と会ってたってことか? お前のために、見えやすいところで会った甲斐があったな」
「……っ」
「"たかが小娘"を監視とは随分仕事熱心なご様子だが、誰に言われて動いている?」
「な、何の話を……そっ、その小筒は落ちていたものを投げ捨てようとしていただけで」
「ほ~?」
「ゼン殿下! こちら確保しました!」
「だそうだが、どうする?」
「あ…ああ……っ」
「衛兵!」
「「はっ!」」
ゼンは男を衛兵に引き渡した。
…そこに、離れたところで待つよう言われた白雪がやって来る。
「ゼン」
「白雪。待ってろって言っただろ」
「いや、もう大丈夫かなって…」
「まぁ、そうだが…。やはり、大方の予想通り、お前に取り入って得があるかを探っていたんだろう。他の家が抜け駆けしていないかも、な」
「何の得もないんだけどな…」
「そう捨てきれん輩もいるってことだ」
「んー……私はこれ以上でも以下でもないんだけどな…」
ゼンはフっと笑い、白雪の頭に手を乗せた。
「お前が関心の対象になってる現状は変わらんが、構えることはない。いつも通りにしていればいい。な?」
「うん、分かった」
「それじゃ、またな。仕事頑張れよ?」
「うん! ゼンも頑張って!」
「あぁ」
2人は今度こそ、それぞれの場所へ戻っていった。
その夜。
誰もが寝静まった深夜。
「ふぃ~……やっと着いた…」
一週間ほど、仕事で城外へ出ていたミシャが帰ってきた。
(さすがにこの時間じゃ、大臣も起きてにゃーね…。報告書、朝イチで出すのがいいんにゃろうけど、今から寝て朝に起きるのも面倒だにゃぁ…。あ、そうだ、明日の朝、ミッチーかキキ
ミシャはあくび混じりに城内を歩き、ゼンの執務室まで来ると、扉の取っ手に丸めた報告書を引っ掛けた。
(さ~て寝よ寝よ)
頭の後ろで両手を組み、部屋へと歩き出す。
(ん……明日、雨かな)
鼻がぴくっと動いた。
(薬、あと一包だけ残ってたっけ…。明日の昼、ガラクんとこに貰いに行かにゃーと)
ミシャは今にも目が閉じそうな顔で、自分の部屋へと歩いていった。
翌朝。
ゼンの執務室にて。
「そういえばゼン、白雪の件はどうだった?」
書類を抱えたミツヒデが、ゼンに昨日のことを訊いた。
「あぁ、白雪の周りを嗅ぎ回ってたヤツな。とりあえず1匹捕まえた」
「やっと1人目か…」
「他にも居るんだろうが、ミシャの耳でもなければキリがない…」
と、そこに…
「お嬢さんに何かあったんですか~?」
庭からバルコニーへと、オビが跳んできた。
「あっ、オビ! お前!」
「只今戻りました、主!」
「アホ! 帰るのが遅い! 外出許可は2日だけだっただろうが!」
「いやぁ、城の外って久しぶりだったんで、つい。それより雨降りそうですよ? 御三方」
「ん? そういえば雲行きが怪しいな…」
そのとき、ミツヒデがあることに気づいた。
「…雨といえば、ミシャに仕事の予定とか入ってないか?」
木々が答える。
「昨日仕事から帰ったばかりだからね。今日1日は休みになってるはずだよ。……まぁ、例え仕事が入っていても、キャンセルになったはずだけど」
オビは目をぱちくり。
「雨で仕事がキャンセル?」
ゼンが、あぁ、と思い至った。
「そうか、お前は知らなかったか…。ミシャの目のことは知ってるか?」
「えぇ、まぁ」
「アイツは知覚のほとんどを耳と鼻に頼っているから、雨が降るとまともに動けなくなるんだ。雨音がしていると、他の音は聞こえづらいし、匂いも流されるか、雨の匂いに邪魔されるからな。だから雨が降ると、大抵は部屋に籠って1日過ごすんだ」
「なるほど。それで仕事もキャンセルに…」
木々は窓から曇天を見やった。
「まだ寝てそうだね、ミシャ」
ミツヒデが苦笑する。
「あぁ。昨日は夜中に帰ってきたみたいだからな。…いい加減、深夜に帰ったとき、報告書を扉に引っ掛けていくのだけは何とかしてほしいが…」
「重要書類じゃやらないんだし、そこは大目に見てあげれば?」
「…木々、ミシャには優しいよな」
「そう?」
窓の外で、ポツリポツリと雨音がし始めた。
オビはそれを見上げ、雨の日のミシャを想像する。
ミツヒデはゼンに目を向けた。
「それで? 白雪のこと、どうするんだ?」
「んー……ミシャに護衛を頼むのが一番だと考えていたんだが…」
「四六時中は無理だろうな。諜報員としての仕事もある」
「だよな…。となると……」
ゼンはオビに目を向けた。
オビはまばたきを繰り返す。
「え、俺?」
「オビ、お前に白雪の護衛を任せたい」
「いやいや無理でしょ。俺あの子脅した前科あるんですよ?」
「その辺は白雪次第だな。……許せよ? お前に単身外出許可出して、戻って来ない可能性も考えてたんだよ、俺は」
オビは唖然としてゼンを見つめた。
「さて、そうと決まれば、木々」
「ん」
「オビを薬室まで連れてって、白雪と薬室長に説明を頼む」
「了解」
「お、やったね。木々嬢が送ってくれんだ」
オビは上機嫌で、無表情な木々の後をついていった。