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5. 従者お試し期間
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その後、オビはミシャの部屋に戻ってきた。
「ただいま~っと」
ミシャは目を閉じたまま、窓から入ってきたオビの方を向く。
「お嬢さん、どうやら体調崩してるっぽかったよ。けど、誰にも言わないで、ってさ」
「やっぱりにゃあ…。頑張り屋さんにゃのはいいけど、やりすぎにゃ…。ミーたちが言っても聞かにゃーろうし…。ゼンに言ってもらうしかにゃーね。すぐ気付くはずにゃ。雪ちゃんのことにゃら特に」
「俺たちからは知らせなくていいと?」
「うん。大丈夫」
ミシャはふっとため息をついた。
朧げに薄く開かれた緑の瞳は、焦点が合っていない。
「ミシャ、もしかして…」
オビはベッドに両手をつき、ミシャの顔を覗き込んだ。
「目、見えてないんじゃないか?」
「ん? ……あぁ、今、目、開いてたんか」
ミシャは自分の目蓋に触れ、目が開いていたことに気づいた。
「頭ぐらぐらしてると、目ぇ開いてるか閉じてるか、分からにゃーもんにゃね…」
「薬が切れたのか?」
「朝にゃから。…ミーの荷物、傍にある?」
「ん、あぁ」
「中に、薬、入ってるから」
「開けていいのか?」
「オビにゃら、平気」
「! ……そう」
オビは、近くのテーブルに乗せられた、ミシャのウエストポーチを開けた。
仕事に必要な、最低限の物だけが詰め込まれている。
その中に、薬包紙が幾つか入っていた。
「これで合ってる?」
薬包紙をミシャに近づける。
ミシャは鼻を動かして、頷いた。
「そう、これ」
「了解」
オビは一度部屋を出ると、水を注いだコップを持ってきた。
ミシャはその水で、薬を飲み込む。
そして、小さくため息をつき、目を閉じた。
「…ありがと」
「どういたしまして」
「…けど、
「ん?」
「
「お試しだけどね」
「そこはどっちでもよくにゃーか?」
「ん~。ていうか、傍に居て欲しいって言ったのは、ミシャの方だろ?」
「……へ?」
ミシャはゆっくり目を見開いた。
視界はまだ暗い。
「ミーが、そにゃ、こと…?」
「え、何、覚えてないの?」
オビは、ベッドの縁に腰掛けて、ミシャの頬に手を添えた。
「!」
ミシャは何も見えていないため、ピクっと肩を揺らす。
「昨日、俺に言ったんだよ? 『ひとりにしないで』って」
「んにゃっ…」
カァっと赤くなっていく頬。
その熱が手の平に伝わって、オビはニヤリと口角を上げた。
「あっ、ありえにゃーよ! 頭ぐらぐらして、お、おかしかった、にゃ…け……」
叫んだ影響か、ぐわんぐわんと世界が回る。
ミシャはふらりと布団に手をついた。
「あんまり興奮しない方がいいよ?」
オビはミシャの肩に手を添え、元の姿勢に戻してやった。
「っ……お前が、変にゃこと、言うから…」
「はいはい、ごめんね?」
「…でも、悪かったにゃ」
「ん?」
「…昨日、何言ったかは知らにゃーけど、ぜんぶ忘れて」
「え……」
「好きなとこ、戻りにゃ。ミーの
「……」
苦笑いを浮かべるミシャを、オビはじっと見つめた。
そして、再び、ミシャの頬に手を沿える。
「!」
「…それじゃ、もうちょっとここにいる」
「……え」
見開かれる、緑色の瞳。
「届け物もあるしね」
「へ……?」
ミシャは、まだ見えていない目で、まばたきを繰り返した。
オビは、自分の荷物から、リュウに渡されていた包みを取り出す。
「武器に仕込んでる毒? の薬効がそろそろ切れるってさ。ちゃんと覚えてた?」
「あ……」
「忘れてたんだ」
「う……。……これ、リュウが?」
「うん」
ミシャは包みを受け取り、手探りで開く。
包みの中には、小瓶が幾つか入っていた。
割れないよう、厳重に梱包されている。
「んにゃ~助かった。また薬効切れたままで使うとこにゃった」
ヘタをすれば、戦闘中に、命に関わるミスをしていたかもしれない。
「仕込み、手伝おっか? 目、もうしばらく見えないでしょ」
「…いいんか?」
「もちろん」
ミシャは、オビの声のする方へ顔を向け、呆れたような笑みを浮かべた。
「お人好しにゃね」
オビも笑みを返す。
「そこは"優しいね"って言ってよ」
「優しいは違くにゃーか? からかうし」
「それはミシャもやるだろ」
「そっかにゃ?」
「無自覚か…」
…しばらく、オビはミシャの武器の仕込みを手伝っていた。
それから数日後。
砦の兵士たちは全快した。
二日前に過労で倒れた白雪も、何とか回復。
ミシャに至っては、倒れる前よりも元気になっている。
砦の兵士たちの前に立ったゼンは、笑顔で声を張った。
「それじゃ、今日からまた、通常通りに頼んだぞ?」
兵士たちは感謝と敬意を込めて、ビシっと敬礼する。
「「「はい!」」」
「道中お気をつけて!」
「本当に、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
兵士たちに見送られ、6人は城へ帰る道を進み始めた。
→ 6. イザナ王子